
トランプ氏の二期目の大統領就任から8か月あまりが経ちました。この短期間にトランプ氏はこれまでのアメリカを根底から覆し、世界からの孤立を深める政策を次々と打ち出しています。今後、日本はどう向き合っていけば良いのか。元側近のボルトン氏らに話を聞きました。
【写真で見る】「個人的な関係構築が極めて重要」トランプ氏元側近・ボルトン氏 新総理に提言、深まる孤立主義 変容するアメリカ
変わる首都の光景 州兵派遣の意味
トランプ政権で変貌するアメリカと、日本はどう向き合っていくのか。
村瀬健介キャスター
「ワシントン中心部の公園、散歩をする人やジョギングをする人、観光する人、平和な光景が広がっていますが、その中に州兵の姿、非常に違和感のある光景です。ピストルを携行して軍服姿の州兵が配置されています」
8月、トランプ大統領はこう宣言した。
トランプ大統領
「ワシントンD.C.解放の日と宣言し、首都を取り戻す」
犯罪が急増しているとして、首都ワシントンに州兵を投入したのだ。
州兵とは各州の知事が指揮権を持ち、条件付きで大統領が指揮することもできる軍事組織だ。最初に派遣されたのは約800人だったが、その後、倍以上に増員された。
ワシントンのバウザー市長は、犯罪が急増したのはコロナ禍直後、2年前だと反論した。
ワシントン バウザー市長
「2023年に急増した犯罪はすでに抑え込みました。凶悪犯罪は過去30年で最も少なくなっています」
9月30日、ワシントン近郊にある海兵隊基地に集められたのは、世界各地に駐留する米軍の幹部ら数百人だ。スピーチの冒頭にトランプ氏はこう釘を刺した。
トランプ大統領
「私の話が気に入らなければ、出て行ってもいい。その場合、階級も未来も失うことになるが」
そして、州兵の派遣に触れ、軍の出動も匂わせた。
トランプ大統領
「過激な民主党左派が運営する都市、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨーク、ロサンゼルス、これらは極めて危険な場所だ。私たちは一つずつ正していく。私はピート(ヘグセス国防長官)に言った。これらの危険な都市を訓練場として、州兵だけでなく軍も使うべきだと」
トランプ氏が挙げたのは、2024年の大統領選挙で民主党が制した州の都市だ。
トランプ氏の指示で「戦争長官」と名乗っているヘグセス国防長官は…
ヘグセス国防長官
「髭を剃れ、髪を切れ、体型を維持しろ、制服をちゃんと着ろ、時間を守れ、懸命に働け、それが軍人だ。我々は民間人ではない」
兵士の体型や髪型などの規則を厳格化すると明らかにし、多様性などを重視する人材登用をしてきたバイデン前政権を批判した。
イラク出身者「フセインが大統領になったときを思い出した」
ワシントンのターミナル駅の前には、市民団体のテントが張られていた。
村瀬キャスター
「星条旗が逆さまに掲げられています。これも抗議の意思を示すための一つのデモですね」
団体の創設者で元陸軍兵士のラッセル・ジョリーさんは、州兵の派遣について…
ラッセル・ジョリーさん
「一つめは、こんなことをする大統領に憤慨しています。二つめは、兵士たちが政治的な見せ物に利用されているのが恥ずかしいです。三つめは、この結果、独裁者が生み出されるのではと恐れています」
ワシントン・ポストなどの世論調査では、▼地元住民の79%が州兵の展開に反対。さらに、▼自分が住む地域について78%が「安全」と回答していて、トランプ氏の主張とは食い違っている。
州兵の派遣から約1か月後、トランプ氏は閣僚らとワシントンのレストランを訪れた。
トランプ大統領
「この街は安全を取り戻した。想像できたか?私たちのおかげで1か月で安全な街になった」
治安が改善したとアピールするためだったが…
抗議の声
「ワシントンを解放しろ。パレスチナも解放しろ。トランプは現代のヒトラーだ」
「彼はワシントンを恐怖に陥れている」
抗議の声を浴びせた市民団体のメンバーは、レストランを追い出された。
ワシントンにある別のレストラン。イラクから移住してきたオーナーのアンディ・シャラールさんは、ワシントンの変化に戸惑いを隠せない。
イラク出身 アンディ・シャラールさん
「この国に来て55年、ここが私にとっての故郷なんです。それなのに突然、不安を抱えることになるなんて、おかしな話です」
トランプ政権の強硬な不法移民対策により、合法的な移民にも疑いの目が向けられているという。
イラク出身 アンディ・シャラールさん
「ワシントンにはたくさんの移民が住んでいて、その多くは合法なのに。実際、私たちのスタッフも呼び止められて、書類の提示を求められたこともありました。最近は身の安全を守るために、出生証明書、グリーンカード(永住証明書)、パスポートなどを持ち歩く必要があるんです」
カメラの前で政権に批判的な話をするのは勇気がいるというが…
イラク出身 アンディ・シャラールさん
「もちろん報復は怖いですが、意見を言えなくなったり、身を隠さなきゃいけないことの方が恐ろしいです。私は自由を求めてイラクから来たんです。トランプとヘグセスが軍の幹部を前に演説するのを見て、サダム・フセインが大統領になったときを思い出しました」
ーーこの国で健全な民主主義を維持できると思いますか?
