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「イチローさんこう言ってたよ」指導から1年、旭川東で受け継がれるイチ流の教え“積み重ねが大きな差”

スポーツ
2025-04-01 17:00

横浜高校の19年ぶり4回目の優勝で幕を降ろした第97回選抜高等学校野球大会。熱戦が繰り広げられたその裏で、まだ雪が積もるなか、ビニールハウスで練習に励む選手たちがいた。2023年11月にイチロー氏の指導を受けた、北海道・旭川東高校の球児たちだ。同校の選手たちに、イチロー氏が本気でぶつけた“イチ流”の教え。あれから1年3か月が経ち、当時1年生だったチーム唯一の女子部員とマネージャーに、旭川東の今とラストイヤーにかける思いを聞いた。


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「自分を律して厳しくね」

夏の地方大会で11度の決勝進出を果たしながら一度も甲子園出場を果たせていない同校の状況を知り、「選手たちの悲願を叶え、未来の礎となるきっかけを残せたら」と当時訪問を決めたイチロー氏。訪れた2日間で、バッティングや捕球のコツだけでなく、股関節の使い方や走りのフォームなど、野球につながる細かい動きまでくまなく指導。そして、練習の最後には選手たちへこう語りかけた。


イチロー氏:どこの学校に指導しに行ってもそうなんだけど、監督・指導者が厳しく出来ないんだって。時代がそうなっちゃったから。でも導いてくれる人がいないと、楽な方に行くでしょ。自分に甘えが出て結局苦労するのは自分。厳しくできる人間と自分に甘い人間とで、どんどん差が出てくるよ。だから、“自分を律して厳しくね”。


「教えは旭川東の財産。自分たちのものにしていく」 

中山志輝さん(新3年)は、旭川東の唯一の女子選手だ。規則上、公式戦には出られないが、練習試合ではスタメン出場することもあるという。訪問前に中山さんのことを聞いたイチロー氏は、こんなことを語っていた。


イチロー氏:(中山さんのような女子選手は)まだ珍しい存在ですけど、きっとこういう子たちがきっかけでその道を目指す子が増え、チームに女子選手が何人もいるようになる。彼女はきっとそういう未来のはしりになる。その代わり、僕だって指導するときは容赦しないですよ。それが正しいアプローチだと思っているから。
イチロー氏の現役時代と同じライトを守る中山さん。バッティング練習の時にはイチロー氏へ直球の質問がとんだ。


中山志輝選手:バッティングで、自分の感覚は大事にしたほうがいいですか?


イチロー氏:もちろんです。そりゃそうだよ。


中山選手:先生に言われたりするんですけど・・・しっくり来なければ、やらなくてもいいですか?


イチロー氏:一度やってみる、しばらくやってみる。それで違うなって自分なりに答えを出したならそれはもう捨てていい。プロの世界でも、コーチは毎年変わる可能性があって。そのコーチの言うことを毎年聞いて自分の形を変えてたら、何が何だか分からなくなっちゃうから、しっかりした自分の形は、確固たるものをまず作る。その上で色んなアドバイスを取り入れるか入れないか、そういうスタンスの方がいいと思う。


中山選手:はい、分かりました!


「オーラがすごかった」と緊張しながらも、イチロー氏の想いに応えるように果敢に質問した中山さん。当時の心境を振り返った。


Q.イチロー氏への「しっくり来なければ、やらなくてもいいんですか?」という質問の裏にはどんな悩みがあった?
中山:
自分は外野手で、当時もライトを守っていて、かなり濃密に教えてもらいました。調子が出ないときに、色々フォームや形を変えようしていたんです。イチローさんの言葉を聞いて、今は最終的に自分の感覚で判断するようになりました。野球ノートも毎日書いていて、調子を崩した時に振り返ることで「この感覚だったな」と思い出しながらやるようにしています。


Q.(3年生が卒業し)代も変わったが、その教えを後輩たちへどのように伝えている?
中山選手:
教わったことは旭川東の財産なので、イチローさんの指導を受けていない1年生だけでなく、その下の代、さらに下の代へと引き継いで、(旭川)東校のものにしていくことが必要だと思っています。後輩には「イチローさん、こう言ってたよ」と伝えたり、インプットできるように積極的に声をかけています。


