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中国では今、少数民族の言葉が存続の危機に陥っています。内モンゴル自治区で何が起きているのか。一方で隣のモンゴル国は今年、長年使われていなかったモンゴル文字の復活を決めました。言葉をめぐって揺れる2つのモンゴルを取材しました。
【写真を見る】中国による「同化政策」…言葉をめぐって揺れる「2つのモンゴル」【報道特集】
旭鷲山「モンゴル人として残念」
モンゴルの首都・ウランバートル。
大相撲の元小結・旭鷲山。1991年にモンゴルから来日し、史上初のモンゴル出身力士として多彩な技で人気を集めた。旭鷲山が切り開いた道をたどるように、その後多くのモンゴル人が来日。朝青龍や日馬富士といった名横綱も続々と誕生した。
元小結 旭鷲山(51)
「モンゴル相撲をとっていたら、日本で強くなるんですよ」
今に至るモンゴル人力士の草分け的存在だが、来日当初は戸惑うことが多かったという。
元小結 旭鷲山
「一番初めに僕が日本に行ったとき、みんな『モンゴル』って国がわからなかったんです。『えー、モンゴルって中国?』『モンゴルってどこなの?』って日本人はわからなかったんですよ。でも今はモンゴルがわからない人っていないので。みんな分かるようになったので、すごくうれしいですよ。もう説明する必要がなくなったので」
引退後、故郷のモンゴル国に戻り、国会議員などを務めたが、今「あること」が心配だという。
元小結 旭鷲山
「モンゴルの言葉を話してはいけない、モンゴル文字は学校で教えてはいけない。これは本当に残念ですね。特に僕らは同じモンゴル人なので大変残念です」
「2つのモンゴル」で起きていること
それはモンゴルの隣の国、中国で起きていた。中国北部にある内モンゴル自治区は、人口約2400万人。そのうちの2割、約400万人がモンゴルの人々だ。
「各民族はザクロのように固く団結しよう」
いたるところで目につくのは、民族団結を促すスローガン。実がギュッと詰まったザクロは、民族団結の象徴とされている。
中国では、多数派を占める漢族のほか、55の少数民族が暮らしている。モンゴル族も、ここでは少数民族の一つに数えられている。
中国・内モンゴル自治区とモンゴル国。なぜ、モンゴルは2つに分かれることになったのか。歴史は13世紀にさかのぼる。
1200年代後半、世界史上最大規模の広大な領土を誇ったモンゴル帝国。率いたのは、あの、チンギスハーンだ。
その後帝国は崩壊し、17世紀には当時の清朝に征服され、中国の一部となった。
1924年、北部は旧ソ連の支援を受けて独立。漢族の入植が進んでいた南部は1949年、中華人民共和国の建国に伴い、現在の「内モンゴル自治区」となった。
中国の内モンゴル自治区では、道路標識や看板には漢字とともにモンゴル族固有の文字・モンゴル文字が併記されている。
これまで公用語である中国語とともにモンゴル語を学び、使うことが許されていた。しかし5年前、事態は一変する。
中国「同化政策」に広がる抗議
モンゴル族
「私たちは自分の子どもの将来がどうなるか、わからなくてとても不安です。私たちの気持ちを訴えましょう」
モンゴル族の親たちが、学校の前に集まり抗議の声を上げた。きっかけは2020年、中国政府が「国語」や「歴史」といった一部のモンゴル語の教科書を中国語に切り替えるなど、モンゴル語による授業を大幅に減らす方針を打ち出したことだ。
ここ数年、中国政府は少数民族に対し、中国語教育を強化するなど漢族への同化政策を進めている。
「モンゴルの言葉が失われてしまう」
危機感を抱いた生徒や親による抗議活動は瞬く間に拡大した。授業をボイコットする動きも広がったが、中国政府は抗議活動の参加者を次々と拘束。徹底的に抑え込んだ。アメリカを拠点とする人権団体によると、約1万人が当局に拘束されたという。
国際的な非難にさらされた中国政府は、こう主張した。
中国外務省・華春瑩報道官
「モンゴル語の授業時間も、使用教材も、授業で使う言語も変わりません。中国語とモンゴル語を使うことに変わりはありません」
しかし、2023年には習近平国家主席自ら内モンゴル自治区を視察。中国語の使用を徹底するよう指示を出すなど、方針は強化されている。
抗議活動から5年。現地はどうなっているのだろうか?
