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2050年温室効果ガス排出量実質ゼロに向け、海運大手の日本郵船がアンモニアを燃料にした船を世界で初めて竣工 長澤会長にその戦略を聞く【Bizスクエア】

総合
2025-01-23 06:30

政府が目指す2050年温室効果ガス排出量実質ゼロに向け、海運大手の日本郵船がアンモニアを燃料にした船を世界で初めて竣工した。次世代燃料としての可能性はどれだけ秘められているのか。日本郵船の長澤会長にその戦略を聞く。 


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世界初!アンモニア燃料船 「日本郵船」の挑戦と戦略

海に囲まれた日本にとって、必要不可欠な「海運事業」。日本における貿易の99%は、海上輸送によるもの。その海運業界でリーディングカンパニーとして、日本の貿易を支えているのが、日本郵船。


日本郵船は、三菱財閥の創始者である岩崎彌太郎が創業した郵便汽船三菱会社が、共同運輸会社と1885年に合併し誕生した。


140年の歴史を持つ日本郵船。2024年8月に世界初のアンモニアを燃料とする船を竣工した。現在、東京湾で大型船をけん引するタグボートとして、商用運航している。アンモニア燃料の最大の特徴は、炭素を含まないため、燃焼してもCO2=二酸化炭素を排出しない。政府が目指す2050年温室効果ガス排出量実質ゼロに向けて、海運業界でも動きが加速している。


温室効果ガス排出ゼロへ 次世代燃料がカギを握る?

日本郵船 脱炭素グループ 小泉卓也グループ長:
今多くの船舶で使われているのは、重油。国際海運(の温室効果ガス排出量)は、全世界の約3%と言われている。ドイツ一国あたりの排出量と同じぐらいになるため、海運業全体として削減していくのは、私どもの大きなミッション。


日本郵船は、重油から温室効果ガスの排出量が少ない、LNG=液化天然ガスへと燃料の転換を進めている。


日本郵船 脱炭素グループ 小泉卓也グループ長:
私共が使っているLNGの場合、二酸化炭素が20~30%減ることになる。ただLNG自体にも炭素が入っているため、100%排出を減らすということはできない。


そこで、日本郵船は、次世代燃料として注目されているアンモニア燃料に大きな期待を寄せている。


日本郵船 次世代燃料グループ 六呂太高広グループ長:
今回新たな技術転換ということで、これを契機に日本の海事産業が新たな高い地位を獲得するという非常に大きなチャンスを今迎えている。


アンモニア燃料船 普及には課題も…

日本郵船が、世界に先駆けて竣工したアンモニア燃料船。一方で、課題も残されているという。


日本郵船 次世代燃料グループ 六呂太高広グループ長:
アンモニアは、大量に人体に触れると健康あるいは生命へのリスクが伴うため、いかに安全を確立するか、もう一つは、アンモニアは燃やしても二酸化炭素は出ないが、燃やし方によっては亜酸化窒素=N2Oというものがでる可能性がある。


亜酸化窒素は、二酸化炭素の約265倍の温室効果があるといわれている。その排出を防ぐため、亜酸化窒素を触媒によって除去する装置を船に搭載。さらに人体へのリスクに備え、万が一燃焼中にエンジンルームの扉を開けてしまった場合には、燃料の注入を強制的に止める仕組みになっている。


現在日本郵船は、アンモニア燃料を使った、大型輸送船の建造も進めており、2026年11月の竣工を目指している。


日本郵船 次世代燃料グループ 六呂太高広グループ長:
大事なことは(アンモニア燃料を)弊社のような個社で取り組むだけではなく、ここで得た技術、あるいはここで得た経験を可能な限り公開し、しっかりと仲間を作って、アンモニアの普及に臨んでいきたい。


