エンタメ
2026-10-23 08:30
映画『バッド・ルーテナント:トウキョウ』(10月23日公開)で、リリー・ジェームズと共演し、英語での芝居にも取り組んだ小栗旬。手応えを聞くと、「もう英語で芝居をしたくないなと思っています」と笑い飛ばした。
【動画】『バッド・ルーテナント:トウキョウ』本編映像
三池崇史監督が手がけた本作は、東京で起きた連続猟奇殺人事件と、次期アメリカ大統領候補の娘の失踪事件が絡み合うサスペンスアクション。酒、ドラッグ、賭博、暴力に溺れ、多額の借金を抱える汚職刑事・矢吹恭司(小栗)が、FBI捜査官・グエン(ジェームズ)と事件を追う。9月のトロント国際映画祭でワールドプレミアを迎え、世界17の国と地域での公開も決まっている。
2021年、ハリウッド初出演作『ゴジラ vs コング』の公開時に取材した際、小栗は海外作品への参加に意欲を示していた。語学留学にも取り組んでいた。
それから5年。再び英語で演じた経験から、今は何を感じているのか。海外への思いの変化とともに、4度目の映画出演となった三池組の現場、そして破滅寸前の矢吹に見いだした人間らしさについて聞いた。
■「もっと世界的になりたい」と思っていた頃からの変化
――『ゴジラvsコング』でのハリウッド挑戦を経て、本作では、『シンデレラ』『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』などで知られるハリウッド俳優のリリー・ジェームズさんと共演。流暢な英語のせりふをこなされています。今後、さらに海外展開を広げていきたいとお考えなのですか?
【小栗】それは、あんまりないかな。むしろ「できるなら英語で芝居したくない」と思っているくらいです(笑)。
――そこまでですか(笑)。やはり現場での負荷が大きかったのでしょうか。
【小栗】大変でした。本当に。自分は耳が悪いのかなと思うくらい発音が難しくて、どれだけ準備しても納得がいかない。現場で発音のことばかり気にしながら芝居をしなきゃいけないのが、ものすごくストレスでした。芝居そのものよりも発音に神経を取られるくらいなら、もう英語で芝居をするのはいいかな、というのが正直な気持ちですね。
――しかし、トロントでの熱気あるリアクションを目の当たりにして、手応えもあったのではないでしょうか。
【小栗】トロントでの上映は本当に素晴らしかった。上映が終わった後のアフターパーティーでも、現地の観客や映画関係者たちがダイレクトに興奮を伝えてくれて、うれしかったです。その熱狂を肌で感じられただけでも、カナダまで行って本当によかったなと思います。
――北米配給も決まっています。作品が海外へ広がっていくことについて、俳優としてはどのように感じていますか?
【小栗】昔は「もっと世界的に活躍したい」「海外へ打って出たい」と強く思っていた時期もありました。でも最近は、そこまで執着していないんです。
――その変化には、何か理由があるのでしょうか。
【小栗】もちろん英語の芝居が大変だという個人的な理由もありますが(笑)、それ以上に大きいのは、今は自分たちの母国語、日本語のままでも十分に世界へアプローチできる時代になったからです。使い慣れていない言語で悪戦苦闘しながら感情を表現するよりも、自分は日本語で表現する方が、役者として圧倒的に自由だし、演じていて楽しい。配信プラットフォームや字幕・吹替の文化が浸透したことで、ローカルな日本語の作品がそのまま世界中のスクリーンやリビングに届くようになった。10~15年前は「自分が英語を完璧に克服して海を渡らなければ、世界に挑むことすらできない」と思い込んでいたけれど、今はそうじゃない。この多様な広がり方は、日本の役者にとってもすごくポジティブで、喜ばしい変化だと受け止めています。
■三池監督が「全力でインディーズ映画を作っている」
――本作には、昔のヤクザ映画を思わせる部分もありながら、海外の俳優も参加し、新しい三池作品という印象も受けました。完成した映画を、どのようにご覧になりましたか。
【小栗】一言で表すのはすごく難しいんですけど……全体としてそれなりの予算を使い、一大エンターテインメントとして成立させなければいけない規模感のはずなのに、三池監督が全力でインディーズ映画を作っているという感覚がすごくありました。
――インディーズ映画ですか?
