
AIが注目を集めだした当初、AIは人間を単純作業から解放するが、クリエイティブな分野は代替できないという言説があった。ところが日々進化する生成AIは、いまや、文学や音楽、イラスト、マンガ、そして映画と、あらゆるクリエイティブの制作現場で利用され始め、そしてかなりの水準の作品を生み出しつつある。それに伴って大きな影響を受け始めているのが、各種の公募による賞やコンテストだ。これまでは人間の創造力を競い合ってきたが、生成AIが介在して生まれた作品があふれ出したとき、賞やコンテストはどうなるのか?3回目は、アートやイラストのコンテストをめぐる現状についてお伝えする。
アート・イラストのコンテスト事務局は取材対応に慎重
この連載では、1回目は「俳句・川柳」、2回目は「小説」のコンテストにおける生成AIへの対応について、主催する事務局や編集部に取材し、現状を伝えてきた。今回取り上げるアートやイラストのコンテストについては、基本的には生成AIの使用を不可とするものが多い。
生成AIへの対応について、10のコンテスト事務局に取材を依頼したところ、正式に回答してくれたのは3つの事務局だけで、その他は回答を避けた。ただ、匿名を条件に現状の懸念を話してくれた事務局が複数あった。その中には記事の文脈を問わず、生成AIの活用に関してスポットを浴びることで、ネガティブな反響を受けることを懸念していると説明した事務局もある。
こうした対応からは、生成AIへの対応はアートやイラストのコンテストにとってデリケートな問題で、メディアに説明すること自体がリスクになりかねないと感じていることが窺える。
取材に対して寄せられた実名、匿名による回答から、アートやイラストのコンテストをめぐる現状についてみていきたい。
生成AI使用が疑われる作品は応募者本人に確認
世界中から募集するイラストレーションのコンテストとして、日本イラストレーション協会が主催しているのが「JIA Illustration Award」。実力があるものの日の目を見ていないイラストレーターの登竜門として2000年から毎年開催されている伝統あるコンテストで、今年で27回目を迎えた。グランプリの作品には賞金50万円と副賞が贈られ、プロ・アマ問わず誰でも応募が可能だ。
応募要項には「一部でもAIを使用した作品は不可」と記載されている。同協会の蟹江隆広会長によれば、記載を始めたのは生成AIが一般の人でも使えるようになった頃から。「一部でもAIを使用した作品は不可」としている理由については次のように答えた。
「それまでまともに絵を描いたこともないような人が、AIを使用することでたまたま素晴らしい絵を制作してしまったということが起こり得ます。このような現象は著しくこのコンペの趣旨に反するものであり、容認することはできません」
仮に応募要項に反して生成AIの使用が疑われる作品があった場合、見極める方法を準備しているのかどうかについても聞いた。すると、過去に疑われる作品があったときの対応について明かした。
「決定的な方法はありませんが、昨年のケースではまず審査員から『この作品はAIで作成させているものだ』という指摘があり、そのように思われる理由を精査しました。その上で、応募者本人に連絡して、『自分の作品が掲載されているサイトを教えて欲しい』と頼みました。
コンペで受賞できるほどの実力があるイラストレーターであれば、それまでに相当数の作品を制作しているに違いありません。『X』に作品が掲載されているということで、実際に確認しました。その結果、掲載されている作品が5〜6点と少なく、経歴も確認できなかったこともあり、本人に問い詰めたところ、『辞退します』との連絡がありました。
昨年のケースでは1人発見できましたが、ルールを無視して応募してくる人がいるとは思っていなかったので、もしかしたら見逃してしまった人がいるかもしれません」
蟹江会長によれば、今年のコンテストではさらに多くの作品について生成AIが使用されていないかどうかを精査した結果、複数の失格者が出たという。
「今年も審査員から1人疑惑が指摘されたので、全ての受賞作品を見直しました。応募者本人に連絡を取り、作品を掲載しているURLを教えてもらい、連絡が取れた人のサイトを確認して、これまでの作品と矛盾がないかというところを見て判断しました。作家名で検索してもサイトが見つからない人や、連絡してこない人はAIで作成した可能性が高いと判断して、賞から除外する方針で精査しました。その結果、合計で7人の受賞予定者が失格になりました」
特許事務所に著作権調査を依頼するコンテストも
「JIA Illustration Award」と同様に「AI生成による作品の応募は不可」としているコンテストが、JRバス中国の『「グランドリーム」新デザイン募集』。高速バス「グランドリーム」の車体デザインと、専用エンブレムデザインを募集するコンテストで、最優秀賞の賞金は50万円となっている。今年6月1日から8月31日まで募集が行われ、9月9日に審査が行われる予定だ。