「民主主義は永遠に続くものではありません。日々の戦いで手に入れるものなのです」
外交政策を担う米国務省でも大量解雇
トランプ政権は、WHOやユネスコなど国際機関や枠組みから、次々と手を引こうとしている。
村瀬キャスター
「元々USAIDが入っていた建物には看板が外された跡があります。看板の上に黒いボードがかけられて、政府機関がなくなっていることを示しています」
世界各地で人道支援事業を行ってきた政府機関「USAID」。「運営が不透明」だとして政権が大幅に人員と予算を削り、事実上解体した。
アメリカの外交政策を担う国務省でも、業務の合理化を理由に大量解雇を行っている。
解雇された幹部職員、ジェシカ・ブラッドリー・ラッシングさんが取材に応じた。
国務省を解雇されたジェシカさん
「これが国務省から送られてきたメールです」
村瀬キャスター「『雇用措置の通知』がタイトルですね?」
ジェシカさん「ええ」
村瀬キャスター「人員削減…」
国務省を解雇されたジェシカさん
「その日だけで約1300人が受け取ったと思います。通知を受けたら、その日のうちに自分の荷物を片付けて出ていかないといけませんでした。同僚たちが解雇された職員を励ますために立っていました。アメリカだけでなく、世界をより良くするために働いていた多くの人たちが解雇されたのです」
ジェシカさんがいた部署は、幹部全員が解雇されたという。その部署では、アフガニスタンに駐留したアメリカ軍を支えた、現地の協力者たちの移住を支援していた。
国務省を解雇されたジェシカさん
「現地の協力者と家族はアメリカに協力したために、命の危険に晒されています。もし彼らを見捨てれば、今後誰もアメリカに協力はしなくなるでしょう。トランプ政権による多くの決定や政策は、私たちアメリカを孤立主義へと向かわせていると思います」
気候変動にも予算削減の動き 世界の研究に大きな打撃
気候変動をめぐってもトランプ氏は「でっち上げ」と否定し、予算削減のメスを入れている。
トランプ大統領
「気候変動問題は、世界で行われた過去最大の詐欺だ」
トランプ氏は「地球温暖化はアメリカの製造業の競争力をなくすため、中国が作り上げたもの」などと持論を展開してきた。
大幅な人員や予算削減の影響は、日本にも及んでいる。
国立環境研究所 地球システム領域 谷本浩志 領域長
「世界中の場所から空気をサンプリングして持ち帰り、分析している部屋です」
国立環境研究所では、世界中のパートナーの協力を得て、各地の大気を集め、温室効果ガスを観測することで地球温暖化の現状を分析をしている。
そのパートナーの一つがアメリカの研究機関NOAA=米国海洋大気庁だ。ハリケーン予報など気象に関する総合的な研究を担っていて、温室効果ガスの観測でも「世界最大の観測網」を持つ。
国立環境研究所は、NOAAと新たにアラスカでの共同観測をする予定だったが、担当者から突如、退職を知らせるメールが届いた。
谷本浩志 領域長
「理由はちょっと確たるところは書いてないんですが、いろんな諸事情によりというようなことでしょうかね」
メールが来たのは2月。約880人のNOAAの職員が解雇されたと報じられていた。9月になって後任者から連絡がきたが、共同観測の先行きは不透明な状態だという。
谷本浩志 領域長
「シベリアやアラスカの北方の森林が二酸化炭素をどう吸収・排出しているか。面積が広いですから、地球規模で見ても非常に大きな役割を果たしているので本当に貴重」
二酸化炭素濃度を調べるNASA=アメリカ航空宇宙局の観測衛星も、プロジェクト停止の危機にある。
アメリカが気候変動の研究から離脱することは、世界の研究に大きな打撃を与えるという。
谷本浩志 領域長
「私たちが取るデータと違う人が取るデータを比べる。相補的に利用することで、より知見を広く深くし、より正しい対策に活かすことが出来る。観測を国際共同でやるというのは非常に重要」
元駐米大使「一番大事な問題は対中政策のすり合わせ」
トランプ氏と、新総理はどう向き合えばいいのか。
第1次トランプ政権時に駐米大使をつとめた杉山晋輔氏。トランプ氏が大統領に就任する前、安倍元総理の意向を受け、異例の会談を実現させた。
元駐米大使 杉山晋輔氏
「日本との関係で決定的に大事だったのは、東洋の大国の宰相が真っ先に来てくれて、『自分(トランプ氏)とちゃんと話ができる』と言ってくれたのが“シンゾー”だったんだと。『I love Japan』って結構しょっちゅう言いますからね。お世辞で言っているのではなく、大統領ご本人は本当に日本が好きだと思っているというのは間違いないと思います」
