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「これ絶対不倫ちゃうわ」と見抜いた「Tシャツが乾くまで」~2026年7月期ドラマ座談会~【調査情報デジタル】

エンタメ
2026-10-24 09:00

2026年7月期のドラマについて、メディア論を専門とする同志社女子大学・影山貴彦教授、ドラマに強いフリーライターの田幸和歌子氏、毎日新聞学芸部の倉田陶子芸能担当デスクの3名が熱く語る。今期もっとも視聴者の激しい怒りを買った登場人物はこの人!


名づけようのない人間関係を描いた「Tシャツが乾くまで」

倉田 「Tシャツが乾くまで」(TBS)が今期ナンバーワンです。まず脚本がよかった。「silent」(フジ・2022)や「いちばんすきな花」(2023・フジ)を手がけた生方美久さんなので間違いない。キャストも蒼井優さん、中島歩さん、松山ケンイチさん、夏帆さん、演技のすばらしい方がそろっていました。


蒼井さんと松山さん、中島さんと夏帆さん、二組の夫婦の話ですが、バス事故によって夏帆さんと松山さんが、当初は二人とも亡くなったと思われていたんですが、松山さんは実は失踪だった。ミステリーっぽいドラマかと思わせつつ、そうではなく、結局、人間関係、夫婦関係を通して人の感情を丁寧に描いた作品でした。


お互いに配偶者を亡くしたという形で出会う蒼井さんと中島さんの関係性。二人が対話を重ねるうちに、遺族同士というだけではない、名づけようのない関係性、より人間らしい関係性に踏み込んでいく過程が丁寧に描かれていて、こういうふうに対話を重ねて親しくなっていくのもありだな、と思いながら見ていました。


一方の、松山さんと夏帆さんですが、なぜバス旅行で一緒だったのか。そこは謎めいていて、二人の関係を「不倫なのではないか」という視聴者もいて、私もそうなのかと思って見ていました。しかし、この二人の関係性も、なかなか名前のつけようのない複雑なものなんです。


実生活で考えても、人は微妙な人間関係をいっぱい持っていると思うんです。そう考えると、男女が互いの配偶者に黙って会っているんだから不倫だろうと短絡的に考えていた自分が恥ずかしくなる、改めて身の周りの人間関係を見直すきっかけをくれた作品でもありました。


途中、松山さんが生きていることがわかるとか、蒼井さんが実は結婚歴と離婚歴がたくさんあるとか驚きの要素もありつつ、最後までグイグイ引っ張る展開もよかったと思います。


影山 蒼井さんが健気で耐える女性かと思いきや、かなりのものを抱えていたというところで、あれっ、そんな人だったの?と驚いたというファンも結構いました。


田幸 生方さんらしくもあり、らしくないところもあるドラマだと思って見ていました。


生方さんの作家性が一番強く出るのは「いちばんすきな花」のような会話劇で、閉じた空間の中で会話を重ねて、人の心情を描く。これが得意な方なのですが、一方でそれだと閉じた世界でのやりとりで、物語が転がっていきにくい面があります。その点、物語が展開して、どこに行くかわからないおもしろさは、初めて組んだTBSの制作陣との化学変化で起こったことだと思います。


結局これはどんなドラマなのか、毎話、見方が変わってくる。視点も変わって、どういうものを見せられているのか最後までわからない。サスペンス要素もあり、ヒューマンでもあり、ホームドラマでもあり、様々な要素が絡んでいます。


印象的だったのは、自分の周りの20代、30代の女性が、松山さん演じる充の無責任にも見える振る舞いにすごく怒っているんです。でも私は、充の「逃げ癖」は非常にうまい設定だと思っていました。


私自身に一つのところに縛られる事に対する不安があって、ともすれば逃げたくなってしまうんです。だからこそ、いろんなコミュニティを持ち、いろんなところに居場所を置いて、かかわり方の濃淡もありながら暮らしていく。意外とそれが社会だなと思っていて、その感覚で充に共感したんです。