「モンゴル語が話せない」親の懸念
内モンゴル自治区・西部にあるオルドス市には、モンゴルの子どもたちが多く通う民族学校がある。
中国の国歌が流れる校庭で、敬礼する子どもたち。校舎には「中国語を話そう」というスローガンが掲げられていた。
抗議活動に参加したという人に話を聞いた。
モンゴル族の親
「この学校はまだましで、子どもたちはモンゴル語で勉強していますが、他の学校ではもうできません」
モンゴル語による授業はここ数年で大幅に削減されたという。
モンゴル族の親
「今は自分たちが家で言葉を教えるしかありません。モンゴル語による授業を受けられないから、子どもは幼稚なモンゴル語しか話せなくなっています」
この男性もまた、モンゴル語が失われてしまうという危機感を抱いていた。
モンゴル族の親
「(モンゴル語による)授業は禁止されました。子どもは幼稚園に通う歳ですが、モンゴル語で教える幼稚園も無くなりました。当時、激しく抵抗したけれど最後は中国共産党の勝ちですよ」
モンゴル語による授業削減という中国政府の方針に抗議して辞職した教師もいたという。
モンゴル族の親
「子どもが民族の言葉を学べなくなれば民族は消えてしまうでしょう。私の同級生の子どもたちの多くはモンゴル語が話せなくなっています。深刻な問題です」
モンゴル族の子どもが通う民族学校の教師は、授業の変化をこう証言した。
民族学校の教師(漢族)
「小学1年生は全部中国語です。今は全部中国語ですよ。モンゴル語の授業は少しはあるけれど、他は全部中国語で教えています」
Q.民族学校はモンゴル語で学ぶ学校ではないのですか?
「以前はそうでしたが、ここ数年で教育改革が行われたのです」
授業が減った影響は、はっきりとあらわれていた。
モンゴル族の生徒
「モンゴル語による授業は、前より少なくなりました」
Q.モンゴル族の子どもたちはモンゴル語を話せるの?
「僕は少しは話せます」
Q.中国語とモンゴル語どっちが話しやすい?
「中国語です。 モンゴル族の子どもも中国語で授業を受けるので」
変化が起きていたのは、学校だけではなかった。
消されていくモンゴル文字
街中では、これまでモンゴル族の文化を保護するため併記されていた「モンゴル文字」の表記が少なくなり漢字のみの看板が並んでいた。
Q.お店の看板にモンゴル文字はないのですか?
漢族の店主
「無い、無い。いまは必要ないから」
モンゴル文字を併記しなくてもよくなったのだという。
モンゴル族の店主
「正直言って私たち少数民族に対する政府の抑圧です」
Q.これは政策変更ですか?
モンゴル族の店主
「これ以上は言えません。政策に関わることですから。だけど、悪いことですよ」
内モンゴル自治区で急速に進む「漢族への同化政策」。その影響は、こんなところにもあらわれていた。
世界史上最大規模の帝国を築き上げたモンゴルの英雄、チンギスハーン。オルドス市内には、チンギスハーンが眠るとされる廟がある。漢族の観光客にこんな質問を投げかけてみた。
Q.チンギスハーンはどこの国の英雄だとおもいますか?
漢族 観光客
「中国ですよ」
Q.なぜそう思うのですか?
「歴史がそうだから」
Q.チンギスハーンはどこの国の人ですか?