【小栗】三池監督の現場は、どこか自主制作映画のような匂いを感じさせる瞬間が常にあるんです。それは、三池監督が何十年も映画の最前線で撮り続ける中で培ってきたものだと思っています。映画を撮れる機材があって、そこに俳優がいて、それを動かせる技術を持ったスタッフがいて、何より監督自身が撮りたいものを面白がっていれば、どこでだって映画は作れるんだ、と思わせてくれる。
今回もまさにその純粋な映画熱に満ちていて、それこそ三池組が初めてのリリーさんは最初とても戸惑っていました。「今のカットだけ終わり?大丈夫?」って(笑)。三池監督は自分が撮りたいものしか撮らない人なので、その独特のスタイルに慣れるまで少し時間がかかっているようでした。
――小栗さんは、『クローズZERO』『クローズZERO II』『テラフォーマーズ』などで三池組を経験されていますね。
【小栗】現場に入った瞬間に「ああ、これこそが三池監督の現場だな」と自然と腑に落ちて、すんなりと世界観に入り込むことができました。
――劇中、ショッキングな死体の描写がありながらも、そこに刻まれた日本の伝統的な入れ墨(和彫り)の存在感に息をのむような美しさを感じました。
【小栗】三池監督は入れ墨を撮ることに慣れていますよね(笑)。本当におっしゃる通りで、造形美として圧倒的な凄みがあるなと思います。西洋のタトゥー文化とはまた違って、日本の和彫りは身体全体でひとつの完成された芸術作品のようです。ひとつの美術品としての美しさが立ち上がってくる感覚は、現場でも強く感じていました。
■汚職刑事・矢吹に「共感できるところが結構いっぱいある」
――史上最悪の汚職刑事(バッド・ルーテナント)をどのように理解して演じましたか?
【小栗】矢吹に関しては、僕自身は共感できるところがたくさんありました。本来、人間が選ぶのはこっちじゃないかな、と思うようなことを、彼は欲望のままに選択していると思うんです。
理性や倫理、人からどう見られるかを気にして、目の前にある、壊れるか壊れないか分からない橋を「渡るのはやめよう」となるのが、今の僕らだと思うんですよね。矢吹の場合は、「全力疾走で駆け抜ければ落ちないんじゃないか」と思っている感じがしました。
人間のずるいところ、悪いところ、人に見せたくないこと、蓋をしておきたいことを、全部さらけ出しているような人なんです。それは、違う角度から見ると、素敵で美しいことだなと思います。僕としては、とても人間らしい部分だと感じていたので、彼のすることは一つひとつ理解した上で演じられていました。
――生々しい薬物の摂取シーンや容赦のないバイオレンスなど、自主規制が進む現代の商業映画界において、非常にエッジの効いた異色作です。これから劇場へ足を運ぶ観客に向けて、小栗さんからメッセージを届けるとしたら?
【小栗】「覚悟して観に来てください」と大げさに身構えさせるつもりはありません。が、しいて言えば、これは“変な映画”です(笑)。
分かりやすい答えがあるわけでも、明日を生きる希望をもらえるわけでも、考察して楽しめるわけでもない。そんな要素はひとつもありません。ただ必死にもがいて、転落していく人間たちの姿があるだけで、観終わったあとに「結局、何だったんだ?」と呆然とするような作品です。
でも、たまには映画館にそういう映画があっても良くない?と思うんです。映画は、もっと自由で、理屈を超えたものであるはずだから。余計な頭を使わずに、ただスクリーンの中で暴れ回る人間たちを見て、自由に楽しんでもらえたらうれしいですね。映画を作ることにだって、崇高な大義名分なんてなくてもいいんじゃないかと思います。
――三池監督もよく「自分は頼まれたら何でも撮る職業監督だ」と仰いますが、出来上がるものはいつも紛れもない“三池節”が炸裂しています。また一緒に作品を作りたいという思いはありますか?