JRバス中国は「応募されたデザインが、第三者の著作権を侵害する可能性があることから、AI生成による作品は除外しています」と説明し、生成AIの活用への懸念を語った。
「AI生成によるデザインや文書等の作成については、我々の想像力を超えるものがあり、また時間短縮が図られるなど、便利なツールとして社内でも活用していますし、今後も活用の輪が広がるものと考えています。しかしながら、新しくデザインを制作するなどについては、その著作権の問題が残ると考えており、慎重にならざるを得ないと考えています」
また、生成AIの使用を確認する方法については、確実な方法はないと考えているという。
「内容が不自然など、明らかにAI生成であろうと推定される作品は候補から除外することを考えていますが、特に確認する方法を持ち合わせているわけではございません。審査員の先生により見極めていただければと思いますが、全てを見極めることは難しいと考えています」
一方、AIの利用を一部認めているコンテストもある。和歌山県が8月16日まで募集していた「和歌山県版図柄ナンバープレートデザイン公募」は、和歌山県独自のナンバープレートのデザインを国土交通省に提案するためにデザイン案を公募するもので、最優秀賞の賞金は30万円。募集要項には「著作権の確認がとれない画像生成AIの使用は不可」と記載されている。この記載について担当者に聞くと、以下の回答があった。
「デザインの作成にあたってAIを活用することはありうると考えています。そのため、著作権の確認が取れている生成AIの利用を完全に排除するものではありません」
では、生成AI画像の著作権はどのように確認しているのか。
「今回の公募は、広く一般の県民から募集するものではなく、プロとして活動されている方を対象にしています。応募の際、未発表でかつ著作権その他第三者の権利を侵害しないものに限るといった内容に同意をしていただき、その上で、一次審査通過作品については、著作権・商標権等の調査を実施する予定です」
AIの使用を完全にチェックすることは難しい
今回生成AI対応について質問し、回答があったのは以上の3つの事務局だったことは前述の通りだ。一方で回答を避けた事務局の中には、匿名を条件に生成AIへの懸念について語ったところもある。
このうち、AIを使用した作品を応募不可とするコンテストの事務局は、アーティスト独自の作品を評価する趣旨から応募不可としていると述べた。
「AIを使って作品を作ることも、新しいアートの流れにはなると思っているので、否定することではないのかなと思っています。ただ、私たちのコンテストは、アーティストの独自の発想と技法で作品を表現してもらって、評価して、次のステージに押し上げる役目を持っているので、生成AIの使用を認める考えは今のところありません」
また、仮に募集要項に反して生成AIを使用した作品があった場合は、見分けるのは難しいとの考えを示した。
「応募不可と言っているのに、悪意を持って応募してくる人は、上手くAIを使ってくると思います。例えば、構図をAIに考えてもらうとか、色を考えてもらうこともできます。AIで出力した画像を自分で油絵として描いてきたら、正直なところAIを使っているかどうかはわかりません。AIはいろいろな使い方が出来るので、完全にチェックすることは難しいという印象を持っています」
生成AIの利用を不可としている別のコンテストの事務局も、「0から創造するデザイナー様を応援したい」というコンテストの趣旨に反すると説明。その上で生成AIへの対応について答えにくい理由を吐露した。
「生成AIの問題はコンテストの審査をする上で、どの主催者様にも共通している悩みではないでしょうか。回答するにしても非常にデリケートで扱いが難しく、気軽に回答できないことも(回答を避けた)理由の一つでございます」
小説のコンテストでは、生成AIを補助的、または文章の一部に使用する新たな流れが出てきている。これに対して、アートやイラストでは、生成AIによる作品に特化したコンテストも一部にはあるものの、既存のコンテストの多くは生成AIの利用を認めていない。それだけアートやイラストの分野が、生成AIに取って代わられる脅威に晒されているのかもしれない。
ある事務局からは「AI創作物の著作権は曖昧で、AI創作物を個人の著作物と認めるのかについてはまだまだ議論の余地がある」との指摘もあった。議論が追いつかないほど生成AIが急速に進化していることが、関係者にとって悩ましい状況を作り出している。
「調査情報デジタル」編集部(田中圭太郎)
【調査情報デジタル】
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