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“不老不死”に超富裕層は年3億円投資の一方で…オーバードーズで苦しむ貧困層 “薬”が深めるアメリカ社会の分断 【報道特集SP トランプ2.0とハックされる世界】

海外
2026-10-11 18:30

第2次トランプ政権発足からまもなく2年。ときに強引にルールを曲げる手法はまるで世界をハックしているかのよう。


【写真で見る】「不老不死」目指す超富裕層の現在の姿 費用は毎年3億円以上


アメリカの分断を象徴するのが「不老不死」を目指すバイオハック事業に集まる巨額の金。しかし、その陰で路上には貧困と薬物に苦しむ人々がいる。


トランプ氏の“ハック”は世界秩序をも根底から揺るがしている。トランプ政権でアメリカは、そして世界はどう変わろうとしているのか。


「『死なない』プロトタイプに」超富裕層が目指す“不老不死”

秋になっても海岸は多くの観光客であふれ、街中では無人配達ロボットが走るアメリカ・ロサンゼルス。


ここに、若くして起業し財を成した人物が住んでいる。ブライアン・ジョンソンさん(49)。


ブライアン・ジョンソンさん
「私は歴史上最も測定されている人間です。世界初の『死なない』プロトタイプになろうとしています」


いまアメリカでは、ある新しい医療分野に巨額の資金が集まっている。それは「不老不死」。「死なない世界」を富裕層たちが追い求めているのだ。


Amazonのジェフ・ベゾス氏は、4年前に設立された「細胞の若返り」を研究する企業に出資。この企業は30億ドル(4500億円以上)という巨額の金を集めた。


さらにオープンAIのサム・アルトマン氏など、名だたるIT企業家たちがこの分野に投資している。 


多額の資金を自らの体に投資するのが、ブライアン・ジョンソンさんだ。自ら立ち上げたオンライン決済サービスの会社をわずか6年で8億ドル以上で売却。


ジョンソンさんは「不老不死」に人生をかけ、いまや心臓や血管などは20代の状態にまで若返ったという。


ジョンソンさん
「私たちが試みているのは、すべてを測定することです。空気、水、食べ物など家中のすべてが測定されています」


朝5時前に目覚めてから夜8時半に寝るまで、厳格なスケジュールに従って生活する。
食事は、午前11時までには終え、あとは断食。それとは別に1日に40錠ものサプリメントや薬を服用している。


――クッキーやステーキ、フライドチキンなどを食べたくなりませんか?


ジョンソンさん
「前はそうでしたが、今では食べるものを完全にコントロールできるようになりました。私は決して道を外れません。完璧に自分が望むものだけを口にしています」


「ゴールは500歳」“不老不死”に商機?“寿命を延ばす”うたう薬も…

「不老不死」に商機を見出す人たちも多くいる。


「老化と死に抗う革命(Revolution Against Aging and Death)」と題したイベントには、多くの企業関係者が集まり、自社製品をPRしていた。


赤いライトのヘルメットやオゾンを浴びるカプセル、そして、不老不死が実現するまで自らの細胞を保存しておくという“バイオバンク”まで展示されている。


参加者たちは「不老不死」は実現可能だと話した。


参加者
「今生きている人々の中には永遠に生きられる人がいると信じています」
「私は死ぬつもりは全くありません。答えはあります。何をすべきか分かっていますから」
「次々と登場する薬を考えれば、最低でも140歳から160歳はいけると思います。ゴールはさらに延びて、500歳や600歳くらいになるのではないでしょうか」


――何歳まで生きる予定ですか?


参加者の男性
「200歳以上です。保証します」


会場のいたるところに書かれていたのは、「バイオハック」というワード。テクノロジーを駆使しながら、科学的に長寿や若返りを目指す考え方のことだ。


水素ガスを体内に取り込むことで、老化防止に役立つという製品。


村瀬キャスター
「全く匂いも何も分かりません。正直、何が起きているのかよく分かりません」


中には、“寿命を延ばす効果”をうたう薬もある。


担当者
「今この錠剤を飲んでいる人の一部は、125歳を超えて生きるようになると思います」


「世界で最も健康な人間に」若返りにつぎ込む額は毎年3億円以上

不老不死を目指すブライアン・ジョンソンさん。


ジョンソンさん
「ここが私たちのラボです」


――クリニックのようですね?
「本格的な医療が可能なクリニックです」


高地トレーニング機器や赤いライトの照射装置など、高価な設備が並ぶ。


ジョンソンさんは毎日、体のケアや運動に5時間を費やすという。


ジョンソンさん
「とても大変ですが、私は世界で最も健康な人間になろうとしています。これはフルタイムの仕事なのです」


ジョンソンさんは毎年3億円以上を若返りにつぎ込んでいる。筋肉量を増やす遺伝子療法や、息子の血液から血漿を取り出し、自らの体内に入れることまで試している。


ジョンソンさん
「『若返りオリンピック』と呼ばれる大会があり、老化のスピードを測定します。私は1位で、ベスト3回の平均は0.50です。大まかに言うと、12か月経つごとに6か月分しか歳を取らないということです。老化のスピードを劇的に遅らせることに成功したのです」
「これを見た人々は『こいつは本当におかしい、変だ』と言うかもしれません。しかし、5年から10年後には、多くの人が私と同じことをやっているでしょう。ほとんどの時間を、このような科学的な環境で過ごすようになるのです」


