
長らく低迷を続け、厳しい評価を受けていた半導体の巨人・インテルの株価が、2026年4月以降に急騰しています。その背景にあるのは、これまで「GPU」の影に隠れていた「CPU」への再評価でした。AIブームの「第2波」とも言えるこの変化の正体は、複雑なタスクをこなす「AIエージェント」の普及にあります。なぜ今、再びインテルの技術が必要とされているのか。そして、NVIDIA(エヌビディア)一強と言われる半導体市場にどのような地殻変動が起きているのか。NewsPicks編集部記者の岡ゆづはさんとインテル復活の兆しと、AIインフラの最前線に迫ります。
東京ビジネスハブ
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。今回は2026年6月7日の配信「オワコンのインテルが復活か。今、『CPU』がアツい理由(岡ゆづは)」 を抜粋してお届けします。
インテル株価急騰の背景と市場の驚き
野村:本日のビジネストピックは「インテルが復活か? 今CPUが注目されている理由」です。岡さんに言われてインテルの株価を確認しましたが、確かに驚くべき推移ですね。
岡:そうなんです。4月頃から急激に上昇しており、過去5年の推移で見ても非常に目立つ動きをしています。
野村:グラフを見ると、短期間で約2倍に達する勢いですね。これほど急激に評価が変わった背景には、何があるのでしょうか。
岡:一言で申し上げますと、インテルが得意とする「CPU」という半導体チップが、これからのAIにおいて非常に重要になるという期待感です。AIエージェントの普及に伴う需要の急増を予測して、株価が先行して上がっている状態と言えます。
野村:これまでは「AIといえばNVIDIA」という印象が強かったですが、主役が変わりつつあるということでしょうか。
岡:主役が交代するというよりは、「必要とされるプレイヤーが増えた」という方が正確かもしれません。なぜ今、改めてCPUが重要視され始めているのか、その構造を詳しく解説していきます。
AIにおける「学習」と「推論」の違いと計算手法
野村:AI半導体の領域ではNVIDIAが莫大な利益を上げていますが、インテルのCPUとNVIDIAのGPUでは、役割がどう違うのでしょうか。
岡:それを理解するためには、AIのプロセスを「学習」と「推論」の2段階に分けて考える必要があります。まず「学習」とは、モデルを賢くするプロセスです。ChatGPTの背後にあるGPT-3のような大規模なモデルに、膨大なデータを読み込ませて予測精度を上げる段階を指します。一方の「推論」とは、ユーザーが質問したことに対して回答を生成するなど、AIが実際に要求に応えるプロセスです。
野村:これまでのAIブームは「学習」がメインだった、ということですか。
岡:その通りです。ChatGPTが登場した当初は、いかにモデルを賢くして世に出すかという「学習」のニーズが圧倒的でした。そのため、AIデータセンターは学習のために構築され、そこではGPUが主役を務めていました。
野村:なぜ学習にはGPUが適しているのでしょうか。
岡:これはCPUとGPUの計算手法の違いに起因しています。CPUはパソコンやスマートフォンの「頭脳」として知られていますが、特徴は「逐次処理」です。例えるなら、100マス計算を左から順番に1マスずつ解いていく方式です。対してGPUは、もともとゲームのグラフィックス用途などで発展してきました。複雑な計算は苦手ですが、単純な計算を一度に大量に行う「並列処理」を得意としています。
野村:処理の進め方が根本的に違うのですね。
岡:わかりやすく例えるなら、「1人の数学者(CPU)」と「1万人の小学生(GPU)」の違いです。100マス計算を10億題解くような膨大な作業が必要な場合、高度な数学知識は不要です。単純作業を馬力でこなせる1万人の小学生(GPU)の方が、圧倒的に早く処理できます。学習プロセスは膨大な掛け算と足し算の繰り返しであるため、これまではGPUに注文が殺到していたのです。
「AIエージェント」の登場が変える半導体の主導権
野村:しかし、現在はそのフェーズが変わりつつあると。
岡:はい。フェーズが「推論」へと移行し、さらにその内容が進化してきたことで、再びCPUが必要とされる場面が増えています。初期のChatGPTのような一問一答形式であれば、主な処理は計算であるため、まだGPUでも対応可能でした。しかし、現在キーワードとなっている「AIエージェント」の段階になると状況が変わります。
野村:AIエージェントになると、具体的に何がそれほど違うのでしょうか。
岡:AIエージェントはタスクが複雑化するため、単に計算するだけでなく、「どのようにタスクをこなすか計画を立てる」「段取りを決める」「リソースを適切に分配する」といった、いわゆる「オーケストレーション」という役割が必要になります。
野村:全体の司令塔のような役割ですね。
岡:そうです。例えばカスタマーサポートのAIエージェントを想定してみましょう。ユーザーから「注文した商品が届かない」と問い合わせがあった際、AIは単に言葉を返すだけでなく、社内データベースで注文状況を確認し、配送業者のAPIを叩いて現在地を把握し、さらに返品ポリシーを確認するといった、複数のツールを呼び出して実行しなければなりません。こうした「お膳立て」や「段取り」の指示は、逐次処理を得意とするCPUの独壇場なのです。
野村:なるほど。AIが「考える」だけでなく「行動」するようになると、数学者(CPU)の知恵が必要になるわけですね。
岡:推論の中でも「一問一答型」から「AIエージェント型」への進化が、大きな転換点となりました。司令塔が必要とされる時代になったからこそ、CPUの王者であるインテルが再び注目されているのです。
