
1970年の大阪万博で紹介された新技術は、その後次々と社会実装された。2025年の万博には“未来の技術のタネ”がどれだけあるのか?播摩卓士キャスターが現地を取材した。
【写真を見る】ミライ人間洗濯機・培養肉・iPSミニ心臓…「大阪・関西万博」でお披露目の新技術【Bizスクエア】
チケット販売枚数「黒字化目安」超
閉幕まで残り2か月となった大阪・関西万博。4月の開幕から8月9日までの累計来場者数は1553万2490人となり、入場券の販売枚数は黒字化の目安となる1800万枚を超えた。
播摩卓士キャスター
「出足は低調と言われていたけど来場者もどんどん増えて、もちろん暑さもあるけど会場は熱気に包まれている」
1970年の大阪万博も見に行ったという播摩キャスターが最初に訪れたのは「アメリカ館」。目的は【月の石】だ。
播摩キャスター
「55年前も月の石が出展されて、万博会場に7回行ったけどあまりの混みようで見られなかった。だから今回は55年越しの夢が叶って見ることができた。いやあ、感動します」
座っているだけで全身洗浄「ミライの入浴」
そして、万博に集結しているのが“未来の技術のタネ”。
【4脚走行の乗り物ロボット】などの次世代モビリティや、【人の動きを再現するロボット】。
【空中感覚装置】は、超音波の技術を応用し、映像に手をかざすと実際に触れている感覚を再現することができるというものだ。
体験した男性
「実際にないのに、あるような感じがしてとても不思議な感じ」
1970年の大阪万博でお披露目された技術の中には<携帯電話>や<動く歩道>など、すでに社会実装されているものもあるが、今回の万博で今後社会実装の実現が期待されるものはどれなのか―。
まずは、「大阪ヘルスケアパビリオン」にある【ミライ人間洗濯機】。
1970年の大阪万博で「ウルトラソニックバス」が展示されてから55年。新たに開発された人間洗濯機の浴槽にはイスがあり、入ると上からハッチがおりてきて“流線形のコックピット”といった感じ。
シャワーや浴槽から毛穴の奥まで届く「マイクロバブル」が出ることで、顔や体などをきれいにすることができるという。
実際に15分間の体験入浴を行った記者は…
渡辺晃介記者
「細かい泡が浴槽からもシャワーからも出てきて、特に自分で何かゴシゴシしていないけど全身がくまなく洗浄された感じがする。また、ハッチには映像が投影されたり音楽も流れるので心身ともにリラックスできる」
入浴後の記者を見た播摩キャスターも「なんかつるつるになったね」との感想を口にした【ミライ人間洗濯機】。
開発に携わった小池さんは、社会実装されることを期待する声が高まっているのを感じている。
『サイエンス』小池直人常務取締役
「何よりもここに集まったお客様が、ミライ人間洗濯機を通して新しい入浴習慣や我々の技術に感銘を受けてもらって、『早くこういう入浴習慣を実現してほしい』という声をたくさん毎日のように頂いている。それが結果大成功かなと思っている」
そして、25年後の世界も見据えているという。
小池さん
「2050年にはどんな世界が待ってるかというと、“体をこすって洗うという習慣をやっている人が1人もいなくなる時代”になっていると思う。それを実際に現実にしていくのが我々の使命」
プロテインクライシスを救う「培養肉」
「大阪ヘルスケアパビリオン」では、ミライの入浴だけでなく“ミライの食”にも出会える。
それが、肉の細胞から作る【培養肉】だ。
ガラスケースの中に展示されているのは、縦9cm×横15cmサイズの培養肉、厚さは約1.5cm。1枚は霜降りで、もう1枚は正方形の赤身と脂身が交互に配置され市松模様になっている。
『大阪大学』大学院 工学研究科 松崎典弥教授
「“生きた牛から細胞を取って増やして、3Dプリンターで筋肉と脂肪を作る”。そうやって霜降り構造を作る」
開発の背景にあるのは「プロテインクライシス」。近い将来タンパク質の需要が供給を上回り、世界中で食肉などの奪い合いが起こるかもしれないと専門家が警鐘を鳴らしている。
松崎教授
「急に今あるお肉が全部なくなって、全部培養肉に変わるということはないと思う。今までのお肉はありながら代替肉の植物ミートもあって、培養肉もあってと消費者がどれを選ぶか」