超富裕層以外にも「バイオハック」拡大…減量目的で薬使用は9人に1人

最新テクノロジーで体を“改造”する「バイオハック」。その試みは超富裕層以外にも広がっている。


ノースカロライナ州に住むダーラム夫妻。2年前に始めたYouTubeチャンネルが話題となり、登録者数は7万人を突破した。


そんな「インフルエンサー夫婦」が連日発信するのが「GLP-1」だ。
「GLP-1 受容体作動薬」とは、食欲を抑える効果などを持つ、本来は糖尿病などの薬だ。


日本では、糖尿病治療薬「マンジャロ」などにも含まれているが、ダイエット目的での使用は認められていない。厚労省は急性すい炎などの副作用もあるとしている。


一方、成人の約4割が肥満とされるアメリカ。「やせ薬」としての利用が認められていて、急速に普及している。最新の調査では「GLP-1」を減量目的で服用する成人は9人に1人に上った。


夫婦は、2年足らずで大幅な減量に成功したという。


ラロイン・ダーラムさん(57)
「GLP-1を使う前は、いつもお腹が空いていました。GLP-1を始めたら、食べ物への執着が消えました」


クリス・ダーラムさん(58)
「私にとって見た目の問題ではなく、健康上の切実な問題でした。両親は肥満に伴う合併症で亡くなっています。父はハシゴから落ちた時に、体重が重すぎたために背骨を骨折して亡くなりました。だから私は、長く生きるために何としても痩せなければならなかったんです。娘たちの結婚を見届け、孫に会う。そういったすべてを経験するためです」


この日自宅には、いずれも医師の処方でGLP-1を服用するという知人たちが集まった。


GLP-1を服用する女性
「53ポンド(約24キロ)減量し、約1年半体重を維持しています」


GLP-1を服用する男性
「100ポンド(約45キロ)以上減量しました。人生を大きく変えてくれました。命を救ってくれたと思っています」


サラダにチキン。タンパク質を摂るのは、GLP-1を服用していると筋肉が急激に減少するリスクもあるとされるからだ。


一度よそった分を食べ終えると…


――もうお腹いっぱいですか?


男性
「満腹です。もっと食べようと思えば食べられますが、薬によって制限がかかるんです」


女性
「本当にお腹いっぱいです。あとでもう少しタンパク質が必要かもしれませんが」


「GLP-1」をYouTubeで発信するダーラム夫妻。しかし、この薬は決して安くない。夫婦は2人で毎月約600ドル(9万円以上)を支払っているという。


クリスさん
「いまのところ、特権階級のための薬だということは認識しています。YouTubeを始めた理由のひとつも薬代を支払うためでした。視聴者に何を基準に投票するのか、医療制度や政治などについて考えてほしいと思っています。なぜなら誰もが手頃な価格で医療を受けられるべきだからです」
「GLP-1によって、今は医療や文化が劇的に変化しようとしています。次の50年から100年がどうなるかを決定づけるものになるでしょう」


医薬品の値下げを実現したとするトランプ大統領。


トランプ大統領 
「私たちは世界で圧倒的に高かった処方箋薬を、今や世界で最も低い価格で得ることができる」


「バイオハック」に励む人たちがいる一方で、ロサンゼルスの一角に足を踏み入れると、別の「薬」によって深く苦しむ人たちがいた。


富裕層は「薬」でより健康に…貧困層は「薬物」で苦境に

薬物の過剰摂取=「オーバードーズ」。死者は2025年1年間で約7万人に上る。


ロサンゼルスにある支援団体を一人の男性が訪れていた。男性にスタッフが手渡したのは、薬物吸引用のパイプだ。


男性
「全部は思い出せませんが、いろいろな物をもらっています。ありがたい場所です。覚醒剤とマリファナを使っています」


――オーバードーズ(過剰摂取)になったことはありますか?
「一度もありません。なりそうになったことはありますが、実際にはないです」


支援団体は、どうしてパイプを渡すのか。


「BEING ALIVE!」ティモシー・ゼンベックさん
「薬物をやめさせようとしているわけではありません。私が清潔な器具を配っていようといまいと、人々は薬物を使い続けるからです。私たちは彼らが死なないようにするためにここにます」


