アメリカの中間選挙を前に吹き荒れるトランプ氏へ逆風。いま新たな争点として浮上しているのが、AIの開発競争で建設が続く「データセンター」です。現地を取材して分かった、選挙の行方を左右しかねない問題とは。
共和党の“牙城”テキサスに異変 民主党・タラリコ候補がリード
接戦が伝えられるカンザス州、支持者たちが待つ飛行場に到着した大統領専用機「エアフォース・ワン」。
トランプ大統領は滑走路のそばに設けられた共和党候補の集会場で、中間選挙前“最後の地方遊説”に臨みました。
共和党 トランプ大統領
「私は全米で演説を行ってきた。目的はただ1つ、アメリカを憎む共産主義者・イスラム過激派に議会を乗っ取られるのを阻止するためだ」
⺠主党を「共産主義者」と呼び、強い言葉で“口撃”するトランプ氏。しかし、そこに見え隠れするのは“焦り”です。
選挙戦最終盤の情勢調査によると、上院では接戦ですが、下院では⺠主党が過半数をうかがう勢いで、トランプ氏には逆風が吹きつけています。
“⺠主党の勢い”を象徴するのが、⻑年「共和党の“牙城”」と言われてきた南部‧テキサス州です。
割れんばかりの歓声に迎えられたのは、⺠主党のタラリコ候補。
対するのは「MAGA派の戦士」と称される共和党のパクストン候補ですが、最新の世論調査ではタラリコ候補が2.5ポイントリードしていると伝えられています。
Q.タラリコ候補に期待していることは?
民主党支持者
「ここ数年、トランプ政権が引き起こした問題を全て解決してほしい。今も、ガソリンや食料の高騰に苦しんでいるんだから」
「物価は日に日に上がっている。うちは何とかやっているけど、近所の人が同じだとは限らない」
オハイオ州でトランプ氏に逆風…物価高で揺らぐ支持
藤森祥平キャスター
「期日前投票所には次々と人が入っていきますね。若い人から子連れの人まで、ずっと列が続いています」
もう1つの激戦州、中西部オハイオ州。期日前投票所を訪れた人は、例年の2倍に上るそうです。
投票所を訪れた有権者
「経済を重視する人が多いと思います。今の指導者が、自分たちのことを考えてくれていない。家計や雇用は一向に良くならないと思い始めています」
オハイオ州は、かつて製造業で栄えながらその衰退に直面した「ラストベルト=“さびついた工業地帯”」の一角。
2016年以降の大統領選では、白人労働者層の支持を集めたトランプ氏が、3回連続で勝利しています。
しかし今、イラン情勢を背景にした物価高などが国民の不満を招き、トランプ政権の支持率は低迷。
さらに今回の中間選挙で新たな争点として急浮上しているのが、世界的なAI開発競争を受け建設が相次いでいる大規模なデータセンター。AIによる計算処理やデータ解析を行う上で欠かせません。
トランプ政権はAI分野で、中国との覇権争いを制するためにデータセンターが必要だと訴え、建設を強力に進めてきました。
トランプ大統領
「私たちは大手IT企業のデータセンターが地域社会に恩恵をもたらすよう取り組んでいる。オハイオに莫大な利益をもたらすのに、それを逃せば中国に流れてしまう」
現在、建設中の施設も含めるとアメリカで5000以上。オハイオ州でも農村部を中心に計画が急増し、全米で5番目に多い257の施設があります。
ただ、環境破壊などへの懸念から各地で反発が広がっています。
電気代上昇に水質汚染 データセンター建設に反発広がる
田園地帯を空から見ると、そこには「データセンターに土地は売らない」という文字が描かれています。
50年以上にわたり、この地で大豆畑を営んでいたレズリーさんは、民主党の支持者です。
データセンターに反対している民主党支持者 レズリーさん(80)
「『データセンターには売らない』と書いてある。野原に草刈り機で作品を描く素晴らしいアーティストがいて、その人の作品です」
アーティスト側からの依頼で土地を貸したといいます。データセンターができることでレズリーさんが心配しているのは“水”です。
Q.環境への影響はどう思う?
レズリーさん
「(農業用の)水を使い果たし、汚染してしまう」
Q.大量の水を使いますか?
「冷却システムのため大量の水を使います」
熱を発するデータセンターは冷却のために水を大量に使いますが、その排水が農地に流出し、地下水を汚染すると訴える声もあります。
また電気も多く消費するため、市民の電気代も上がっています。
Q.電気代の値上がりは?
