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12月1日は「世界エイズデー」 本当にエイズを知っていますか?

2016-12-01 12:00:50


執筆:南部 洋子(助産師・看護師・タッチケア公認講師)
12月1日は、世界エイズデーです。
ほんとんどの人が知っているくらい有名な疾患になったエイズ。
それでも世界的にも、また日本でも患者数は増加しています。
今回はこのエイズデーを機会に、もう1度しっかりと見直してみましょう。

エイズとは


エイズ(AIDS)とは、正式には「後天性免疫不全症候群」といいます。
「HIV」というヒト免疫不全ウィルスの感染によって起こる疾患です。
HIVに感染したまま治療をせずに過ごすことで、免疫力が弱くなっていきます。そして、数年~10年ほどして、通常ならさほど影響がない菌やウイルスにも感染してしまい、さまざまな病気を引き起こすようになります。
その病気が「エイズ指標疾患」に当てはまったときに、「エイズを発症した」と診断されるのです。
1990年代まで、エイズは死に直結する病気だといわれていました。
ところがその後、治療法が進歩してきています。現在の医療でエイズウィルスを完全に排除することはできませんが、HIVに感染してもエイズ発症を抑えることができるようになってきています。

HIVとは


HIVの起源は、サル免疫不全ウイルスだといわれており、チンパンジーのウイルスが突然変異して人に感染したとみられています。
チンパンジーと人間が何らかの接触をしたことによって感染したと考えられています。人間はHIVに感染するとエイズを発症しますが、チンパンジーの場合は体内HIVは増えるものの、エイズは発症しないことがわかっています。
HIVには1型と2型があり、それぞれ別のルートで人に感染するようになったといわれています。
・1型:チンパンジー由来のものです。日本の2万人ほどのHIV感染者・エイズ患者のほとんどが1型です。
・2型:「スーティーマンガベイ」という猿によるものです。西アフリカの一部を中心に広がっているもので、進行が遅く、感染力も弱いのが特徴です。

日本では患者数が増加している


おもな先進国では、エイズの新規患者数が横ばいか減少傾向にあります。
一方で、依然以前として増加の一途を辿っているのが日本です。
その理由は、HIV検査体制が不充分で検査を受けないままエイズを発症する例が増加しているからです。
さらに啓蒙の難しさも伴って、対応策が立てられていないというのが現状です。

エイズの感染経路


「性行為感染」「血液感染」「母子感染」の3つが感染経路であることがはっきりわかっています。
唾液・汗、涙などからは感染しません。この3つの感染経路について、詳しく見ていきましょう。
1.性行為感染
HIVに感染した男性の精液がパートナーの膣、肛門、口の中に入ることで粘膜からHIVが侵入し、感染します。
射精前に分泌される「カウパー液」というものにもHIVが含まれています。そのためコンドームなしでペニスを挿入した場合には、たとえ射精をしなくても感染する可能性があります。
男性同士の性行為では、腸管粘膜からHIVが侵入してしまいます。
膣や口腔の粘膜は重層になっていますが、腸管粘膜は単層です。
そのため、傷つきやすくHIVが侵入しやすいためく、感染リスクが高くなります。HIVに感染した女性の膣分泌液がパートナーの性器や口の中に入っても同じように感染します。
感染している人の唾液にもHIVは含まれています。ただ含まれる量は微量ですので、感染力はないといっていいでしょう。
しかし感染している人の歯茎や口の中が傷ついていて出血などしているときにディープキスをすると、感染する可能性はあります。
また指に切り傷があるときに、その指を感染している人の膣に入れた場合も傷口から感染する可能性はゼロとはいえません。
コンドームを使用しないで性行為を行ったときの感染率は、0.1~1%程度です。
ただし、たった1回のセックスで感染した人も現実にはいます。またほかの性感染症に感染していると、感染の確率はグンと上がります。
2.血液感染
注射針を回し打ちしたりするとき、感染者の血液からHIVが体内に侵入します。
注射針の回し打ちは、麻薬や覚せい剤などで注射器を使ったりするときに行われているようです。麻薬や覚せい剤はそれだけで大変恐ろしいものですが、さらにHIV感染の可能性もあるということになります。
ほかに注射針を刺すという機会があるのは、医療行為のときです。
ただ日本の医療機関では使い捨ての注射針を使っているので、感染の心配は基本ありません。
輸血については、現在日本赤十字社ですべての献血血液について厳格なHIVの検査を行っており、安全対策が取られています。
そのため、感染の危険性は極めて低いといえます。
ちなみに、感染者を刺した蚊に刺されても感染はしません。
3.母子感染
母親がHIVに感染しているときには胎児のときの胎内感染、出産時の産道感染、また母乳哺育での感染があります。
母子感染防止のために以下のことが行われています。
a.妊娠初期に感染診断(HIV検査の実施)
b.妊娠中に抗HIV療法
c.陣痛が来る前に選択的帝王切開術
d.帝王切開時のAZT(アジドチミジン:日本人が発見した抗HIV薬のこと。シロップ予防投与)点滴投与
e.出生児へのAZT
f.出生児の人工乳哺育
これらを行うことで、母子感染率は0.5%以下に抑えられています。
ですから、HIVに感染している女性でも、出産や育児をしている人は多くいます。