【培養肉】は、脂身と赤身の割合を調整して作ることができ、将来は「鉄分」や「ビタミン」などといった栄養成分の調整も可能になるというが、播摩キャスターが気になったのは“コスト”だ。
松崎教授によると、2030年の商品化スタートを目指していて、試算では「100g4500円」を考えているという。
播摩キャスター
「高級肉とトントンぐらいの価格。これまでの肉か培養肉か、それとも代替肉かと選べる時代が来る」
「CO2を吸う」環境対策のミライ技術
万博では“環境に配慮した技術”も多く披露されている。
来場者用のバス停、約250mの屋根に設置されているのはシート状の【ペロブスカイト太陽電池】。従来のシリコン太陽電池に比べ薄くて軽く、曲げられるなどの特徴を持つ太陽電池で、日中に発電した電気を蓄電池に貯めて夜間の照明に使用している。
播摩キャスターが訪れた「RITE未来の森」では、温室効果ガスの排出量と吸収量を相殺し“実質的な排出量をゼロ”にするカーボンニュートラルの実証実験も行われている。
設置されているのは、【ダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)】。大気から直接CO2(二酸化炭素)を分離・回収することができる機械だ。
『RITE』余語克則博士
「装置の後ろにファンがついていて、CO2を含んだ空気を引き込んでいく。装置中央に“二酸化炭素を吸収するアミン”という物質を塗布した網目状の構造体が入っている」
つまり、アミンが吸着剤となりCO2を吸い取るという仕組み。
――ダイレクト・エア・キャプチャーが実用化される場合、どんな場所施設を作りCO2を回収することが考えられるのか
余語博士
「再エネルギー電力が安く手に入るところが一番理想的。あとは、装置を動かすために蒸気も必要になるので、熱源、余剰の排熱とかを有効利用できるようなところが理想的な場所になるかと思う」
本物みたいに拍動する「ミニ心臓」
「パソナグループパビリオン」で展示されているのは、“再生医療の最前線”だ。
赤い透明の液体で満たされた筒の中にあるのは、直径3cmほどの【iPSミニ心臓】。体のあらゆる細胞に変化することができるiPS細胞から作られていて、本物の心臓のように拍動する様子が見られる。
『クオリプス』長谷川光一研究部部長
「正確にはiPS細胞から作った心筋細胞を使った“心臓モデル”。患者さんに提供していただいた細胞からiPS細胞を作り、それから心筋細胞を作って心臓の形にしたもの。こういうモデルにしても、心筋細胞は“自立して拍動”する」
――拍動することができたことで、本物の人工心臓ができるところまでの大きな壁をクリアしたと言っていいのか
長谷川部長
「直径約3cmという大きさのものはなかなかなかったし、この大きさでも拍動するところが見せられたのは“世界初”だと思う」
――完成すれば、心臓疾患の人は取り替えればいいということになるのか。50年後の実現は…?
長谷川部長
「移植しかなくて待っている、薬もバイパス手術をしても治らないという方が、少なくともドナーを待ってる間に亡くなることがなくなればいいなと。50年後に“このミニ心臓を見て科学者や医者を目指して人工心臓ができた”となってくれたらすごく嬉しい」
ミライ技術「社会実装」への課題
万博でお披露目された数々の“未来の技術のタネ”が実を結ぶことを期待する一方で、播摩キャスターは、「日本には良い技術のタネが沢山ありながら、それを育てたり社会実装していくことが苦手という課題もある」と話す。
その点はどう克服していけばよいのだろうか―
『第一生命経済研究所』首席エコノミスト 熊野英生さん
「日本は行政がルールを規制する。会社でもコンプライアンス部門が『それをやると負の反響がSNSで拡散するからやめた方がいい』と言ったり。そういうのをやめないと、新しいチャレンジはできないのではないか」
それでも、55年前の万博では夢だと思っていた多くのものが実現していることから、播摩キャスターは「50年後、100年後に自分の細胞から作った人工心臓ができるかもしれないと思うと、未来を信じたい気持ちになった」と目を輝かせていた。
(BS-TBS『Bizスクエア』 2025年8月16日放送より)
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