
身に覚えのない容疑で逮捕・勾留され、その後、衰弱死した16歳の少女。遺族が兵庫県などを訴えた裁判が10月21日に始まりました。兵庫県警では、別の少女に対してもルールから外れた聴取を行っていたことが明らかになりました。
16歳少女衰弱死 遺族が兵庫県など訴えた裁判始まる
るなさんの母
「ママにまかせてね」
娘のるなさん(仮名)は、2025年12月、16歳の若さでこの世を去った。
悲劇を繰り返させないために、警察と検察の捜査のあり方を問う闘いが続いている。
るなさんは、長年、障がい者福祉に携わってきた母に憧れ、中学卒業後、障がい者支援施設で働いていた。
しかし、施設で行われたイベントで、利用者のあごのあたりを複数回押さえつける暴行を加えたとして、2025年6月、兵庫県警に逮捕された。
——顎を押さえつけたりとか、そういう記憶は?
イベントにいた職員
「ないですね。警察が逮捕しに来た日も、何のことか思い出せなかった」
——暴行に当たるような顎を押さえることは?
イベントにいた職員
「全然それはなかった」
当時16歳、全く身に覚えのない容疑での逮捕・勾留は18日間に及んだ。るなさんは、釈放後にPTSDと診断され、逮捕から6か月後、亡くなった。
死因は「るい痩(そう)」。低栄養状態に陥り体重は19キロにまで減少していた。
母は、警察や検察の違法な捜査の末に、るなさんが死亡したとして、兵庫県と国を相手取り、損害賠償を求める訴えを起こした。
るなさんの母
「あの子が毎日『ママ』と話しかけてくれたことを思い出しながら、それを私が皆さんに伝わるようにお話しできたらなと」
10月21日、第1回目の口頭弁論が開かれた。施設には、るなさんを慕う家族や利用者が集まった。母は全身白の服に身を包んだ。「娘の潔白を証明する」という思いからだ。
裁判では、勾留中の警察の対応についても追及するつもりだ。
るなさんの母
「娘が留置場に入っている時の話をしてくれたのだが、番号で『67番』『67番』と。食べられないのに、『食べなあかん、私らのせいになるやん』と」
るなさんが留置場で書いた「取り調べの記録」。警察官が執拗に自白を迫る様子が記されていた。
るなさん(取り調べの記録より)
「本当はやったんだろう。しょうじきに言え。今言ったら楽になるぞ」
「もういやです。こんな生活、早くみんなにあいたいです」
「ママあいたい。ごめんね」
るなさんが逮捕されるきっかけとなったのは、知的障がいのある施設利用者が市役所に伝えた内容だった。
しかし、るなさんの死亡から3か月後。母のもとに、その利用者からの手紙が届いた。
施設利用者からの手紙
「ぎゃくたいかどうか分からないのに、ぎゃくたいとして伝えてしまった」
「オーバーに言ってしまった」
検察からは、不起訴になったとだけ伝えられた。
「娘の潔白証明する」法廷で母は…
21日、母は法廷に立ち、意見陳述をして自ら裁判官に思いを伝えた。
るなさんの母
「警察も、検察も、人々を助け、命と人権を守る立場にあると私は信じてきました。娘の身体を拘束する必要がなぜあったのか。私は、その事実と判断の根拠を明らかにすることを求めます」
一方、県と国は争う姿勢を示し、請求の棄却を求めた。法廷の後、兵庫県警は取材に対し…
兵庫県警(取材に対し)
「警察官による捜査、および留置施設における対応に、国家賠償法上の違法はないと判断している」
——国や県は争う姿勢を示しているが、この先不安はありますか?
るなさんの母
「不安はない。事実しか話すことはない。国民一人一人の気持ちを大切にしてほしいということを分かってもらえるまで、絶対伝えようと思う」
娘の無念を晴らすため、裁判に踏み切った、るなさんの母。そこに一通の手紙が届いた。
「同じようになっていたかも」別の少女もルールから外れた聴取
手紙
「突然のお便りをお許しください。お嬢さんの身に起きたことを知り、愕然としました。私の娘も同じように、突然、明石署に呼ばれ、取り調べを受けました」
手紙を送ったのは、同じ兵庫県に住むあまねさん(仮名・15)とその母だ。
るなさんのことを報道で知って以来、手紙のやりとりをしている。
るなさんの事件を捜査した兵庫県警・明石警察署。るなさんが逮捕された1年4か月前、あまねさんは別の事案で同じ明石署から聴取を受けていた。
当時、あまねさんは12歳、小学6年生だった。
あまねさん
「(私に)また同じようなことがあって、何日も何日も(聴取)となったら、るなさんと同じようになったかもしれない。今思うとやっぱり考えられない」
2024年2月、明石署の警察官から母のもとに突然電話がかかってきた。
あまねさんの母
「『娘さんを連れてきてください。学校でのトラブルについて話を聞きたいから連れてきてほしい』と」
午後4時半ごろ、あまねさんと母は明石署に到着すると、別々の部屋に通された。そこで、母が警察官から告げられたのは、耳を疑う内容だった。
あまねさんの母
「『娘さんは男の子の陰部を触った。それもグループでやっている』と言われた」
警察官の説明によると、「あまねさんは、複数のクラスメイトと一緒に男子児童A君の下半身を10回以上触った」と疑われていた。
あまねさんの母
「警察が嘘を言うわけないと思っていたから、動揺した。娘に申し訳ないが、娘を疑っていた。『やったのだろう』と」
「覚えていない自分が悪いのかな」小6女児が密室で迫られた自白
あまねさんは、女性警察官に持ち物検査をされたあと、こう聞かれたという。
女性警察官