一方で生方さんも、この作品では「共感を求めていない」と公言されていて、たしかに視聴者で充に共感している人は見事に少ない。私自身が一番わかると思ったのは彼なのに、周りの人にそう言うとボロクソ言われました。


そこで私は、生方さんが言っていた共感を求めないドラマというのはこういうことかと思ったんです。充に共感するのは、確かに多数派じゃない。でも、みんな共感こそしないけれど、こういう人っているよねというのを生方さんはいつも書いてこられた。それが今回の充だと思うんです。


本来、人間はわかり合えない。人間の見えている部分はわずかで、夫婦、家族、親友でも、そんなに全部を理解し、共有することはできないし、する必要もないと私は思って生きています。人間はわからないけれど、だからこそお互いの違いを楽しんだり、わからないままで一緒に暮らしていくことができる、という物語だと私は捉えていました。


影山 なるほど。


田幸 でも、世の中の多くの人はそう思っていなかった。一方で、充への怒りがあったからこそ、ここまで盛り上がった面もあります。みんながすごく怒っていましたけれど、一番ドラマを楽しんでいたのは怒っている人たちだった気がします。


影山 これは自慢になってしまいますが、初回を見たときに、これは絶対不倫ちゃうわと思い、コラムにも書きました。心の中で子どもっぽく、してやったりと思っています。


キスシーンの一つもないんですよ。ただ、中島さんと蒼井さんは、蒼井さんの出方次第では不倫関係になりそうでしたね。中島さんが前のめりで、一緒に住もうみたいなことを言うてるわけですから。キッチンで抱き合ったりしましたが、それも寸止め。だから、視聴者は多分その辺で「イケイケ!」みたいに思ったのかもしれません。


免許証を見せていくシーンが卓越していました。倉本聰さんの名言に「ドラマは大きな嘘をつく」というのがあります。小さな嘘は視聴者に見透かされるけど、大きな嘘をつく。


過去をカミングアウトするときに、一枚一枚免許証を出して、この時はどうでした、この時はどうでしたと話すことは、現実には絶対にない。だけど、あそこが物すごく見せる。長回しのシーンで、すごかった。演出の妙というか、うまいなと感動しました。


倉田 私にも印象的だったシーンがあります。充が家を出ていくことになるんですが、咲子と洗濯をして、その洗濯物を干して乾いたら出ていくことにするんです。そうするとその後、それぞれがこっそり洗濯物をシュッシュッと濡らして、乾くのを遅らせようとするんですよ。


別離を選んだことに二人とも納得はしているけれど、あともうちょっと一緒にいたいという思いが、セリフではなく、シュッシュッと濡らす行動にあらわれている。「何、このシーン!ドラマのこういうところが好きなんだよ」と心に刺さりました。


影山 洗濯物で言うと「Tシャツが乾くまで」というタイトルに決定するまでの候補に「Yシャツが乾くまで」というのがあったそうです。ただ「Yシャツ」だと何となく不倫臭が漂う。だからユニセックスというか、男女の区別がないTシャツを選んだということです。Tシャツにしてよかったですね。


「告白」で松村北斗がこんな「気持ち悪い」役を…

田幸 「告白」(日テレ)がおもしろくて最後まで見ました。松村北斗さんはいい俳優になられて「ファーストキス 1ST KISS」(2025)などの映画でも活躍されているし「カムカムエヴリバディ」(NHK・2021~22)でもすばらしかった。


その松村さんがこんなに気持ち悪い役をやることにまずはびっくりしましたが、見ていくと、純粋な思いと怖さ、不気味さは紙一重だというところに落ちついて、壮大なストーカー物語と、一途で純粋な恋心を二つの軸で描いた作品でした。彼の存在感、演技の幅によって最後まで引っ張られました。


