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トランプ2.0でAmazon創業者など「メディア億万長者」に反感 ワシントン・ポストは会員20万人減 「編集権の独立」に迫る危機

経済
2025-03-22 06:15

アメリカで「メディア・ビリオネア」への反発が表面化しています。「メディア・ビリオネア」(メディア億万長者)とは、アメリカの伝統的なメディア企業を買収した、シリコンバレーのテック企業出身の経営者のこと。こうした経営者に対し、抗議のために従業員が辞任・辞職するなど、波紋が広がっています。


その背景には、トランプ大統領の就任が大きな影響を及ぼしています。いま、アメリカメディアで何が起こっているのか? 編集者であり、Podcastプロデューサーの野村高文が解説します。


<東京ビジネスハブ>
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。今回は野村による音声コラム、2025年2月16日の配信「アメリカで『メディア・ビリオネア』への反発の声が相次ぐ。今メディアビジネスに何が起きているのか?(野村高文)」を抜粋してお届けします。


「メディア・ビリオネア」の台頭

今日のテーマは「メディア・ビリオネア」(メディア億万長者)への反発の動きです。ここ10年ほどで、もともとシリコンバレーでテック企業を運営していた億万長者が、アメリカの伝統的なメディア企業を買収し、経営を担っているという事例が増えました。


たとえば、Amazonの創業者のジェフ・ベゾス氏は2013年、アメリカの老舗新聞「ワシントン・ポスト」を買収しました。当時2億5000万ドルで買収をした際に、ベゾス氏の経営手法とジャーナリズムがどのような融合をするかに注目が集まりました。


そのほかにも、セールスフォースCEOのマーク・ベニオフ氏が、ニュース雑誌「タイム」を2018年に1億9000万ドル(当時:約212億円)で買収。また、パトリック・スン・シオン氏というバイオテクノロジー系の起業家も、老舗新聞社である「ロサンゼルス・タイムズ」を2018年に買収しています。


オーナーと編集部で深まる対立

彼らのようなメディアビリオネアが、いまバックラッシュ(揺り戻し)に直面しています。自社の記者や編集者らからの突き上げが起こっているのです。


たとえば、ベゾス氏が買収した「ワシントン・ポスト」では、今年の1月13日にジェニファー・ルービン氏という名物コラムニストが退職しました。彼女は長年、同紙で舌鋒鋭く時事を論じてきましたが、独立してThe Contrarianという新しい購読型メールレターの立ち上げを発表しました。


ルービン氏はもともとは保守派の視点から国内外の政治や政策について意見を発信をしてきましたが、そのなかでも注目すべきは、彼女が退職の際に発表した声明です。


声明で彼女は「活発な自由な報道が、これまで以上に我々の民主主義の存続と繁栄に必要な時代に、ジェフ・ベゾスとその取り巻きはアメリカ民主主義に対する最も深刻な脅威である。ドナルド・トランプに便宜を図り、それを可能にしている」とコメントしました。


自社の社長や経営者のベゾス氏に対して「ジェフ・ベゾスとその取り巻き」という表現を使い、名物コラムニストが辞任をしたということに、読者からも大きな反響がありました。これは象徴的な事例のひとつですが、このようなことが数多くのメディアで起きています。


もともと仲が悪かったトランプ氏とシリコンバレー

2010年代にテック系の企業家がメディアを買収する動きが広がったのは、当時、既に新聞や雑誌メディアはかなり斜陽になっており、非常に経済的に厳しくなっていたためです。


アメリカにおいての「主流」はワシントンやニューヨークなどの東海岸であるという意識が強い一方、テック起業家は主にサンフランシスコなどの西海岸で活動していました。こうした環境のなかで、テック企業はブランド力を求めてメディアを買収をしたという経緯がありました。


当時は、テクノロジーのノウハウを持つ起業家が、現代に適した形でジャーナリズムの収益化を図ると期待され、新オーナーを楽観的に受け入れる動きもありました。


こうしたなか、現在のようなバックラッシュが起こっている背景には、トランプ大統領の就任があります。


トランプ第一次政権のときには、シリコンバレーの起業家とトランプ氏は相性が悪かったと明確に言われています。


シリコンバレーは、「民主党の牙城」とされるカリフォルニア州にあり、長らくリベラルの地盤を築いてきました。トランプ氏は当時、そんなシリコンバレーの起業家を締め上げる政策を進め、シリコンバレーの企業も権威主義的なトランプ氏が嫌いだったという背景がありました。