【小栗】もちろん、ぜひやりたいです。僕は三池監督の映画監督としての現場での佇まい、居方がたまらなく好きなんです。役者として学べることもたくさんありますし、ただ現場の真ん中に立っている背中を見ているだけでも本当にかっこいい。また三池監督と一緒に、映画という名の遊び場で本気の悪ふざけができる機会があれば、いつでも飛び込みたいと思っています。
【動画】舞台裏を語る特別インタビュー映像
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2021年、ハリウッド初出演作『ゴジラ vs コング』の公開時に取材した際、小栗は海外作品への参加に意欲を示していた。語学留学にも取り組んでいた。
それから5年。再び英語で演じた経験から、今は何を感じているのか。海外への思いの変化とともに、4度目の映画出演となった三池組の現場、そして破滅寸前の矢吹に見いだした人間らしさについて聞いた。
■「もっと世界的になりたい」と思っていた頃からの変化
――『ゴジラvsコング』でのハリウッド挑戦を経て、本作では、『シンデレラ』『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』などで知られるハリウッド俳優のリリー・ジェームズさんと共演。流暢な英語のせりふをこなされています。今後、さらに海外展開を広げていきたいとお考えなのですか?
【小栗】それは、あんまりないかな。むしろ「できるなら英語で芝居したくない」と思っているくらいです(笑)。
――そこまでですか(笑)。やはり現場での負荷が大きかったのでしょうか。
【小栗】大変でした。本当に。自分は耳が悪いのかなと思うくらい発音が難しくて、どれだけ準備しても納得がいかない。現場で発音のことばかり気にしながら芝居をしなきゃいけないのが、ものすごくストレスでした。芝居そのものよりも発音に神経を取られるくらいなら、もう英語で芝居をするのはいいかな、というのが正直な気持ちですね。
――しかし、トロントでの熱気あるリアクションを目の当たりにして、手応えもあったのではないでしょうか。
【小栗】トロントでの上映は本当に素晴らしかった。上映が終わった後のアフターパーティーでも、現地の観客や映画関係者たちがダイレクトに興奮を伝えてくれて、うれしかったです。その熱狂を肌で感じられただけでも、カナダまで行って本当によかったなと思います。
――北米配給も決まっています。作品が海外へ広がっていくことについて、俳優としてはどのように感じていますか?
【小栗】昔は「もっと世界的に活躍したい」「海外へ打って出たい」と強く思っていた時期もありました。でも最近は、そこまで執着していないんです。
――その変化には、何か理由があるのでしょうか。
【小栗】もちろん英語の芝居が大変だという個人的な理由もありますが(笑)、それ以上に大きいのは、今は自分たちの母国語、日本語のままでも十分に世界へアプローチできる時代になったからです。使い慣れていない言語で悪戦苦闘しながら感情を表現するよりも、自分は日本語で表現する方が、役者として圧倒的に自由だし、演じていて楽しい。配信プラットフォームや字幕・吹替の文化が浸透したことで、ローカルな日本語の作品がそのまま世界中のスクリーンやリビングに届くようになった。10~15年前は「自分が英語を完璧に克服して海を渡らなければ、世界に挑むことすらできない」と思い込んでいたけれど、今はそうじゃない。この多様な広がり方は、日本の役者にとってもすごくポジティブで、喜ばしい変化だと受け止めています。
■三池監督が「全力でインディーズ映画を作っている」
――本作には、昔のヤクザ映画を思わせる部分もありながら、海外の俳優も参加し、新しい三池作品という印象も受けました。完成した映画を、どのようにご覧になりましたか。
【小栗】一言で表すのはすごく難しいんですけど……全体としてそれなりの予算を使い、一大エンターテインメントとして成立させなければいけない規模感のはずなのに、三池監督が全力でインディーズ映画を作っているという感覚がすごくありました。
――インディーズ映画ですか?
