暮らしや社会を豊かにする優れたデザインに贈られる「グッドデザイン賞」の授賞式が今月行われた。「メイド・イン・ジャパン」に磨きをかけるという役割を担ってきた「グッドデザイン賞」。時代と共にその役割も変わってきている。審査の舞台裏を取材した。
【写真を見る】「グッドデザイン賞」審査の舞台裏に密着! 時代と共に変わるデザインの役割とは!?【Bizスクエア】
今年の「グッドデザイン賞」 誰もが遊べる遊具が大賞に!
審査対象5773件の中から選ばれた2024年のグッドデザイン大賞は、重度の障害を抱え、遊びたくても遊べない子供たちと、障害のない子供たちが一緒に遊べる遊具に決まった。
ジャクエツ 田嶋宏之さん:
遊びと医療の間にあって、遊べないという状況・問いをひたすら小さく最初は始めていって、ケア児たちと一緒に毎日遊びながら、突き詰めていったプロジェクト。
評価のポイントは…
グッドデザイン賞 齋藤精一 審査委員長:
医療ケアが必要な子たちとそうでない子たちを分け隔てることなく、一緒に遊べるものを開発したのはまさに今の時代に必要な発想であり、取り組みとモノのデザインが融合したからこそ実現できたプロジェクト。
世界に誇るメイド・イン・ジャパンも 「グッドデザイン賞」歴史と変遷
Gのマークで知られるグッドデザイン賞は、1957年から続く日本を代表するデザイン賞で「デザインが暮らしや社会をより良くする」という視点で選ばれてきた。
その歴史を振り返ると…
1958年の受賞製品、東芝の「電気釜」。自動でスイッチが切れる仕組みでご飯を炊く作業を効率化した。
80年代はホンダの「シビック」や、ソニーの「ウォークマン」など世界に対して発信力の高いメイド・イン・ジャパンの製品が数多く登場した。
そして90年代に入ると、人を癒してくれるロボット「AIBO」などが受賞。モノから、コトへの変化だ。
2000年代以降は価値観やニーズも多様化。公共施設などの空間や公園も大賞に選ばれた。
グッドデザイン賞は形のあるなしに関わらず、時代の変遷とともに進化し続けてきた。
2024年8月。幕張メッセにグッドデザイン賞の審査対象製品が展示されていた。100人を超える審査員が一つずつ手に取って厳選していく2次審査会だ。
グッドデザイン賞 齋藤精一 審査委員長:
モノとコトを交えながらデザインを作っていこうというのが、グッドデザイン賞から出た大きな風潮ではないか。
審査委員長の齋藤精一さん。会場内を電動キックボードで移動し、次々と審査していく。
「グッドデザイン賞」の舞台裏 審査の基準は“勇気”と“有機”
今年のグッドデザイン賞のテーマは「“勇気”と“有機”のあるデザイン」。このテーマに込めた思いとは。
グッドデザイン賞 齋藤精一 審査委員長:
グッドデザイン賞は新しいアイデアや製品をどんどん評価していく賞なので、勇気を持って一歩踏み出した方々。今、震災が起きたり、悲しい事件が起きたり、課題が地域によって違ったり。それを有機的な思考や有機的な組織体でどう対応していくかが大事。勇気を持って有機的にどう社会課題や今デザインでできることの可能性を広げているかを評価する。
空気を使わないことでパンクしない次世代のタイヤ「Air free(ブリヂストン)」
グッドデザイン賞 齋藤精一 審査委員長:
樹脂になっているところがスポーク(輻)の部品で、タイヤと同じように衝撃を吸収していく。
グッドデザイン賞 齋藤精一 審査委員長:
「ニンバスミライ(アシックス)」。このランニングシューズはリサイクルできる。ソールの部分で剥がれやすいように作っていて、後々リユースされやすいように作っている。どういう素材を使うかも気にして作っている。
電車の中でも片手でめくれる「ワンハンド単語カード(クツワ)」。
「ナノケア(パナソニック)」。「AIRY」にしたり「SMOOTH」にしたり、ヘアスタイルを選ぶことができる。
カテゴリごとに議論し、審査していく。
グッドデザイン賞 齋藤精一 審査委員長:
今101名の審査員がいるが、こんな大変な審査はない。
会場で、ひときわ目をひいていたのが、タイガー魔法瓶が開発した炊飯器。
電気・ガスを使わない炊飯器 デザインの重要性と意義とは
開発者に話を聞くため、本社を訪ねると、案内されたのは脇にあるコンクリートの実験室。
