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ベッセント財務長官の口先介入、9月利下げへダメ押し、日銀にも利上げのススメ【播摩卓士の経済コラム】

経済
2025-08-16 14:00

『利下げ期待』の共有が、株価最高値更新の最大の原動力でした。市場の守護神のように受け止められているベッセント財務長官が、「FRBは9月に0.5%利下げすべきだ」と公言したことから、株式市場はお祭りムードに包まれました。金融政策の主役であるはずのFRBは置いてきぼりのまま、市場はすでに大幅利下げを織り込み始め、パウエル議長は「外堀」を埋められた格好です。


【写真で見る】ベッセント財務長官の口先介入、9月利下げへダメ押し、日銀にも利上げのススメ


大きく下振れした米雇用統計

今局面の株式ラリーに火をつけたのは、1日に発表されたアメリカの7月の雇用統計でした。景気動向を敏感に反映する非農業部門の就業者数が、好調の目安とされる、15万から20万を大幅に下回る7万3000人の増加に留まったのです。


より衝撃的だったのは、過去2か月の数字が大幅に下方修正されたことでした。6月、5月がいずれも14万人台から、それぞれ1万4000人、1万9000人へと、増加数が大きく引き下げられたのです。就業者数の増加が2か月連続で1万人なら、「利下げがあったはずだ(ベッセント財務長官)」と思う人がいてもおかしくないだけに、トランプ大統領は怒り狂い、労働省の統計局長を解雇する事態に発展しました。


元々、アメリカの雇用統計は振れの大きなものだったので、トランプ大統領が主張するような「データの政治的な捻じ曲げ」があったと考えるエコノミストは、ほとんどいません。それでも、これだけ弱い雇用統計は「金融緩和に舵を切る局面」であると、市場に思わせるに十分でした。


関税でインフレ再燃は杞憂か

雇用統計で景気減速サインがはっきりする一方、心配だったインフレは、今のところ明確な再燃サインが出てきません。12日発表の7月のアメリカの消費者物価は、前年同月比2.7%上昇と前月と変わりませんでした。食品とエネルギーを除いたコア指数は、実は3.1%上昇と、伸び率を拡大させているのですが、すでに「利下げ祭り」気分の市場関係者はさして気に留めなかったようです。


むしろこの日、ベッセント財務長官がFOXテレビのインタビューで「消費者物価の数字は素晴らしい。9月に0.5%利下げを検討すべきだ」と述べたことが、株式市場をさらに勢いづかせました。


ベッセント財務長官「利下げ計画」に踏み込む

同じことを言っても、トランプ大統領が言うと「思いつき」の上に「攻撃的」で、時に「下品」に見えることが、ベッセント長官が言うと、まるで「説得力」があるように聞こえるから不思議です。普段、中央銀行の独立性や市場の自律性に重きを置く発言が多いからこそ、踏み込んだ時の効果が大きいのでしょう。


そのベッセント長官、翌13日にブルームバーグテレビで、「FRBは9月の0.5%利下げを皮切りに、そこから一連の利下げを実施できるだろう」と述べると共に、「どのモデルで見ても、おそらく1.5%から1.75%引き下げるべきだろう」と明言しました。


9月の倍速利下げどころか、その後の連続利下げの必要性、さらにはターミナルレート(終着点)にまで、財務長官が具体的に言及するなど聞いたことがありません。株式市場が沸かないはずがありません。多くの機関投資家が運用指標の目安とするS&P500指数は、連日、最高値を更新しました。


外堀埋まるFRBパウエル議長

こうしたベッセント財務長官の畳みかける発言で、FRBのパウエル議長の外掘りは完全に埋まった感があります。そもそも、中央銀行のトップには、慎重な言い回しの中にも、金融政策の先行きを市場に織り込ませるパワー=威力があるものです。政策変更を事前に市場に「織り込ます」ことでショックを和らげると同時に、実体経済を目指す方向に誘導する効果さえあるわけです。


ところが、中央銀行のトップが慎重姿勢をキープしている間に、財務長官の口先介入で、金融市場はすでに9月の大幅利下げを織り込みにかかってしまったのです。こうなると、その「織り込み」を否定したり、まして利下げをしなかったりしたら、株価急落といった市場の混乱を招きかねません。パウエル議長は言いたいことが言えない状況に追い込まれました。


その上、先日、突如辞任したFRBのクグラー理事の後任に、トランプ大統領が自らのブレーンであるミラン大統領経済諮問委員会委員長を指名したことで、FRBの理事7人のうち3人が「利下げ派」で占められるに至りました。パウエル議長が3人が反対するような議案を提出することは、現実的にも厳しい状況なのです。


反響の大きさに驚いたのか、ベッセント長官は14日なって、「自分は中立金利のモデルの話をしただけで、FRBにその水準にしろと求めたわけではない」と幾分軌道修正しましたが、9月の0.5%引き下げを改めて求めるなど、圧力弱める気配はありません。


米財務長官「日銀は後手に」

ベッセント財務長官の発言で、もう一つ注目されるのは、日本に言及したことです。ベッセント長官は「日本はインフレの問題を抱えている」と述べた上で、日銀の植田総裁と話したことを明らかにしました。そして、「これは植田総裁の見解ではなく私の見解だが、日銀は後手に回っており、利上げをするだろう」と、テレビカメラの前で述べたのです。閣僚が他国の金融政策を批判したり、他国の中央銀行とのやり取りを公にしたりすることは、極めて異例です。


ベッセント長官は、7日に行われた日本経済新聞との単独インタビュー(11日掲載)でも、「日銀がインフレ率や成長率に焦点をあてて金融政策を進めるならば、為替レートは自然と調整されるだろう」といわば「利上げのススメ」を語っており、今回はさらに踏み込んで日銀の早期利上げを求めたものです。為替レートの自然な調整、すなわち緩やかな円高ドル安を進めることで、貿易不均衡問題の解決にもつなげたいという思いをにじませたものと受け取れます。


植田総裁は繰り返し「後手」を否定

日銀の植田総裁は、先月31日の決定会合後の記者会見で、「ビハインド・ザ・カーブ=後手に回っているとは思わない」と明言しました。ベッセント財務長官は、それに対しまるで「ダメ出し」をしたかのようです。ベッセント長官に外堀を埋められつつあるのは、FRBだけでなさそうです。日銀は、またしてもガイアツで動くことになるのでしょうか。


播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)


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