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世界記録超えで賞金1億6000万円 米でドーピング容認大会開催 五輪選手も出場、問われるスポーツ倫理【Nスタ解説】

海外
2026-05-25 21:35

世界記録を上回れば賞金最大1億6000万円。アメリカ・ラスベガスでドーピングを容認した国際競技大会が行われ、スポーツ倫理を覆すと波紋が広がっています。


【写真を見る】「正直に言って、お金のため…」 世界記録超えで賞金約1.6億円の“ドーピング容認”大会


スポーツ倫理を覆す“ドーピング規制なし”の大会開催

高柳光希キャスター:
現地時間24日にラスベガスで行われた「Enhanced Games(エンハンスト・ゲームズ)」。「Enhanced 」は強化されたということを意味します。


この大会は、ドーピング規制を設けない形で行われたスポーツ大会です。筋肉増強剤のテストステロンや成長ホルモン物質、興奮剤など、薬物はFDA(米国食品医薬品局)承認の物質のみ使用可能です。


医師の監督のもと、“適切に管理されたドーピング”を行い、体調などもモニターチェックしているということを大会運営側は主張しています。


ドーピングするかは自由であり、使用せずに出場する選手もいます。今大会では、出場者42名のうち4名が使用せずに出場しました。


大会では3つの競技が行われています。


▼陸上
▼競泳
▼ウエイトリフティング


参加選手42名のうち29名がオリンピック出場経験者です。


そして、多額の賞金も設けられています。
優勝賞金は25万ドル(約4000万円)、世界記録を上回った場合、最高で100万ドル(約1億6000万円)が付与されます。


2025年の東京世界陸上では、個人種目の優勝賞金は7万ドル(約1100万円)でした。


エンハンスト・ゲームズの競泳・男子50m自由形の場合、参加者4名のうち4位まで賞金が出るので、実質参加するだけで賞金獲得となります。


そして、1位の選手は世界記録を上回る記録を出し、125万ドル(約2億円)を獲得しました。


禁止されている「スーパースーツ」の着用も可 「人間の限界追求」か「ビジネス」か?

高柳キャスター:
なぜこうした大会が今回開催されたのでしょうか?


JNNロサンゼルス支局 小川健太記者:
大会CEOのマックス・マーティン氏は、その目的として「従来のスポーツの枠組みにとらわれず、科学とイノベーションを取り入れて人間の限界を追求する」と説明しています。


その意味では、ドーピングだけでなく、現在は禁止されている競泳の「スーパースーツ」の着用も認められています。


2008年の北京五輪で世界新記録を連発し、その後禁止された「レーザー・レーサー」に使用された素材も、科学の進歩の賜物だとして着用が認められました。


そして、この大会の“本当の目的”とも言えるのが「ビジネス」的な側面です。


今、アメリカを中心に科学の進歩を背景とし、長寿やアンチエイジングの市場が急速に拡大しています。


こうした中で、大会を運営する企業はサプリや薬品の開発・販売も手がけていて、今回参加した選手の生体データを今後の商品開発に活用する方針で、本当の狙いはここにあると感じます。


一方で、参加する選手たちにとっては「厳しい懐事情」という現実もあります。


アメリカの水泳協会によると、オリンピックを目指すトップクラスの選手でも年収は350万円ほどというデータがあります。


ここから遠征やコーチの費用なども自己負担になるため、オリンピックで脚光を浴びても、普段の生活はかなり苦しいのが実情のようです。


実際、参加選手の一人も「家族のためにも、参加しない理由はなかった」と本音を漏らしています。


高柳キャスター:
ウルヴェさんは、スポーツに携わる者として、この大会を率直にどのように感じますか?


