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フェイク・ニュースと「プレス・ファクトチェック」<明日のジャーナリズムへ>第6回【調査情報デジタル】

国内
2026-09-19 08:30

 SNS全盛時代にあって、新聞やテレビなど伝統的な報道機関の持つ影響力や存在感は相対的に弱くなったと指摘される。しかし、健全な民主主義社会には専門的に報道に携わる組織あるいは個人が不可欠であることは論をまたない。ただ、そうした人たちの取材報道活動=ジャーナリズムを時代にあわせてアップデートすることは重要だ。そのために必要な議論の素材を提供する目的で始まった、専修大学ジャーナリズム学科・山田健太教授による連載「明日のジャーナリズムへ」の第6回は、フェイク・ニュースとファクトチェックに関する論考。


【画像を見る】記事内で使われているデータ


「戦後最悪の沖縄差別」とまで称された、デマ情報に揺れた沖縄県知事選が終わった。結果は既報の通りで、これをもってネット言説がどこまで選挙結果に影響を与えたのか、あるいは与えなかったのかを語るには、今後の調査を待つしかないものの、選挙期間前も含めてのネット空間における情報が一定の世論形成や投票行動に影響を与えたことは想像に難くない。


すでに2024年以降、こうした主としてSNS上の選挙関連情報が投票行動に大きな影響を与えることが実証的に証明され、それは裏返せば放送や新聞の社会的役割や報道の仕方の喫緊の見直しを迫るものであったことは間違いないからだ。


ファクトチェックの歴史

日本の国内メディアにおいて、最初に意識的な「ファクトチェック」が行われたのは、朝日新聞による安倍晋三総理大臣(当時)の国会答弁であるとされる。明確な形で紙面においてファクトチェックを謳った最初の記事は、2016年10月24日付朝刊だ。


そこでは「首相の答弁 正確? 『ファクトチェック』してみました 臨時国会中盤」との見出しで、「大統領選などで米メディアが積極的に取り組む『ファクトチェック(事実確認)』の手法を使って、安倍晋三首相の答弁を調べた。」と、まさに<ファクトチェック>というワードを使用して、安保関連法制についての答弁などを、「誇張」「結果的に誤り」「一部誤り」「正しい」などと判定している。


その後も朝日新聞は、主として政府答弁や主要演説のファクトチェックを続け、その流れはほかの新聞にも広がっていった(南彰・望月衣塑子『安倍政治 100のファクトチェック』集英社新書、2018年12月)。


一方で安倍総理自身もファクトチェックという言葉を使い、「ぜひ国民の皆さんに、新聞をよくファクトチェックしていただきたい」(2017年10月7日の党首討論会での発言)などと反論するまで「一般化」していった。ちなみに朝日新聞は、その後も継続的に紙面上で検証作業を続けてきている。


そうしたなか、記事件数が急激に上昇するのが2025年だ。下のグラフは、朝日新聞のデータベースで「ファクトチェック」というキーワードで本紙朝夕刊の記事・見出しを検索した際のヒット件数、その10年分の推移を示している(なお、2015年まではほぼゼロであることから起点を2016年にしている)。


言わずもがなであるが、前年2024年の参院選、東京都知事選、そして兵庫県知事選を通じ、SNS旋風が吹き荒れたなかで、改めてファクトチェックが注目されていった。政府においても「ネット空間の健全化」のために偽・誤情報対策の検討が始まり、選択肢の一つとしてファクトチェックが示された。


前述の朝日新聞記事の記述にもある通り、日本でファクトチェックが本格化する前から、アメリカおよびヨーロッパ各国では、同種の試みが積極的になされ、日本にも紹介がされてきていた。


米大統領選挙のテレビ討論会時における正誤チェックなど、主には政治家の発言を対象として、基幹メディアがその担い手として実施されている。また同時に、ファクトチェック機関が設立され、そのルール作りも進んでいった。


日本における取り組みの一つが、2017年設立の「ファクトチェック・イニシアティブ(FactCheck Initiative Japan:FIJ)」だ。FIJは、2017年にファクトチェック・ガイドライン(暫定版)を作成し、翌18年に正式版を公開。さらに2019年にはレーティング基準を策定している(以下の表)。


