
スーパーやドラッグストアのペットフード売り場で、値段を二度見したことはないでしょうか。療法食やプレミアムフードが並ぶ棚は、人間の食品売り場と見比べても安くありません。一方、日本では、犬はこの12年でおよそ190万頭が減っています。犬が減り、猫も大きくは増えていないのに、ペットに使われるお金は増え続けている。この「減っているのに、増えている」のからくりについて、リサーチャーのcomugiが解説します。
(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2026年9月8日配信『ペットとロボットの愛着ビジネス:新しい家族のつくりかた』より)
犬は12年で190万頭減、それでも市場は1兆9,500億円
ペットフード協会の2025年の調査によると、日本で飼われている犬は推計で682万頭。協会が公表している推計値で比べると、2013年からの12年でおよそ190万頭減りました。犬を飼っている世帯も、同じ期間に3割ほど減っています。猫は頭数こそわずかに増えていますが、飼っている世帯の数はほぼ横ばいです。
それなのに、矢野経済研究所が2026年9月に発表した推計では、2025年度のペット関連の市場規模は1兆9,504億円と、前の年度より2.1%増える見込みです。なぜこんなことが起きるのでしょうか。答えを先に言えば、頭数が増えないぶん、1頭あたりに使われるお金が増えているからです。矢野経済研究所も、市場が伸びている理由として、ペットの家族化を背景にした1頭あたりの支出の増加を挙げています。
フードの出荷単価は、11年で2倍に
いちばんわかりやすいのが、ごはんです。ペットフード協会の出荷統計で、犬用と猫用を合わせたフードの2013年と2024年を比べると、出荷量は重さで12%減りました。ところが出荷額は74%増えています。出荷額を重さで割った平均の出荷単価は、1キログラムあたり411円から817円へ。出荷される量が減る一方で、重さあたりの単価はおよそ2倍になったわけです。値上げに加えて、高い商品が選ばれるようになった変化も含む数字です。
背景にあるのは、ごはんの高級化です。原材料にこだわったプレミアムフード、年齢に合わせたシニア用のフード、病気の子のための療法食。僕の家にも保護猫として迎えたおばあちゃん猫がいて、腎臓が悪いので療法食を与えています。気づけば、猫のごはんのほうが僕の朝ごはんより高くなっていました。ペットの食事の質にお金を払う飼い主が増えたのです。
おやつも同じで、ペットフード協会の調査では、犬を1頭飼っていて市販のおやつを買っている人の月の支出は、2025年に平均1,810円と、2021年から15%ほど増えました。森永製菓は2026年3月、看板菓子の名前をつけた「ミニムーンライトwithドッグ」など、人と愛犬が一緒に食べられるおやつ7品を発売しています。会社の発表では、参考小売価格は税込で356円から540円です。
もちろん、物価上昇も混ざっています。アイペット損害保険が2025年に発表した調査では、飼い主のおよそ4割が前の年より支出が増えたと答え、その半数ほどが値上げを理由に挙げました。高いものを選ぶ動きと、値上げの動き。この2つが重なって、1頭あたりのお金は増えていきます。
犬1頭の一生に、278万円
もうひとつ大事なのが、寿命です。ペットフード協会の調査では、2013年からの12年で犬の平均寿命はおよそ0.6歳、猫はおよそ0.9歳延びました。医療や食事の変化が背景にあると、僕は見ています。家族として過ごす年月が延びれば、そのぶん、ごはんも医療も積み重なっていきます。
同じ調査には、年齢ごとの平均支出を平均寿命まで積み上げた、犬1頭の生涯に必要な経費の推計があります。その額はおよそ278万円。ちょっとした車が1台買える金額です。フード、動物病院、ペットの飼える住まいといった、動物と家族として暮らし続けることを支える商品やサービスを、僕は「愛情のインフラ」と呼んでいます。この支える側のビジネスに、犬1頭の一生で、車1台ぶんのお金が向かうということです。
売上は6年連続で増えても、利益は半分に
ただし、ペットのビジネスがみんな儲かっているわけではありません。東京商工リサーチが2026年8月に発表した調査によると、ペットやペット用品を売る小売業98社の2025年度の売上高の合計は、6期連続で増えていました。ところが利益の合計は前の年度から54%減って19億円。売上は増えているのに、利益は半分になったのです。
