
中居正広氏と女性をめぐる問題で、フジテレビと親会社のフジ・メディアHDは3月27日に、40年以上取締役を務めてきた日枝久取締役相談役を含め、合計22人の取締役の退任を決めました。
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一方、第三者委員会は一連のフジテレビの対応に問題がなかったか調査を進めていて、3月31日に調査報告書が公表されます。
報告書を受けて、フジテレビは再び会見を開きますが、スポンサー離れが続くなか、信頼回復につながる説明や対応策を打ち出せるかが焦点です。
中居正広氏と女性のトラブル、フジCM差し替えは300社以上
一連の問題の発端となったのは、中居正広氏と女性をめぐるトラブルにフジテレビ社員が関与していたとする一部週刊誌による報道でした。
報道を受けて、フジテレビは1月17日に当時の港浩一社長が記者会見を開き、事態を説明しました。ただ、限られたメディアに会見を限定し、映像撮影も禁止にしたことなどが批判され、トヨタ自動車や日本生命など大手スポンサーの間でフジテレビでのCM放映を見合わせる動きが広がりました。
フジテレビによりますと、1月末時点でACジャパンのCMへの差し替えは311社にのぼったということで、2月の放送収入は9割減少、3月までの通期決算でフジテレビは最終赤字に落ち込む見通しです。
こうした状況を受け、フジテレビは1987年に始まった夏の大型特番「FNS27時間テレビ」について今年の放送を見送ることを決めています。
また、中居正広氏は1月23日に芸能活動を引退すると発表しました。
さらに、放送行政を所管する総務省は1月24日に、企業ガバナンスの問題では初めて、フジテレビに対して行政指導に踏み切りました。
10時間超の会見で露呈した“カバナンス機能不全” 事案を1年半経営陣で共有せず
スポンサー離れなどの事態を重く見たフジテレビは1月27日、当時の嘉納修治会長と港浩一社長が辞任。映像撮影に制限を設けず、オープンな形でやり直しの会見を行いました。10時間以上に及んだ会見で浮き彫りとなったのは、フジテレビのガバナンス=企業統治の深刻な欠陥です。
そもそもフジテレビは2023年6月、中居正広氏と女性のトラブルが発生した直後に事案を把握。7月には中居氏側からも会社に報告があったとし、8月には当時の港浩一社長が事態を認識していました。
しかし、フジテレビはその後も、中居氏が出演する番組「まつもtoなかい」を継続、2024年1月に松本人志氏が芸能活動を休止した後も、「だれかtoなかい」に番組名を変更し、放送を続けてきました。
この間、コンプライアンス部門のトップであったフジテレビの遠藤龍之介副会長(当時)に事態は共有されず、嘉納修治会長(当時)や親会社のフジ・メディアHDの金光修社長らが事態を認識したのは、2024年12月の週刊誌報道を受けてだったとしています。
会見で記者から、被害女性のプライベートな領域であることを盾に、情報隠蔽していたのではないかとただされると…
フジテレビ 港浩一社長(当時・1月27日)
「守りたいとか、隠したいとかいう気持ちはありませんでした。フジテレビの社員が関与しているのではないかという可能性を知ったのは去年の夏以降ですから、そういう要素が入る余地はありませんでした。そして、女性の心身の状態を最優先で考えなきゃいけないタイミング、時期というのも本当にありました。何が刺激になるのか分からない、そういう中で、番組の終了まで時間がかかってしまったということはとても反省しています。人権に関する意識が不足していたと思いますし、結果的に社内でガバナンスが効かなかったということも大変大きな問題だったと考えています」
また、港社長(当時)は会見で、中居氏に対して適切な検証を行わず、番組出演を継続してしまったことに加え、タレントや関係者との会食のあり方などについても検証できていなかったとし、陳謝しました。
一方、社内調査の結果、中居氏と女性のトラブルにフジテレビの社員は関与していないと判断したと説明しました。
中居氏と女性のトラブルをめぐって、週刊文春は2024年12月、トラブルが発生した会食に女性を誘ったのはフジテレビ社員だとしていましたが、1月28日に「女性は中居さんに誘われた」と記事の一部を訂正したことを明らかにしています。
これに関して、フジテレビと親会社のフジ・メディアHDは独立した第三者委員会を設置し、事実関係や会社の判断、対応が適切だったのかなどについて調査を委ねています。
第三者委員会の調査報告書は3月31日に公表されますが、トラブルに社員が関与していたかどうかの事実関係や1年半にわたって経営陣で事態が共有されなかったことなどについて、どのように言及するのかが焦点の一つになります。
企業風土の礎?日枝久取締役相談役は“独裁者”?