影山 勤務先の大学での情報を少しまぶすと、今期教え子たちがハマっていたのは「Tシャツ」より「告白」でした。「告白」のほうがおもしろかったと。「Tシャツ」は女子大生にとってはちょっと先の世界なんですね。


僕も当初は、見続けようか迷ったんです。いろいろなことをまぶし過ぎて、サスペンスとか、おどろおどろしい殺人的なところとか、エピソードを幾つも絡めていたけれど、幾つかは削れますよね。


最後は微妙な感じではあるけれども、純愛に着地しているわけですから、松村君のよさをもっと生かすのであれば、気持ち悪いストーカー的な部分と、純愛だけでドーンとやったほうが、視聴者はもっとついていったんじゃないかと思います。僕は殺人だの何だのいうときに離脱しかけたので。


田幸 わかります。


影山 一つ言っておきたいのは、この作品、「4年後をHuluでお見せします」と告知されています。配信でお客さんを増やそうとすることはビジネスとして当然ですが、教え子の言葉をそのままお伝えすると「もう配信が多過ぎてお金が払えません。助けて、先生」と言っているんです。この声に業界はもっと耳を傾けるべきです。自分たちの首を絞めているような気がして、作品にとってもよくないんじゃないでしょうか。


毎回どうなるか全然分からなかった「マイ・フィクション」

田幸 期待してなかったのに「マイ・フィクション」(ABC)がすごくおもしろくて。


影山 僕もおもしろかったです。


田幸 今期のダークホースでした。事故で目覚めると自分になりすましている男がいて、妻も同僚も自分を覚えていない。画面のあちこちに違和感が仕込まれていて、何かおかしいぞ、これは何だ、この集落、この地域がおかしいのかなどといろいろ考えさせられる。そのうちにこの気持ち悪い、平穏な町が実は管理されたうえでの平穏な町なんだということが見えてくる構図で、毎回毎回どうなっていくのかわからない。


その中で、第7話で視点がガラッと変わる。そこで主役が入れかわるみたいな構造も、思ってもみなかった形でとてもおもしろかったです。


惜しいのは、話数がすごく少なくて、突然終わる感じだったんです。その結果、最終話が説明過多で、なんとか収束させた印象でした。もうちょっと見たかったです。


影山 最後、駆け足になってしまいましたね。


倉田 近所のご夫婦から100%いい人オーラが出ていて、それが逆に怪しいとか、気になるところがいろいろあって見ていたんですけれど、話が複雑化し過ぎたように思います。


考察を求められ過ぎると、疲れちゃうというか、最後までついてはいきましたが、置いていかれた感があって、見終わった後の満足感は少し弱かった気がします。


影山 考察で言うと、いろいろ複雑怪奇にして、どうぞ考察して下さいと仕掛け過ぎるのも難しいところですね。そこにネットニュースが乗っかると、数字も伸びて、視聴率にも反映してということもあるんでしょうが、あまりにあざといとそれが透けて見えることもあります。


「VIVANT」と「大空港」

倉田 「VIVANT」(TBS)は、堺雅人さんが本当に芸達者で、とうとう中国出身のスパイの役まで…。どれだけのポテンシャルがあるんだろうと改めて感じました。


あと、二宮和也さん演じるノコルですが、血のつながりはないものの、ノコルはベキが育てたようなものなので、乃木とはある意味で兄弟的な関係性ですね。ノコルたち孤児を守るためにベキがテロを起こしたという背景もあって、そういった、血のつながりではないところで生まれる家族への愛情、兄弟への思い、派手なシーンに注目がいきがちですが、そういう人の心情をきちんと描いているのは、すごくいいと思いました。


田幸 新しい試みとしては、ラジオと連動した「悪役会議室」がおもしろかった。負ける側の悪役の視点から語る。これを同時にやっていくのは、これまでになかった試みで、いろんな企画で真似したいんじゃないかと思いました。


影山 少し大げさに言えば、ネトフリなどの配信に対して、太刀打ちできるぞ、勝負するぞという気概、意気込みをおおいに感じられましたし、「VIVANT」が今回TBSの代表ドラマの1つとして成し遂げたことは大きかったと思います。