インテルの強みと競合他社との激しいシェア争い
野村:インテルは、これからの時代に必要なCPUを十分に供給できる立場にあるのでしょうか。
岡:インテルは長年CPUの王者として君臨しており、データセンター向けCPUでは現在も約6割という高い市場シェアを持っています。かつては7~8割を占めていた時期もあり、CPUが必要とされる場面では、必然的にインテルの名前が真っ先に挙がります。
野村:盤石な体制に見えますが、競合の動きはどうですか。
岡:非常に激しいです。ライバルのAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)は近年シェアを20%程度まで伸ばしており、インテルの牙城を崩しつつあります。また、英国のARM(アーム)も、設計ライセンスの提供だけでなく自社での製造参入を視野に入れています。さらにNVIDIAまでもが、重要性を見てCPUの単体販売を開始しており、まさに市場は激戦区となっています。
野村:市場は期待で盛り上がっていますが、実際の需要比率はどう変化しているのでしょうか。
岡:これまではAIデータセンターにおけるCPUとGPUの比率は、金額ベースで1対8程度と言われていました。しかし、現在は1対4程度まで近づいており、将来的には1対1、あるいはそれ以上にCPUの比率が高まると予測されています。この市場成長のスピード感に、投資家たちが色めき立っているのです。
数字に現れ始めた復活の兆しと「意外な需要」
野村:期待が先行しているとのことですが、業績への反映はこれからでしょうか。
岡:インテルの業績を見ると、過去2~3年のAIブームには完全に取り残されていました。NVIDIAのデータセンター向け売上が数倍に跳ね上がっていた2023年、インテルの同部門の成長率はわずか5%にとどまっていました。
野村:それはかなり厳しい数字ですね。
岡:ところが、直近の2026年第1四半期では、AI・データセンター向け売上が22%増加しました。ようやく本格的な伸びが数字として現れ始めた状況です。
野村:5%から20%超への変化は劇的ですね。
岡:ただし、インテル独自の圧倒的な強みかというと、冷静に見る必要があります。面白いエピソードとして、インテルのCFO(最高財務責任者)が「売れないと思っていた旧世代の在庫も、顧客と協力して使い道を見つけた」と語っていました。つまり、最新スペックでなくとも、供給が追いつかないほど市場全体でCPUが不足している状況なのです。
野村:なるほど。インテルの技術が突出しているというより、波が来ているということですね。
岡:そうです。今後、AMDやARM、NVIDIAがさらに優れたCPUを投入してきた際に、インテルがこの「第2の波」を維持できるかが正念場となります。スマートフォンやAIの第1波を逃したインテルにとって、ここは負けられない戦いです。
唯一無二の武器「自社ファブ」と地政学的リスク
野村:インテルが競合に対して持っている、他にはない強みは何でしょうか。
岡:最大の強みは「自社ファブ(製造工場)」を持っている点です。現在、最先端の半導体製造は台湾のTSMCが世界をリードしていますが、多くのグローバル企業が「TSMC一極集中」に不安を感じています。地政学的なリスクがある中で、米国内に製造拠点を持ち、自社で生産を完結できるインテルの体制は、経営が厳しくとも大きな差別化要因になります。
野村:自国で完結できるというのは、大きな安心材料ですね。
岡:この「製造機能」をどう活かせるかが、インテル復活の真の鍵となるでしょう。
野村:AIインフラへの投資は、CPU以外にも広がっているのでしょうか。
岡:もちろんです。要因のひとつは、好調なのがGPUだけに留まらなくなったことです。これまではGPUが最大のボトルネックでしたが、現在はCPU、そして「メモリ」など、AIインフラを構成するあらゆる要素が必要とされています。
野村:メモリ業界も活気づいているのですか。
岡:非常に好調です。サムスン電子、SK hynix Inc.、Micron Technology Inc.の「メモリ御三家」に加え、日本のキオクシアホールディングスも時価総額でトップクラスに食い込むほど株価が上昇しています。
野村:キオクシアホールディングスまで。かつての勢いを失ったといわれていた老舗メーカーまでが、軒並み復活しているのですね。
岡:計算需要が増えれば増えるほど、メモリ、CPU、ネットワーク機器と、次々に新たなボトルネックが顕在化します。その都度、関連各社の業績と株価が押し上げられている、というのが現在の市場の構図です。
半導体スーパーサイクルと今後の展望
野村:AIの需要はまだ続くと見ていいのでしょうか。「半導体バブルではないか」という声もありますが。
岡:AIの計算需要が衰える気配はないため、インフラ投資は今後も続くと思われます。通常、半導体業界は4年周期で好不況を繰り返しますが、現在は「スーパーサイクル」と呼ばれ、2027~28年頃までこの需要が続くと見られています。
ただし、電力不足やデータセンター用の土地確保といった物理的な制約も出てくるでしょう。しかし、需給が逼迫する状況は当面継続すると考えられます。
野村:地政学的リスクがある中でも、半導体銘柄の勢いは際立っていますね。ビジネスの進展とともにボトルネックが各所に波及し、インテルのような企業が再評価されるのは非常に興味深いですね。
<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。
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