レズリーさんの友人
「うちの電気代は約25%高くなった。ほかの州の人も巨大なデータセンターがある周辺では2倍、あるいはバージニア州のように3倍に跳ね上がった地域もある」
不満の声は、トランプ大統領の共和党支持者にも広がっています。
環境への負荷を懸念して、データセンターへの規制を求める署名活動を行っているジョディさん。過去3回に渡り、大統領選でトランプ氏に投票したと言いますが…
データセンターに“規制”を求めるジョディさん(68)
「大統領には落胆しています。戦っている私たちのことを、愚かで無知で時代遅れの田舎者だと言ったのです。私は怒っています。よくもそんなことを言えたものです」
共和党の支持者も署名します。
署名した共和党支持者
「できるだけ多くの土地を今のまま残してほしい。今の子どもたちが大人になる頃には、森で遊べる場所がなくなってしまう」
ジョディさんは週に3~4回活動し、半年で1600人分の署名を集めました。
世論調査では、共和党・民主党の支持者ともに6割以上が「地元での建設に反対」を表明しています。
AIの開発を推し進めるトランプ氏の姿勢は、有権者にどう受け止められるのでしょうか。
物価高・ガソリン高でトランプ政権へ募る怒り 献金にも民意表れる
小川彩佳キャスター:
投票直前の現場を取材して、どのようなことが見て取れましたか?
藤森祥平キャスター:
データセンターに対する怒りや懸念は日本にも通じることなので、ぜひ皆さんに覚えておいていただきたいと思います。
歴史的な物価高やガソリン高が始まった3~4年前から、改善するどころかますます悪化している。そうした状況への怒りも含めて、今回の選挙に一票を投じようという人たちが多いように感じられます。
ワシントン支局 大橋純 記者:
ワシントンで取材すると、個別の政策の是非に話が及びがちでそれも重要ですが、実際に現場に入ると、物価高の深刻さやその原因となったトランプ大統領に対する怒りを感じます。
藤森キャスター:
その象徴的な表れとして、テキサスの民主党・タラリコ候補が4月~9月に集めた献金が上院選候補として過去最高額を記録しました。
相手候補の3倍以上もの資金を集めた上、小口献金が多い点も象徴的です。1人当たり100ドル未満の少額の献金が積み重なって過去最高額を記録しています。献金の97%がこのような形で集まっているというのは、非常に特徴的だと思います。
激戦7州のほとんどで野党優勢 “歴史的大転換”となる可能性も
喜入友浩キャスター:
最新情勢は、以下のようになっています。
▼上院 民主党47議席 共和党45議席
▼下院 民主党227議席 共和党180議席
※「リアル・クリア・ポリティクス」によると
最終盤にかけて民主党が勢いを増していると見られています。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
下院は民主党が過半数を取るのが確実視され、上院でも接戦ですが民主党に勢いがあるため、トランプ陣営にとって非常に厳しい情勢となっています。
こうした傾向は政治資金の動きにも表れています。
元々共和党が強い激戦州であるノースカロライナ州でも民主党が強くなっているため、ノースカロライナ州の資金を共和党の“牙城”といわれるカンザス州などに回す動きが出ています。共和党が民主党に押し込まれていることの表れと言えます。
カンザス州で民主党が勝てば1932年以来となり、アメリカの政治史上、珍しい現象になります。
小川キャスター:
トランプ大統領は、最終盤にどのような動きを見せているのでしょうか。
ワシントン支局 大橋記者:
最新の世論調査では、テキサスを含む激戦7州のほぼ全てで野党側に優位な数字が出ています。
トランプ大統領は世論調査を「フェイク」と主張し強気の姿勢を崩していませんが、最終盤の応援演説のスケジュールが二転三転するなど、陣営内には焦りや混乱が広がっていることが伺えます。
応援を受ける州からは「トランプ氏が来るとかえって票が逃げる」との声も上がっており、その動向は世界から注目されています。
中間選挙は日本にどう影響? トランプ氏“ディール重視”で中露と会談なら…
小川キャスター:
選挙結果は日本を含めてどのような影響を及ぼすでしょうか。
TBSスペシャルコメンテーター 星さん:
まず下院を民主党が取れば、アメリカ議会には非常に強い調査権限があるため、トランプ氏の公私混同やスキャンダルに対する厳しい追及が行われることになるでしょう。
さらに、アメリカでは予算や法律の制定は議会の権限であるため、イラン戦争の戦費のブロックや関税へのブレーキなど、トランプ氏の政策に次々と待ったをかけることができます。
内政の行き詰まりから、トランプ氏は外交でレガシーを残そうと動くことが予想されます。
11月18日・19日に中国で開催される「APEC」では、プーチン氏と習近平氏との三者会談を行うのではないかという動きがあり、同盟よりもディールを重視するトランプ氏が日本抜きでこうした大国間の会談を行えば、日本にとって非常に衝撃的な事態となります。
高市総理は、トランプ氏にこうした動きを思いとどまるよう強く働きかけるとともに、本来友好関係にあった中国・習近平氏に対しても会談の見合わせを訴える必要があります。
しかし、現状では高市総理と習近平氏の間に十分なパイプがないため、中間選挙の後、日本は外交的に非常に厳しい局面に立たされることになります。
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<プロフィール>
星浩さん
TBSスペシャルコメンテーター
政治記者歴30年 元朝日新聞ワシントン特派員
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