
2026年4月、日本経済に衝撃が走りました。ユニクロを運営するファーストリテイリングの時価総額が24兆円を突破し、トヨタ自動車、三菱UFJフィナンシャル・グループに次ぐ日本企業第3位へと躍進したのです。名だたる巨大企業を抑え、なぜアパレル企業がここまでの成長を遂げられたのでしょうか。その背景には、単なる「安さ」ではない、世界的なトレンドの変化と日本独自の「磨き上げる文化」がありました。ユニクロが世界で支持される5つの要因と、スターバックスの事例から「変わらない価値」の重要性を紐解きます。
東京ビジネスハブ
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。今回は2026年5月10日の配信「UNIQLOこそ最強のアパレル企業! 時価総額20兆円超が生まれた理由(comugi) 」 を抜粋してお届けします。
日本3位、時価総額24兆円。ユニクロ快進撃の裏側
comugi:ユニクロの躍進には驚かされます。日本で3位という数字がどれほど凄いことか。1位はトヨタ自動車、2位は三菱UFJフィナンシャル・グループです。これらは巨大な製造業や金融機関ですから、それらに次ぐ3番目、つまりソニーやソフトバンク、キーエンスといった名だたる企業を抑えての3位というのは、非常に興味深い事実です。
野村:ユニクロは確実に日本を代表する企業であり、かつ日本発のグローバル企業として成功していますよね。
comugi:2010年末時点では時価総額順位が43位前後でしたので、この15年ほどで一気に順位を40位ほど上げ、ここまで駆け上がってきました。何がこの成長をドライブしているのか。それは間違いなく「海外事業」です。欧州で5,000億円、北米で3,000億円を売り上げるなど、海外で大成功を収めています。単なる一過性のブームではなく、完全に生活に定着している状況です。
世界がユニクロを選ぶ「5つの決定的な要因」
野村:6年連続で最高益を更新し、海外事業も非常に好調とのことですが、具体的にどのような要因が重なって今の成功があるのでしょうか。
comugi:今回はリサーチャーとして、5つのポイントを整理してきました。1つ目は、パンデミック(コロナ禍)による生活様式の変化です。リモートワークが普及し、スーツをびしっと着こなすスタイルから、日常着で働くハイブリッドな勤務形態、すなわち「ビジネスカジュアル」へと移行しました。そこにユニクロの得意とする日常着がぴったりとはまったのです。
2つ目は、ファストファッションへの逆風です。ZARA、H&M、SHEINのような「安くて速い」ファッションが世界を席巻しましたが、現在は環境負荷の高さが問題視されています。特に欧州では、実体を伴わない環境アピールを指す「グリーンウォッシング」ではないかとの批判も起きています。
野村:ユニクロもそのカテゴリーに含まれるという見方もありそうですが、他社とは何が違うのでしょうか。
comugi:決定的な違いは「耐久性」です。ファストファッションが頻繁な買い替えを前提としているのに対し、ユニクロは機能性が高く丈夫で、長く着続けることができます。「安価なのにへたらない」点が、今のサステナブルな時代背景に評価されているのです。また、グローバルなサプライチェーンを構築し、在庫システムを洗練させ、改善の積み重ねを続けてきた強みがあります。
3つ目は、ラグジュアリーブランドの停滞です。この3年ほど各高級ブランドは値上げを続けてきましたが、あるレポートによると、成長の8割は単なる値上げによるものだと指摘されています。品質や創造性が向上していないのに価格だけが上がっている状況に、消費者が反発し始めています。
野村:そこで、4つ目のトレンドが出てくるわけですね。
comugi:はい、4つ目は「クワイエット・ラグジュアリー(控えめな贅沢)」というトレンドの浮上です。大きなロゴや派手な装飾を避け、無地で落ち着いた色合い、素材の良さで勝負するスタイルです。マーク・ザッカーバーグ氏のような著名人もこうした服を好みますが、本物の高級ブランドは非常に高価です。そこで、手頃な価格で高品質なユニクロが再発見されました。「高級ブランドの代わりにユニクロの黒タートルを着るのがスマートである」というムーブメントが、米国などで起きているのです。
野村:中国の富裕層の間でも、派手なロゴ入りの商品を避ける傾向があるという話を聞きますね。
comugi:そうですね。そして5つ目は、マクロ経済の不透明感です。世界的なインフレや地政学リスクにより消費者が財布の紐を締める中、安価で高品質なものを求めるようになり、高所得層にとっても「ユニクロを着ることは決して格好悪いことではない」という認識が広がりました。これが業績に大きく寄与しています。