また、海外も含む活用例(主要な海外ファクトチェック・サイトも掲載)をまとめたサイトも運営しており参考になる。自らがチェックをするのではなく、同機構の基準を活用して各メディアが実施するという枠組みを作ってきているもので、放送局の参加も増えてきた。


関連して、国際ファクトチェックネットワーク (International Fact-Checking Network、IFCN)は、ファクトチェック活動の原則についての綱領を定める。2016年9月に制定されたファクトチェック綱領は以下の5項目で、国際標準として認知されてきている(2020年4月に改訂版発表)。2020年改定版ではより詳細に原則を示したガイドラインも公表されている。なお、同団体は米国のPoynter Instituteのもとで2015年に設立された。


【IFCNのファクトチェック綱領】
(1) 非党派性と公平さ(A Commitment To Nonpartisanship And Fairness)
(2) 情報源の透明性(A Commitment To Transparency Of Sources)
(3) 財源・組織の透明性(A Commitment To Transparency Of Funding & Organization)
(4) 方法論の透明性(A Commitment To Transparency Of Methodology)
(5) 公明で誠実な訂正(A Commitment To Open And Honest Corrections)


一方で、日本ファクトチェックセンター(JFC)は実際にインターネット上の誤情報や偽情報を検証し、真偽を公表する非営利の専門組織である。きっかけは2020年2月に公表された総務省「プラットフォームサービスに関する研究会」の報告書が言及した「民間による取り組みの推進」であり、2022年にセーファーインターネット協会のもとで発足し、JFCのファクトチェック・ガイドラインと判定基準を定めている。


日々のファクトチェックに関しては、編集部が独自に対象を選び検証を実施、その体制は経験を積んだプロのジャーナリストやエディターらと学生らインターンで構成されると、同機構のウェブサイトで説明されている。


沖縄の挑戦

時計の針を2018年まで戻し、沖縄の話をしたい。世の中にファクトチェックという言葉が出始めるなか、選挙期間中のファクトチェックにトライする社も現れた。2018年沖縄県知事選における沖縄タイムスと琉球新報の沖縄地元紙だ。


その前年の名護市長選において、当時の現役市長を誹謗中傷するデマがネットで拡散し、それが口コミ等でも広がり、選挙後の調査でも投票行動に一定の影響を与えたとの見方があったことから、デマを看過できないとの「危機感」が地元メディアに強くあったことが、実現に大きく作用したと思われる。今日に続く、選挙期間中の「プレス・ファクトチェック」の始まりである。


その特徴として、沖縄タイムスは「クロ判定型」で正しい事実関係を指摘する方法をとり、協力先として法政大学社会学部の藤代裕之研究室+国際ファクトチェックネットワーク IFCNを選択した。一方で琉球新報は「アラーム型」で虚偽の書き込みを指摘(候補者名を明記せず)する方法をとり、協力先としてファクトチェック・イニシアチブ(FIJ)を選択した。このどちらの手法が「正しい」かの正解はなく、まさにファクトチェックの方法は色々ある、ということをまず確認しておく必要がある。


具体的に当時の記事を見ると、琉球新報の「ファクトチェック(フェイク監視)」は、知事選世論調査(9/8)、沖縄振興一括交付金(9/21、続報9/27)、安室さん特定候補者支援(9/24)、携帯電話料金削減公約(9/25)の5本で、このほかに、「ツイッター分析」も実施し、選挙後も「ファクトチェック」のワッペンを今日まで継続してきている。


今回の県知事選では、ほぼ連日、しかも具体的な候補名を出して報道しているのと比較すると、わずか8年前にもかかわらず隔世の感がある(特定候補を利さないようにという断り書きを紙面上で発表、名前を伏せていた)。ちなみに、2018年当時に東京と沖縄でファクトチェックをいち早く手がけた2人が、いま責任者として同紙のプレス・ファクトチェックを牽引している。


