
9月に東京・国技館で行われた大相撲秋場所で横綱と大関にそれぞれ昇進が期待された大関霧島(30)と関脇熱海富士(24)は、ともに8勝7敗でチャンスを逃した。7月の名古屋場所はそろって優勝決定ともえ戦まで進出しており、同時昇進を果たせば、1993年の大関曙と関脇貴花田(後の横綱貴乃花)以来、33年ぶりの快挙だったが、ともに夢には届かなかった。8日初日の九州場所(福岡国際センター)で、再スタートを切ることになる。
序盤で狂った歯車 平幕への取りこぼし響いた綱とり
秋場所は7月の名古屋に続いて2場所連続3度目の綱とりに挑んだ霧島だったが、中盤で砕け散った。昇進を預かる浅香山審判部長(元大関魁皇)が場所前に「内容も成績も高いレベルが条件」と示した通り、昇進には本人がまだ経験したことのない14勝以上の優勝が求められていた。
1月の初場所は11勝、3月の春場所から3場所連続12勝。春は3度目の優勝を飾ったものの、5月の夏場所、名古屋場所は決定戦まで進みながら、敗れた。大事な勝負で連続して勝ち切れなかった後悔の念で気持ちのスタミナ維持が難しかったのか。
この場所は初日から動きが硬く見えた。白星で滑り出したものの攻め込まれて、「体が動いたのが良かった。稽古のお陰」と前向きに話したが、3日目に足が揃ったところを高安(36)に引き落とされて、早くも土がついてしまった。6日目にはそれまで初日から5連敗だった義ノ富士(25)に逆転の上手投げで転がされ、痛恨の2敗目を喫した。序盤が大事とされている綱とり場所で、立ち合いで有利に踏み込めない。先手で攻め込めない焦りがリズムを崩しているように感じた。それでも、この時点ではまだ残りを勝って行って優勝すれば、昇進、もしくは綱とり継続の可能性はあったと思う。
だが、8日目に相撲巧者の美ノ海(33)に押し倒されてとどめを刺された。その後、小結大栄翔(32)、入幕4場所目の藤凌駕(23)にも敗れて3連敗。そこまで5敗中、4敗が平幕への取りこぼし。負けが込むたびに支度部屋でも取材に応じなくなった。気持ちが切れたとは言わないが、横綱候補としては物足りなさがはっきりと出てしまった。
八角理事長が指摘した「圧力不足」 後半に見せた看板の意地
千秋楽に琴桜(28)を破って何とか勝ち越したが、八角理事長(元横綱北勝海)が言った。「圧力不足だね。稽古量で勝っている力士だが、もっと圧力で普通に勝っていかないと。稽古は十分にやっているんだから」。技巧派の大関として稽古熱心な姿勢には合格点が与えられる。だが、番付の頂点を務めるには、「上手さ」だけではなく「強さ」が求められることが否応なく突き付けられた。
それでも、後半戦で看板力士としての意地は見せたと思う。まずは、5敗した直後の11日目の熱海富士戦だ。立ち合いから気迫を全面に出して攻め込み、右四つ、左上手を取ると、自らの地位に駆け上がってこようとする198㎏を寄せ付けず寄り切った。13日目には番付上の対戦順なら豊昇龍(27)休場で本来は千秋楽に当たるはずだった1敗の横綱大の里(26)戦が組まれた。成績不振によるものだったが、その日も横綱を下手投げで破り、優勝争いを面白くした。この気迫が前半から続いていれば、と思うほどだった。昇進は振り出しに戻ったものの、一定の存在感は示した形だ。
勝ち越しからまさかの5連敗 「大関相撲」からの急変
一方の熱海富士の秋場所前半は安定感抜群だった。落ち着いて相手を自分の正面に置き、大きな体を活かした勝ち方で白星を重ねた。まさに「大関相撲」で昇進が近いと感じさせた。12勝すれば、夏場所の9勝、名古屋場所の12勝と合わせて「3場所三役で33勝」と言われる大関昇進の目安に届く。10日で勝ち越しを決め、1敗の大の里を藤ノ川(21)、金峰山(29)とともに1差で追いかけ、ともえ戦に進んだ名古屋場所と同様に優勝争いに絡む勢いが続いていた。
ところが、11日目に目指す番付にいる霧島に完敗すると、そこから信じられないほどに暗転した。翌日から大の里には出たところを下手出し投げで這わされ、同じ右四つの元大関朝乃山(32)には先に上手を取られて寄られ、これも完敗。平幕の狼雅(27)にも上手投げで敗れ、千秋楽は東西の関脇対決で73㎏も軽い小兵の藤ノ川に土俵際で余裕を持って残され、すくい投げで敗れた。攻めてもダメ、受けてもダメ。それまで自信満々だった表情が、おっかなびっくりになった。5連敗は、地力を付けてきた三役昇進後は初めてのことだった。
あまりの変わり具合に土俵下で勝負を見守っていた浅香山審判部長が「途中まではよかったが、どうしたことか。どこも悪くなきゃあいいけど」と体調面やけがを心配する始末だった。理由ははっきりしないが、本人は普段からテレビ中継のインタビューには答えるが、支度部屋ではコメントを一切しない。このため、状態も報道陣には分からない。ただ、土俵や支度部屋、通路の動きを見る限り体のけがではなさそうだった。
「連続優勝に準ずる成績」が基準になる横綱昇進と違い、大関の場合は九州場所の成績が13勝以上ならば、数字的には3場所で33勝に届くことにはなる。8勝止まりという成績を受けて、浅香山部長は「もちろん、何もないわけではないが、(九州場所後の昇進は)厳しいだろうね。一から出直し? それくらいの気持ちで行って欲しい」と話した。
年間勝利数1位と2位 数字が物語る2人の地力
秋場所はともに惨敗に終わり、再起をかけることになる2力士。苦しい現実からの再スタートになるが、救いという訳ではないが、2人が2026年を沸かせたという証明の数字がある。
秋場所終了時点までの年間成績でみると、霧島は年間最多勝に最も近い1位の55勝を挙げている。熱海富士がこれに続いて50勝。3位は藤ノ川の44勝。朝乃山が43勝、安青錦(22)は42勝となり、両横綱に至っては大の里が31勝、豊昇龍は28勝だ。嘘をつかない数字の評価は素直に認めていいだろう。
1993年「曙・貴花田」の熱狂と、令和大相撲のこれから
ちなみに前回、同時昇進が達成された93年初場所と言えば、前年の夏場所直前に現理事長の北勝海が引退して、約60年ぶりに横綱が不在になり、大関が曙、小錦で、両外国出身力士が番付最上位を占めていた。その1場所前の92年九州場所で14勝1敗での2度目の賜杯を抱いた曙が12勝2敗で千秋楽を迎え、3敗でただ一人追っていた貴花田と直接対決。のど輪からの一気の押しで13勝して、連続優勝で外国出身者初の綱をつかんだ。三役3場所合計で35勝した貴花田も文句なく大関に上がり、「曙貴時代」が幕を開けていった。空前の大相撲人気の真っ最中だった。
さて、現在は連続大入りが340日。九州場所も記録継続が予想されている。秋場所では15日間の懸賞総数が3688本(1本7万円)となり、1場所の最多記録を更新した。依然続く令和の大相撲人気は今後、どんなドラマを生んでくれるか。1年納めの福岡も、ファンを喜ばせてくれそうだ。
(竹園隆浩/スポーツライター)
※写真は大相撲九月場所(秋場所)8日目、美ノ海に敗れた霧島
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