世界初!アンモニア燃料船 脱炭素へ…日本郵船の挑戦

――商用船としては、世界初のアンモニア船。100%アンモニアで動くのか。竣工から5か月だが、順調か。

日本郵船 長澤仁志会長:
ほぼ100%で動く。今のところ、順調に運行している。


――ゆくゆくは大きな船もアンモニア動かしたいとのことだが、実現可能も視野に入ってきたか。

日本郵船 長澤仁志会長:
2026年11月に向けて順調に建造しているので、完全に視野に入っている。


脱炭素に向けた次世代燃料はいろいろある。船舶用の主な次世代燃料としては、LNG(液化天然ガス)、水素、メタノール、アンモニアなどがある。それぞれ温室効果ガスの排出を削減または実質ゼロにするメリットがある一方で、輸送や貯蔵のコストやサプライチェーンの構築、毒性の対応といったデメリットもあるという。LNGは次世代というより現世代の改良型ということで、LNGを原料に燃料にした船はたくさん走っているが、水素・メタノール・アンモニアに関しては、人や会社によって本命が違う。


――それがアンモニアではないかという感じなのか。

日本郵船 長澤仁志会長:
アンモニアは世界で流通している量が多い。今現在は肥料用途が多いが、それともう一つは使いやすいということだ。例えば塩化水素だとマイナス260度だが、アンモニアだとマイナス50度で済む。これからサプライチェーンが組みやすいのではないかということで、アンモニアに期待している。


――今、世界を流通していて、トレーラーなどに積んで、街中も走っている。そういう意味では一番使いやすいのではないか。

日本郵船 長澤仁志会長:
そういうことだ。


なぜこうした次世代燃料が必要かというと、業界・会社として脱炭素に取り組まなければならない。世界のCO2排出量を見てみると、国際海運は2.1%を占めている。


――国際海運はCO2を出さないとエネルギーも食料も運べないのに、これも削減しろと言われるのか。

日本郵船 長澤仁志会長:

2.1%と聞くとそうだが、実際7億トン近く出している。これはドイツ一国に匹敵するぐらいのCO2の量。なので我々としては、これを削減していく責務があると思っている。次世代燃料としていろんなもの、特にアンモニアを一生懸命研究して、将来的には燃料転換を進めていきたい。


――2050年にネットで温室効果ガスの排出量をゼロにするという世界的な、あるいは日本の目標があるが、これに準じた形でやっていくということか。

日本郵船 長澤仁志会長:
IMOという国際海事機関、これも全て既に2050年に向けてネットゼロというのを宣言しているし、もちろん当社としても、2050年に向けて「ネットゼロ」を宣言している。それに向けての具体的なタイムライン・計画も既に発表しますので、それに基づいてしっかりやっていく。


――そうすると、将来どこかの時点で船は重油で動くものだと思っているが、重油で動く船がなくなるような時代が来ると思っているか。

日本郵船 長澤仁志会長:
石炭が重油に変わり、今重油が新燃料に変わりつつある過渡期だが、いつかはゼロエミッションの燃料を焚いた船が世界を走ることになると思う。


――実現が2050年なのか、2070年なのか?

日本郵船 長澤仁志会長:
なかなか「ここまでに必ずできる」と言いがたい。


――荷主から見ても、消費者に最終製品が届くまでの間のCO2を計算するという動きがあるが、そういう要望も強いのか。

日本郵船 長澤仁志会長:
CO2の排出を計算するときに「スコープ1,2,3」というのがあるが、荷主の場合、特に運輸系のスコープ3のカテゴリーに入るが、どのくらいのCO2を排出して、自分の商品が客のところへ届いているのかを非常に気にする客も増えてきた。当然ながらそういう客はこういった海運会社がこういった取り組みでゼロエミッションの船をどんどん作って、自分の商品がCO2を出さない形で客に届けるような形を望んでいると思う。


――逆に言うと、CO2削減やらないと、海運会社間の競争力が落ちてしまうのか。

日本郵船 長澤仁志会長:
そういうことだ。もう一つは国際海事機関がネットゼロと言っている以上、新しいルールをどんどん入れてくる。そうするとCO2はコストになっていく。そういった意味からもですね、客からの期待、それと大きな地球温暖化を少しでも防ぐという大義。それら全てを考えていたら、私どもが今進めている方向性は間違ってないと思っている。


――本来、すべての産業で、同じようにネットゼロを求める枠組みが適切なのか。


ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
今、アメリカの政権でゆり戻しみたいな話は起きているが、大きなトレンドとしてはCO2削減・ゼロという方向は揺るがないのではないか。