最近、日曜劇場が民放の大河ドラマ化しているとか、僕もそれを言った一人ではありますが、大河ドラマ好きな人が見ている。最近のテレビドラマは見ないけれど、大河ドラマ、朝ドラと日曜劇場だけは見るといった人も結構いる。そういった層に強く訴求する作品になっていましたね。


田幸 バランスよくおもしろかったのは「大空港」(テレ朝)です。間口が広く、いろんな人が楽しめる作品でした。


倉田 私は記者として成田支局に2年間いて、空港内での取材もしていたので、思い出して楽しかったです。


一方で、わかりやすさを求めた結果だとは思いますが、外国人キャストのせりふが、途中まで字幕だったのに、急に日本語吹き替えに切りかわることがありました。あっ、急に日本語をしゃべり出したと毎回違和感を感じていたんです。


影山 再現ドラマかと思いましたよね。


倉田 今までドラマの世界に入り込んでいたのに、急にそこから押し出されたような感じがしました。一方で、字幕を見るのはしんどいから、全部吹き替えでいいという意見もあって、それならそれで最初から吹き替えでいいんじゃないかとも思いました。


問題提起が光った「リーガルビート」

倉田 「リーガルビート」(テレ東)がよかったです。法廷物で、吃音のある新人弁護士を鈴鹿央士さんが演じています。法廷というシビアな場所で、スラスラ言葉が出ないことがある。その中で、稲垣吾郎さん演じる先輩弁護士や、同じ吃音がある友人の存在もありながら、弁護士として成長していく。


田幸 扱っている題材も社会問題にかかわるものがたくさんあって、介護離職、非正規の問題、LGBTQ団体の名誉毀損、派遣のセクハラとか、いろんなことを細やかに扱っています。その中でも第7話、唐田えりかさんがASDの研究員を演じた回が印象的でした。


研究室でマウスが全滅してしまう。それが唐田さん演じるASDの研究員のミスだとされて、解雇され、多額の損害賠償を請求されるという回です。唐田さんは自分の特質をきちんと理解していて、作業手順を紙に書き出すなどの工夫、努力を一生懸命にしていた。にもかかわらずマウスは全滅してしまった。実はそれは唐田さんのミスではなく、他の悪意ある人が仕組んだことだったんです。


その人物がなぜ彼女を陥れたのかというと、彼女の存在によって自分の仕事の負担が増えていると感じていて、それが不満で、嫌がらせとしてやったんです。


これはASDの問題に限らず、組織の中では常に起こりうることだと思います。小さな子どものいる人であれば、子どもが熱を出したら帰らなければいけない。妊娠中の人であれば、体調を崩したりする。個人が抱えている事情はもちろん尊重され、最優先されるべきですが、一方で、組織の中にその分の負担を担うことになる人が出てくる場合があります。


実際、誰かの存在や特質、その環境によって起こる負担を特定の誰かに背負わせている組織がすごく多い。それで何とか回っているけれど、無理やり回している可能性もある。管理職の立場にある人も含めて、どこかのポジションの人にだけ負荷が物すごくかかっていて、SOSが出せない人がたくさんいるように思います。


個人の特質を尊重するのは当然だが、それと同時に、それによって負担を背負う人のことも考えなければならない。これが、この回の大きなテーマであり、問題提起だったと思います。


影山 僕から一つ。「晩酌の流儀」(テレ東)は、栗山千明さんが一日の終わりに楽しそうに飲んで食べる様子が爽快で、好きなドラマなので新聞のコラムで取り上げたんです。そうしたらこんなコメントが読者から来たんです。


「毎日新聞ともあろうものが、なぜこんな酒飲みのドラマを称賛するのか。喫煙に関して社会がこれだけ厳しくなっているのに、飲酒に関して日本社会は甘過ぎます。どうぞご一考いただきたい」。