「ファッション」ではなく「ウェア」を売る. LifeWearの真髄
野村:日本でもかつては「安かろう悪かろう」の代名詞のようだった時期もありましたが、いつの間にか「ユニクロでいい」になり、今や「ユニクロがいい」へと変化しましたね。
comugi:ユニクロが30年かけて積み上げてきた実績は凄まじいものです。象徴的なのが、2013年頃から掲げている「LifeWear(ライフウェア)」というコンセプトです。「高品質なものを世界中の誰もが手に取れる価格で実現する、究極の普段着」と定義されています。ここで重要なのは、ユニクロは自らをファッションブランドとは呼ばず、「ファッションではなくウェア(衣服)である」と明言している点です。
野村:「ファッション」にはトレンドがあり、去年のものが古くなってしまいますが、「ウェア」であれば実用的かつ持続的ですね。
comugi:まさにそこがポイントです。社会全体で環境負荷への意識が高まる中、あえて「ウェア」と言い切った意義は大きいです。例えばヒートテックは、2003年の発売以来、東レと共に20年以上も素材の改良を続けています。エアリズムもウルトラライトダウンも、目に見えない進化を積み重ねて「究極の普段着」を磨き上げてきました。この姿勢が今の時代に合致したのでしょう。欧米でのリピート購入率も、4年前の4割から現在は6割にまで上昇しており、生活必需品として定着しています。
スターバックスとの共通点。日本が守る「サードプレイス」の価値
comugi:この「価値を定義し磨き続けるコンセプト」は、実は私たちの身近な別の事例にも共通点があります。国内ナンバーワンのコーヒーチェーン、スターバックスです。
野村:少しイメージが異なるようにも思えますが、どのような共通点があるのでしょうか。
comugi:スターバックスは自らをコーヒーショップではなく「サードプレイス(第三の場所)」であると定義しています。自宅でも職場でもない、その間にある心地よい場所。米国では戦後、ローカルコミュニティが希薄化しましたが、そこにスターバックスがサードプレイスを提供したことで大ヒットしました。しかし現在、米国のスターバックスは苦戦を強いられています。一方で日本のスターバックスは過去最高益を更新し続けている。この差はどこにあるのか。
野村:米国のスターバックスで何が起きているのですか?
comugi:米国のスターバックスは、実は売上の70%がモバイル注文とドライブスルーになってしまいました。これでは「サードプレイス」として機能していません。単なる「効率的なコーヒーショップ」へと変質してしまい、価格競争力のある新興チェーンに顧客を奪われています。店内の設備も、ゆったりしたソファから効率重視のスツールへと変わってしまいました。
野村:日本はどうなのでしょうか。
comugi:日本はサードプレイス需要が依然として高く維持されています。ドトールのように短時間立ち寄る場所としてだけでなく、ゆったりと過ごせる場所として定着しました。日本特有のホスピタリティやおもてなしの心とも合致し、絶好調を維持しています。この「定義された価値(サードプレイス)を頑なに守り、磨き続ける」構造は、ユニクロのケースと非常に似ていると感じます。
時代が変わっても「変わらない価値」を磨き続ける
comugi:日本が持つ特性が、これらの事例にはっきりと表れています。ユニクロの「LifeWear」も、少しずつ改良を重ねるトヨタの「カイゼン」やすり合わせの文化に通じるものがあります。30年間、愚直に継続してきたことが、ようやく時代のニーズと合流したのです。スターバックスジャパンも同様です。米国本社の経営方針が変わっても、国内では「サードプレイス」という価値に向き合い、守り、改良し続けてきました。
野村:継続性ですね。原則は崩さず、解像度を高めて改良を続けていくことが、結果として大きな差になる。
comugi:AIが登場した現代、最適化や効率化、テイクアウトのようなビジネススタイルはAIが得意とする領域です。しかし、そうした時代だからこそ「変わらない価値を育み続けること」が、逆説的に重要性を増してくるのではないでしょうか。急激に変化を求めるよりも、今ある価値を徹底的に磨き上げること。これこそが日本の得意分野であり、ユニクロの30年の蓄積が今、改めて世界で脚光を浴びている理由なのだというのが私の結論です。
<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。
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