さらに、こうした“ガバナンス機能不全”の遠因として指摘されているのが、フジテレビの企業風土です。
フジテレビ 遠藤龍之介副会長(当時・1月27日)
「フジテレビは傲慢なんじゃないかということがネット上には溢れております。80年代、90年代に私どもがトップにいたときに、間違った万能感を植え付けられて、現在のようなことに至っているのかもしれないなと思います。ですからそういったものはやっぱり時代に合わせてアップデートして直していかなくてはならない」
遠藤副会長(当時)は、フジテレビが「間違った万能感」を抱くようになった背景として、80年代、90年代の成功体験を指摘しました。
そして、この時代のフジテレビを強力に率いてきたのが日枝久取締役相談役(87)です。
日枝氏は1980年に編成局長に就任。以降、社長や会長を歴任し、41年間にわたって取締役を務める、いわば“フジテレビの礎”です。
フジ・メディアHD 金光修社長(1月27日)
「取締役相談役は現場には直接タッチしていないという立場でありますが、やはりその影響力は大きいと思います。そしてまた、この企業風土の礎を作っているということに関しては間違いないと思います」
日枝氏はこれまでの経営陣の人事にも深く関わってきたとされ、記者会見の場で身内の日枝氏に「尊敬語」を使う異様な光景も見られました。
フジテレビ 嘉納修治会長(当時・1月27日)
「日枝取締役は相談役でいらっしゃいますので、相談役ですから業務執行はしないわけですね。今日ここに出席していないのはそういうことです。日枝相談役は長年やってこられたことによって、いろんな経験や知見をお持ちです。ですから、我々が経営判断していく時にいろいろとお知恵を借りたり、教えていただいたり…そういう意味では先輩ですから当然のことだと思います」
こうした状況を受け、日枝氏を痛烈に批判したのがフジ・メディアHDの株式をおよそ7%持つ大株主で、アメリカの投資ファンド「ダルトン・インベストメンツ」です。
ダルトン・インベストメンツの書簡(2月3日付)
「なぜたった1人の独裁者がこの巨大な放送グループを40年近くも支配することを許されてきたのでしょうか。信じがたい。日枝氏は去らなければならない」
ダルトン・インベストメンツは書簡で、フジテレビと親会社のガバナンスが刷新されない限り、スポンサーは戻ってこないと指摘。日枝氏のような独裁者の登場を許さないために、独立した社外取締役を過半数とするよう求めました。
企業統治の専門家で、青山学院大学の八田進二名誉教授はフジテレビ単体で取締役が20人以上いたこと自体が大きな問題で「時代遅れのガバナンス体制」だと指摘します。
青山学院大学 八田進二名誉教授(2月時点)
「長期に権限を持っているとまず歴史が示すように必ず澱む。それから一強、専横になる可能性は多分にある。日枝氏があまりにも隠然たる力を発揮し、経営を良くない方向へ誘導していった。それを黙認していたというならば取締役会の責任なわけですよ。社外取締役が日枝氏の友達だったんじゃないかという見方をせざるを得ないね。まさに昭和の感覚、これが一番命取りになりますよ」
経営体制を大幅刷新 日枝氏は退任、取締役を半減
第三者委員会の報告書の公表が3月末に迫るなか、フジテレビとフジ・メディアHDは3月27日に、41年にわたって取締役を務めてきた日枝久取締役相談役を含めて、合わせて22人の取締役の退任を決めました。
また、これまで20人いたフジテレビの取締役を半分の10人にし、女性の取締役を3割としたほか、40代の若手を新たに登用しました。
フジテレビの清水賢治社長は「より透明性の高いガバナンスの効く会社経営にしたい」と人事刷新のねらいを説明しました。
第三者委員会からの報告書を待たなかった理由について、フジ・メディアHDの金光修社長は「信頼回復のためにできる限り早急にしたほうがいいという判断だ」と話しました。
その上で、日枝氏からは「フジサンケイグループの代表を辞任する申し出があった」としました。
日枝氏は現在も腰椎圧迫骨折で入院しているということで、本人の口から説明がないままの退任となりました。
続投する齋藤清人社外取締役は、新たな人事体制について「株主の皆様のご理解を得ることができると思う。社外取締役がリクエストしていた形に沿った人事案が出てきたと捉えている」と話しています。
現在、フジテレビは清水社長直轄の「再生・改革プロジェクト本部」を設けて、信頼回復に向けて社内制度や風土、意識について“聖域なき改革”を進めています。
3月31日には、第三者委員会の調査結果が公表されます。
その後、フジテレビとフジ・メディアHDは記者会見を行います。
第三者委員会の調査結果に対して、会社側が効果的な再発防止策や企業風土の改革に向けた対応策を打ち出し、スポンサーや視聴者の信頼を回復できるかが最大の焦点です。
TBSテレビ 報道局経済部 蓮井啓介
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