
「球春」という言葉があります。「野球のシーズンが始まる、春先の頃」(広辞苑第七版)を指し、俳句の季語にもなっています。
【写真を見る】爆発する大谷人気、WBCファンが好むのは「誠実さ」~TBSの専門家が分析「データからみえる今日の世相」~【調査情報デジタル】
具体的な時期としては、プロ野球がキャンプインする2月前半や、プロ野球オープン戦開幕の2月後半、選抜高校野球開幕の3月後半あたり。今年(2026年)はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)も3月前半に開催。球春も、例年以上に盛り上がった印象です。
WBCは「野球の世界一を決める国・地域別対抗戦」(2026年3月4日読売新聞オンライン)。前回大会(23年開催)も含めて日本が過去に3回優勝しており、連覇を賭けた今回も大いに注目を集めました。日本代表チームには、ロサンゼルス・ドジャースの25年ワールドシリーズ制覇に貢献した大谷翔平選手や山本由伸選手を始め、8人の大リーガーが参加し、下馬評は「史上最強の侍ジャパン」。ところが結果はまさかの準々決勝敗退。日本を下したベネズエラがアメリカを破って優勝という波乱の幕切れに。
野球ファンや、大谷選手など「推し」の日本人大リーガーの活躍を期待した人々は、今回のWBCでさぞかし残念な思いをしたのでは。今回はそんな日本人大リーガーへの思いや、WBCに思い入れるファンの横顔を、データで紐解いてみます。
大谷翔平の前人未踏の好感度
本コラムでは以前、日本人大リーガーの好感度が時とともにどのように変化しているかを取り上げました(調査情報デジタル、2021年12月6日公開)。紹介したデータは、TBSテレビが1975年から毎年欠かさず実施しているTBS総合嗜好調査(注1)。調査では、野球、サッカー、ゴルフ、相撲など様々なスポーツの有名選手を数十人並べ、「好感を持っている人」を何人でも選択。その中に、その時々の日本人大リーガーも含まれています。
前回は1990年から2020年までのデータの集計で、その時は大谷選手がまだエンゼルス在籍中でした。今回は昨年(25年)までのデータを追加したところ、次の折れ線グラフに示すとおり、とんでもない結果に。
前回の集計で筆者は、「大リーガーになれる日本人選手は誰でも超一流ですが、イチロー選手のように長く実績と人気を保つのは難しく、野茂選手や松井選手をもってしても人気の下り坂は急」とコメント。
今回、グラフに追加した松坂大輔選手も同様で、ドラフト1位でライオンズに入団した99年の最高値31%の後、国内では1割程度で推移。大リーグ移籍後の09年、日本が優勝した第2回WBCで最優秀選手となり、第2の好感度ピーク22%を記録するも、後は下り坂でした(注2)。
日本優勝のWBCで人気が持ち直すのは、やはり今回追加したダルビッシュ有選手も同じ。ファイターズから大リーグに移籍した12年に27%を記録した後は2割弱で推移。しかし、日本が優勝した前回WBC(23年)での活躍で人気も21%に上向き、翌24年に28%と第2のピークを迎えました。
そこで大谷選手。大リーグで二刀流が本格的に始動した21年、好感度が6割を超えて既に日本人大リーガーとしては前人未踏の域に到達。そして前回WBCでも二刀流で最優秀選手となり、23年の好感度は実に75%。
25年は57%と数字を下げましたが、それでも日本が優勝した第2回WBCのときのイチロー選手(58%)と同水準。ここから先、大谷選手の実績と人気の軌跡がどうなるか、ますます目が離せません。
テレビ好きが多いWBCファン
今年も村上宗隆選手(元スワローズ)や岡本和真選手(元ジャイアンツ)など、日本のトップ選手が大リーグに続々移籍。それは日本の野球が世界に通用することの証といえますが、やはりそれを直接証明するのは、野球世界一を決めるWBCで勝つこと。
それだけにWBCへの注目は高いわけですが、特にWBCに思い入れている人はどんな人でしょうか。データでその横顔に迫ってみます。
TBS総合嗜好調査では、オリンピックや野球、サッカー、陸上などの様々なスポーツ競技会を並べて、「実際に見に行きたいもの、あるいはテレビなどでごらんになりたいもの」をいくつでも選んでもらう質問を実施。