最上級生となり、チームにとって欠かせない存在の中山さん。公式戦には出られないが、男子選手に混ざってプレーする理由も教えてくれた。


中山選手:最初、高校に入った頃は、楽しいからという理由だけでこのチームでプレーできていたのですが、上手くいかないことも多かったです。試合に出られないことが納得できない部分もありました。だけど大会で負けた時、チームメイトが私に「ごめんね」と言ってくれたんです。その温かい言葉が支えになり、チームのためにできることをしようと思って、ここで野球を続けています。


イチロー氏が割った窓ガラスに「今も見られているような気がする」

バッティングでも旭川東の球児たちに手本を見せたイチロー氏。フリー打撃ではライト側にある校舎の窓ガラスを直撃する打球を放った。飛距離は「49歳より50歳の今の方が伸びている」と語り、選手たちを驚かせたイチロー氏。その時に割れた窓ガラスは記念として校舎に飾られ、今でも中山さんの心に大きく刻まれる出来事になっているという。


中山選手:ガラスが飾ってある場所には、教室に行くとき毎日通っています。割れたガラスを見るたびにその時のことを思い出しますし、いつでもイチローさんに見られているような気がして…自分の中でスイッチが入ります(笑)


最後に中山さんは、イチロー氏が伝えてくれた“自分に厳しく律する”日々のその先。卒業後のさらなる挑戦の道を、真剣な表情で話してくれた。


Q. 中山さんは、将来どんな進路を考えている?
中山選手:
慶應義塾大学に行って、野球部の学生コーチとして選手を指導したいです。やっぱり自分は第一線にいたいという気持ちが強いです。私もやりたいことをやりつつ、後に続く子のために、少しでも道を作れたらいいなと思っています。ただ、“初の”とか、そういうものに囚われずにやっていきたいです。


Q.将来の夢は?
中山選手:
小学生の頃からプロ野球の球団職員を目指しています。広報や営業ではなく、プレーに関わるような仕事をしたいです。別の形で選手と直接的に関わりたいです。


Q.またイチローさんに会えたら、どんな報告をしたい?
中山選手:
最大の目標である“甲子園で1勝”、その報告をするために、全力で頑張りたいと思っています。


「雰囲気が例年と違う」

マネージャーの五日市詩音(いつかいち しおん)さんは、小学6年の頃、928名の中から選ばれた16人の1人としてファイターズ・ジュニアでプレー。NPB12球団ジュニアトーナメントにもピッチャーとして出場した経歴を持つ。中学の時、肩のケガで選手を引退したが、今度は自分が選手を支える立場になりたいと、マネージャーの道を志した。そんな彼女の質問がイチロー氏を驚かせた。


五日市詩音さん:股関節を上手に使うために日常生活から意識していることはありますか?


イチロー氏:凄い所見ているね(笑)。そんな質問をされたのは初めてだよ。股関節は普段立ってる時から意識しています。運動って、野球やってる時だけなんてそんなのありえないです。そんなときだけやろうとしたって、それは普段と違う動きになるので、それこそ怪我につながると思う。股関節が自然な動きになるためには、日常生活から意識してないと。意識しているものが今度は身について勝手にできるようになる。そうなったらもう意識しないでできるけど。寝てるとき以外は意識しています。酒を飲んでたって意識していますよ。


五日市さん:プレーの時に股関節が大事だって思ったことがきっかけで、姿勢から意識しようと思ったんですか?


イチロー氏:姿勢はね、実は小学生の時に運動会のバトンの女の子がきっかけ。みんな足が揃っててすごく綺麗で。女の子なんだけど。それで、俺の足はどうだって思ったんですよ。その日、学校から帰る時、自分の足を見ながら帰るんだけど、その時に僕、膝が開いてるな、って。それで、真っすぐ進もうって思ったのがきっかけですね。人の姿とかを見て、自分はそうはなれないけど綺麗な歩き方とか姿勢ってどんなものなんだろう、と思ったのがきっかけです。


五日市さん:ありがとうございます!