タイガー魔法瓶 村田勝則さん:
こちらが「魔法のかまどごはん」という商品。特徴は、新聞紙1部があれば、ご飯が炊ける。
新聞紙9枚で3合炊飯できるという。その炊き方は…
丸めた新聞紙を2つの穴に交互に投入し、火をつけることを繰り返す。
タイガー魔法瓶 村田勝則さん:
最初は1分半間隔で投入して火をつけていき、この後、燃焼が進むと、後ろから煙突効果で熱い空気が後ろから流れていく。新聞紙をいかに燃焼室の中できれいに燃やすか。そのための空気の流れを作る投入口、吸気口の大きさと、後ろの排気口のサイズ、すべてモデルを作りながら導いた。
さらに、先人の知恵も生かしている。
タイガー魔法瓶 村田勝則さん:
最初はゆっくり火をくべていく、それが昔の人の知恵で「はじめチョロチョロなかパッパ」と昔から伝わっているご飯の炊き方。はじめチョロチョロが1分半。なかパッパ1分と間隔を短く火力を上げていくという炊き方をしている。
約35分でご飯が炊き上がった。村田さんは「すごく粒がしっかりしていて、噛めば噛むほど甘みが出てくる」という。
「魔法のかまどごはん」は発売1年で、当初の計画の4倍以上の1万4000台を販売した。
タイガー魔法瓶 村田勝則さん:
災害に遭ったときのように電気・ガスが使えないときでも温かくておいしいご飯を食べてもらいたいという思いで開発した。「何かあってもこれがあれば食事ができる」という安心をお届けしたいと思っている。
試作品は70以上。試行錯誤を繰り返して開発した「魔法のかまどごはん」は、今回「グッドフォーカス賞(防災・復興デザイン)」を受賞した。
企業にとっても、デザインの重要性は高まっているという。タイガー魔法瓶のデザインチームのリーダー、今井克哉さんは…
タイガー魔法瓶 今井克哉さん:
デザインは顧客がまず触れていただく一番の接点。顧客目線に立った、顧客のためのデザインが重要。見た目ももちろん、時代としては環境に優しい商品も必要。時代の趨勢に合わせたものを作り続けていくということがデザインの使命。
グッドデザイン賞を主催する日本デザイン振興会の深野弘行理事長は、デザインの意義について…
日本デザイン振興会 深野弘行 理事長:
競争力であったり、企業の社会的な価値を高めるものであったり、企業の社会的責任を果たすものであったり、非常に多様な意味を持っているものだと思う。
そしてデザインには「社会課題を解決する力」があるという。
日本デザイン振興会 深野弘行 理事長:
グッドデザイン賞は、まさに出発点みたいなものなので、いろんなアイデアやデザインの芽が出てきて、それが発展し、少しでも社会を住みやすい、良いものにしていく。
メイド・イン・ジャパンを支えた 「グッドデザイン賞」の変遷
これまでの主な受賞作を振り返る。1950年代は家事に革命を起こした「電気炊飯器」。80年代は自動車や家電製品など、メイド・イン・ジャパンの進化とともにあった。その後はデザインの領域がモノからコトへと変わっていき、最近は活動やサービス全体が評価されることもある。
――元々「グッドデザイン賞」とは、日本製品がより良質なものになるように「性能はいいが、センスがちょっと」というものをブラッシュアップしていくための賞だったような気がするが、時代とともに役割も変わってきているのか。
明星大学経営学部教授 細川昌彦 氏:
おっしゃる通り。今は1つ1つの製品だけではなく、Apple製品を見たらわかると思う。Apple製品は、スマホがあるが、それではなく、Apple Storeがあり、かっこいい店作りというのも全部デザイン。そうすると「企業のブランドメッセージは何」というかっこよさが全体にある。最近、経産省で「デザイン経営」がキーワードになっている。製品だけではなく、もっと広くやることが経営の根幹になっている。
――デザインを通してビジネスのストーリーが見えてくるし、デザインの中に課題を解決するポテンシャルがある。
明星大学経営学部教授 細川昌彦 氏:
そこにメッセージがこもっている。
(BS-TBS『Bizスクエア』 11月16日放送より)
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