一方で沖縄タイムスの「偽ニュース調査」は、候補者政策の文字数(9/27)、翁長元知事の言動(9/27)、佐喜眞候補の市長実績(9/27)と、約70本の収集情報から17本を検証対象にし、ネット上では追検証のためリンク先や画像も掲載した。12人で取材チームを結成と報じている。こちらも今回の知事選では連日、ファクトチェック記事を掲載している。


こうした沖縄紙の取り組みに追随するような動きも出てきた。今回、NHKが知事選の期間中に個別候補についての「正誤」情報を出したのも、おそらく初めてのことであったと思う。2026年9月9日のウェブ配信記事では、「沖縄県知事選挙 候補者のフェイク相次ぐ 生成AIの偽動画も」の見出しのもとで、玉城デニー・古謝玄太両候補についての中傷生成AI動画や偽画像が広がっていることを指摘。また、YouTubeにおいて偏った内容の動画が多いとの注意喚起を行った。


なぜできたか、できなかったか

なぜ他メディアに先駆けて沖縄紙が選挙期間中のプレス・ファクトチェックができたかについては、おおよそ以下の理由が挙げられよう。


1つは過去の経験で、「普天間にはもともと人が住んでいなかった」などの激しい<沖縄神話>への「反論」体験が、両紙にはあったことだ。紙面のみならず、書籍の発行やネット空間での対応など、幅広い言論活動の結果、言えば変わるの「成功」体験があったことは大きかったであろう。


もう1つはすでに触れた痛い前例だ。名護市長選での「日ハム撤退」デマの影響や、在特会等のヘイト言説の拡散は看過できない現実としてチャレンジを後押ししたものと推測できる。さらには、前倒し選挙で思い切った選択がしやすかったことや、2紙の競合もプラスに作用したと思われる。


一方で、なかなかメディアが踏み切れない(なかった)理由としては、間違いなく選挙期間中の公平縛りがあった。一方の候補者の批判は公平原則に反するとか、そもそも一方に利することは駄目との「思い込み」が報道現場には強かった。公平原則=客観報道=不偏不党が、ファクトチェックを遠のけていたことになる。


その背景には、とりわけ2010年代以降の「政権批判=偏向報道だ」とする激しいバッシングがあったことが挙げられる。


そしてもう1つは、ファクトチェックは新聞の役割外との思いだ。選挙報道の常道は情勢判断(予測報道)や候補者の政策紹介で、候補者発言の正誤判断は枠外であったということだ。取材態勢も経費も情勢調査に集中投下されており、その成果である報道も、当然ここに集中することになる。


すでに知られていたファクトチェック作業は、第三者機関のやることであって、メディアの仕事は事実報道であってファクト監視は報道ではないと考えていた節もある。それが2024年の非常事態を前に大きく転換し、特定の候補者の発言を取り上げることや、正しくないことを報じることを、選挙期間中の重要な報道の1つとして位置付けたことで、状況は変わったということになる。


ただし、まだまだ試行錯誤の部分は多く、今回の沖縄知事選の積極的なプレス・ファクトチェックの実践は、沖縄ならではの経験と情報環境があってこそとも言える(地方紙の果敢な取り組みとしては、兵庫県知事選等の神戸新聞や、宮城県知事選の河北新報がある)。


残されている課題

ファクトチェックは事実検証(正誤検証)であるわけで、報道機関が日常からしている番組や記事を作る上での日常的作業そのものである。真実性・正確性の評価・判定というジャーナリズムの基本である「リアリティ・チェック」そのものであるからだ。


したがって、それ自体は目新しいものではないものの、すでに触れたように「事実報道」が報道の基本であるなかで、事実でないもの、あるいは根拠が不明で正誤の判断がつかないものを報じるという経験が、これまではほとんどなかったことは間違いない。しかも、結論のみならずそこに至る根拠を明らかにするということは、取材過程の開示でもあるわけで、こうした経験も少なかったことが窺われる。


