
週に1回、決まった曜日に生協の箱が玄関に届く。スマホで頼んだ料理が30分で来る。どちらも「家まで届ける」仕事です。ところが、出前館は8年連続の赤字となる見通しで、生協の宅配は黒字です。同じように家まで来てくれるサービスの明暗を分けているものは何か。移動スーパーから百貨店の外商、訪問診療まで、「動くサービス」の採算の核心について、リサーチャーのcomugiが解説します。
(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2026年9月15日配信『休日に外出しない人が4割:なぜ「環境を変える」とうまくいくのか?』より)
出前館は8年連続の赤字見通し、生協の宅配は黒字
出前館の決算短信を見ると、2026年8月期の第3四半期までの9か月で、売上高は約283億円。これは加盟店からの手数料や利用者の送料が中心で、料理代の総額ではありません。それに対して売上原価が約282億円。最終損益は、会社の予想を含めると8年連続の赤字となる見通しです。お店と同じ値段や送料無料を打ち出す競争のなかで、1回止まって渡せるのは1食か2食分です。
一方、全国の地域生協の組合員はおよそ2,400万人、宅配の年間供給高は2024年度で2兆1,000億円。日本でいちばん大きな食品の定期宅配です。日本生協連(日本生活協同組合連合会)の資料では、同じ年度の宅配事業の経常剰余率は3.65%。出前館の営業利益率と厳密に同じ指標ではありませんが、黒字です。
背景には、届ける費用そのものの重さがあります。国土交通省によると、日本の宅配便は2024年度で年間50億3,000万個と、2015年度から3割以上増えました。日本物流学会の論文の試算では、人口の少ない地域で荷物1個あたりの人件費と燃料代がおよそ180円から300円。国土交通省の検討会では、トラックで往復1時間かかる配送は1件2,000円を超えるという事業者の声も出ています。「送料無料」と書いてあっても、この費用は消えません。商品の値段か、お店の利益か、会員費のどこかに隠れているだけです。
生協は1回止まって1週間分、料理宅配は1食
では、同じように届ける費用がかかるなかで、なぜ生協は黒字なのか。生協は1回止まって、1週間分の食品を何十品も渡します。料理の宅配は1回止まって1食か2食分。同じ「家まで届ける」仕事でも、1回の停車で動くお金がまるで違います。
この考え方は、生協の料金表にも組み込まれています。コープデリの東京(コープみらい)では、個人で利用する場合の宅配手数料は通常1回198円ですが、3人以上のグループで指定の1か所にまとめて届けてもらうと無料になります(1回の注文額が一定以上でも無料)。1か所に止まって3世帯分を渡せるなら、その分を値引きする。止まる回数をまとめる仕組みです。黒字と赤字を分ける理由はひとつではありませんが、「一回止まって、いくら売れるか」が、大きな分かれ目になっています。
高島屋は店頭売上の4分の1が外商、セブン-イレブンは移動販売車145台
この見方で並べると、動くお店の顔ぶれが見えやすくなります。高島屋の決算説明資料では、国内百貨店の店頭売上高の26%(2025年度)を外商のお客さんが占めています。担当者が家や会社まで商品を持って行く、お得意さま向けのサービスです(店内での購入も含む割合)。衣料品のしまむらは、介護施設や障害者施設への出張販売を、2024年度の127件から2025年度には281件へ2.2倍に増やしました。
セブン-イレブンは2011年から店の商品を積んだ移動販売車を走らせ、2025年2月末で145台です。阪急阪神百貨店の「走るデパ地下」は、和洋菓子を積んだ車でマンションやオフィスの前に出店し、2026年3月時点で出店した場所は約1,000か所。関西では、お客さんが会計時に距離に応じて1人220円から550円の出張料を払います。軽トラックにスーパーの商品を積んで家の前まで来る移動スーパー「とくし丸」は、お店まで遠くて車が使えない高齢者を主なお客さんに全国で1,200台を超えて走り、お客さんは店頭の値段に1品10円か20円を上乗せして払います。
来てもらう費用は、とくし丸の1品10円のように商品の値段に溶け込むか、走るデパ地下のように出張料として別に払うか、会社や主催者がまとめて払うかのどれかです。どの型でも、移動の費用は誰かの財布から確実に出ています。
訪問診療は、同じ建物なら8,900円が2,150円になる
専門家が家に来るサービスでは、この考え方が国の制度になっています。医療の値段を決める診療報酬の点数表では、お医者さんの訪問診療料は、患者さん1人につき890点、つまり8,900円。ところが、同じ医療機関が同じ日に同じ建物に住む別の患者さんも訪ねる場合は215点、2,150円まで下がります。医療費全体ではなく訪問診療料という一項目の話ですが、同じ建物で複数の患者さんを診る場合に点数を低く設定する仕組みです。
厚生労働省の介護事業経営概況調査では、訪問1回あたりの平均収入は訪問看護で8,248円、訪問介護で3,855円、収支差率はそれぞれ10.3%と9.6%です。訪問入浴は1回平均1万5,017円ですが、移動時間が5分から15分の事業所の収支差率が8.3%あるのに対し、45分から60分かかる事業所はマイナス0.8%でした。移動時間だけが差の原因とは言い切れないものの、止まるまでの移動が長いほど利益が薄くなる様子が、訪問入浴の数字には出ています。
誰も数えていない移動
移動の費用は、消えたわけではありません。誰かの財布に移ったか、誰も数えていないところへ移ったかのどちらかです。国土交通省の資料では、大手宅配会社で宅配便の業務にあたる正社員は2019年度の12万4,000人から2023年度には11万6,000人へ7%減り、配達総個数をこの正社員数で割った1人あたりの月間個数は2,049個から2,633個へおよそ3割増えました(委託の配達員は人数に含みません)。東京商工リサーチの調べでは、訪問介護事業者の倒産は2024年の81件から2025年には91件に増え、休廃業・解散は2025年に465件ありました。国土交通省の試算では、再配達のためだけに走るトラックが出す二酸化炭素は、2020年度で年間およそ25万トンです。家から出ない暮らしは、誰かが代わりに動くことで成り立っています。
動くのは、お店か、人か
売り手がお客さんのもとへ通う商いは、新しいものではありません。江戸の棒手振りから戦後の生協の共同購入まで、途切れたことがない商売の形です。むしろ、車で遠くの大きなお店へ買いに行く暮らしのほうが、乗用車の保有台数が1970年の878万台から1990年の3,492万台へ4倍になった、ここ50年ほどの新しい形でした。
いま、お店が人のところへ行く時代が、形を変えて戻ってきています。昔の行商と違うのは、移動そのものが産業になり、その費用が1件あたり、1回あたりの数字で見えるようになったことです。その値段を決めているのは、動く人の専門性でも商品の値段でもなく、「一回止まって、いくら売れるか」なのだと思います。
<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuberのリサーチャーであるコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2026年9月15日配信『休日に外出しない人が4割:なぜ「環境を変える」とうまくいくのか?』から抜粋してまとめたものです。
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