スポーツ心理学者(博士) 田中ウルヴェ京さん:
色々な側面から批判する理由はありますが、一番大きな理由としては「人間の限界」という言葉の意味です。


怪我や老化、努力でどうにもならないことがある中で、どこまで自分はできるのかと挑戦し、人間の限界を知り、達成感や自己効力感を得ることができます。


薬の利用や、科学的なトレーニングで良いとされていることをするのが、果たして20〜30年後に繋がるのだろうか。と考えます。それ以外にも、選手データの意味や安全性といった問題はありますが、選手のお金の問題は別だと思います。


井上貴博キャスター:
大会側としては、人間の限界を超えていくためのデータを取る必要性や、医師のもとで行われているという安全性もあるという主張だと思いますが、倫理観だけでは突破できない話題であると思います。


やむにやまれず、参加するしかない状況に追いやられている選手もいるという現状があると、この大会に参加しなくても、しっかりと稼げる環境をまず作る必要があるのかもしれません。


田中ウルヴェ京さん:
何のための稼ぎかということですよね。例えば、「子ども達が運動できるような環境を整えたりする」などの社会貢献になりますが、それは一人の選手が何度も世界一になったとしても、それ自体がすぐにお金になるわけではありません。


選手の育成プロセスの中で、お金になるものは様々あり、いかに心と体の健康をシステム化できるかの方が、国の政策としても環境面でも、良いあり方になると思います。それは簡単に可視化できるものではないからこそ、その是非を問わなければいけないと思います。


「参加はお金のため」選手の様々な思い トランプ氏長男の出資も話題に

高柳キャスター:
出場選手も様々な思いで参加しています。


イギリス ベン・プラウド選手(パリ五輪 競泳男子50m自由形 銀メダル)
「参加は正直に言って、お金のため。10年間クリーンな状態で世界の水泳界のトップにいたが賞金システムは全く変わらなかった


ナイジェリア マリアム・ウスマン選手(北京五輪 ウエイトリフティング 銅メダル)
強化薬の使用について皆に勧めたいわけじゃない。安全でないものを自分一人ではやらないで!私の健康を管理するために多くの医師が働いてくれている」


WADA(世界アンチ・ドーピング機構)によると、ドーピングは▼アンフェア、▼健康を害する、▼反社会的行為、▼スポーツの価値を損なうなどの理由から、世界共通のルールのもと禁止されています。


リオ五輪にも出場した元競泳選手でNスタスタッフの今井月によると、▼一度目を離したフタが開いたドリンクは絶対に飲まない、▼市販の飲み薬は基本飲まない、▼のど飴、湿布などの成分にも注意するなど、口にするもの全てを疑うようにしていたといいます。


また、アスリートにとってドーピングは「競技人生をかけて向き合うべきもの」だといいます。


アメリカでは他にもこの大会で注目されていることはありますか?


JNNロサンゼルス支局 小川健太記者:
今回の大会の根底にあるのが、最先端ビジネスであり、様々なファンドやシリコンバレー系の富豪たちからの巨額の資金が流れ込んでいます。


その中でも特に注目を集めているのが、トランプ大統領の長男のドナルド・トランプ・ジュニア氏が出資している点です。


ジュニア氏は出資を表明した際、コメントも発表しています。


「100年以上にわたり、世界のスポーツ界を牛耳ってきたエリートたちは、アスリートが限界に挑戦することを阻んできた。この『エンハンスト・ゲームズ』こそが、真の競争、そして真の自由を象徴している。これは世界におけるアメリカの覇権に関わるものであり、まさにMAGA(=Make America Great Again)運動の真髄でもあるのだ」


これに対し、アメリカのメディアは「規制緩和」や「個人の自由」といった言葉が都合よく使われていると指摘していて、スポーツがプロパガンダとして利用されていると批判的に伝えています。


井上キャスター:
こうした流れに「NO」を突きつけるのであれば、この大会に多額の資金を投じている企業に対しても「NO」を突きつける社会にしなければなりません。


こうした流れが進めば、人体実験がごく普通に行われてしまうような、そうした違和感すら感じます。


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<プロフィール>

田中ウルヴェ京さん
スポーツ心理学者(博士)
五輪メダリスト心理コンサルティング
こころの学びコミュニティ「iMiA(イミア)」主宰


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