
食品メーカーとして知られる『味の素』が、シェア95%を誇る半導体の材料や再生医療など食品以外の事業にも力を入れている。“アミノ酸”を活用した新たな成長戦略とは?
【写真を見る】『味の素』が“アミノ酸”で半導体・再生医療・牛の飼料に進出する成長戦略とは?
半導体用の絶縁材でシェア95%
6日に行われた『味の素』の新製品説明会で注目を集めたのは、ひき肉に混ぜ、こねて焼くだけで専門店のような味のハンバーグを作ることができるという商品だ。
製品担当者:
「“アミノ酸”がひき肉の中のタンパク質に作用して、タンパク質の中に油が行き渡るようにすることでジューシー感と肉粒感を引き出している」
アミノ酸の活用は食品だけではない。味の素は“世界のハイテク産業にとって不可欠な素材”も生み出している。
それが、「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」だ。
半導体の基板に使われる電気を通さない「絶縁材料」で、うま味調味料の「味の素」の製造過程で生まれる副産物を活用して開発。
耐久性や加工性など高い機能を持つ「フィルム状」の絶縁材を世界で初めて生み出し、“世界シェア95%”を誇っている。
受け継がれる“開拓者精神”
技術畑出身の中村茂雄社長(58)は、ABFの開発者の一人だ。
『味の素』中村茂雄社長:
「1人からスタートしてプロトタイプ(試作品)を1年という短期間で作った。そこからたくさんのメンバーも集まってくれて、わずか2年半で大手半導体メーカーの承認が得られ、1999年から量産して今もずっと伸び続けている材料」
――中村社長の入社当時は、調味料や食の方が味の素のメインストリームだったと思うが
中村社長:
「私が入った頃はバブル絶頂期。いろんな会社が多角化をやってる時期で、会社も多角化に対する挑戦に非常に前向きだった。ただ、1996年になるとこの雰囲気が急に変わる。『こういうのはもうやめた方がいい』という指示が飛んだが、私が最初に入って“これをやろうと決めた上司が、このテーマを守ってくれた”」
――その上司がいなかったら、味の素は今、大黒柱の一つがなかったかもしれない
中村社長:
「そう思う。懐の広い方と、そういうのを許す文化がまだあったし、『やりたい人がいるのであればやらしてやれ』という、“会社の新しい価値の創造”や“開拓者精神”は、しっかり受け継がれている」
売上の伸び率は「2桁以上、年率で成長している」とのことで、ABF増産に向けた投資も始まっているという。
中村社長:
「供給能力の補強は適宜行っていて、2025年も新しい工場を群馬に建設して、10月から一番最新のABFを作る工場が立ち上がっている」
医療現場でもアミノ酸活用
味の素は、アミノ酸の研究などから生まれた素材や技術などを「アミノサイエンス」と呼び、高付加価値領域でも生かしている。
その1つが“再生医療”。
京都大学iPS細胞研究所との共同開発で誕生したのが、細胞の栄養分となる培地「StemFit(ステムフィット)」だ。
『味の素』アミノ酸部・原田英里シニアマネージャー:
「iPS細胞の培養は非常に難しくて安定しないという課題があったが、この培地を使うと、決まったプロセスに従えば、“誰でも同じようにiPS細胞をたくさん増やせる”。iPS細胞から様々な細胞が作れるので、そういった新しい再生医療が患者に少しでも早く届くようお手伝いをしていければと考えている」
“牛用サプリ”で温室効果ガス削減
アミノサイエンスでは、“地球環境を守る”取り組みも。
鹿児島県鹿屋市にある『森ファーム』では、鹿児島県を中心に約5000頭の黒毛和牛を飼育しているが、エサに混ぜて使っているのが「AjiPro-L(アジプロ・エル)」だ。
直径約2~3mmの粒状のサプリメントで、アミノ酸「リジン」を効率よく摂取できる効果があるという。
『森ファーム』森 義之代表取締役:
