
アメリカとイスラエルによる軍事攻撃でイランの最高指導者ハメネイ師が殺害されました。
イランの体制転換を狙ったものと思われますが、齊藤貢・元イラン大使は、それでもイランの体制転換は「起きない」と明言します。
【写真で見る】「ホルムズ海峡封鎖」は現実的ではない? 元イラン大使の指摘
今後イランはどのような行動に出るのか、ハメネイ師の後継者はどうなるのか、徹底解説します。
ハメネイ師も“歯車” イランで「体制転換が起きない」と判断する背景
駒田健吾キャスター:
今回の攻撃は予想できたことだったのか、どう受け止めていますか。
齊藤貢 元イラン大使:
2月26日まで約2週間ワシントンのシンクタンクに行って、中東の専門家約20人と意見交換したのですが、2週間前はアメリカがイランに攻撃するという感じはあまりなくて、「あっても50%ぐらいかな」と言っていました。ただ1週間経つと、70%ぐらいあるのではないかとなり、私が帰る日の朝、イランの専門家とメールでやり取りしたら、彼から「これはやばい」と来ていました。
私も攻撃が始まる日の朝、知り合いに「アメリカのイラン攻撃は止まらないだろう」とメールを送っていました。ワシントンの雰囲気も踏まえられたので、予想してましたと言えると思います。
駒田健吾キャスター:
2週間で、アメリカのイランへの攻撃の可能性が高まっていったことを実感したわけですね。ついに、イランの国営放送もハメネイ師が殺害されたことを認めましたが、イランにとって何を意味するのでしょうか?
齊藤貢 元イラン大使:
独裁国家というのは、一般的に独裁者を排除すれば体制が崩壊します。
例えば、中東で言うとイラクのサダム・フセイン政権や、シリアのアサド政権などの独裁体制が崩壊しました。
ワシントンにいた時に、中東の専門家と「イランはイラクやシリアのような典型的な独裁国家と違う」と話しました。
ハメネイ師が最高指導者となったイランには、大統領と国会議長、司法のトップがいます。その上にハメネイ師が君臨しているという形なのですが、彼自身もイランという国家行政システムの歯車ではあります。だから、歯車が壊れたら歯車を変えるだけで済む。
ワシントンでは、独裁者のハメネイ師を排除すればイランの体制が崩壊するのではないかという人もいましたが、それは無理だと思います。
イランには、かっちりとした官僚制度があって、国家の機関はしっかりしています。たとえ、トップがいなくなっても、代わりの人が出てくるだけです。
具体的に言うと、イランの憲法107条に最高指導者の選出方法というのがあります。今回、ハメネイ最高指導者が亡くなったということで、憲法のルールに則って「専門家会議」を設置し、90人近くのメンバーが集まって次の後継者を決めます。公表されていないのですが、約12人の後継者候補というのも既にリストアップされています。
おそらく今の時点で、候補者の見直しをしています。例えば、年を取り過ぎたとか、言っていることがイランの革命体制にふさわしくないとかですね。
特にハメネイ師最高指導者の場合は高齢ということもありましたから、不測の事態が起きたときの体制はできているので、イランは倒れないと思っています。
駒田健吾キャスター:
アメリカは体制転換というものを目的の一つとしています。ハメネイ師が亡くなっても体制転換は起こらないですか。
齊藤貢 元イラン大使:
私は起きないと思います。
イランの後継者は? パーレビ元皇太子か、ラリジャニSNSC事務局長か
駒田健吾キャスター:
トランプ大統領がその候補者が数名いると言ってました。これは見当がつきますか?
齊藤貢 元イラン大使:
リストが公表されていないので、わかりませんが。
アメリカには非常に優秀なイランの専門家もいますから、ハメネイ師を排除しても「簡単に体制が倒れない」というのがわかっていて、実は後継者候補というよりは、革命防衛隊の中の一部の人間と、実は密かに連絡を取っているようです。革命防衛隊の中でもいくつかの派閥があるので、自分が推す人間を最高指導者にしようとする手筈を整えているから、数名という言葉が出たと思います。
駒田健吾キャスター:
国外に亡命しているパーレビ王朝など、流れを汲む人たちが攻撃前には取り沙汰されていましたが、その人たちが帰ってくるという可能性というのはどうでしょうか?
