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カギは「選択肢」と「教育」 台湾で広がる「オールジェンダートイレ」とは

海外
2025-07-06 06:30

台湾では今、性別に関わらず利用できる「オールジェンダートイレ」の普及が進んでいます。設置の狙いは?そして普及の背景に台湾社会を大きく変えた「教育の存在」が見えてきました。


【写真で見る】台北市内の小学校に設置されたオールジェンダートイレ


ドアがなく明るく開放的…「性別にやさしいトイレ」とは 

台北市内にある小学校。男の子と女の子が一緒にトイレに入っていきます。中には男性用の小便器が6つ、和式が4つ、洋式が1つ。すべて鍵のかかる個室になっていて、だれもが好きなトイレを使うことができます。


性別に関わらずすべての人が利用できる「オールジェンダートイレ」。中国語では「性別にやさしいトイレ」といいます。男女が一緒の空間で使うことからトラブルが起きないよう、さまざまな工夫がされています。


まず、トイレの仕切りには盗撮防止用の壁が設置され、のぞき見できないよう、ドアは床ギリギリまでの高さになっています。非常用のベルも個室ごとについています。中に人がいると自動で音楽が鳴る装置もつけられました。何よりトイレの入り口にドアがありません。明るく、開放的な空間になるよう、工夫されています。


児童に感想を聞いてみました。


「個室に分かれていますが、少し不慣れです」(女・9歳)
「男の子でも女の子でも使えるところが好きです」(男・9歳)
「異性が同時に入ってくることがあり、少し気まずかったです」(女・11歳)
「男性でも自分のスペースがあるのがいいです」(男・11歳)


受け止めは様々ですが、ポイントは「トイレの選択肢を増やしたこと」です。この小学校では21か所あるトイレのうちオールジェンダートイレはこの1か所。つまり、このようなトイレを使いたくない人は、通常の男女に分かれたトイレを使うことができます。


オールジェンダートイレを通じて「ジェンダー平等」を学ぶ

詹瑞璟(せん・ずいけい)校長は、今のところ大きなトラブルなどは起きていないと話します。


詹瑞璟校長
「トイレのドアは常に内側に開く構造になっています。なぜか?誰も使っていないことが一目でわかるからです。女の子も男の子も恥ずかしい思いをしないように、男性用トイレのドアは常に自然に閉まるように設計されています」
「今のところトラブルはありませんが、もちろん最初は多少の違和感や、目新しさや好奇心もありました。子どもたちが理解できるようにビデオを作るなど、教育を通じてトイレの意味を理解させています。今はすべての学校がジェンダー平等教育に熱心に取り組んでいます。様々な手段を使って、子どもたちにジェンダーについて知ってもらうようにしています」


台北市によりますと、オールジェンダートイレの設置は2016年に始まり、これまでに198校に設置されました。来年には236すべての公立学校に設置されるということです。


台北市教育局の黃國忠(こう・こくちゅう)学務校安室主任によりますと、設置のきっかけは2000年、性的指向が原因でいじめを受けていた中3の男子生徒がトイレで死亡した事件でした。これを機に2004年、性的少数者を含むすべての性別の平等を尊重する法律が施行され、学校でのジェンダー平等教育が義務化されたほか、オールジェンダートイレの設置を後押しすることになりました。


黃主任は、オールジェンダートイレは、学校でジェンダー平等についての教育を行う機能も果たしているとその意義を強調しました。2020年からは学校だけでなく、市内で新築・改築される公共トイレにオールジェンダートイレを設置することが推奨されるようになりました。


保護者からの反対はなかったのでしょうか?小学5年生の男の子と小学1年生の女の子の母親でもあるPTA会長の林さんは、「親たちは、とてもいい取り組みだ」と受け止めていると話します。


PTA会長 林姿妤さん 
「このトイレによって、子どもはひとりひとり尊重される空間を持つべきだということを教えることができるのでとてもいいと思います」 


林さんは、2人の子どもにどう教えているのでしょうか?
「5年生の男の子は間違いなく『なぜ女の子と一緒に使わなくてはならないのか』と思うでしょう。子どもたちには性別を尊重することを教えるべきです。この地域の親たちは学校がこのようなトイレを設置することをとても歓迎し、尊重しています。なぜならこれは教育であり、子供たちに教えるべき概念だからです」


「男性と一緒は不安」「抵抗を感じる」…市民の間では賛否も

学校だけではありません。公園や公共施設でも「オールジェンダートイレ」の設置が進んでいます。


市民はどう思っているのでしょうか?