これは「ハームリダクション」と呼ばれる手法だ。
違法薬物をやめさせるのではなく、使用を事実上認め安全な環境で使わせる。そうすることで、まずは薬物使用による死亡リスクを減らそうという考え方だ。


団体では注射器やパイプなど、薬物を摂取するために必要な器具をすべて無料で配布している。


2025年1年間に配った注射器は6万8000本。一方で、使用済みのものを11万本以上回収したという。


治療を強制するのではなく、本人が受ける気になるまでの自主性を重んじる。


ティモシー・ゼンベックさん
「ここに来ても非難されることはありませんし、望まないことを強制されることもありません。私たちは器具や情報を提供し、どうするかは本人が決めるのです。私たちはその歩みに寄り添い、手助けをします」


全米唯一の“薬物を使う専用スペース” 2300人以上の命救う

ニューヨークではさらに踏み込んだ取り組みもある。


「オーバードーズ防止センター」。
鏡やライトが設置され壁で仕切られているのは、薬物を使う専用スペースだ。器具を配るだけでなく、その場で使用できる施設はアメリカでもここが初めてだ。


薬物を使った直後の男性に話を聞くことができた。


――なぜここに来られたのですか?


男性
「安全な環境だからです。路上で薬物を使わなくていいのでとても助かっています。ハイになっている人々をサポートしてくれます」


設立から5年で利用は30万件を超え、2300人以上の命を救ってきたという。


「OnPoint NYC」サム・リベラさん
「『薬物使用を助長している』と批判する人に問い直したくなります。さほど費用のかからない方法で、愛すべき人たちを救おうとすると何が起きるのか。その結果を見てほしいのです」


「時々我を失う」ヘロインの50倍・フェンタニル依存の女性の訴え

薬物は、貧困と常に隣り合わせだ。
別の団体の活動に同行させてもらった。注射器や生活用品を配りながら親身に話を聞いていく。


スタッフ
「 調子はどうですか?」


男性
「(支援)プログラムに入ってるから、なんとかやってるよ」


路上で生活して、まもなく6年の女性に出会った。ヘロインの50倍強力だという薬物「フェンタニル」の依存に苦しんでいる。


ホームレスの女性
「フェンタニルは本当に深刻です。『自分の子どもの心臓を引き裂いたら、一服あげるぞ』と言われたら、やってしまうと思います。後悔するし泣くでしょうけど、でもやってしまうんですよ」


薬物を断とうとしたこともあったというが…


ホームレスの女性
「自力でやめようとしたこともありますが、全然うまくいかなかったのです。辛いです。時々我を失うんです。時間の感覚を失い、何曜日かすら分からなくなる時があります。日付も時間も分からなくなるんです」


団体の代表は、トランプ政権は貧しい人々に寄り添う姿勢に欠けていると指摘する。


「VOCAL-NY」ジェレミー・サンダース 共同代表
「 路上で暮らす人々を『一斉検挙し、収監し、施設に隔離する必要がある』と平然と語る政権なのです。政府は貧困層への医療アクセスを積極的に削減しており、食料やシェルターへのアクセスも削っています。現実は、薬物使用に苦しんでいる人々には医療と住居が必要だということです。そして、置かれた過酷な状況ゆえに薬物に頼らざるを得ない人々もいます」


“不老不死”は偉業か幻想か?命をめぐるアメリカの分断

路上では、貧困と薬物で死に瀕する人たちがいる。


同じアメリカでブライアン・ジョンソンさんは「死なない世界」の到来を語った。


ジョンソンさん
「すべての人間は、自分が死ぬものだと思っています。しかし次の5年で『死なないかも』と考えるようになるでしょう。本気です」
「人類はずっと生と死に囚われてきました。社会は生と死のプロセスを理解しようしてきました。死を克服するという人類最大の偉業が実現しようとしています。私たちには、自分たち自身を再定義するための哲学が必要です」


老化研究の第一人者、アラバマ大学のスティーヴン・オースタッド教授は「バイオハック」の現状を冷静に見つめている。


アラバマ大学 スティーヴン・オースタッド 教授
「最終的には、健康寿命を20%~25%程のばすことができるようになると思います。しかし、老化は私たちに深く組み込まれているため、それ以上のことができるとは思えません」


「不老不死」に多額の資金を投じる超富裕層は、幻想を抱いているとした。


スティーヴン・オースタッド 教授
「素晴らしいアイデアで莫大な富を築いたごくわずかな人たちは、自分には何でもできると考えていると思います。しかし、どれだけ自然を征服できると思っても、自然はあなたを現実に引き戻すのです。最後に決定権を持つのは自然です」


ロサンゼルスにいたホームレスの男性。最後に私たちは尋ねた。


――おいくつですか?


ホームレスの男性
「わからない。もう数えるのはやめました」


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