たしかにごもっともな面もあって、その方のご家族とか近親の方で、アルコールに関して何かあったのかもしれませんが、難しいな、ドラマをつくるのも、それをコラムに書くのも難しいなと思いました。


さすがにそれで自分の書くものをとめようとは思わないですが、次に何か飲酒に絡んだ表現で「飲みっぷりがいいね」と書くのは、なかなか難しいなと。


田幸 非常に考えさせられる投書で、いろいろ考えてみなければいけない。その一方、例えば「晩酌の流儀」の主役が松重豊さんだったら、同じ投書が来るかなというのも、ちょっと引っかかるところではあります。おじさんが晩酌を楽しんでいるドラマだったら、そんなふうに捉えたかなとも思います。


不気味さのクオリティが抜群だった「ストレンジ」

田幸 クオリティにおいて今期のテレ東で一番だったのが「ストレンジ」です。原作の伊藤潤二さんは日本にも大好きな方は多いですが、知名度や人気度は、もしかしたら海外のほうが高いのではと思う漫画家さんです。


一方で、伊藤さんの造形美、わけのわからない気持ち悪さ、そういったものは漫画だからこそ表現できるもので、実写化は難しいとずっと言われていたんです。しかし「ストレンジ」には、実写だからできる不気味さ、美しさが確かにありました。


伊藤さんの造形美だけでなく、人物の動き方や、体のポーズの変な癖とか、そういったものが物すごく忠実に再現されていた。メインの役者だけでなく、エキストラみたいな俳優さんの動き方も伊藤潤二の動きになっていた。監督が相当こだわられたのでしょう。原作のコマが浮かんでくるぐらいの再現度の高さでした。


三人の監督、下津優太さんは第1回日本ホラー映画大賞の受賞者ですし、近藤亮太さんは第2回の受賞者、山田篤宏さんは木下グループ新人監督賞グランプリを取っています。こうした実力のある監督を起用しているからこそのクオリティでした。怖さの本質がわかっている人たちがつくっていて、これは明らかに海外も意識しているんだろうという気がしました。


「君の好きは無敵」と「Tokyo middle 30」

影山 「君の好きは無敵」(TBS)はいかがでしたか。


倉田 キャラクターをただひたすら愛するデザイナーと「可愛い」とは無縁のコンサルがキャラクタービジネスを展開させていく話ですね。今いろいろな方面で「推し」が発生していますが、どんなものでも好きなものは好きでいい、好きでい続ける気持ちを大切にしていいんだという、優しいメッセージのあるドラマでした。


影山 一つ言わせて頂くと、松本若菜さんはとてもいい俳優さんになっているだけに、ちょっともったいなかった。前半お遊びというか、大仰な演技、別にあんなことをしなくてもいいのにと思ったところがありました。やや意地悪なコメントかもしれませんが。


田幸 「Tokyo middle 30」(フジ)はもうちょっとという感じでしたが、のんさんを地上波の連ドラで見られるのがうれしかったです。やっぱり魅力的ですね。彼女ばかり目で追ってしまうところがありました。


影山 わかります。


田幸 30代のリアルな悩みや葛藤、リアルな会話をメインに置いている割には、回想シーンとかで、あれっ、これはこの時期ではないんじゃないかなみたいな、つくり込み、時代設定の考証が甘いような細部がちょっと気になりました。


倉田 メインの3人の女性は高校時代からの親友ですが、その頃からの友達だと、恥ずかしいところも見られていて、今の恥ずかしいことを隠す必要がない気楽さもあり、逆に率直に物を言い過ぎて、こっちはアドバイスのつもりで言ったけど怒らせてしまって、しばらくやりとりが途絶えたりする。でも、また会えば、普通に言い合える。その辺はわかる部分がたくさんありました。刺さる人には刺さる作品だったと思います。


