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「就職して社会に貢献したい」重度障がい者の社会参加はばむ制度の壁、葛藤する女性とその家族【報道特集】

国内
2025-12-20 06:30

重い障がいのある人たちの社会参加をはばむ制度の壁について。「就職して社会に貢献したい」そんな希望も持ちながらも、苦しみ葛藤する女性とその家族を追いました。


【写真を見る】「就職して社会に貢献したい」重度障がい者の社会参加はばむ制度の壁、葛藤する女性とその家族


「働きたい」重度障がい者に壁

滋賀県大津市に住む深田澪音(22)さん。先天性の脳性まひで、身体を自由に動かすことができない重度障がい者だ。


毎朝、母・由季代さん(56)が、身支度を手伝っている。


大津市内の短大。澪音さんはこの春まで、ここでパソコンなどのビジネススキルを学んでいた。


深田澪音さん
「シフト押してもらっていいですか」


パソコン操作は、職員の手を借りたり、タッチパネルを活用したりする。できないことは学校と相談して、一つずつ解決してきた。


澪音さん
「まだもうちょっと卒業まであるけど」
短大職員
「だけど、授業は最後だね」


澪音さん
「ありがとうございました」


卒業まであと2か月。しかし、澪音さんの進路は決まっていなかった。


短大の友人
「(就職活動)どんな感じ?」


澪音さん
「まだ連絡きていないけど、1個、2次面接いけるかどうかかな」
「全部書類で落ちているもん」


去年6月から始めた就職活動。


銀行やメーカーなどを受けたが、説明会や面接で、「職場に車いすが入れない」「車いすで乗れるエレベーターが無い」などと言われ、40社近く落ちた。時には「外に出て対面で働くのは難しいのではないか」とまで言われた。


澪音さん
「メンタルを削られる部分はありますね。こんなに面接までいけないんやという難しさは、初めて知りました」


働く意欲と現実の壁

今年2月。この日は父の克幸(56)さんと障がい者が対象の合同面接会に参加した。


父・克幸さん
「車いす移動不可って書かれたら、たまらんな」


澪音さん
「(勤務時間が)長時間の場合だと、トイレの介助をしていただきたいんです。歩けないので」


できること、できないことを丁寧に伝え、重度障がい者の自分が働ける職場を探す。


澪音さん
「音声入力とかタッチパネルのパソコンが使えると、時間がかからずに(作業)できるかな、というのはあるんですけど」


大津市役所の採用担当者
「そういった器具を使って、よりやりやすい環境があれば良い。なかなか市役所ではそこまで、難しいところはあるんですけど」


手足が不自由で介助を必要とする澪音さん。実は、ある制度の壁が、外で働くことをより難しくしている。


それは「仕事でヘルパーを利用しにくい」ということだ。


日常生活で重度障がい者がヘルパーを利用する場合、国などの助成があるため最大で月およそ3万7000円の自己負担で済む。


ところが、職場でヘルパーを利用すると、原則、助成の対象外となり月およそ30万から40万円を利用者や雇用主が負担しなければならなくなる。


実際、澪音さんが採用試験を受けた企業に話を聞くと、「重度障がい者を雇うためにはヘルパーも雇う必要があり、費用面で採用が難しい」と答えている。


それでも澪音さんは、外に出て人と関わりながら働きたいと考えている。


澪音さん
「障がい者だけの関わりではなくて、健常者の方との関わりも家族も含めて多く機会をもらったので、恩返しという意味も含めて社会で貢献したいなって」


困難を乗り越え積極的な活動も

澪音さんは幼い頃から地域の合唱団に参加するなど、色々なことに挑戦してきた。


大津市内の定時制高校に進学し、生徒会に所属。学内で、障がいについて理解を深めるイベントを企画したこともある。


父・克幸さん
「もちろん、できないこともいっぱいありました。ただ自分から『嫌やしやめる』ということは無かったね」


母・由季代さん
「歩けない辛い思いをさせてしまったなとは、ずっと思っていたんですけど、一度も本人から(辛いと)言われたことはなかったので」
「自分が歩けないとか、車いすに乗っているということが恥ずかしいと思うことが、一切無い子に育ってくれたので、本当に良かったなと思います」