漢族 観光客
「モンゴル人でも、中国人でもあります。モンゴル人は中華民族の一部であり、56の民族の一つです。モンゴル国も中国が取り戻す可能性もありますよ」
中国で消えるモンゴル語。失われゆく、モンゴルのアイデンティティー。危機感を抱いたのはとなりの国、モンゴル国で暮らす人々だ。
80年ぶりのモンゴル文字復活
2020年、中国国内での抗議活動に呼応するようにモンゴル国でも「モンゴル語を守ろう」というキャンペーンが展開され、瞬く間に世界各地に広がった。キャンペーンを主催したNGOは、中国政府の弾圧から逃れてくる内モンゴル自治区の人たちを助ける活動も行ったという。
NGO「言語を守ろう」 バーサンジャルガルさん(33)
「モンゴルでは『命より名誉が大事。名誉とは言葉や文化を守り抜くこと』です。命をかけてモンゴル語を守ります」
市民たちも、中国の状況に胸を痛めていた。
モンゴルの市民
「民族を絶滅させるためには、まず言葉に手をつけてくるのです。とても残念です」
モンゴルの市民
「(内モンゴル自治区の人には)いつまでもモンゴル語を学び続けてほしいです。あきらめずに抗議し続けてほしいです」
実は、モンゴル国で暮らす人々の多くは「モンゴル文字」が読めない。長らく旧ソ連の強い影響下にあったため、1940年代「モンゴル文字」にかわりロシアで使われている「キリル文字」を導入したからだ。
確かに、街で見かけるのは「キリル文字」ばかり。「モンゴル文字」はほとんどない。
中国国内で進む急速な「モンゴル語消滅」の動きは、モンゴル政府のある決断を後押しすることになった。それは…
言語政策国家委員会 ナランゲレル事務局長(36)
「2025年1月1日からモンゴル文字とキリル文字で公文書を作成すると決めました」
ウランバートル市内で暮らす、トブさん。日本に3年間留学し、今は日本人観光客向けのガイドをしている。
トブさん(35)
「これは縦文字(モンゴル文字)ですね。モンゴルの昔の文字」
Q.縦文字(モンゴル文字)は読めない?
トブさん
「すごく恥ずかしいんですけど、読めないです。みなさんのような外国の方から(モンゴル文字は)格好いいですよ、なぜ今キリル文字なんですか?といわれると、すごい恥ずかしくて」
トブさんは今、独学でモンゴル文字を勉強している。
トブさん
「私たちが何ができるのかというと、私が縦文字(モンゴル文字)を勉強したり、正しいモンゴル語で話をしたり、その本質的な本当の価値を次の世代に伝えていく。私たちにできることはそういうことなんでしょうね」
モンゴル文字を使い続けてきた中国の内モンゴル自治区は、文字や文化が保存されている“特別な場所だった”と、トブさんは考えている。
トブさん
「縦文字(モンゴル文字)でものすごく早く、正確に読んだり書いたりできるというのは私からみるとすごいなと思いますよね。格好いいなと思います。ああならないと、私たちが恥ずかしい」
モンゴル国で暮らすモンゴル人は約330万人。一方、内モンゴル自治区には400万人が暮らしている。もし、内モンゴルからモンゴル文字が消えてしまったら。危機感は強い。
モンゴル政府は今後、公文書だけでなく、道路標識や看板などにも徐々にモンゴル文字を広げていく方針だ。
80年ぶりの「モンゴル文字」復活の動きは、教育現場でも広がっている。
この学校では小学校6年生から高校3年生が週2回、モンゴル文字を学んでいる。先生の悩みは、日常生活の中でモンゴル文字に触れる機会が少なく、生徒がすぐに忘れてしまうことだ。それでも生徒たちは、自らの民族の歴史と文化を再確認するように、積極的に学んでいる。
Q.モンゴル文字を学ぶのは楽しいですか?
生徒
「はい。モンゴル文字を学ぶと自分の文化を改めて勉強できるので、キリル文字を学ぶよりも気分がいいです」
忘れられた「モンゴル文字」を取り戻そうとする、モンゴルの人々。モンゴルで始まった「モンゴル文字」復活の動きは、一度失った言葉を取り戻すには長い年月がかかることを教えてくれる。
「2つのモンゴル」が問うもの
元小結 旭鷲山
「モンゴルという国の文化の一番のポイントは、言葉からはじまるので、やっぱり文字を忘れちゃいけない。日本という国は漢字、ひらがな、カタカナが全部英語になったら日本っていう国の意味がなくなっていくじゃないですか。それと同じでモンゴル文字は忘れちゃいけない」
民族のアイデンティティーである「言葉」をめぐって揺れる、2つのモンゴル。守っていくことの大切さと難しさを、今かみしめている。
「日本の子供たちはいいねって、どこかの国から圧力をかけられないで、日本の言葉で話しているのが本当にうらやましい。これは当たり前かもしれないけれど、僕らから見たらそうではないところがいっぱいあるので。国にとって一番大事なのは『言葉』と『文字』なので、これは子どもたちにちゃんと勉強していってもらいたいなと思います」
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