
2026年8月、お土産のお菓子を手掛ける「寿スピリッツ」の時価総額が、老舗企業「カルビー」を抜いたというニュースが話題になりました。売上はカルビーの4分の1にもかかわらず、なぜ時価総額が上回ったのか。その秘密は「営業利益率23%」という驚異的な数字と、お土産市場ならではのビジネスモデルにありました。今回はリサーチャーのcomugiさんに、黒子企業・寿スピリッツの強さと、お土産ビジネスの奥深さについてうかがいます。
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(聞き手:Podcastプロデューサー・野村高文。TBS Podcast『東京ビジネスハブ』2026年9月20日配信『おみやげは1兆円市場! 黒子企業『寿スピリッツ』営業利益率23%の正体(comugi)』より)
売上はカルビーの4分の1、でも時価総額で逆転!「寿スピリッツ」とは?
野村:今年の8月に、お土産のお菓子を手掛ける企業「寿スピリッツ」の時価総額が、老舗企業カルビーを抜くというニュースが話題になりました。売上はカルビーの4分の1なのに、時価総額が上回ったというこの現象、一体何が起きているのでしょうか。
comugi:カルビーといえばポテトチップスで誰でも知っている企業ですが、同じお菓子企業でもなかなか知られていない「黒子の企業」として寿スピリッツという会社があります。なぜ売上が少ないのに時価総額が追い抜けるのか。理由を一言で言うと、利益率が高いんです。2026年3月期の数字で、営業利益率が寿スピリッツは23.6%、カルビーは7.7%と、約3倍の差があります。
野村:食品メーカーで7.7%も決して低くないと思いますが、23.6%は凄まじく高いですね。そもそも寿スピリッツとはどんな会社なのですか?
comugi:本社は鳥取県米子市にあり、1952年に飴とキャラメルの製造から始まりました。1968年に山陰の銘菓「因幡の白うさぎ」を出して、お土産市場に入っていきました。実は、北海道小樽の「ルタオ」や、東京駅によくある「ザ・メープルマニア」「東京ミルクチーズ工場」「バターバトラー」など、有名なブランドを裏で作っているのがこの会社なんです。現在、44ものブランドを持っています。
野村:ルタオもそうなんですね! 8月末時点で両社とも時価総額は4,000億円程度ですが、売上高はカルビーが3,400億円、寿スピリッツが800億円弱。時価総額は投資家からの期待値の表れですから、それだけ有望視されているということですね。
広告宣伝なしで利益率23%を生む構造
野村:なぜそこまで利益率が高いのでしょうか。確かに、お土産物ってスーパーに並んでいるスナック菓子よりも、メーカーの名前を意識しませんよね。
comugi:お土産はその場所に行ったときに、売り場を見て直感で決めることが多いので、スーパーやコンビニのように商品を手に取ってもらうためのCMを打つ必要がありません。ほとんど広告宣伝を行わないことが、利益率の高さに繋がっています。
野村:なるほど。
comugi:もうひとつ大きいのが、インフレへの強さです。昨今、様々なものの値段が上がっていますが、お土産を買う時に値段をどれくらい気にしますか?
野村:確かに、スーパーに行ったときよりも確実に財布の紐は緩みますね。むしろ、少し値が張る方が相手にとって失礼じゃない、という気持ちもあります。
comugi:そうですよね。日常の買い物だと10円単位の差に敏感になりますが、お土産は比較検討されにくい。そのため、値上げが非常に成功しているんです。最近でも「東京ミルクチーズ工場」のクッキーを内容量そのままで12.5%値上げしましたが、売上はほぼ下がりませんでした。ちゃんと値上げできるのが、お土産を作る寿スピリッツの強さです。
本社はたった7人。超現場主義が支える圧倒的な商品開発力
野村:商品開発力も相当高いということですよね。
comugi:非常に強いです。例えば、東京駅に寿スピリッツのブランドが10店舗以上入っています。いい場所は色々な会社が取りたい陣取り合戦になる中で、東京駅側から「今度こういうエリアを開くから、新しい目玉となるブランドを作ってほしい」と依頼が来るほどです。
野村:それはすごいですね。
comugi:面白いのは、時価総額4,000億円の持株会社なのに、本社の人間がたった7人しかいないんです(2026年3月末時点)。残りの約1,800人はみんな現場にいます。
野村:超現場主義なんですね。
comugi:はい。店頭販売がめちゃくちゃ強くて、商品の由来や素材の物語をちゃんと語りながら売ることができる。この現場の力が、商品開発力や売る力、そして信頼に繋がっています。お土産というニッチな市場で、他に真似できない参入障壁を作り上げているんです。
参入障壁の高さと新たなビジネスチャンス
野村:東京駅や空港などの一等地は家賃も高そうですが、そこでの争いも熾烈ですよね。
comugi:高い家賃を払えるだけ売れなければいけません。実はコロナ禍の2021年3月期、外出する人が減り、寿スピリッツは売上が半減して約28.9億円の営業赤字を出しました。なぜ巨額の赤字が出たかというと、その「場所」を維持しなければならなかったからです。
野村:一度手放すと、他の会社に取られて二度と戻れないからですね。
comugi:百貨店の1階にラグジュアリーブランドが入っているのと同じで、一等地はお金を払えば買えるものではなく、「格」が重視されます。長い歴史で培った信用が必要ですし、お土産は「そこでしか買えない」ことが価値になります。寿スピリッツが手がけるブランドにはECサイトをやっているものもありますが、実店舗が閉まった夜の時間帯だけ数量限定で販売するという売り方をして、希少価値を保つ工夫もあります。
野村:新規参入が難しそうな市場ですが、新しい切り口はあるのでしょうか。
comugi:最近面白いと思ったのが、元放送作家の鈴木おさむさんが立ち上げたベンチャーキャピタルが、お土産のスタートアップに投資した事例です。溶けづらい技術を使ったアイスクリームで、「江ノ島」や「浅草」といった漢字の形をしているんです。
観光地にある文字のモニュメントの前で写真を撮るカルチャーがありますが、このアイスと一緒に写真を撮れば、どこに行ったか一目で分かります。漢字をIP(知的財産)として捉えた、非常に計算されたお土産ビジネスです。お土産は「ここに行ってきたんですね」という会話のきっかけを作る商品価値があります。このお土産から生まれる体験価値のような発想は、意外と学びが多いように思えます。
<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。
<東京ビジネスハブ>
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。
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