内定もらうも…立ちはだかる「ヘルパー問題」

今年3月、短大の卒業式。澪音さんの顔は晴れやかだった。


澪音さん
「就活決まった」


友人
「すごいな、頑張っていたもんな」


澪音さん
「2月の末に受けたやつが受かって」


友人
「良かったな」


澪音さん
「心おきなく卒業できる」


卒業間際で、1年更新の有期雇用ではあるが、滋賀県教育委員会から内定をもらうことができた。


しかし、澪音さんは大きな問題を解決できずにいた。仕事でのヘルパー利用をどうするか、職場に相談できていなかった。


勤務中はおよそ8時間、トイレに行くこともできない。両親は澪音さんの身体を心配して、職場に話すべきだと諭す。


母・由季代さん
「(ヘルパーを)使えないと分かっていて、使わんといこうと思ってたわけやん、思っていたやんな?それでも働こうと思ったんやんな?だけど、ずっと付きまとうことやしさ、黙っておくことじゃないから、一応聞こう」


澪音さん
「(ヘルパーが必要だと)言っていくことも大事やけど、現段階で何の実績もない澪音が言ったら…」


母・由季代さん
「(試用期間の)1か月で『あなたは来ないで下さい』って言われるのが嫌ってことやろ」


澪音さん
「向こうに『でも対応できません』って言われて、『じゃあ無理ですよね』ってなったら、澪音は困るから」


高額なヘルパー代を自分で払うことはできない。その負担を職場に求めれば、雇ってもらえない。このことがずっと澪音さんを苦しめてきた。


母・由季代さん
「(職場でヘルパーを使える)制度があったら一番良かったんやけどな」
「澪音みたいなタイプの人たちが、今まで働けなくて挫折したっていうのも、その制度があれば何でもなかったことやん」


澪音さん
「働きながら、ちょっとでも現状が変わることを願って、それこそ(障がいがある子たちの)みちしるべになれたら一番嬉しいことやから。それがちょっとでも実現できるように」


自力での通勤と仕事への決意

働き始めるまで1週間を切った。


澪音さんは、友人に付き添ってもらいながら、自宅から最寄り駅までの道のりを確認していた。


澪音さん
「ここ微妙やな。ちょっと待って一回下がるわ」


澪音さん
「絶対、車道いかなあかんねんな」


友人
「車が無いっていうのを確認してから」


澪音さん
「後ろがさ、分からんからさ」


結局、澪音さんはヘルパーを利用せずに働くことに決めた。通勤も仕事と同様、助成の対象外のため、ヘルパーの手を借りることはできない。


澪音さん
「これで何分?」


友人
「30分くらいみといたら」


澪音さん
「30分…OK!」


4月1日。澪音さんは滋賀県教育委員会で働き始めた。


同僚
「座席表を小さいサイズにして、ここに貼ります?」


澪音さん
「ありがとうございます」


同僚
「じゃあ貼っておきますね」


ようやく叶った社会人になる夢。周りの職員が気遣ってくれるが、できるだけ自分の力で頑張るつもりだ。


課長
「長い一日だったでしょ。僕も初日はそうでしたよ。また明日からね、よろしくお願いします」


澪音さん
「また頑張ります」


澪音さん
「ヘルパーさんが色んな場面で使えたら、可能性は広がるんですけど、その分やっぱり(職場など)誰かにしわ寄せが行くというか、誰かにその分を負担してもらわないといけないので」
「内定をいただいたので、とりあえずその環境で限界まで頑張れたらいいなと思います」