「最終的に肥育をして出荷するときに“重量が増えたり”、ロース芯の大きさやバラの厚みがすごく成長している。“今までよりも大きくなっている”」
「AjiPro-L」は、独自の造粒技術により栄養を効率的に吸収させるだけでなく、牛が“げっぷ”などで排出する温室効果ガスの“メタンガス削減”にも貢献しているという。
『味の素』CFS事業部・武内祥平グループ長:
「経営基盤を支えながら環境負荷の低減、持続可能な酪農業・畜産業へ進化していく。そういった手助けになれるのではと思っている」
牛を育てる森さんも、環境負荷軽減への期待を口にする。
『森ファーム』森 義之代表取締役:
「プライドを持って牛を飼っているが、それが一番環境汚染していると言われるのはすごく嫌な部分なので我々のところで食い止める。そういう機運を高めて自分たちの未来のことを考えることが必要なのではと本当に思っている」
メリハリ消費に「松竹梅」の価格設定
味の素では、アミノサイエンスの領域を広げ、2030年度に向けて「食品事業とバイオ&ファインケミカル事業の利益比率を1対1」にすることを目指しているという。
『味の素』中村茂雄社長:
「食品もアミノ酸を使ってうま味や栄養バランスにフォーカスした製品があり、それをさらに食品事業部は伸ばしていく。バイオ&ファインケミカルの方は電子材料もあるし、アミノ酸そのものを医薬用の原料や輸液に使ってもらうものと、さらに我々の独自の技術で医薬品の受託製造を行うCDMOというビジネスを行っている」
一方、インフレの影響が大きく出ているのが食品事業だ。
原料高・エネルギー高・輸送高の中、自助努力でコストダウンをしてきたが、どうしても賄いきれない分は「正当な値上げをさせてもらった」と中村社長。
しかし、冷凍餃子の値上げでは、「シェア10%を落とした」と話す。
中村社長:
「ちょっと驚きもあった。日本は辛抱我慢が美徳で、値段を上げるとニュースでも一斉に叩かれて(笑)。何かすごく悪いことをしているような雰囲気が漂うけど、本当に自助努力で何ともならないもので」
そんな中、消費者の“消費行動の変化”への対応が重要だという。
中村社長:
「最近言われているのは“メリハリ消費”。普段は節約していても必ず自分へのご褒美や『今日は』というケースが多い。我々としては“松竹梅”の戦略で、松=プレミアムのものは例えばCook Doの極。値段は高いが本格中華の味が家庭で楽しめると売れている」
――ただ、お値ごろ感がある商品もやはり必要
中村社長:
「おっしゃる通り。餃子の値上げは、レギュラー品の餃子にプレミアムの値段をつけてしまったことが失敗。レギュラーはしっかりレギュラーで、より節約志向に応えるようなものを提供していくというメリハリ消費に繋がるような“松竹梅”の価格設定のものを提供していきたい」
この先100年続くために必要なのは?
創業から116年。味の素が目指す企業の姿とはー
『味の素』中村茂雄社長:
「食だけではなくて我々パーパス(志)は、人・社会・地球のWell-being(健康・幸福)にアミノサイエンスで貢献すること。時代時代のWell-beingに貢献するためのものを、我々のユニークネス(独自性)を使って提供していきたい」
――味の素がこれから先100年も、人類地球のWell-beingに貢献する企業であり続けるために一番必要なことは?
中村社長:
「先代の社長ぐらいから“挑戦する”ということを掲げている。社会価値と経済価値を共創しながらしっかり自分と会社が成長していく。そういう人に集まってもらって、どんどん挑戦していってほしい。何年もかかるものの種をしっかり蒔いておく。種が芽を出してるものであれば、しっかり幹にしていく。大きな木はよりフルーツがなるようにと、“つないでいくことが、今自分の社長としての使命”だと思っている」
(BS-TBS『Bizスクエア』 2026年3月14日放送より)
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