――燃料を脱炭する以外にもあるということで「シップリサイクル」をご紹介いただけるとか。


日本郵船 長澤仁志会長:
私ども海運会社で、約900隻の船を動かしているが、日本の造船所で船を作って、それを15年とか20年運行して、客にサービスを提供して、最終的に船はスクラップという形になるが、今スクラップヤードが日本には本当少ない。ほとんどないと言ってもいい。インドとかパキスタン、バングラデシュといったところで労働集約的に解体作業が行われている。契機になったのは製鉄会社が、脱炭素の絡みで電炉転換を図っていること。電炉転換の場合、どうしても良質なスクラップが必要になる。ならば循環型の経済という形で、日本でスクラップを推進できないかと、大野開発という会社と組んでやっていこうとなった。


――そうすると、解体したりスクラップしたりする場所を日本に持ってこなくはいけないがそういう場所をつくるのか。


日本郵船 長澤仁志会長:
愛知県知多市で大きなドライドックがもう既にあるので、ここを活用してやっていこうという計画にしている。


――海運業というと、日本では今、人手不足が深刻だと聞いた。


日本郵船 長澤仁志会長:
特に内航海運においてはこれも日本人船員でしかあり得ないが、半分以上の人が50歳を超えている。これから若い人たちがどんどん就くことは考えにくい。日本財団が、無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」を主催しており、無人化運行船を2040年に50%以上にするという一つの大きな目的を持ってやっている。日本郵船もグループとして非常に大きな働きをしていて、既に2年前に実証で東京湾と伊勢湾をほぼ無人化で走らせた。これをさらにレベルアップしてやっていきたい。日本固有の人手不足、特にこの物流業界における人不足が非常に深刻なので、一つの大きな答えを出す有力な手段だと思って一生懸命やっていきたい。


地政学リスクの影響は? トランプリスクの懸念は?

――次は「地政学リスク」。中東情勢が緊迫していて、スエズ運河が通れず、喜望峰回りのルートをあらゆる船が通っているとか。

日本郵船 長澤仁志会長:
ご存知の通り一昨年の秋に、フーシ派が航海を通る船の爆撃を開始した。それ以来、最初はイスラエル関連の船ということだけだったが、無差別的な攻撃もありえたので2024年の初頭から喜望峰まわりという形で運航している。


――そうすると、距離も延びる、日数も延びる。すると客への値段も上げなければならない。船の運航効率も悪くなる、ということが起きているとか。

日本郵船 長澤仁志会長:
客には不便をかけていると思う。


――日本郵船がチャーターした船がフーシ派の攻撃を受けて拿捕される事件もあったが、あれは解決したのか。

日本郵船 長澤仁志会長:
残念ながら解決していない。一刻も早い本船・船員の解放を願うしかない。


――トランプ大統領が就任したら、この後国際的な物流が滞るのではないか、貿易がぐっと減るのではないかという懸念はないか。

日本郵船 長澤仁志会長:
1月20日に就任して、どういうことを発言するのか、注目されるが、今報道されているように関税を使って各国を牽制することは、多分間違いないと思う。一時的な影響はあるだろうが、世界で人口が増えていく中で、人々にいろんなものが必要になる。アメリカそのものの経済も強いと思う。そういった購買力を考えると、それほど心配することもないのかなと思う。物はどこかからどこかへ間違いなく流れていく。過去の経験でも一時的なものはあったが、しばらくすると元に戻っていく。そういうことだと思う。


――グローバル化からブロック経済になり、経済安全保障が強くなると、貿易がシュリンク(縮小)していき、物が動かなくなる心配はないか。

日本郵船 長澤仁志会長:
そこを心配して仕方ないと思っている。世界の人々が幸せで豊かな生活を送るために競争力あるところで、物が作られて、必要だという物が流れていくというのは、資本主義の通りだと思う。とすれば海上貿易・空輸は、物の流れが著しく減退するっていうことは考えにくいと思う。


――そういう意味では、海運業の役割は変わらず、責任を果たしていく。

日本郵船 長澤仁志会長:
それは間違いないと思います。


(BS-TBS『Bizスクエア』 1月18日放送より)


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