ただ、急速な関係改善が進んだのが今回の選挙戦です。民主党はハリス氏を候補に擁立しましたが、シリコンバレーがトランプ氏支持へと転じました。トランプ氏へ様々な起業家が献金し、当選が決まって大統領に就任するまでの間にトランプ氏の自宅へ、様々な企業家が「トランプ詣で」をしていました。


こうした動きに対しての反発がメディアの現場が起こったというのが、今回の出来事です。


反発で購読者を20万人失ったワシントン・ポスト

先述したワシントン・ポストの名物コラムニストの退職のきっかけは社説にありました。


ワシントン・ポストの編集委員会はもともと民主党候補であるハリス氏を支持する社説を準備していました。しかし、その掲載直前にオーナーであるベゾス氏によって計画が中止されたことが他社の報道によって報じられています。


ベゾス氏はこの決定について「新聞の独立性を守るため」と説明していました。また、新聞が大統領選挙の支持の表明することは読者に偏見を与える可能性があるという旨まで述べています。


一方で、ワシントン・ポストの記者たちは「トランプ氏は民主主義を破壊しようとしている。だからこそ、ハリス氏への支持を表明することが民主主義に対する責任だ」と考えていました。要するに、支持を表明しないことで民主主義に対する責任を放棄したと言っています。


その混乱もあり、ワシントン・ポストは20万人以上の購読者を失いました。それだけでなく、複数のコラムニストや編集委員会メンバーが抗議のために辞職するに至りました。


トランプ氏への接近には、マスク氏を意識?

ベゾス氏はもともとトランプ氏と対立していましたが、現在は融和的な姿勢を示しています。トランプ氏の勝利を祝福する声明を出したり、大統領就任式へ参加したり、就任基金への寄付を行ったりしました。


この背景をさらに探っていくと、トランプ氏との関係の深い起業家であるイーロン・マスク氏につながります


Xのオーナーであるイーロン・マスク氏は、宇宙開発分野において、ベゾス氏のライバルです。ベゾス氏は「ブルーオリジン」という宇宙開発事業を行っているので、ベゾス氏が率いる「スペースX」に後れを取ってはいけないことから、トランプ氏との連携を強めようとしていると推測されています。


このように今、メディアオーナーである起業家たちと現場は半ば緊張関係がある状況になっています。


まずビジネス面では、元々2010年代にテック系企業が様々なメディアを買収した際には、これによって売上が回復して伸びるという期待がありました。一方で、蓋を開けてみると、伸びたメディアはほとんどありません


ワシントン・ポストでは2023年末に数百人規模の大規模な人員削減が行われており、その中にはこれまで会社のジャーナリズムを支えてきたスター記者もたくさん含まれていたということから、従業員からの不満が上がっていました。


要するに、「テック企業によって何かが変わっていく」という期待感が、現時点では残念ながら期待外れに終わっています。そしてリベラル的な価値観を大切にする編集部に対して、トップがトランプ政権にどんどん接近したことで大きなハレーションが起きていることが浮き彫りなってしまいました。


メディア経営と編集権の独立の超えてはならない一線

私(野村)の前職は、「NewsPicks」という会社でした。その会社も構造上は、スタートアップ起業家が立ち上げた経済ニュースメディアです。つまり会社のオーナーはもともとメディア分野ではなく、テクノロジー分野の出身です。新しい事業としてメディア、しかも報道をしていくことでメディアを立ち上げて、そこにメディアのプロである記者や編集者、新聞や雑誌出身など、様々なメディア経験者を集めて編集部を作りました。


このとき、最も議論をしたことが編集権の独立です。会社の経営陣やビジネスがどうであれ、何を取材をして、何を報道するかということは基本的に編集部に委ねられるという概念です。 今回の場合に照らし合わせると、大統領選をきっかけに編集部へ干渉してしまったことが確かだとすると、一線越えてしまってるなということを私は結構強く思いました。一線を越えた経営者はメディアの経営はしてはならないと思います。


アメリカの大手メディアでさえ、このような事態に陥ってしまうことに、編集権の独立を守る難しさを改めて感じられるニュースだと思いました。今まで自由を守ってきた言論機関で、バックラッシュが今起きているという事例でした。


<野村高文>
音声プロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。


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情報提供元:TBS NEWS DIG Powered by JNN

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