職場にヘルパー生み出す生きがい

重度障がい者が働く上で高い壁となっている「職場でヘルパーを利用しにくい」制度。


いま、一部の自治体では、それが変わろうとしている。


島根県松江市の藤村光さん(24)。


おととしから、デザイン制作会社「トレンド」で正社員として働いていて、3Dプリンターで作るフィギュアの制作に携わっている。


藤村光さん
「お客様から入稿された3Dデータのデータチェックをしています」
「CTスキャンみたいな感じで、中が詰まっているかっていうのを確認しています」


藤村さんは幼い頃、全身の筋力が低下する脊髄性筋萎縮症を患い、重度障がい者となった。


それでも、大学時代にグラフィックデザインなどを学び、自らこの会社にインターンを申し込むなどして、就職することができた。


藤村さんは、食事や移動、痰の吸引で介助が必要だが、手元にあるボタンを押すと職場に待機しているヘルパーが来てくれる。


藤村さん
「水分をお願いします」


ヘルパーが交代しながら、ずっと見守っている。


藤村さんが職場でヘルパーを利用できているのは、国が2020年に始めた「就労支援特別事業」を活用しているからだ。


この事業は各市町村の判断で導入でき、申請が認められると、国や自治体などがヘルパー代の多くを負担してくれる。


松江市はおととし、藤村さんらの要望を受けてこの事業を導入。


長時間デスクに座ることが難しい藤村さんは、時折、ヘルパーの手を借りて体勢を変える。こうした介助があることで、他の社員と同じように働けている。


藤村さん
「とりあえず3Dプリンターの受託サービスを行っている企業を75社ほどリストアップしました」


トレンド 代表取締役 徳田裕成さん
「オッケー、リストアップしてくれたので、次週は何らかの動きにつなげていくようにしましょう」


今では会社のSNS運用も任され、70人ほどだったフォロワーをおよそ2800人にまで増やした。仕事の受注にも繋がっているという。


トレンド 専務取締役 徳田翔太さん
「SNSとかの投稿もそうですし、短期で結果がすぐ出ないようなことに関して、光さんは愚直にやって下さっている」


藤村さん
「恐縮です」


藤村さん
「目に見える形で社会貢献ができているというのは、自分の中ですごく(生きる)モチベーションになっていますし、もし働けていなかったら、社会とのつながりをどういうふうに作っていたんだろうと思うと、結構怖いですね」


しかし、藤村さんのようにヘルパーの介助を受けながら働ける人はごくわずかだ。


実は、この「就労支援特別事業」を導入している自治体は、全体の6%にも満たない。


「仕事でのヘルパー利用」に制度の壁

なぜ、導入がすすまないのか。国などが市町村や事業所に行った調査によると、予算的に難しいという回答があったほか、この事業自体を知らない福祉担当者も多かったという。そしてこの事業には、公務員は対象外といった制限もある。


一方で、障がい者の社会参加が進んでいるフランスやドイツなどは、そもそも前提として、生活か仕事かといった区別はなく、ヘルパー利用に助成を行っている。


障がい者福祉の専門家は、日常生活でのヘルパー利用だけに助成をする日本のいまの制度は、社会としても損失が大きいと指摘する。


京都大学 村田淳 准教授
「家で1人で過ごすとか、その間も当然、公的なヘルパーのサービスというのが必要になるわけですよね。その人(重度障がい者)たちが働きに出ることによって、社会で活動する一人の市民として貢献することができるでしょうし、その人たち自身が納税をすることも当然起きるので、そういった意味でも多様な形で社会進出を支えていくというのは、社会全般として考える必要性がある」


滋賀県大津市。県の教育委員会で、有期雇用の事務職員として働く深田澪音さん。働き始めて8か月、いまは主にデータの入力作業などをしている。


澪音さん
「仕事を依頼されて、ちゃんと正確にやって『ありがとう』って言われたりとか『完璧やったよ』って言われたりすると、やっぱり嬉しいなって思って。」


しかし、働く環境が整っているとは言えない。この日は、母の由季代さんが職場にやって来た。


母・由季代さん
「(昼食は)食べた?ちゃんと」


澪音さん
「食べたよ」


澪音さんは、朝や昼の食事を、あまり摂らないようにしている。トイレになるべく行かなくて済むようにするためだ。


由季代さんが仕事の合間を縫って介助に来てくれる時もあるが、毎日は難しい。


母・由季代さん
「今は何とか、これでやってきていますけど」
「私も来られる時間に限りがあるので」


澪音さんの職場は由季代さんが介助するための部屋を用意し、オフィスの出入り口をスライド式にした。


ただ、大津市は就労支援特別事業は導入しておらず、そもそも公務員は事業の対象外だ。経験や知識が無い同僚たちが介助することも難しい。国の制度が変わらなければ、ヘルパーは利用できず、今のまま働くしかない。


澪音さんは、なるべく何でも自分でやるようにしているが、介助があれば、もっと可能性が広がると感じている。


澪音さん
「仕事のことに関しては職場の方に頼みつつ、プライベート(トイレなどの介助)については、気軽に頼めるヘルパーさんなり、助けてくれる人がいる環境になればいいなと」
「障がいがある方が殻に閉じこもらないでいいような社会になればいいですね」


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