北香那がすばらしかった「さよならノワール」

倉田 「さよならノワール」(フジ)がよかったです。警察内の犯罪被害者支援部署が舞台で、被害者の立場に寄り添う、いわゆる刑事ドラマとは違った人間ドラマでした。


田幸 犯罪被害者支援という切り口が非常にいい。脚本の井上由美子さんがベテランなので、手がたく、安心感のあるうまさが見えました。


元刑事の小池栄子さんとバディを組む心理士を演じた北香那さんがすばらしかった。NHKの「替え玉ブラヴォー!」(2026)でもチャーミングでしたし、「ばけばけ」(NHK・2025~26)で演じたお嬢様もよかったですけれど、今回は、対人関係にちょっと難ありで、何か欠落していて挙動不審みたいな役柄を、オーバーではなく繊細にリアルに演じていました。お芝居がうまく華もあるので、メインどころをもっともっと演じてほしいと思っています。


シビアな現実を描いた「リラの花咲くけものみち2」

田幸 前作も非常によかったですが「リラの花咲くけものみち2」(NHK)が印象に残りました。もともとひきこもりだった山田杏奈さん演じる主人公が獣医の大学に行って、仲間と交流する。そこでの青春と葛藤を描いた第1シーズンから、第2シーズンになって、かなりシビアな方向になった。


影山 びっくりしました。


田幸 びっくりしました。特に驚いたのが口蹄疫の話です。前作でも馬の出産のときに、母体だけでも助けるために胎児を切断する。そんなシビアなことを描くんだと思ったんですが、今回描いた口蹄疫の話は原作にはないんです。


影山 原作になかったんですか。


田幸 はい。それをあえて入れた。「全頭殺処分」です。獣医さんは、動物好きの人が圧倒的に多いのに、その人たちが「殺処分」という決断を迫られる。その現実をシビアに見せる。非常に驚きましたし、意義のある作品でした。


影山 僕もこれをコラムに書くときに「全頭殺処分」という表現について迷いに迷って、結局「とてもつらい選択」という言い方にしたんです。これは僕の弱いところで反省しています。むしろ殺処分は殺処分ときちっと書くべきだった。


倉田 新聞記事では「何万頭殺処分」と堂々と書くことがあるんですが、大きく載せることはなかなかないんです。でもやはり一つ一つの命なんだというのを突きつけられました。


ひとつ印象的なシーンがありました。口蹄疫が発生した農家周辺の酪農家の人たちが「口蹄疫が発生して、自分のところも感染したら殺処分せざるをえなかった。それをあなたたちが速やかに殺処分という判断をしてくれたおかげで、口蹄疫が広がらずに済んだ」とお礼を言いに来るんです。


殺処分という判断を下した酪農家も、実際にその手を動かした獣医師も、すごくつらい決断でしたが、命を奪うことで周りの命を救うという現実、そういうシビアな判断があったからこそ生かされる命もあるということを、よくぞ描いてくれたすばらしい作品だったと思います。


意欲作だった「風、薫る」

田幸 「風、薫る」(NHK)は、真面目に誠実に一生懸命つくられた作品でした。


一方で、もともとのモチーフになっている方が実在することの難しさを感じましたね。見上愛さんが演じた大関和さんはそれなりに資料がある。モデルではなくモチーフという言い方をしつつ、実際の史実を盛り込んだものもあり、盛り込んでないものもある。その意味で見上さんのキャラクターのほうが動かしづらそうだなと思いながら見ていました。


影山 なるほど。いい表現ですね。


田幸 上坂樹里さんのほうは、モチーフになっている鈴木雅さんの資料があまりないこともあり、もともと武家の娘だった鈴木さんを、孤児として教会で育ったと、設定を全然別のものにしました。その結果こちらのキャラクターのほうが自由に物語を動かしている。


影山 そうでしたね。


田幸 親も家もお金も、何もないところから自分の努力で人生を獲得していく物語になっている。


モチーフになった方は「ナキチンゲール」と言われるぐらいよく泣く直情径行の方だったらしいですが、恐らくそういう直情径行ではなく描きたいという思いがあったんだと思います。二人を真逆のヒロインとしてつくってないんです。つまり制作者としては、人はそんなに極端に違わないという考えで、正反対ではない、ステレオタイプでない主人公にした。


