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【独自】渦中の経営者を直撃…悪質M&Aは介護業界にも 「本当に異常」残高わずか4000円 全員退去の施設も 警察は捜査できず【調査報道】

国内
2024-11-15 15:59

介護現場で起きたM&Aをめぐるトラブルについてです。
介護サービスの経営者自身が高齢化する中、会社を買ってもらって、引き継いでもらおうというケースが増えています。
ところが、その陰で悪質な買い手による深刻なトラブルも発生しています。渦中の経営者を直撃しました。


【画像で見る】渦中の経営者A氏に…記者が直撃


株式譲渡からわずか3か月で…老人ホーム閉鎖

三重県の老人ホームで撮影された運動会の様子。職員たちが利用者に声をかけ、盛り上げます。


40人近い高齢者が入居していて、今年8月まで、笑顔の絶えない場所だったといいます。


しかし今、施設は閉鎖されてしまいました。


老人ホームの元職員
「もうこれはショックでしたね。ここが良かったと泣いている方がいっぱいいた」


一体何があったのか。きっかけは「M&A」でした。


今年5月、老人ホームを運営する会社のすべての株が、ある人物に売却されました。


その人物は、全国で複数の介護施設を運営しているというA氏でした。


老人ホームの元職員
「もっと大きな会社になって、職員の待遇も良くなるからいいことだと」


しかし、経営者が変わってすぐに異変が起きました。食事を提供する会社への支払いが止まり、従業員の給料も支払われなくなりました。 


株式譲渡からわずか3か月で、利用者は全員退去を余儀なくされました。


老人ホームの元職員
「老後の生活を平和に平穏に暮らせるよう、手伝いたいと考えて介護業界に入ったので、利用者さんの平和な日常を奪っていったのが、僕自身一番許せないところ」


介護業界を中心にM&Aを繰り返していたA氏。トラブルは他の介護事業所でも起きていました。


「経営はプロに任せたい」M&Aで会社を譲ったが…

愛知県でデイサービス施設を運営している水落美香さん(57)。


合同会社を1人で立ち上げたのは、約10年前。小規模ながらも地域に寄り添う、家庭的な雰囲気を大切にしてきました。


入浴剤の泡にこだわったお風呂も売りの一つです。


利用者(90)
「すっきりした。腰が痛いもんで。家に一人でいるより、ここに来た方が楽しい」


利用者(83)
「お友達と話もできるし。いいよ、ここは。ここがなくなったら困っちゃう」


一人暮らしの利用者も多く、買い物ができるようにと移動スーパーも立ち寄ります。


水落さんは、もうすぐ60歳という年齢も考え、経営はプロに任せて、現場に専念したいと思い、国の委託を受けたセンターに相談。


そこで紹介された仲介会社から、M&Aの買い手として勧められたのがA氏でした。


デイサービス施設運営 水落美香さん(57)
「自分は6社も経営してるんですと。その6社の名前も教えていただきました。こんなに沢山事業をしているのだったら、その一つに加わり、大きくしていく」