東京地区(男女13~74歳1,280人)では、「夏季オリンピック」39%、「冬季オリンピック」28%、「アメリカ大リーグ」21%、「ワールドカップサッカー」19%、「世界陸上」17%がベスト5(数値は小数第一位を四捨五入)。その中でWBCの選択率は15%でした。
この15%のWBCファンと、その他の人を比較してみると、以下のグラフのような結果に。
まず性年代では、WBCファンで男性が7割弱を占めていて、さもありなんという感じ。40代以上の男性に絞っても4割、60~70代の高齢男性でも2割と、WBCファンは幅広い年代層に分布。
ところで、今回のWBCは、日本国内での試合中継で地上波テレビの無料放送がなく、中継を見るには、独占放映権を獲得した動画配信大手Netflix(ネットフリックス)に有料加入する必要がありました。
上のグラフにある通り、テレビ視聴頻度が長めの人が多いWBCファンでは、「テレビや映像配信サービスでお金を払ってでも見たいジャンル・コンテンツ」について、4割が「お金を払ってまで見たいものはない」と回答。そのため、地上波放送無しにがっかりした人も多かったかも。
とはいえ、WBCファンの「有料でも見たい」ジャンルでは、3割前後の「洋画」や「邦画」に続いて、「野球」が2割で上位にランクイン。お金を払ってでもテレビで野球を見たい人もそれなりにいることが判明。
前向きな姿勢を好むWBCファン
最後にちょっと目先を変えて、WBCファンが何を「善し」とし、何を「善しとしない」のかを、好きな言葉・嫌いな言葉から探ってみます。
人の信念・信条などを真正面から扱うと、問いも答えも難しくなりがち。そこでTBS総合嗜好調査では昔から、同じ単語を選択肢に「好きな言葉」と「嫌いな言葉」をいくつでも選ばせる質問を実施(注3)。答えやすいのに、回答者の人柄をそれなりに浮かび上がらせる、絶妙な質問と自負しています。
さて、好きな(嫌いな)言葉で、WBCファンとその他で選択率の差が大きい上位7つを、WBCファンの選択率順に並べたのが次の横棒グラフ。
これを見ると、WBCファンは、他の人との善なる関わり方(誠実、信頼、やさしい、絆)や、厳しい状況に向き合う心(希望、勇気)といった「前向きな姿勢」をより好んでいる様子。
逆に、他の人との関わりの断絶(未練、別離)や瞬間的な(浅薄な?)評価(エモい、バズる、映える)、昔ながらの価値観(エリート、根性)などは、WBCファンのお気に召さないようです。
WBCファンの好きな言葉をつなげてみれば、「信頼できる仲間との絆を深め、ピンチにあっても希望を捨てず、勇気を持って誠実に事に当たる」といった感じでしょうか。これぞまさに、チームプレーで世界の強豪と渡り合うWBCであり、個人の誠実さでチームを勝利に導く野球そのものといったら、さすがにこじつけすぎでしょうか。
何だか、WBCファンがとてつもない善男善女に思えてきました。そうした人たちが待ち望んだ球春のWBC。テレビ局に勤める筆者としては、やっぱりテレビの無料放送で、できるだけ多くの人に見てもらいたかったなあ、と思うことしきりです。
注1:TBS総合嗜好調査は、衣食住から趣味レジャー、人物・企業から、ものの考え方や行動まで、ありとあらゆる領域の「好きなもの」を調べる質問紙調査です。TBSテレビが、東京地区(1975年以降)と阪神地区(1979年以降)で毎年10月に実施し、対象者年齢は、1975年が18~59歳、76~2004年が13~59歳、05~13年が13~69歳、14年以降は13~74歳となっています。
注2:松坂選手が調査の選択肢だったのは、大リーグでプレイしていた2014年まででした。そのため、日本に戻って21年の引退までプレイしていた時期のデータはありません。
注3:昨年(25年)のTBS総合嗜好調査では84個の単語が対象でした。
<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は法務・コンプライアンス方面を主務に、マーケティング&データ戦略局も兼任。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。
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