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「街の灯が消えてしまう」人影消えた中心市街地からアートが息づく街へ 地元出身の起業家が挑む「前橋再生」の軌跡

国内
2026-10-17 08:00

地方都市の再生や地域活性化が各地で模索される中、10年の歳月をかけて群馬県前橋市に大きな変化をもたらしているプロジェクトがあります。活気が失われつつあった中心市街地に新たな息吹を吹き込み、アートや建築を軸とした街づくりを牽引しているのは、前橋市出身の起業家・田中仁さんです。アイウエアブランド『JINS』を創業し、ビジネスの世界で第一線を走ってきた田中さんが、なぜ自身の故郷・前橋の街づくりに情熱を注ぐようになったのか。その原点や、地域の象徴となる老舗旅館の再生にまつわる舞台裏、そして独自の街づくり哲学について詳しく語ってもらいました。


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世界大会での衝撃と起業家育成の始動

田中さんが故郷・前橋の街づくりに深く関わるようになったそもそものきっかけは、2011年にモナコで開催された起業家の世界大会に日本代表として参加したことでした。世界中から集まった起業家たちが、事業の成果だけでなく、自国や地域社会に対して多大な貢献を行っている姿を目の当たりにし、大きな衝撃を受けたと言います。

「欧米を中心とした起業家の社会や地域に対する貢献が非常に大きくて、自分自身を振り返ったときに、そこまで社会や地域に向き合えていないとショックを受けました。帰国して、自分にできることはないかを考え始めたのがきっかけです」と田中さんは当時を振り返ります。

まず自らができる地域貢献として着手したのが、故郷である群馬県での次世代の起業家育成でした。

挑戦する風土を地域に根付かせるべく、『群馬イノベーションアワード』や、実践的なビジネスを学ぶ『群馬イノベーションスクール』を立ち上げ、地域の起業家育成や開業率の向上に長年尽力してきました。


活気が薄れる街への危機感と、共に描いたビジョン

起業家育成の取り組みを通じて前橋に足を運ぶ機会が増える中、田中さんはかつて賑わっていた中心市街地の急激な変化を目の当たりにします。


日曜日の午後であってもアーケード商店街に人影が少ない様子に、「このままでは街の灯が消えてしまう」と強い危機感を抱きました。一方で、街を何とかしたいと活動する若い世代の熱意に触れ、「自分も力を尽くしたい」と、本格的な街づくり支援へと歩みを進めることになります。

街づくりの土台としてまず求められたのは、地域全体が目指すべき方向性を示す明確なビジョンでした。

そこで田中さんは前橋市と共に「前橋ビジョン実行委員会」を発足させました。外からの真っ新な視点を取り入れるため、海外の専門家チームを招き、市長や商工会議所をはじめ、市民や有識者を交えた対話と調査を重ねました。

その結果誕生したのが、同市出身のコピーライター・糸井重里さんの協力も得て掲げられた『めぶく。』というビジョンでした。地域の多様な芽が育ち、新たな価値が生まれる街を目指すこの言葉は、その後の民間主導による様々な街づくりプロジェクトの核となるコンセプトとなりました。


老舗旅館の再生から広がる街の変革

ビジョン形成と並行して進められた象徴的なプロジェクトが、江戸時代から300年以上続く老舗旅館を前身とし、長年閉鎖されていた『白井屋ホテル』の再生でした。

マンション建設の計画が浮上する中、歴史ある街の記憶を残すため、田中さんは起業家としての情熱からこの場所を引き継ぐ決断をします。

世界的な建築家やアーティストとの協働を実現させ、2020年12月、新たな宿泊施設として蘇らせました。


「もともと20代から建築は好きで建築家との交流もありましたが、アートに深い関心を持ったのはこの取り組みからです」と田中さんは言います。

「言葉で説明してもなかなか伝わらないことも、目で見える形になれば多くの人に伝わります。将来こうなりますと語るだけでなく、出来上がったものを見ていただくことで、『こういうことだったのか』と納得してもらえる」と語る通り、この施設の完成は、街づくりの本気度を地域に具体的に示す大きな転機となりました。

この再生プロジェクトを皮切りに、周辺の商店街にも魅力的なカフェやレストラン、ギャラリーなどが次々と誕生し、前橋の街並みは着実に新しい姿へと変化を遂げています。


「対話」から生まれる街づくりと地域の信頼

企業経営において数々の実績を残してきた田中さんにとっても、街づくりという取り組みは、従来のビジネスとは全く異なる難しさがありました。

組織のトップとして方針を示せばスタッフが一丸となって動く企業組織とは違い、街には多様な考えや感情、異なる生活背景を持つ多くの人々が暮らしているからです。


田中さんは企業経営と街づくりの違いについて、「会社は方針を決めれば実行するためのスタッフが揃っていますが、街には本当に様々な考えを持つ方がいて、簡単に思いが一つになるわけではありません。そうした中で物事を進め、共感を広げていくのは本当に大変なことでした」と明かします。

田中さんは多様な意見の衝突や対話を重ねながらも、粘り強く行動し、目に見える形を作り続けることで、地域からの信頼を少しずつ築いてきました。

「(ホテルという)目に見える場がオープンしてからは、『彼がやりたかったのは、政治家になりたいわけでもお金儲けのためでもなかったんだ』と、地域の方々が抱えていた不安や疑念も解消されていきましたね」と、田中さんは嬉しそうに語ってくれました。

単なる言葉や理想論ではなく、実績と行動で示し続ける姿勢こそが、前橋の街づくりを動かす原動力となっています。


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