
リーダーの自己犠牲は、実は無責任? 良かれと思って仕事を抱え込む献身が、皮肉にもチームの成長を阻む最大の障壁になっているのでは……。AIの社会実装を牽引する起業家・研究者の堀田創さんは、数々の現場でAI導入を支援する中で、技術活用以上に「リーダーシップのアップデート」こそが変革の鍵を握るという結論に辿り着きました。AIを真のパートナーとして迎え入れたとき、マネジメントの役割はどう変わるのか。自己犠牲の罠を脱し、メンバーと「心地よい合意」を築くための秘訣とは。生成AI時代のリーダーに求められる、新たな「責任の取り方」と組織の未来図を考えます。
東京ビジネスハブ
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。今回は2026年4月13日の配信「『俺が全部背負うよ』は最悪のリーダー! チームを壊す『自己犠牲』の罠(堀田創)」を抜粋してお届けします。
AI研究者が組織論やリーダーシップ論を語る理由
野村:今回のテーマは「『俺が全部背負うよ』は最悪のリーダー。チームを壊す自己犠牲の罠」ということで、堀田さんはAI研究者として博士号を取得され、連続起業家としても実績をお持ちですが、なぜ「リーダーシップ論」をテーマに選ばれたのでしょうか。
堀田:私は現在、大手企業から中小企業まで、様々なお客様のAI活用を支援しています。その中で、最初は「AIを使ってこの業務を自動化できないか」という技術的な相談からスタートすることがほとんどです。しかし、プロジェクトを進めていくと、次第に「この人がこのようにAIを使ったら、この人の役割や仕事はどうなるのか」という、非常に生々しい人間や組織の課題に行き着くのです。
最終的には必ず組織論やリーダーシップのあり方といった、組織全体の話に帰結するという強い実感があります。そのため、AI研究者というバックグラウンドを軸に持ちつつも、最終的に組織が最も健全な状態になるまでを一気通貫で支援できるよう、このような発信やポジションを取っています。
野村:AIを実務に導入しようと思っても、組織論やリーダーシップ論の深い理解なしには本当の意味での定着はできない、ということなのですね。
堀田:まさにその通りです。こうした視点が抜けると「AIが人間の仕事を奪うのか」といった短絡的な議論に終始してしまいます。本来、AIは組織やチームワークをより良くし、人々が幸せになるために存在するはずです。現状はその理想と現実がうまく繋がっていないことが多いため、そこを繋ぎ合わせる役割が重要だと感じています。
例えば、営業組織にAIツールを導入しようとしても、現場は感情の起伏やモチベーションを大切にしています。そこにシステム側の都合で「日報を型通りに書いてください」と無理に当てはめようとしても、現場は動いてくれません。
野村:現場としては、普段のやり方を変えることへの抵抗もありますよね。
堀田:そうなんです。「ツールを使うのが面倒」「今はそれどころではない」というリアルな声が必ず出ます。その時、リーダーが強制するのか、それとも「メンバーが使いやすい状態」に寄り添うのか。この姿勢の違いだけで成否は変わります。会社がやりたいことと、現場がやりたいことの「合意」を丁寧に取るプロセスこそが本当のAI導入であり、これはリーダーがメンバーをどう扱うかというリーダーシップの哲学そのものです。
「俺が全部背負うよ」がもたらす自己犠牲という「責任放棄」の罠
野村:リーダーの姿勢が問われるわけですね。メインテーマである「チームを壊す自己犠牲の罠」について伺います。現代は、自己犠牲をしがちなリーダーが多いのでしょうか。
堀田:はい。かつての私自身もそうでした。部下が思うように動いてくれなかったり、一方でハラスメントへの配慮から強く言えなかったりと躊躇するリーダーは少なくありません。その中で「自分が我慢して全部やってしまった方が楽だ」と判断する人が増えているのではないでしょうか。
野村:自分が犠牲になれば、その場は丸く収まるという感覚ですね。
堀田:まさにそれこそが「自己犠牲」です。しかし、これは中長期的には絶対にうまくいきません。
野村:私も会社員時代、メンバーの業務から溢れたものを自分が拾って片付けることをよくやっていました。
堀田:私がこれまで見てきた起業家には2つのタイプがいました。1人は何でもこなすスーパーマン。もう1人は自分では何もできないけれど号令をかけるのが上手いタイプです。面白いことに、後者の方が事業を成功させるパターンが多い。彼らは自分では何もできないため、そもそも自己犠牲のしようがありません。結果として周囲に任せることになり、組織がダイナミックに回っていくのです。
リーダーの「不機嫌」や「疲れ」がチームに与える見えないダメージ
野村:堀田さんは、こうした自己犠牲は「責任放棄」であるとも指摘されています。
堀田:理由は2点あります。1点目は、リーダーが業務を巻き取ることでメンバーが「それでいいんだ」と思い、組織全体のスキルアップが起きなくなってしまうこと。成長余力を自ら削いでいるのと同じです。2点目は、感情の伝染です。人間は他人の幸福感や不快感に強く影響を受けます。
野村:機嫌の良い人がそばにいると安心しますし、その逆も然りですね。