同じ調査によると、ペットフードは出荷量の4割強が輸入品で、円安と原材料の高騰が直撃し、値上げでは追いつきません。2025年の倒産と休廃業・解散は合わせて64件と、統計を取り始めた2013年以降でいちばん多くなりました。市場全体は伸びているのに、モノを売るお店の利益は半分になり、倒産と休廃業・解散は過去最多。この差はどこから来るのでしょうか。
食事に加えて、住まいや看取りのサービスも充実
僕の見立てでは、お金を使う場面が広がっているのです。フードやグッズのような「モノ」に加えて、家族としてのペットに寄り添う「サービス」のほうへ。
たとえば医療です。ペットには公的な医療保険がなく、費用は原則として飼い主が負担します。それでも、CTやMRIのような検査や手術を選ぶことができます。だから、毎月保険料を払って備える民間のペット保険まで広がっています。
住まいもそうです。旭化成ホームズは、ペット「可」ではなくペット「共生」型と呼ぶ賃貸住宅を手がけていて、2026年4月、管理戸数が2万戸に達したと発表しました。猫が室内を立体的に動き回れる「ねこ道」などを備え、入居前には専門のスタッフがペットのしつけの状況や飼い主のマナーを確認する審査まであります。不動産情報サイト「LIFULL HOME'S」を運営するLIFULLの2025年の調査では、ペット可の賃貸物件はサイトに載っている物件の2割に届かない一方で、ペット可物件のほうがサイトに載っている日数は平均で16.6日短かったそうです。
そして、お別れのあとまでサービスは続きます。業務用冷蔵庫メーカーのたつみ工業は、亡くなったペットをお別れの日まで適切な温度で安置できる専用の冷蔵庫「おくりこ pet」を2024年に発表し、ペットの斎場に納めています。写真1枚からペットの姿を立体にするDMMの「ちょこんとフィギュア」(税込2,980円から)は、2026年8月、累計の制作数が1万体を超えたと発表されました。公式サイトは、ニーズのひとつに「虹の橋を渡った子に」を挙げています。お金を使う場面は、冒頭のフード売り場の棚の上だけではないのです。家族の一生に寄り添う産業が、誕生から看取りのあとまで、切れ目なくつながっています。
飼えるかどうかにも、家計の差が出てきた
ここで、少し立ち止まりたい数字があります。ペットフード協会の調査で、回答者を世帯の年収別に分けて犬を飼っている人の割合を見ると、年収1,500万円以上ではおよそ20%なのに対して、300万円未満では6%ほど。3倍以上の差があります。年収だけが理由とは言えませんが、家族として迎え、医療も食事もきちんとしようとするとお金がかかる以上、飼えるかどうかに家計の差が表れやすいのは確かだと思います。
同じ調査で、いま犬を飼っておらず、これから飼いたいと思っている人に理由を聞くと、いちばん多いのは「世話をするのにお金がかかるから」で27%。「別れがつらいから」26%、「集合住宅で禁止されているから」26%とほぼ並びます。「旅行など長期の外出がしづらい」と続いたあとに、「死ぬとかわいそうだから」20%、「最後まで世話をする自信がないから」15%が来ます。飼いたい気持ちはあっても、費用と住まい、そして別れへの不安を抱えています。家族として迎えるからこそ、迎える前に立ち止まる人がいるわけです。ペット市場は、飼える人により深く寄り添って伸びる市場に変わってきています。
頭数ではなく、思い入れにお金がつく
犬が減っているのにペット市場は伸びている、という謎の答えは、1頭あたりの支出でした。物価上昇に加えて、家族だから、いいごはんを選ぶ。家族だから、医療を諦めない。家族だから、きちんと見送る。ペットビジネスの正体は、頭数で伸びるビジネスではなく、1頭への思い入れがお金になるビジネス、いわば「愛着ビジネス」です。
僕の猫のごはんが朝ごはんより高いのも、その仕組みの中で起きていることでした。資本主義が値段をつけているのは、犬や猫の頭数ではありません。家族として迎えた1頭への、私たち自身の思い入れなのだと思います。
<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuberのリサーチャーであるコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2026年9月8日配信『ペットとロボットの愛着ビジネス:新しい家族のつくりかた』から抜粋してまとめたものです。
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