この時のA氏の音声が残っています。


A氏
「こちらとしては水落社長さんが現場に集中できる環境を提供する。集中するためにいろんな今までやっていたことは、全部こっちに引き継いでいただいて結構ですので」


水落さん
「わかりました。また全力投球で頑張っていきます」


A氏
「頑張ります。一緒に」


2022年4月、水落さんは、合同会社の出資持分すべてをA氏に譲る契約を結びました。


契約書には、水落さんに500万円を支払うことや、1000万円以上ある借入金の連帯保証を解除すること、水落さんを従業員として雇うことなどが記されました。 


ところが、一部の支払いや連帯保証の解除が行われないまま1年近くが経ち、突然、会社名義のクレジットカードが、利用停止になったと連絡が入りました。


水落さん
「いくら使ってそのエラーが起きて、利用停止になったのかと聞いたら46万円」


明細を取り寄せてみると、A氏にカードを渡したその日に、六本木のキャバクラで17万円。他のキャバクラでも27万円。


水落さん
「一番がキャバクラです。六本木の。もう本当に異常ですよ」
「社会保険料の滞納。ガス代が引き落とされません。もうそれは毎日のようでしたよ」


A氏を問い詰め、会社の銀行口座を確認すると、譲渡した際、800万円ほどあった預金が…


水落さん
「法人口座を開けた時に、残高4000円ですよ。どこに何に使っているのって」


経営を譲った直後の数日間に600万円近くが引き出されていたことや、その後、新たに1000万円の借金をした直後にそのほとんどが引き出されていたこともわかりました。


さらに、毎月の介護報酬を受け取る権利を業者に売って一定額を前払いしてもらう「ファクタリング取引」をして経費の支払いをしのいでいたような実態もありました。


従業員の給料は払えるのかと聞くと…


A氏
「正直、今はもう給料分をどうこうしようという力がなくて、一時的に立て替えてもらえないかなと」


水落さん
「立て替える?」


A氏
「明後日、じゃあ給料払うって言ったところで、どうしようも今できない」


このままでは施設が潰れてしまうと水落さんがA氏に迫ると、A氏は自ら辞任し、その後、連絡が取れなくなりました。


水落さん
「絶対に許せないという思いでしたね。ここまでやってくれたかと」


A氏に直撃…語った主張は

水落さんは、A氏を刑事告訴できないかと警察に相談しました。しかし、警察の判断は「捜査はできない」というものでした。


水落さん
「『えなんで』という気持ちだった。これだけの被害が及んでいる」


警察からは「出資持分100%を持つと社長は何に使っても問題はない」と説明されたと言います。


中小企業のM&Aに詳しい弁護士は、株式や出資持分を経営者1人が全て持つ場合、罪に問うことは現実的に難しいと話します。


中小企業M&Aに詳しい 柴田堅太郎弁護士
「問題の根幹は、会社は基本的に株主のものなので、株主が自分で現預金抜いても、基本的にはもう俺の勝手だろっていうことなんですよ。会社をつぶすことそれ自体は別に犯罪じゃない。もちろん、それはみんなに迷惑をかけるのですが」


水落さんは今、A氏を信用してしまったことを後悔していると話します。


水落さん
「いろいろ調べる中で、国が推奨する中の一つである(センターの紹介だと)しっかりしている、間違いはないんじゃないかと思った。私も法的なことはよくわからないので、そういうところを狙っているのではないか」


A氏がM&Aを行っていたのは、介護事業を中心に、全国で10社近くにのぼります。その多くで同じようなトラブルが起きていました。


A氏に話を聞くため、記者が関係先を探していると、A氏が使っているという高級外車が…


記者
「Aさんですか?介護事業所のM&Aの件について…キャバクラで法人カードを使われたりとか?」


A氏
「あれは接待であったり、金額自体は自分の給料と相殺している」


記者
「お金を抜いて逃げる手法を取っているように見えるが?」


A氏
「それはもう全然、間違いだと思います」


記者
「返金されたりとかは?」


A氏
「じゃあ僕の給料はどこからあるの?と逆に聞きたい」


記者
「経営する気はある?」


A氏
「元々、もちろんもちろん」


使った金は、自分の給料や接待などの経費であり、経営状態も買った時より改善していたなどと主張したA氏。


三重県の老人ホームが3か月で閉鎖したことについても、「職員がいきなりやめると言ったから」だとしました。


再び、デイサービス施設の代表に戻った水落さん。現場に専念するためにM&Aを行ったはずが、膨らんだ借金を抱えたまま、経営を続けています。


水落さん
「(ボーナスは)無理しなくていいからねと、なんならいらないよと。そんな言葉をスタッフに言わせるのがとても悲しかったですね。それはもう怒りでしかない」


警察も捜査できず・・・どうすれば?

小川彩佳キャスター:
介護の現場は、人としての尊厳を持って人生を全うするための、最後の砦でもあると思いますが、そうした場所をこのような形で混乱させるのは大変許しがたい行為ですよね。


調査報道部 小松玲葉記者:
本当に悪質だと思います。今の介護事業者を取り巻く環境なんですが、ほとんど個人で経営しているような小規模な事業者が多いという特徴があります。また、そういった方々の高齢化も進んできました。物価高や人材不足という様々な問題にも直面しています。こうした背景から、M&Aによって経営を引き継ぎたいと考えている方が多い一方で、毎月安定した介護報酬が入ってくるという、悪質な買い手にとっては魅力的な条件が揃っているという側面もあります。


小川彩佳キャスター:
そうした施設が閉鎖に追い込まれてしまうと、利用者は次の受け入れ先を探さなければいけないですよね。


小松玲葉記者:
今回の三重県のケースでは、40人ほどいる利用者さんを2週間で移さなければならず、職員の方が一人ひとり電話をかけて受け入れ先を探したという、利用者の方と職員が一番の被害者だと感じています。


小川彩佳キャスター:
こうした被害が出ているにも関わらず、警察は捜査ができないそうですね。


堤伸輔氏
M&Aで事業を引き継いでもらう側にも当然リスクはありますが、一般の事業会社とは異なり、介護施設を運営しているので、少なくともそのM&Aを仲介した会社にも一定の責任があると思います。例えば、6か月間フォローアップして、ちゃんと介護施設が運営されているのかなどを見ていけば、同じ業者を何か所にも紹介するようなことは防ぐことができる。このようなことが連鎖的に起こらない方策をとってほしいと思います。


小松玲葉記者:
国も対策には乗り出していますが、まだまだ実態が明らかになっていないケースも多くあると見られていて、更なる対策が求められていると思います。


==========
<プロフィール>
堤 伸輔さん
国際情報誌「フォーサイト」元編集長
政治から社会問題まで幅広い報道に携わる


<TBSインサイダーズ>
様々な内部告発の情報提供を「TBSインサイダーズ」で受け付けています。皆さまの情報をお寄せください。


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