第2次トランプ政権を前回と比較し、こう表現した。
元駐米大使 杉山晋輔氏
「アメリカの憲法上、大統領は4年2期まで(が任期の上限)。(1次政権時は)『次の選挙勝たなきゃいかん』ということがあるので(政策などの)ブレーキになる。今は次の選挙を考えなくていい。中々ブレーキがかからない。自分のやりたいこと全部やる」
対米外交で、新総理に求められるものは何か。
元駐米大使 杉山晋輔氏
「(新総理が)自分の言ってることに対して『本当にやるか』っていう覚悟を持って、それだけの力があるか。逆に今度トランプさんに対しても『ちゃんとやってくれ』と、トランプさん的な言葉を使えば、『ディール(=取引)ができるか?」と。すべからくディールすればいいというものでもないのではと私は思いますが、でも、相手がそうだから。(トランプ大統領の)ベースに乗って、日本の国益を最大化し、国際社会の平和と安定に資するようなことをやった方がいい」
新総理は選出された直後から、トランプ大統領の訪日など重要な外交日程に臨む。
山本恵里伽キャスター
「トランプ政権との関係において、一番の課題は何だと思いますか?」
元駐米大使 杉山晋輔氏
「アメリカにとって本当に今の対外関係の1丁目1番地は対中関係だと。トランプさんだろうが、バイデンさんだろうが、民主(党)、共和(党)問わず、アメリカ全体は日本に対して非常に強い期待もしている。また興味も高いし、『日本は中国をどうするんですか?』と、対中政策をすり合わせるのは一番大事な問題」
「個人的な関係を構築することが極めて重要」トランプ氏元側近 新総理に提言
一方、トランプ氏は一筋縄ではいかないと警鐘を鳴らすのが、元側近のジョン・ボルトン氏(76)だ。10月2日、取材に応じた。
ボルトン氏は第1次トランプ政権で国家安全保障担当の大統領補佐官を務め、米朝首脳会談に同席するなどしていたが、トランプ氏と外交方針の違いが浮き彫りになり、政権を離れた。
村瀬キャスター
「トランプ現政権と1次政権の違いで特徴は?」
元大統領補佐官 ボルトン氏
「今見えているのはより純粋なトランプ氏です。彼は意図的にイエスマンだけで脇を固める決断をしました。側近はただ『イエス サー』としか言いません。トランプ氏がより予測不能になったのではなく、予測不能であることがより見えやすくなっただけなのです」
こうしたトランプ氏と向き合うには何が必要なのか。
元大統領補佐官 ボルトン氏
「重要な点はトランプ氏には一貫性が無いということです。大事なテーマを話すタイミングを逃さないためには、総理大臣は彼と個人的な関係を構築することが極めて重要なのです。彼は戦略的・国家安全保障的な観点で物事を考えず、外国の指導者との個人的な関係というフィルターを通して考えるのです。トランプ氏は指導者と良い関係にあれば、その国と良好な関係にあると信じているのです」
“トランプ外交”を間近で見たボルトン氏は、こうも助言した。
元大統領補佐官 ボルトン氏
「新しいリーダーはトランプ氏を聞き役に回らせては絶対にいけません。彼は自分が話し手にならないと嫌なのです。それと長い文章はめったに読みません。綺麗な色付きの図表が彼の関心を引くのです」
新しい日本のリーダーは、「長期的な視野を持つべき」だと話す。
村瀬キャスター
「日米関係はトランプ政権にとって優先事項として扱われると思う?」
元大統領補佐官 ボルトン氏
「残念ながら日本のリーダーたちが、トランプ氏に日米関係の重要性を思い出させるにはかなりの努力が必要です。彼は『我々は日本を守っているが見返りがない』という主張に囲まれています。日本は、アメリカが安全保障を提供しているだけでなく、恩恵も得ているのだと納得させないといけません。
私からのアドバイスは、彼と付き合うのは難しいが、永遠に続くわけではないということです。2028年には新たな大統領が選ばれるため、長期的な視野で考えるべきです。直面している課題に対処しなければならないが、トランプ氏の任期にも限りがあるということを常に心に留めておくことです」
・【全文公開】“ラブホテル密会” 小川晶・前橋市長の謝罪会見【前編】「最初にホテルへ誘ったのはどちらから?」記者と小川晶市長の一問一答(9月24日夜)
・「道が分からんのよ…」午前3時、車道の真ん中に93歳の男性 携帯には大量の不在着信 25歳の女性がとっさに取った行動は 広島
・その疲れ、“脳の疲れ”かも?回復のカギは「大谷選手」に「涙」 脳神経外科医が教える『休息の技術』【ひるおび】