HIVの潜伏期間


HIVの潜伏期間は2種類あります。
ひとつはHIVに感染してから初期症状までの期間で、潜伏期間は2~3週間といわれています。
もうひとつはエイズ発症までの期間で、潜伏期間は5~10年ほどといわれています。2000年以降は、5年以内に発症したという報告が多くなっていて、現在は3年程度と考えられています。

感染後の経過と初期症状


HIVに感染してリンパで増殖した場合、感染してから2~3週間くらいで次のような初期症状がでてきます。
<初期症状>
・発熱
・リンパ腺の腫れ
・喉の痛み
・皮膚疾患(急性期皮疹、帯状疱疹、単純ヘルペス、脂漏性皮膚炎など)
・筋肉痛、関節痛
・嘔吐
・下痢
・そのほか(頭痛、肝臓・脾臓の腫れ、体重減少、口腔カンジダ症、神経症状など)

初期症状は1~2週間続きます。しかし身体の免疫システムに攻撃されるので、急激にウイルスの数を減らし、初期症状も治まってきます。
そして感染から6か月位で、体内のHIVの量は、一定のラインで落ち着きます。
通常のウイルスだと免疫の働きで全滅しますが、HIVは決して完全には消えません。
この後、エイズを発症するまでには3~10年ほど、何もない期間があります。
風邪を引く程度のことはありますが、健康であるかのように過ごすことができます。しかし、実際にはHIVが徐々に数を増やし、身体の免疫機能は低下していきます。
そしてHIVが急激に数を増やすことで、免疫機能はなくなってしまいます。
その結果、健康ならば発症しないような病気になってしまいます。これがエイズ発症です。

HIVの予防


HIV感染の85%以上が、性行為による感染です。
一番の予防法は、性行為のときに必ずコンドームを正しく使うこと。またこれと同時に、相手にも必ず使用してもらうことが重要です。
そして精液、膣分泌液、血液などに直接触れないようにすることもが大事です。
オーラルセックスでも感染しますので、その場合もコンドームが必要です。
ゴムの臭いが苦手な人はオーラルセックス専用コンドームがあります。「デンタルダム」というものも販売されていますので、これを使用するのもいいでしょう。
同性間の性行為は、妊娠の心配がないことからコンドームを使用しないことが多く、結果的に感染リスクが高くなっています。注意しましょう。
またピアスや刺青などから、血液感染する可能性も高くなります。
用具の使いまわしや不充分な消毒、使い捨ての用具を使用しないことでHIVだけでなく、B型肝炎やC型肝炎へ感染する危険性があります。
血液感染を予防するためにも用具を使いまわしていないか(使い捨ての用具かどうか)、消毒がきちんとされているかなど必ず確認してみてください。
母子感染の予防としては、妊娠したら妊婦検診でHIV検査を受け、母親が感染しているかどうかを確認することが重要です。
先ほどご説明したように、もし感染していても予防治療薬の服用や帝王切開を行う、母乳ではなく人工乳で育てる、といったことで母子感染は1%以下になってきています。
2014年の世界での新規HIV感染者は200万人です。
この数字を2000年の310万人と比較すると、減少していることがわかります。
ところが日本を含む太平洋地域は、HIV感染者が多い地域です。
なかでも、インド、インドネシア、中国などでは新規感染者が比較的多くでており、日本では1日に約4名が新規にHIV感染者となっています。
患者数は横ばい傾向で、現在、約24,500名がHIV・エイズ患者です。
この数字を見ても、HIV感染やエイズの発症は決して他人事ではないことがわかるかと思います。今回を機に「自分のこと」として、感染予防をしっかりと行っていきましょう。
<執筆者プロフィール>
南部 洋子(なんぶ・ようこ)
助産師・看護師・タッチケア公認講師・株式会社 とらうべ 社長。国立大学病院産婦人科での経験後、とらうべ社を設立。タッチケアシニアトレーナー

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情報提供元: mocosuku

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