さらに選挙期間中のファクトチェックは、1週間から2週間という極めて限られた時間的制約の中で、正誤判断をしなくてはいけないという問題と、報道機関あげての総力戦で取材態勢を組んで臨む選挙取材のなかで人的な制約も大きな課題だ。こうした物理的な条件をいかにクリアし、従来の選挙報道に工夫を加えていくかが問われることになる。ある意味では、あらかじめ人員配置を決めた取材日程など、綿密なスケジュール取材であった選挙戦報道を変更する必要があるわけだ。


しかしこの間の実践で経験値も上がり、あえて結論を示すことなく判断根拠になりうるデータを示すなど、さまざまな報じ方によってプレス・ファクトチェックが「当たり前」に行われつつある。そのなかで「フェイク≒うそ」については、おおよそ以下の4つに分けることを行ってきている。


(1)明らかな嘘(虚偽)=事実関係明白
(2)ほぼ間違いなく嘘=事実証明不可能・困難
(3)嘘の可能性高い=事実の可能性は低い
(4)怪しい情報=不確かな事実


これは従来の広義の誤報の判断基準である、「捏造」=ゼロから有を作り出す、「虚偽」=シロをクロにすり替える、「誇大」=1を10に膨らませる針小棒大、「誤報」=一部虚偽が含まれる、「誤導」=虚偽はないが誤解を招く、「結果誤り」=発表時は事実と信じるに十分な理由があったが結果的には誤りであった――に通ずるものがある。


視聴者・読者の視点に立ったチャレンジを

すでに報道界にとっての共通認識になっていると信じるが、情勢報道・量的平等報道といったこれまでの選挙報道のキホンはいったん横に置いて、視聴者・読者の信頼を回復するうえでは、イチからの出直しが求められている。形式的な公平公正原則や「検証・監視は非報道」という“思い込み”は、捨てる必要があるということだ。


こうした既成の固定観念からの転換という意味では、多くの報道機関において2025年前後に策定し直した選挙報道指針などで再確認が進んではいるわけだが、視聴者・読者の視点に立ったチャレンジが求められている。


誰のために何を報ずるかを考えるならば、従来の選挙報道がややもすると、より多くの情報をより早くそのまま伝えるに偏りがちだった。そこから、有権者のため要点を分析つきでわかりやすく伝えることをより強く意識するといった転換も必要だろう。その時に「プレス・ファクトチェック」は大きな足掛かりになるはずだ。


情勢報道も必要な場合もあるとは思うが、ここに資金も人材も大量投下した結果、そのデータは有権者よりもむしろ候補者(一部支持者)のためになっているきらいはなかったか、そうした見直しも求められている。その人員の1割でも、選挙期間中の偽・誤情報に対応できる余裕を持った人材配置が必要ということになる。極論、経験がある記者を1人、専任にするだけでも違った展開ができるはずだ。


先にも触れたように、ファクトチェックは結果だけでなく、その根拠を示すことが絶対条件で、それは事実検証という取材過程の「見える化」である。この取材の透明性確保は、選挙報道や政治報道に限らず、すべてのジャーナリズム活動において共通の視聴者・読者の信頼回復のためのスタート地点になりうるだろう。それは、いかに手間をかけ真実追及努力をしているかの証しであり、ネット言説とりわけSNS発信との違いを示すものだ。フェイクニュースを見破る力を有する報道機関(プレス)によるファクトチェックが、きちんと社会に評価されるかどうかの正念場にある。


<執筆者略歴>
山田 健太(やまだ・けんた)
専修大学ジャーナリズム学科/大学院ジャーナリズム学専攻教授。
専門は言論法、ジャーナリズム学。
自由人権協会代表理事、日本ペンクラブ副会長。放送批評懇談会、情報公開クリアリングハウスなどの各理事を務める。BPO人権委員会など歴任。
主な著書に、『法とジャーナリズム 第4版』(勁草書房)、『ジャーナリズムの倫理』(いずれも勁草書房)、『沖縄報道~日本のジャーナリズムの現在』(ちくま新書)、『転がる石のように~揺らぐジャーナリズムと軋む表現の自由』(田畑書店)ほか多数。
専修大学で一般公開の「表現の自由研究会」を開催中。


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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