「きょう呼ばれたのは、同じクラスのA君のことだよ。A君の下半身を触りましたか」
あまねさんは触った覚えはなかったが、追及が続くうちに、修学旅行中、鬼ごっこでA君を叩いてしまったことを思い出した。
あまねさん
「考えた末にその話が出た。それを言ったらもう『それで決定』みたいになった。小学生だったこともあって、大人の警察官と狭い部屋で2人で、しかも楽しい話ではなく、ずっと追及されることだったので、不安が一番大きくて」
警察官は畳みかけるように「他にも触った覚えはないか」と尋ねたという。
女性警察官
「そんなことしているんだったら、覚えてないわけないよね。お母さん泣いていたよ。言ったほうがいいと思うけどな。どう?」
さらに追及が続くと、あまねさんの心境に変化が…
あまねさん
「『覚えてない自分が悪いのかな』という気持ちがあった。自分が忘れっぽい性格であるし、本当にあるのかなと思ってしまった」
そして、「そういうことはあったかもしれません」と答えてしまった。
すると、自分のやったことを書くよう指示された。警察官から「叩いたのも触ったのも一緒だから、『触った』と書いて」と言われ、それに従ったという。
あまねさん
「なんでこんなに言ってくるのかと思ったが、『この人が言ったことを書かないと』と思った。やってないのに、と思いながら書いた。書かないと家に帰れない。何時間経っているかも分からない。でも部屋の中や外は暗くなっていて、本当に帰りたいし、しんどかったのもあって書いてしまった」
あまねさんの聴取が終わったのは、午後8時。警察署に到着してから3時間半が経っていた。
あまねさんの母
「『触ったも叩いたも同じだから『触った』と書いて』と言ったのは、絶対に許せない。娘も『写真撮られたんだよね』」と言い出して」
あまねさんは、事件の容疑者のように、あわせて6枚の写真を撮影されたという。
子どもに対する聴取はどうあるべきなのか。警察庁に聞くと…
警察庁(14歳未満について)
「写真撮影は、少年に多大な心理負担を与えかねないため、必要やむを得ない場合で、少年と保護者の承諾を得たときを除き、原則、してはならないこととしています」
また警察庁は、14歳未満への夜間や長時間の聴き取りは避けるよう全国の警察に通達している。
「そんな適当なの?」明石署から納得できる説明や謝罪はなし
あまねさんの両親が抗議するため明石署を訪ねると、警察官からこんな話が…
明石署の男性警察官
「A君がちょっと嘘をついているのではないか、ということが出てきまして」
警察が複数のクラスメイトに話を聞いたところ、いずれも否定したため、A君の証言が正しいのか、疑いが生じたという。
あまねさんの母
「『そんな適当なの』と思った。人に容疑をかけるのだったら、確固たる証拠があると思ったが、意外とそうではないのだと。そんなに簡単に呼び出されて犯人扱いされる、怖いと思った」
なぜ娘は虚偽の自白をさせられたのか。あまねさんの両親は何度も明石署に足を運んだが、納得できる説明はなく、謝罪もなかった。
そしてその翌年の2025年、明石署に逮捕されたるなさんが亡くなった。
あまねさんの母
「子どもが死ぬのは許せない。子どもが帰ってこないのは母親にとってありえない。私たちが抗議したのに、どうしてマシになっていなかったのか」
兵庫県警(少年課)は取材に対し、あまねさんの「写真データは削除している」としたうえで、聴取については「問題なかったと考えている」と回答した。
問われる「子どもへの聴取」
数多くの少年事件で弁護を担当してきた、川村百合弁護士。子どもへの聴取は慎重に行う必要があると話す。
川村百合 弁護士
「未成年は大人以上に自己が確立していない中で、はっきりと自己主張できないため、誘導のまま『はい はい』と言ってしまう。専門的なスキルがある人が事情聴取にあたるべきだが、スキルのない普通の警察官が、普通の大人に対する取り調べと同じ取り調べをしていることが問題」
川村弁護士は「警察による子どもへの不適切な対応は、他にも明るみに出ていないケースがあるのではないか」とみている。
川村百合 弁護士
「触法少年(14歳未満)の調査で、弁護士が付くケースは滅多にない。いわゆる泣き寝入りをしていたり、あるいはうちの子が悪いのだと我慢をしていたり、力のない親子が警察に厳しい追及を受けていることが多いと思うので、表に出てこないかなと」
「同じ悲劇を繰り返さないで」母親の願い
21日、あまねさんの母は神戸地裁を訪れた。
娘と同じ明石署での取り調べを受けた末亡くなった、るなさんの裁判を傍聴するためだ。
手紙のやりとりをしていた、あまねさんの母とるなさんの母。この日、初めて顔を合わせた。
あまねさんの母
「何を言っても信じてもらえないのは苦しいと思う。絶対許せない。本当に頑張っていただきたい」
るなさんの母
「貴重なお手紙を読ませていただき、支えになっている。ここに私が立っていられるのも、お母様の手紙のおかげ」
釈放後、るなさんは、衰弱する中でも「警察が謝ってくれたら許せる」と話していたという。
娘に謝ってほしい。二度と同じ悲劇を繰り返さないでほしい。るなさんの母は願っている。
るなさんの母
「『謝ったら許せるねん』と言った言葉に私は衝撃を受けた。許せるんだ、つらい思いをしているのに許せるんだと。どれだけ国や警察や検察が否定しても絶対に伝えないと。伝わるまで伝えないといけない」
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