堀田:自己犠牲を続けているリーダーが幸せそうに働くことはまず不可能です。本人は不満を出さないように気をつけているつもりでも、疲れた顔や空気感は周囲に筒抜けです。リーダーが疲れているとメンバーは気を遣ってしまい、必要な指摘や本音のフィードバックができなくなります。
野村:「あの上司は疲れていそうだから話しかけないでおこう」となってしまいますね。
堀田:そうなると改善のサイクルも回らず、活気のない暗いチームが出来上がってしまいます。これこそが組織の崩壊を招く罠なのです。
AI時代のマネジメント:やりたくないことは「やりたくない」と爽やかに言う重要性
野村:では、こうした罠に陥らないためにリーダーはどこから行動を変えればよいのでしょうか。
堀田:「自己犠牲をしないことを徹底する」と認識することです。これからの時代は、やりたくないこと、自分がやるべきではないことは「やりたくない」と爽やかに伝えることが極めて重要になります。
野村:「やりたくない」と言うのは、少し勇気がいりそうですね。
堀田:多くの人は、仕事に対して「この人はその業務をこなせる能力があるかどうか」という視点で見がちです。しかし、それでは能力の高い人がどんどん仕事を押し付けられて損をする世界になってしまいます。それは組織として不健全ですし、おかしな構造です。
ですから、能力の有無ではなく、「やりたいか、やりたくないか」を基準にして、リーダー自身が率先して実践するべきです。例えば「私はこのメールを返したくありません」と。
野村:はっきりと口に出してしまうわけですね。
堀田:そうです。「あなたが返してください」と依頼する。もし部下がやり方を知らなければ「自分で考えてください」と突き放す。これは単なる丸投げではなく、適切に「仕事を依頼する」ということです。業務を自分から手放す意識を持つことが大切です。
AIを活用して「指示出し」や「業務」をスムーズに任せる
野村:手放す際、AIは味方になってくれるのでしょうか。
堀田:部下への的確な指示書の作成をAIに相談すればいいのです。「こういうタスクを部下に頼みたいが、どう伝えれば分かりやすいか」と聞くと、優れた返答が得られます。また、部下の側も分からないことをAIに質問して解決できるようになります。AIを介在させることで、人に仕事を任せるハードルは格段に下がっています。
野村:やりたくない業務はどんどん仕分けて誰かに振っていくという気概でよいのでしょうか。
堀田:積極的に手放すべきです。今は部下だけでなく「AIに任せる」という選択肢もあります。例えばClaudeの機能を活用すれば、数行の指示(プロンプト)を入力するだけで、ちょうどいいトーンの返信文を自動で作成できます。こうしたツールを使えば、心理的な摩擦もなく業務をこなしていくことが可能です。
マネージャーの本当の主たる責務は「合意形成の設計」
野村:リーダーとしては「自分は何をやりたいのか、やりたくないのか」という心の声をキャッチすることがますます重要になりますね。
堀田:そこが非常に重要です。そしてその上で、やはり「合意形成」が大切になります。
野村:もし両者ともに「やりたくない」タスクが存在する場合、どう対処すればよいのでしょうか。
堀田:なぜやりたくないのか、理由を明確に掘り下げます。まず「これは業務命令として遂行する必要がある」という前提を明確にした上で、リーダーとしてどのような支援ができるかを考えます。マネージャーの本来の役割は、与えられたリソースの中で「ゴールを達成すること」です。特定の業務自体を自分でこなす必要はなく、手段についての裁量はマネージャーにあります。
野村:「自分が手を動かすこと」ではなく、「成果を出すこと」に責任があるわけですね。
堀田:その通りです。全ての業務を他の人やAIに任せる権利がマネージャーにはあります。本質的な仕事は、相手の立場に立ちながら、お互いに気持ちよく仕事ができる「合意」を結ぶこと。その設計に真摯に向き合うことこそが、最も健全なリーダーシップの姿だと考えています。
合意形成を成功させるコツ:相手に合わせたボールを投げる
野村:最後に、合意形成をスムーズに行うためのコツを教えてください。
堀田:「相手に期待しすぎないこと」、そして「相手は何であれば受け取れるか」という想像力を持つことです。キャッチボールと同じで、相手が受け取りやすい球を投げてあげることが基本です。
野村:相手の立場に立ったボールの投げ方とは、具体的にどのようなことでしょうか。
堀田:メンバーのタイプによって、目標を提示されるのがいいのか、プロセスを指示されるのがいいのかは異なります。ストレングスファインダーなどのアセスメントツールも有効です。AIに「ストレングスファインダーで〇〇という資質を持つ部下に、気持ちよく引き受けてもらうための文面を考えてほしい」と指示を出すのも一つの手です。
野村:AIの力も借りながら、相手に合わせたコミュニケーションをデザインしていく。これこそが、新しいリーダーの姿ですね。
<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。
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