【小栗】三池監督の現場は、どこか自主制作映画のような匂いを感じさせる瞬間が常にあるんです。それは、三池監督が何十年も映画の最前線で撮り続ける中で培ってきたものだと思っています。映画を撮れる機材があって、そこに俳優がいて、それを動かせる技術を持ったスタッフがいて、何より監督自身が撮りたいものを面白がっていれば、どこでだって映画は作れるんだ、と思わせてくれる。
今回もまさにその純粋な映画熱に満ちていて、それこそ三池組が初めてのリリーさんは最初とても戸惑っていました。「今のカットだけ終わり?大丈夫?」って(笑)。三池監督は自分が撮りたいものしか撮らない人なので、その独特のスタイルに慣れるまで少し時間がかかっているようでした。
――小栗さんは、『クローズZERO』『クローズZERO II』『テラフォーマーズ』などで三池組を経験されていますね。
【小栗】現場に入った瞬間に「ああ、これこそが三池監督の現場だな」と自然と腑に落ちて、すんなりと世界観に入り込むことができました。
――劇中、ショッキングな死体の描写がありながらも、そこに刻まれた日本の伝統的な入れ墨(和彫り)の存在感に息をのむような美しさを感じました。
【小栗】三池監督は入れ墨を撮ることに慣れていますよね(笑)。本当におっしゃる通りで、造形美として圧倒的な凄みがあるなと思います。西洋のタトゥー文化とはまた違って、日本の和彫りは身体全体でひとつの完成された芸術作品のようです。ひとつの美術品としての美しさが立ち上がってくる感覚は、現場でも強く感じていました。
■汚職刑事・矢吹に「共感できるところが結構いっぱいある」
――史上最悪の汚職刑事(バッド・ルーテナント)をどのように理解して演じましたか?
【小栗】矢吹に関しては、僕自身は共感できるところがたくさんありました。本来、人間が選ぶのはこっちじゃないかな、と思うようなことを、彼は欲望のままに選択していると思うんです。
理性や倫理、人からどう見られるかを気にして、目の前にある、壊れるか壊れないか分からない橋を「渡るのはやめよう」となるのが、今の僕らだと思うんですよね。矢吹の場合は、「全力疾走で駆け抜ければ落ちないんじゃないか」と思っている感じがしました。
人間のずるいところ、悪いところ、人に見せたくないこと、蓋をしておきたいことを、全部さらけ出しているような人なんです。それは、違う角度から見ると、素敵で美しいことだなと思います。僕としては、とても人間らしい部分だと感じていたので、彼のすることは一つひとつ理解した上で演じられていました。
――生々しい薬物の摂取シーンや容赦のないバイオレンスなど、自主規制が進む現代の商業映画界において、非常にエッジの効いた異色作です。これから劇場へ足を運ぶ観客に向けて、小栗さんからメッセージを届けるとしたら?
【小栗】「覚悟して観に来てください」と大げさに身構えさせるつもりはありません。が、しいて言えば、これは“変な映画”です(笑)。
分かりやすい答えがあるわけでも、明日を生きる希望をもらえるわけでも、考察して楽しめるわけでもない。そんな要素はひとつもありません。ただ必死にもがいて、転落していく人間たちの姿があるだけで、観終わったあとに「結局、何だったんだ?」と呆然とするような作品です。
でも、たまには映画館にそういう映画があっても良くない?と思うんです。映画は、もっと自由で、理屈を超えたものであるはずだから。余計な頭を使わずに、ただスクリーンの中で暴れ回る人間たちを見て、自由に楽しんでもらえたらうれしいですね。映画を作ることにだって、崇高な大義名分なんてなくてもいいんじゃないかと思います。
――三池監督もよく「自分は頼まれたら何でも撮る職業監督だ」と仰いますが、出来上がるものはいつも紛れもない“三池節”が炸裂しています。また一緒に作品を作りたいという思いはありますか?
【小栗】もちろん、ぜひやりたいです。僕は三池監督の映画監督としての現場での佇まい、居方がたまらなく好きなんです。役者として学べることもたくさんありますし、ただ現場の真ん中に立っている背中を見ているだけでも本当にかっこいい。また三池監督と一緒に、映画という名の遊び場で本気の悪ふざけができる機会があれば、いつでも飛び込みたいと思っています。
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