齊藤貢 元イラン大使:
なぜパーレビ皇太子かというと、イランのイスラム革命体制を崩壊させたとしても、イランの国内にはいわゆる全国的な強力な反政府組織はありません。そうすると、権力の空白が起きてしまうので、それを埋めるためにアメリカやイスラエルがパーレビ元皇太子を戻してやろうかという考え方だと思います。
ただ、ワシントンで話したイランの専門家も私と全く同じ意見で、パーレビ皇太子は全くイラン国内では人気がないです。だから彼が帰っても支持が集まらないだろうと言ってました。
これは人づてに聞いた話ですが、イランにいる知り合いに「パーレビ皇太子が帰るとなったら、どう?」と聞いたら「彼には早く帰ってきてほしい」と言っていました。「本当に?」と聞くと「早く帰ってきてもらって殺したい」と言っていたようで、国内では人気がないですね。
秌場聖治 元JNN中東支局長:
一部の報道では、ハメネイ師が亡くなったときに合わせて、ラリジャニさんに少なくとも政府の権限を与えてるのではないかという報道もありました。この、ラリジャニさんはどういう方なのか、可能性について、どうご覧になっていますか。
齊藤貢 元イラン大使:
まず第一にですね、ラリジャニさん自身は聖職者ではないので、最高指導者になることはないと思います。
ラリジャニさんは、私がイラン大使のときに国会議長をしていましたが、今のSNSC(最高安全保障委員会)の事務局長というのは、イランでは非常に重要なポストです。例えば前の前のロウハニ大統領はSNSCの職をやっていました。国会議長も既にやっているので、大統領を狙うことができる有力者です。
彼はラリジャニ3人兄弟と呼ばれていて、3人とも非常に優秀でイラン政府の要職にいます。彼が少なくとも後継指導最高者に選ばれても、引き続き、権力に非常に近いところにいるというのは事実です。
ただ、彼がキングメーカーの役割を果たせるかというと、それはむしろ革命防衛隊。さっき申しましたけど、革命防衛隊がキングメーカーをやると思います。
中東で重要なのは“メンツ” イランが「可能な限り報復を続ける」とみる理由
駒田健吾キャスター:
今回の反撃というのは、これまでとはレベルが違うようにも感じます。今後、イランの取る行動というのは、何が予想されますか?
齊藤貢 元イラン大使:
話がズレるかもしれませんが、ワシントンにいた時、専門家の間で懸念があったのは、過去2回、イランはアメリカに対して報復しているわけです。
2020年にソレイマニ将軍という革命防衛隊の有力者を殺した時、イランはイラクにある米軍基地を弾道ミサイルで攻撃しました。ただし、これは事前にアメリカ側に通報していて、アメリカ側に人的なダメージはありませんでした。
2025年6月の12日間戦争のときに、米軍が空爆したことに対して、カタールの米軍基地を攻撃しましたが、これもアメリカ側に被害が出ないような攻撃をしたわけです。
非常に懸念されたのは、これまでイランはアメリカとの衝突をエスカレートさせたくなかったから意図的にダメージがないように攻撃をしていました。ただ、ここでなぜ報復したかというと“メンツ”の問題があるわけです。
私はイスラエル含め、中東何か国で勤務したことがありますが、中東ではメンツは非常に重要。メンツが潰れたら、メンツを回復しないといけないわけです。
イランに何ができるかといったら、やはり報復攻撃をして、できる限りアメリカとイスラエルにさらにダメージを与えること。そうしないと、中東のいわゆる国家間の関係でもたないし、それだけではなく国内的にも、最高指導者を殺されたのに政府が何も仕返ししないのか、という国民からも突き上げが来る。なので、イランはおそらく可能な限り報復を続けると思います。
私は“非対称戦への移行”ということを言っています。これは要するに、軍事的にイスラエル・アメリカ連合軍対イランでは、イランの分が悪いわけです。まさに今回最高指導者が殺され、軍事的な衝突を続けたらイランに勝ち目がないと。