突然の専門的な質問に驚きながらも、“イチ流”の価値観を語ったイチロー氏。五日市さんの当時の心境は―。


五日市さん:小学生の頃から親に股関節の使い方が大事だと聞いていたので、その部分を聞きたいなと思っていました。マネージャーだから質問できるとは思っていなかったので、貴重な経験でした。その後、股関節周りを意識した練習をするようになり、選手同士で話し合ったりして、チーム全体で体の使い方の意識が高まったと思います。


イチロー氏の金言を要所に掲示「教えは色褪せない」

五日市さん:「本当の優しさ」という言葉が印象的でした。以前は選手同士で厳しく接することができず、「どんまい」などの優しさで済ませてしまっていましたが、イチローさんが「本当の優しさは、信頼しているからこそ厳しい言葉をかけることだ」と言ってくださり、選手同士でも、しっかりと厳しく言えるようになりました。


また、「1日は大したことないけど、積み重ねが大きな差になる」というイチローさんの言葉は、普段意識していなかった部分でもありました。時間が経つと、指導を受けた日のことを忘れがちですが、チームで撮った動画を見て、その時の雰囲気や教えを再確認しています。目標を再設定したり、イチローさんの短いメッセージを部室などに掲げて毎日練習するなどしているので、イチローさんの教えは色褪せていないです。


2年間、選手とは違う視点でチームをサポートし続けてきた五日市さん。高校ラストイヤーに懸ける思いも教えてくれた。


五日市さん:去年は「甲子園出場」の目標は叶いませんでした。それでも、チームの意識が大きく変わり、今年は技術面でも成長したと感じています。練習の雰囲気が例年と違っており、実戦的なメニューや個別練習が増えたことがその証拠です。選手たちの頑張りを支えつつ、チーム全体が目標に向かって進むように意見を出していきたいと考えています。今年こそはイチローさんに良い報告をしたいです。


Q.将来の夢、目標は
五日市さん:父が市役所で道路の設計などをしており、小さい頃からその仕事に触れてきました。道路の仕組みや設計について学び、地域に貢献できる仕事に興味を持ちました。将来的には土木関係の仕事をしていきたいと思っています。大学は北海道大を目指して勉強しています。


選手・マネージャーに刻まれた2日間。のちにイチロー氏はこう振り返った。


イチロー氏:「1日を無駄にしない」と人はよく言います。でも、今日と明日がそんなに違うと思える人はあんまりいないでしょ。でも結果的にはそうですから。1日だって無駄にできないんですよ。明日やろうっていう人間はもうずっとできないケースが多い。その1日って、そんなに大きく変化するとは思えない時間なんだけど、そういう考え方の人って3日目と4日目も変わらない。4日目、5日目も変わらない。そんな変われない。ずっとそうですよね。でも1日が大事と考える人間は、1日目と10日目は9日も差があるから、“大きな差がある”って考えられるんですよ。
旭川東の選手たちは、この1日がいかに大きいかを考えるべきでしょうね。1日目と2日目、全然大きく変わらないんだけど、そうやって捉えると駄目なんですよ。さぼっちゃう。でもその全然差がないような1日を重ねていくと1日目と100日目は違うに決まってるじゃないですか。そういう考え方ができるかどうかは、この過酷な環境のなかで大きいでしょうね。今日と明日は全然違うんですよ。自分も知らない自分が出てくるんです。その感覚を持てたらめっちゃ強いと思います。そのまま、彼らが僕の教えを継続してくれるんじゃないかという期待を持っています。


イチロー氏の指導から1年以上が経ち、“教え”を次の世代へ伝え続ける旭川東。イチロー氏の訪問から高校最後の夏の地方予選までは600日以上。悲願の甲子園へ、積み重ねた1日はとてつもなく大きくなっているに違いない。


■旭川東高校
道内有数の進学校。野球部OBにはプロ野球で初の300勝投手となったビクトル・スタルヒンが在籍していたことでも知られる。さらに23年の世界陸上とパリオリンピック™で金メダルを獲得し、今年9月の東京世界陸上でも連覇がかかる北口榛花の母校。


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