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“単独介入の限界”ーー28年ぶり「日米協調介入」電撃作戦の舞台裏 アメリカを動かしたワケ…背景にあった“思惑”とは

経済
2026-08-14 06:00

「かなりの驚きをもって受け止められた」7月30日の夜から始まった一連の円買いの為替介入について、大手証券会社のストラテジストは市場の動揺をこう振り返る。


【写真で見る】7月30日~8月3日のドル円相場の推移


政府・日銀は金融政策決定会合の1日目の夜という、まさに市場参加者の警戒が緩む「サプライズ」での為替介入に踏み切った。一時は1ドル164円目前だった円相場はこの介入で157円台まで円高方向に進んだ。


4月末から5月にかけて実施された11.7兆円規模の介入では、財務省の三村淳財務官から市場に対する「退避勧告」があったが、今回は一切の予告を排除した実弾投入となった。


だが、本当のサプライズはその翌日に用意されていた。


翌日31日の深夜から8月1日未明にかけて、今度は日本政府とアメリカ政府が協調して、円買いの為替介入に踏み切った。日米が円安を食い止めるために円買いの協調介入を行うのは1998年6月以来、実に28年ぶりだ。円相場は一時155円台まで上昇した。


予兆はあった。前日にアメリカ側でも為替介入の準備段階にあたる「レートチェック」を行っていたのだ。


週明けの8月3日、片山さつき財務大臣は日米協調介入を実施したことを正式に発表し「今後もさらなる協調介入を実施することも躊躇しない」と強調、三村財務官も「日米通貨同盟の完成形」だと意義をアピールした。


アメリカの思惑と「金利波及リスク」

自国通貨安につながる介入は、アメリカ国内の輸入物価を押し上げるリスクがあるため、アメリカは普通、慎重な姿勢をとる。そのアメリカを協調介入に動かした背景にはワケがある。


第一に、トランプ大統領の関税・貿易政策上の思惑だ。


トランプ政権は過度な「ドル高」が輸出競争力を削ぎ、貿易赤字を拡大させる要因として問題視している。トランプ氏自身も今回の介入について「友情の証」であり、「米国も経済的な利益を得る」と説明していて「円高・ドル安」への誘導は政権の経済戦略に整合するものとみられる。


去年9月の日米財務大臣共同声明には「介入は過度な変動を伴う、又は無秩序な減価・増価への対応として等しく適切と考えられるとの想定の下、為替レートの過度の変動や無秩序な動きに対処するためのものに留保されるべきことで一致した」との一文が入っている。


過度な円高の場合だけでなく、過度な円安の場合でも介入は行われるということを明示したもので、これはアメリカ側の意向だと政府関係者は明かす。トランプ大統領が「円高・ドル安」を指向していることが伺える。


アメリカが協調介入に踏み切った第二の理由が「日本発・金利上昇ショック」への警戒だ。


日本では円安や原油高で物価上昇圧力が高まるほか、財政拡張リスクで、長期金利は2%台後半まで上昇している。
諸外国と比べて依然として低水準とはいえ、世界的な利回り体系の「アンカー(錨)」として機能してきた日本の長期金利が跳ね上がったことで、アメリカの長期金利にも上昇圧力が波及した。


長期金利が上がると、住宅ローンの負担が膨らみ、国民に不満がたまるほか、企業の資金調達コストが増加し、経済にとって悪影響となる。


アメリカのベッセント財務長官は、日本発の金利上昇がアメリカに飛び火し、アメリカの景気に悪影響を与えることを強く警戒。金融市場の連鎖的動揺を防ぐため、協調介入による円安抑制・金利鎮静化という「防波堤」の構築に応じたと言える。


今年1月の「消費税減税ショック」から始まった水面下のやりとり

ベッセント財務長官が検討を始めたのは今年1月、ちょうど高市総理が解散総選挙に打って出たタイミングと重なる。高市総理が公約に掲げた食料品の消費税減税をめぐり、市場では「代替財源なき財政悪化」に動揺が生じた。財政悪化懸念から日本で長期金利が上昇、それがアメリカにも波及し、長期金利が急上昇した。


この時、ベッセント財務長官は片山さつき財務大臣に強い懸念を伝達し、対応を求めたと政府関係者は明かす。


その後、本格的に日米協調介入に向けて両国政府が検討を始めたのは、5月中旬にベッセント財務長官が来日したタイミングだ。


政府・日銀は4月30日から5月6日にかけて、単独で断続的な円買いドル売りの為替介入を行ったが、その効果は長続きしなかった。単独介入の限界を認識した日米両政府は、足並みをそろえた協調介入に向けて、具体的な手順などの協議を本格化させていった。


7月末の介入のタイミングについては、2年前の事例が参考になった。


2024年7月も投機筋の円安圧力が強まったが、為替介入やその後の日銀の利上げなどで急速に円高にトレンドが変わった。


8月は欧米の投機筋が夏季休暇に入るため、7月末は投機筋が手仕舞いするタイミングだと政府関係者は見ていた。


さらに、7月の最終週は日米の中央銀行がともに当面の金融政策を決める会合を開くタイミングでもあった。


政府関係者は「円安から円高にトレンドが変わるタイミングで追い打ちをかけるような為替介入が一番効果がある」と話していて、7月末に照準を合わせたとみられる。


協調介入の効果残るも、最大の焦点は秋の日銀の利上げ

28年ぶりの電撃的な協調介入は、投機筋による一方的な円売りポジションの積み増しを抑制し、市場に強い警戒感を植え付けることには成功した。


しかし、大手証券会社のストラテジストは「時間稼ぎであることは否定できない」と言い切り、協調介入でも根本的な円安を止めることは難しいと指摘する。


為替相場の根底には、依然として大幅な日米金利差が存在するからだ。


日銀が明確な追加利上げ路線を示さない限り、金利差に着目した構造的な「円売り・ドル買い」圧力を完全に消し去ることは難しい。


ベッセント財務長官は「為替介入によって市場にシグナルを送ることはできるが、結局、相場の決め手となるのは政策とファンダメンタルズだ」とした上で「過度な円安を是正するための日本の金融面での措置を強く支持する」と、日銀の利上げに期待感を示した。


早くも市場では、秋の日銀利上げが急速に織り込まれつつある。


「アメリカにもマーケットにも外堀を埋められれば、高市総理も日銀の利上げに反対はできないだろう」財務省幹部はこう分析する。
高市総理が日銀の利上げに反対すれば、円安が加速するどころか、協調介入に踏みきったアメリカ側に泥を塗ることになりかねないからだ。


食料品の消費税減税の実施や成長投資、防衛費増額など財政悪化の要因が山積していて、円安・金利上昇圧力は今後もくすぶり続ける。


1998年の協調介入時も、一時は急激な円高に振れたものの、その後は再び円安に押し戻された歴史がある。


最後の切り札である「協調介入」の効果が続くうちに、日本は財政政策や金融政策を柔軟に変更し、相場の潮目を変えられるのか。


9月の日銀の金融政策決定会合で、植田総裁がどのような判断を下すのかが当面の焦点だ。


TBS報道局経済部 蓮井啓介


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