親しみやすい詩が幅広い年代に愛された詩人・谷川俊太郎さんが亡くなりました。92歳でした。news23では3年前、小川キャスターが谷川さんと対談。谷川さんの言葉を振り返ります。
【写真を見る】詩人・谷川俊太郎さん(92)死去 小川キャスターとの対談で語ったこと「いまはすごく言葉が氾濫するように…」“できるだけ少ない言葉”で紡いだ詩【news23】
谷川俊太郎さん死去 「スイミー」「スヌーピー」多くの海外名作の翻訳も
都内にある谷川さんの自宅の書斎。
詩人 谷川俊太郎氏さん(当時89・2021年)
「CDは自分が良く聴くものをおいている」
谷川さんは10代の頃から詩を作り始め、1952年、詩集「二十億光年の孤独」でデビューしました。
「宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
宇宙はどんどん膨らんでゆく」
(「二十億光年の孤独」より一部抜粋)
作品はどのように生まれたのでしょうか。
谷川俊太郎さん(2021年)
「僕は湧いてくるって思う方なんですけど、それは地面の下から足を通って。単なるイメージですけどね」
絵本の「スイミー」や「スヌーピー」など海外の名作の翻訳を多く手がけたことでも知られています。
谷川さんは11月13日、老衰のため都内の病院で亡くなっていたことが分かりました。92歳でした。葬儀はすでに執り行われていて、今後、お別れの会を予定しているということです。
谷川さんの訃報に街の人は…
70代
「昭和を代表する詩人。言葉一つひとつ、才能のある人」
40代
「(Q.どの本が一番好きですか?)『生きる』という本。心を揺さぶられるような言葉を選んで使う方だなという印象がある」
幅広く愛される「生きる」 注目される理由は?
幅広い世代に愛される作品「生きる」。
生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木漏れ日がまぶしいということ
ふっと或るメロディーを
思い出すということ
(「生きる」谷川俊太郎 詩 岡本よしろう 絵 福音館書店)
谷川俊太郎さん(2021年)
「『生きる』というのはなにか人に訴える力があったとみえて、教科書なんかにも載ってたし、すごく抽象的で何も主張していないんですよね。ただ生きているということを言っているだけ。その例として具体的なことが並んでいて。『かくされた悪を注意深くこばむこと』というところだけ、自分の意見が入っているような感じがするのね。人に何も教えようとしないし強制しようとせず、ただ言葉がそこに中立的にある。その言葉の選び方でみんな読んでくれたのかなという気がするんですけどね」
3年前の詩集「虚空へ」は、今の世の中の“あること”を意識しました。
谷川俊太郎さん(2021年)
「今の世の中はすごく言葉が氾濫するようになっちゃって、しかもフェイクニュースとか、認められていれば『事実』のようになってますよね。だからできるだけ少ない言葉で詩を書いてみたいというのが『虚空へ』の基本だったんですけどね」
SNSなどで言葉が溢れる社会に対し、できるだけ少ない言葉で…
問いが
そのまま
未来の
答え
言葉が
出来ないことを
音楽は
する
魂が
渇く
この数小節
調べとともに
輪廻する
私
(「問いがそのまま」 谷川俊太郎著「虚空へ」新潮社)
谷川俊太郎さん(2021年)
「随分前から僕は言葉のインフレということを考えてたんだけど、今まさに本当にインフレがだんだんひどくなっていって、量ばっかりあって質がどんどん薄くなっていっている感じがしますね」
「平和だけが素晴らしいのか…」 詠み続けた「戦争と平和」
谷川さんは平和と戦争についての詩も読み続けています。
谷川俊太郎さん(2021年)
「とにかく戦争がなくならないんですよね。僕はいつかはなくなるんじゃないかと思ってたんだけど、テロという新しい戦争がでてきたわけでしょ。ただ、平和だけが素晴らしいのかというと、僕、ちょっとそう思えなくてね。みんな平和な世界で、気候変動はあるし格差も生まれるし、平和は素晴らしくて戦争は悪だみたいな2つに分けちゃって、どっちかを取るわけでしょ。でもそういう二分法というのは人間の頭脳の欠点だと僕は思ってるのね。『善か悪』か、『美か醜』か、みたいに2つに分けちゃう。だから戦争というのも、僕は人間の発生のときから持っている自然の何かがあるんじゃないかと思うようになりましたね」
左右のページで全く異なる情景が描かれた絵本「へいわとせんそう」。中には同じように見える絵も出てきます。
みかたのあかちゃん
てきのあかちゃん
(「へいわとせんそう」谷川俊太郎 文 Noritake 絵 ブロンズ新社」
“言葉が溢れる現代”に信じた 谷川さんの「詩の力」
藤森祥平キャスター:
小学校の教科書を開いて暗唱した言葉が蘇ります。谷川さんは、なんでもかんでも2つに分けて考えるのは人間の頭脳の欠点だとおっしゃっていました。
小説家 真山仁さん:
私も小説を書いていて、おっしゃる通りだと思いますが、ただ、面白く書くには対立構図が大事なのです。対立構図を繰り返し作っていくことでエンジンが回っていく、例えば演劇も映画も同じだと思いますが、人間の頭がそうなっているからです。
今の時代、特に21世紀になってから善悪の区別がつかなくなったように感じます。「ハゲタカ」を書いていても「良い人」「悪い人」にしないといけないと思いながら書いていましたが、複雑になっていくと、読者がずっと不安定な中で読まないといけなくなってきます。今の社会もそうで、誰が本当に正しいのか分からなくなって、“正しい”ことを口にする人が胡散臭く感じてしまいます。
善と悪など「2つで考えてはいけない」はその通りですが、では、どうすればいいのでしょうか。
さらに多様性という視点もあって、多様性とはまさに2つで考えるのをやめましょうということですが、最初に対立構図をみて、「これじゃない」と思うところから始まるのかなと思います。善と悪を考えてもらい、「今の世の中そう単純じゃない」と気づかないと一足飛びでは難しいのかなと思います。
小川彩佳キャスター:
私たちの表現にも直結することですね。
藤森キャスター:
3年前のインタビューからも人柄が伝わってきますね。
小川キャスター:
谷川さんにお話を伺っているときに、脈絡のないタイミングで涙が流れてきたことがありました。そのときに谷川さんがポツリと「不思議ですよね、詩って、音楽もそうだけど、全然理由もなく胸がいっぱいになることがあるのね。喋っている言葉と違った次元に言葉が行くってことがあるんじゃないかな」とおっしゃいました。
谷川さんの詩というのは、まさにそうした明確な理由や説明を超えて心のひだに触れてくる瞬間があって、谷川さんの言葉の力を体感したできごとでした。
時代が移ろっても谷川さんの詩は、言葉のインフレの中で息苦しくなったときにゆっくり呼吸を整える場所、心の拠り所であり続けるのだなと感じます。
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<プロフィール>
真山仁さん
小説家 「ハゲタカ」「ロッキード」など
最新著書に「疑う力」
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