そこで、ゲームの場をもう1個作ると、“非対称”になります。アメリカはあくまで軍事力で押し切ろうとしているけれど、イランは別のところでアメリカに強いダメージを与えるという戦略に出るのではないかと思います。
「ホルムズ海峡封鎖」は現実的ではない? 元イラン大使の指摘
齊藤貢 元イラン大使:
具体的には何かというと、石油戦略だと思います。
イラン側の認識としては、トランプ大統領はもうすぐ中間選挙を控えている。かつ、これから暖かくなるとドライブシーズンで、ガソリンの需要が増えます。そこでアメリカのガソリン価格を上げたら、選挙前のトランプ大統領は困るだろうと。国民からもすごく文句が来ると思います。
バイデン政権の時も一時期、石油の値段が上がり、仲の悪かったサウジアラビアの皇太子のところへ頭下げて「石油を売ってくれ」と頼んだくらいです。
巷では、「ホルムズ海峡の封鎖」という話が出ています。イラン側もこれまでも繰り返し「ホルムズ海峡を封鎖する」と言ってきました。それだけではなく、「イランが石油を輸出できないなら、他の国にも輸出させない」というメッセージも込められています。
今、イランは戦争状態になってしまいました。これまでは1日約200万バレルの生産量のほとんどを中国に輸出していたのですが、今、この状態では輸出できません。わかりやすいのは、ホルムズ海峡を封鎖すれば、サウジアラビアやUAE、カタールとかクウェートなども輸出できなくなります。
ただホルムズ海峡封鎖説というのは、私は非現実的だと思っています。なぜかというと、これは今回のような戦闘状態でなくても、常日頃、ホルムズ海峡の辺りでは、アメリカの軍艦が張っていて、そこには第五艦隊という中東艦隊があります。
実際、イラン側が妨害行為をするとすぐ米軍が出てきてストップをかけたりしている。今はもっと厳しく監視しているはずです。
イラン側が小型ボートで来るなどと言われているのですが、アメリカが絶対に許さないと思う。ホルムズ海峡を封鎖することは可能かもしれませんが、石油市場に大きなインパクトを与えるほど長期間の封鎖は私は難しいと思います。
脅威だけでも市場は反応 イランの狙いは遠回しの“石油戦略”か
齊藤貢 元イラン大使:
では、どうするのかというと、むしろ対岸のアラブ産油国の石油の輸出施設を狙うのではないかと思います。
ホルムズ海峡を封鎖しようとすると米軍の邪魔が入りますが、対岸にはいくらでも石油関連施設があるわけです。全てがカタールの米軍基地のように厳重に警備されているわけではありません。
そちらの方がイランにとっては明らかに簡単なターゲットで、既に短距離弾道ミサイルとかドローンを使っているようですが、攻撃措置能力はあります。
ホルムズ海峡からの石油の輸出を完全に止めるかどうかはわからないけども、脅威を与えるだけでも国際石油市場は反応して石油の値段が暴騰します。
アメリカ国内の原油はシェールオイルで賄ってますが、原油の国際価格が上がればシェールオイルの価格も上がります。遠回りなのですが、イランはそういう形でトランプ大統領に圧力をかけるというのが、軍事的にはかなわないけども石油戦略になります。
ただ、ここで大きな疑問があると思います。「そんなこと言ったって関係ない国を攻撃していいのか」と。これについてはイランは過去に例があります。
形としては、イエメンのフーシ派というイランの影響力が強いグループが犯行声明を出しましたが、サウジアラビアの石油の生産関係の施設が、イランのミサイルとドローンで攻撃・破壊されて、2週間、石油の輸出が止まったことがあります。
この時はトランプ第1次政権で、対イランの経済制裁を再開して石油輸出ができなくなりました。先ほど言ったように、イランは「イランが石油の輸出できないならば、他の国も輸出できない」というメッセージを実行したわけです。
だから私は、イランが関係ない国の石油施設を攻撃しても驚きません。
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