老舗の日本料理店が焼きあげた“うなぎの蒲焼”です。味も形も蒲焼そのものなんですが、食べると食感はフワフワ。実はこの料理、食べ物がうまく飲み込めない人のために作られたご馳走なんです。
【写真で見る】揚げたものをペーストにして、まだ揚げる 誰もが食べられる「唐揚げ」
「摂食嚥下障害」でも楽しめる食事を
東京・中野区の「新渡戸文化学園」で開かれた料理のお披露目会のテーマは、「障害があっても食事を楽しむ」こと。
参加者
「(家族で)同じ形のものを食べられるという経験はなかなかできない。美味しいものが本人も食べられたかなと思います」
振る舞われたのは、和を基調としたフルコース。
食べ物が上手に飲み込めない「摂食嚥下障害」の人でも、そのまま簡単に食べられるよう様々な工夫がされています。
例えば、ころもが命の唐揚げは、一度出来上がったものをペーストにして、表面だけを揚げ直し。外はカリカリ、中はふわふわな仕上がりになっています。
また、ナポリタンも茹でたパスタをペーストにして、1本1本丁寧に絞って作ります。
これらの料理を合わせてできたのが「もぐもぐBOX」。子どもが大好きなおかずをギュッと詰め込んだお弁当です。
日本料理かんさい 猿橋央志 料理長
「お子さんたちの顔とか思い出すと、全然苦にならないというか。逆に作ってあげたいなという気持ちやっている」
「摂食嚥下障害」とは?
出水麻衣キャスター:
食べ物を上手に飲み込めない「摂食嚥下障害」の人は大勢います。
喉の奥は、「気管」と「食道」に分かれています。
気管の入口には「喉頭蓋」という蓋があるのですが、健常者が物を飲み込む際は、口から入ってきた食べ物が気管に入らないよう喉頭蓋が気管を蓋をして、食道に入るようになっています。
しかし、摂食嚥下障害の場合、喉頭蓋がうまく機能しなかったり、動きが鈍くなってしまったりして、気管に食べ物が入りやすいため食事に工夫が必要です。
こうした障害がある人のために作られたのが「もぐもぐBOX」で、エビフライや唐揚げなども入っているということです。
▼なめらかな食感、▼水分が分離しにくい、▼冷凍・解凍も可能だということです。
個体・液体で分離すると喉を通るタイミングに差が生じて、喉頭蓋がうまく機能せず、むせやすくなってしまうということです。
サバンナ 八木真澄さん:
これまでは、あまり気にしていなかったので、困っている方がいるということを初めて知りました。
見た目からおいしい食を 親心から誕生
「障害がある自分の子どもにも、食べる幸せを味わってほしい」というお母さんたちの思いからこのボックスは誕生しました。
高校1年生の永峰楓音さん(16)。産まれてすぐに脳の病気を発症し、食べ物を上手に飲み込めない「摂食嚥下障害」があります。
まだまだ育ち盛りの楓音さんは、家族と食べるご飯が大好きなんだそうです。
父 雄介さん(48)
「きょうはスタミナ焼です」
食欲がそそられるメニューに、楓音さん、思わず笑みがこぼれます。
こんがりと焼き上がったところで、楓音さんの分は食べやすくするために、もうひと手間加えペースト状に。
出水麻衣キャスター
「大人のものと比べると、色合いの面も。オレンジや緑が(なくなってしまう)」
母 玲子さん(47)
「自分もあまり味見したくないなと思うような。美味しく見えないというか。それを思いながらも、子どもには『美味しいね』と言いながら、やっぱあげるという。すごくなんかちょっと心が痛むような思いがありながらやっていた」
母・玲子さんの悩みは他にも。外出するときに持ち歩いている楓音さんの食事セット。食べやすくするためのミキサーに、いざというときのレトルトなどその数15個以上。
母 玲子さん(47)
「『きょう外食いこう』となったら、『ちょっと待ってね』みたいな感じで、すごく準備しないと。これも大丈夫、これも大丈夫、じゃあ行こうみたいな感じになるので、気合を入れないといけない」
見た目から美味しそうな食事を、もっと気軽に食べさせたい。そんな思いから、当事者のコミュニティを立ち上げたところ、賛同の声が集まり、今では約1700人もの会員がいるといいます。
もぐもぐBOXは、同じ悩みを抱える保護者たちの親心から誕生したお弁当なのです。
家族全員で「いただきます」 思い叶った食事の形
この日、もぐもぐBOXが、初めて食べる子どものもとへ。
門田いずみさん(8)は、同じく摂食嚥下障害がある小学2年生です。
普段、家族で食事をするときに、どうしてもできないことがありました。
父 利博さん(42)
「どっちかがミキサーかけて、その間に食べて、ミキサー終わったら食事の介助が始まる」
母 美寿穂さん(39)
「一緒にせーので『いただきます』はできない」
でも、この日の食卓は違いました。
お兄さん、お姉さんと初めて一緒のお弁当。いずみさんも興味津々です。そして、家族みんなで「いただきます」。
母 美寿穂さん(39)
「みんなで食べられるね」
いずみさんは、形が残った卵焼きにどこか緊張している様子。
父 利博さん(42)
「いけるかな、いくよ」
一口一口、味をかみしめる娘の姿に…
父 利博さん(42)
「不思議ですね。あり得ないことがあり得たみたいな」
母 美寿穂さん(39)
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、いずみと、全く同じお弁当を食べていて、生きていてくれてよかったな、元気で大きくなってくれてよかったなという気持ちでいっぱいになりました」
おせちや“りんご飴”も?会員同士で情報交換・料理開発まで
出水麻衣キャスター:
親心として、子どもに「少しでも美味しいものを、たくさん食べて欲しい」というのは、よくわかりますよね。
サバンナ 八木真澄さん:
親は、子どもが美味しそうに食べるのが一番嬉しいですからね。
出水麻衣キャスター:
もぐもぐBOXは本当に、たくさんの人の優しい気持ちでできています。
取材した楓音さんも、お弁当の話をすると声を上げて笑っていて、食べた時の美味しかった記憶を思い出したのかなと、私も胸が温かくなりました。
永峰さんが主宰している「mogmog engine」は、約1700人の会員がいて、▼相談・情報交換の「場所作り」、▼障害があっても食べられる「料理の開発」、▼サービス監修などを行っています。
外食が難しいということで、外食チェーンに具材を潰す際に便利な器具をアドバイスするなど、監修をしているということです。
サバンナ 八木真澄さん:
悩みを共有できるのは、すごく力強いと思います。
出水麻衣キャスター:
これからの季節にみんなで食べることもある「おせち」も登場しています。
▼やわらかおせち(日本料理かんさい 1万6200円)
あわびは、中身をペースト状にして、出汁でのばしたものをカラに詰めています。
手間暇かけて作られていて、どんな方でも美味しく食べられるおせちに仕上がっているということです。
▼とろける天使のりんごちゃん(ハシビロ香房 6個セット・3348円)
りんごの形をしたケーキは、りんご飴の味になっています。口の中に入れるとすぐに溶ける素材を使って、なめらかなだけではなく、ザラザラ感など様々な食感を感じられるものになっているそうです。
様々な食感を感じることで、舌の新しい動きなども少しずつできるようになっていくということです。
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<プロフィール>
サバンナ 八木真澄さん
お笑い芸人 2児の父
昨年に難関国家資格FP1級を取得
「ブラジルの人聞こえますか~!」など1000個以上のギャグを持つ
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