台湾市民(女性)
「私の友人にも体は男性だけど男性用のトイレに入ることに不安を感じる人がいます。そういう人々にとってオールジェンダートイレは安心できると思います」


台湾市民(男性)
「もちろん賛成です。男女は基本的に平等ですし、何事も改革をするときには段階というものがありますから」


歓迎する声がある一方、不安を口にする人もいました。


台湾市民(女性)
「私は嫌ですね。男性がいると不安になります」
「抵抗を感じる人もいますよね。だって一緒にトイレを使う人がどんな人かわからないので」


「同性婚」が認められたのは「20年にわたる教育の成果」

台湾では2019年、東アジアで初めて同性婚が認められました。台湾が多様性を認める社会になった背景には、政治のリーダーシップ、そして学校での「ジェンダー平等教育」の効果があるという指摘がされています。実際にどのような教育が行われているのか。市内の中学校を訪ねました。


先生「女の子が女の子を好きになってもいいですか?」
生徒「それは受け入れられません」
先生「女の子が女の子を好きになるのはダメですか?」
先生「彼が片思いしているのは男の子?女の子?」
生徒「男の子」
先生「じゃあどうして素直に気持ちを伝えないの?」


映像をみながら同性愛について、また社会の中で男女の役割が固定化していないかについて議論しています。


台湾では小学校から高校までジェンダー平等教育を年間8時間取り入れることが義務付けられています。さきほどの台北市教育局の黃主任は、教育の結果、台湾社会はますますジェンダー平等の概念を受け入れるようになり、性差別が減っていると強調しました。


台北市教育局 黃國忠 学務校安室主任
「私たちは22年間、ジェンダー平等教育を実施してきた経験があります。学生時代にこの教育を受けた子どもたちが大人になり、社会の雰囲気も徐々に『ひとりひとりの性的指向や結婚の選択を尊重すべきだ』と考えるようになりました。それが同性婚の成立につながったのです」


授業の感想を生徒に聞いてみると。


「私の両親やその上の世代では多くの人が「男は外で働き、女は家にいるべきだ」と考えていました。でも現代社会ではその考え方はもう通用しません。今は職場でも学校でも男女平等であるべきだと思います」(男・13歳)
「ジェンダー平等は当然のことだと感じています」(女・14歳)


ジェンダー平等教育の目標は「人間性を取り戻し、違いを認め合うこと」

長年、ジェンダー平等教育に関わってきた段世珍先生は、「何が正しいのかを教えるのではなく、子どもたち自身が発見し、考える力をつけること」が大切だと考えています。そしてなにより授業の目標は「人間性を取り戻すこと」そして「違いを認め合うこと」にあると言います。


天母国民中学校 段世珍先生
「私は教育の最終的な目的は『人間』に立ち返ることだと思っています。『人間とはこうあるべきだ』という固定観念を持たないようにするべきです。性的指向については、他人を害さない限りそれぞれが自分の意思で、自分の人生に向き合えるべきだと思います。私たちはひとりひとりが異なる文化的背景を持ち、考え方のロジックも違っているということを理解する必要があります。だからこそ自分自身としっかり向き合い、相手を理解しようという姿勢でお互いに善意をもってコミュニケーションをし、理解しあうことができれば、社会はもっと豊かで、もっと素晴らしいものになると考えています」


文 JNN北京支局 立山芽以子
撮影 JNN北京支局 室谷陽太 


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