ところが、であるからこそバディとしてのわかりやすさがなく、難しさもあった。それでも、今までやったことのない難しいことに挑戦して、新しい一歩を踏み出した意欲作だったと思います。


倉田 私は上坂さん演じる直美のたくましさ、はい上がってきた感がすごく頼もしかったです。孤児というハンディキャップがありながら、教会でみずから英語を学んでステップアップしようとする。自分がよりよく生きるためにはどうすべきかを考えられる賢い女性だと思って、尊敬できるヒロインでした。


影山 田幸さんに言われて腑に落ちましたね。僕にもやっぱり上坂さんのほうが輝いて見えた。上坂さんが得をしたなと思いながら見終えました。


「ラストノート」と「税金で買った本」

影山 「ラストノート」(フジ)は、内田有紀と寺西拓人の年の離れた恋愛なんですが、ある種の雑さというのが、何周か回っておもしろくなっていました。佐々木蔵之介が寺西君のお父さん役で、毒親というか、息子に干渉して邪魔ばかりする親なんです。内田有紀が出てきたら、彼女に何か危害を加えるんじゃないかというぐらい、めっちゃ怖いキャラクター。


ところがそれで押し通すのかと思ったら、途中から病気して、めっちゃいいお父ちゃんになって、手を取り合って亡くなるんです。ちょっと待てという感じで、佐々木蔵之介は名優ですよね。どういう使い方をしているんやろうというのが謎でした。


もう一本「税金で買った本」(NHK)。主人公のヤンキー高校生を奥平大兼君が演じています。母親に「クソババア」と言ったりして、口は悪いけど、気はいい青年なんです。地頭もよくて本好きで、父親の影響もあるんですけれど、その彼が図書館でアルバイトすることで成長していくドラマです。


この作品での西野七瀬さんがさりげなくいいなと感じました。図書館の契約職員です。目立って前に出るタイプではないけれど、いいお芝居をする俳優さんになってきていると思って、ここのところ注目しています。


田幸 作品そのものについてはかつてこの座談会でも語りましたが、見られ方としておもしろいのは「団地のふたり」(NHK)です。配信されたことで中国や韓国の人に絶賛されているんですよ。


影山 えーっ、そうですか。


田幸 中年女性二人のただただ普通の日常を、こんなふうに見られるのがいい、と日本の私たちと同じことを韓国や中国の人が言ってるんです。ああ、国を超えてもやっぱり同じような感覚でこれを見るんだなと。しかもそれをリアルな反応としてSNSで見られるのは、とてもおもしろいですね。


       <この座談会は2026年10月9日に行われたものです>


<座談会参加者>


影山 貴彦(かげやま・たかひこ)
同志社女子大学メディア創造学科教授、コラムニスト。
毎日放送(MBS)プロデューサーを経て現職。
朝日放送ラジオ番組審議会委員長。
日本笑い学会理事、ギャラクシー賞テレビ部門委員。
著書に「テレビドラマでわかる平成社会風俗史」、「テレビのゆくえ」など。


田幸 和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経て、フリーランスのライターに。役者など著名人インタビューを雑誌、web媒体で行うほか、『日経XWoman ARIA』での連載ほか、テレビ関連のコラムを執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『脚本家・野木亜紀子の時代』(共著/blueprint)など。


倉田 陶子(くらた・とうこ)
2005年、毎日新聞入社。千葉支局、成田支局、東京本社政治部、生活報道部を経て、大阪本社学芸部で放送・映画・音楽を担当。2023年5月から東京本社デジタル編集本部デジタル編成グループ副部長。2024年4月から学芸部芸能担当デスクを務める。


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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情報提供元:TBS NEWS DIG Powered by JNN

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