
またしても、アメリカのベッセント財務長官による『サプライズ』でした。アメリカ財務省による、長期国債の買い入れ消却を倍増させることを、急遽、発表したのです。先の日米為替協調介入に続く、意表を突いた奇策に市場は驚き、長期金利はいったん急低下しました。『ベッセント・サプライズ』は、どこまで続くのでしょうか。
【写真を見る】為替協調介入に、米国債買い戻し。『ベッセント・サプライズ』はどこまで続く?【播摩卓士の経済コラム】
超長期の米国債買い入れ消却を倍増へ
アメリカ財務省は19日、残存期間が10年を超える超長期国債の買い入れ消却(バイバック)額を、9月から2倍に拡大する方針を発表しました。これまでの1回あたり最大20億ドルから40億ドルに拡大するもので、発行済みの超長期国債を市場から買い戻して直接、長期金利を押し下げることを狙った措置です。
前日の18日にアメリカの長期金利は、30年物が19年ぶりの高い水準にまで上昇しており、この発表を受けて19日には、長期金利は急低下、さながら『ベッセント・マジック』の再来となりました。
ベッセント氏の危機感
ベッセント氏が金融市場を知り尽くした人物であることは、疑いの余地がありません。かつて著名投資家ジョージ・ソロス氏のヘッジファンドで中核メンバーとして、英ポンド危機やアベノミクス初期の円安相場で、大成功を収めたことで知られています。
そのベッセント氏が、アメリカだけでなく、日本やドイツの長期金利までもが急騰したこのタイミングで、国債市場への介入策に打って出たことは、世界的な長期金利上昇への危機感がいかに強いかを、伝える意図があったからでしょう。
今回の行動を見れば、7月末にアメリカが日本と共に、異例の「円買い協調介入」に踏み切った最大の理由が、世界的な長期金利上昇を抑えるためであったことが、一層鮮明になります。金融引き締めの遅れと財政拡張懸念から、円安と日本の長期金利上昇が同時進行していくことを、ベッセント氏は、アメリカを含めた世界経済のリスクと明確に認識しているのです。
サプライズ効果は限定的
もっとも、市場関係者の間では今回の『サプライズ』の効果は限定的だと見る向きが多いようです。買い戻し額は米国債の流通額に比べて極めて小さい上に、超長期国債を買い戻すために、短期国債(Tビル)を発行するのですから、借金が減るわけでもありません。そもそも、40兆ドルを超えるアメリカの政府債務総額は、イラン戦費や今後のインフレ対策もあって、ますます膨らんでいきそうだからです。
現に翌20日には、アメリカの長期金利は再び上昇に転じており、早くも『サプライズ』の効果は剥げ落ちつつあると、評する声も出ています。
世界的な長期金利上昇にどう向き合うか
しかし、アメリカを含めた世界経済の、今の最大の課題が、長期金利の上昇であることは間違いなく、ベッセント財務長官が、今後も『サプライズ』を含めた様々な手を打ってくることは、想像に難くありません。
アメリカ経済の再生と成長を、第一のミッションとする、トランプ政権の閣僚として、金利の高騰を黙認することなど、あり得ないことだからです。今後、繰り出してくる、第3、第4のサプライズには、対外的な「圧力」が含まれる可能性もあるかもしれません。
世界的な長期金利上昇の背景には、まず、コロナ禍以来、大きく膨らんだ各国の財政赤字があります。そこにウクライナ危機以来のインフレに、イラン戦争による原油高が加わっていて、各国の中央銀行のインフレ制御力にも、疑念の目が向けられています。最近のAI投資ブームによる強すぎる資金需要が、債券市場に大きな影響を与えていることもあります。
長期金利上昇には、「財政拡張」「地政学」「AI」といった、現在の世界経済のキーワードが埋め込まれており、『ベッセント劇場』の舞台はいくつあってもおかしくありません。
日米為替協調介入の「条件」とは?
先に述べたように、アメリカは7月末に為替市場での日米協調介入に踏み切りました。日米協調介入は、2011年の東日本大震災直後以来、15年ぶりのこと。この時は、円高を止めるための「円売り介入」でした。今回のような「円買い介入」は、アジア危機、金融危機に揺れた1998年以来、28年ぶりのことでした。アメリカが協調介入に応じるのは、世界的な危機や災害などの限定される、極めて異例なことなのです。
トランプ大統領は「友人である日本を助けた」と述べましたが、友情だけで協調介入に応じるわけがありません。密約とまではいかなくても、日本に「やるべきこと」は伝えているはずです。
金融引き締めと財政懸念払拭にどう取り組むか
金融市場で、日銀の9月利上げや、場合によっては年内2回の利上げを予想する向きまで出てきていることは、こうした見方の反映です。
財政政策についても、食料品の消費税減税は、その方針を閣議決定までしたので、政治的には前に進むしかないのでしょうが、今後、具体的な制度設計と法案作りを進める中で、財政悪化懸念をいかに最小化できるか、まだまだ波乱含みの展開になりそうです。
財政、金融政策をめぐる調整は、これまでの政府、与党、日銀だけでなく、協調介入に応じてくれたアメリカへの配慮、いわば『ベッセントカード』の役割が一段と大きくなってきそうです。
マクロ経済政策運営まで、アメリカの財務長官に指南されるのだとしたら、なんとも情けない話です。
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