
国会の会期末が迫る中、野党が全党一致して本会議・委員会を欠席するという、国会関係者でさえ「見たことない」と語る異例の事態が続いている。高市総理をめぐる「中傷動画疑惑」への答弁、「議員定数削減法案」「副首都法案」をめぐる与野党の激突、そして皇室典範改正案の行方――。永田町で何が起き、なぜここまで膠着したのか。TBS政治部の自民党国対担当・佐藤浩太郞記者と野党担当・奥村康平記者が現場で掴んだ情報をもとに、徹底解説する。
【写真を見る】【異例の“国会空転”】野党不在の衆院本会議も…高市総理の“中傷動画疑惑”&法案審議強行が引き金に?会期末迫る中、重要法案の行方は【edge23】
異例の「野党全党欠席」が示す“国会空転”の深刻さ
衆議院本会議や委員会の野党席が空席のまま時間が経過していく。そんな異様な光景が2025年6月末から続いている。野党側が与党の国会運営に反発し、全ての審議への出席を拒否する事態となっているためだ。
2025年6月30日には、衆議院本会議では国旗損壊罪を制定する法案の採決が行われたが、共同提出に名を連ねていた国民民主党と参政党両党を含む野党全党が採決の場に姿を現さなかった。TBS政治部の野党担当・奥村記者は「自分たちが出した法案の採決すら欠席する時点でいかに異例かということが分かる」と、国会空転の深刻さを語る。
異様な光景は、本会議だけではなかった。衆議院政治改革特別委員会など全ての委員会でも、野党議員の席は空のままだった。
与党側だけが出席し、実質的な発言や審議は行われず、ただ時間だけが過ぎていく「空回し」と呼ばれる状態。しかしこれでも、法案審議において重要な「審議時間の積み上げ」としてカウントされる。野党がいない中でも、与党は審議実績を積み上げることができるのだ。
野党の国対関係者は「こんなに荒れているのは見たことがない。与党だけでも進んでしまうこの状況の中で、審議拒否をすることの異常さをもっと知ってほしい」と心情を吐露している。
「陳述書で答える」発言が引き金に 高市総理の答弁姿勢と二つの「火種」
なぜ今回、野党は全党一致でここまで強硬な姿勢を取ったのか。
国会空転の発端は、高市総理をめぐる一つの発言にある。6月22日、衆議院予算委員会の場で高市総理はこう述べた。
「近日中に、奈良の秘書の陳述書と、いわゆる暗号資産に関する記述などどこにもない相手企業から送られてきた唯一の提案書、これを予算委員会の理事会に提出させてください」
一部週刊誌が報じた「中傷動画疑惑」や、「サナエトークン」疑惑への問いに対し、口頭での答弁に代えて文書提出で対応しようとするものだった。野党はこの姿勢を即座に拒絶した。
立憲民主党の国対委員長は「陳述書に書いてありますから陳述書をご覧くださいみたいな答弁で終わってしまって、国会でのやりとりをする意味がありません」と批判。国会での審議が議事録として残される点も野党が問題視した核心だ。紙を提出して「それをご覧ください」という形では、どのような議論が行われ、どのような立場で答えたのかが記録として残らなくなるという懸念である。
これを受けて参議院側の野党は、総理入りの予算委員会と、党首討論の開催の日程が決まるまでは、他の委員会の審議日程の協議に応じないと宣言。参議院では以降、審議がストップした状態が続いている。しかし参議院自民党からは予算委員会や党首討論の日程が示されないまま、事態は好転していない。
参議院自民党の幹部からも、記者会見の場で「総理に出てきてほしい」という声が上がっているというが、状況が変わる気配はない。
自民党国対担当・佐藤記者は「高市総理がこれまでも国会側からの要求を断ることがあったと聞いている。また今回問題になっていることが、自分の近しい人物に関わる指摘であることも、表立って話すことへの抵抗につながっている可能性があるのでは」と分析する。
一方、衆議院で審議が停滞している要因には、与党が提出した「議員定数削減法案」と「副首都法案」の二つがある。
とりわけ定数削減法案は、「与野党の協議会で1年以内に結論が出なければ比例代表で45議席を削減する」という内容。比例代表は少数政党が議席を確保するための重要な仕組みであり、その削減は一般的に野党に不利とされる。
野党5党は6月25日に審議の見送りを申し入れたにもかかわらず、与党の委員長は「職権」で審議入りを強行した。これが野党の怒りに油を注いだ。
野党担当・奥村記者は「火種が残っている状態でさらに大きくするような行動を取ってしまったことで、余計にどんどん溝が深まってしまい、『じゃあもう委員会には出ません』と審議を拒否するようなことになってしまっている」と経緯を解説する。
「落としどころが全く見えない」迫る会期末 国会打開の条件と残された時間
膠着した状況を打開しようと動いたのが、森衆院議長だ。7月1日、与野党の幹部たちと国会内で会談し、皇族数の確保に向けた皇室典範改正案の成立を最優先で取り組むこと、与党に対して集中審議や党首討論を開催できるよう努力することを求める異例の“仲裁”に乗り出した。
この議長の提案を踏まえ、7月2日には自民・中道の幹事長同士、国対委員長同士でそれぞれ会談が行われた。午前中の会談では、皇室典範改正案の審議を速やかにスタートさせるために国会正常化に向けて努力していくことを両党が確認した。
しかし、午後に行われた国対委員長同士の会談では、野党側が「副首都法案と議員定数削減法案を撤回しなければ審議に入る環境ではない」と通告。皇室典範をいわば“人質”として突きつける形となった。
佐藤記者はこの構図を「板挟み」と表現した。
野党は両法案の撤回を求め、維新は両法案の成立を求める。自民は双方の間に挟まれ、動けない。さらに高市総理はインド外遊中であり、国会出席への打診に返答は来ていない状態だという。
また、奥村記者は野党の国対幹部議員の話として、「『今回は野党の結束は相当固い、信じていい。与党も落としどころが見えていないように感じた』と話していた。また別の野党国対関係者は『普段ならこういうのはなんだかんだ落としどころが見えるものですが、今回は全く見えないですね』と語っていた」と明かした。
迫る会期末 残された時間と重要法案のゆくえ
スケジュールは急速に窮屈になっている。高市総理は7月3日にインドから帰国、週明け6日に参議院の重視する決算委員会への出席が見込まれている。参院側は6日の動きを注視しているが、それでも事態が一気に好転する保証はない。
最大の問題は7月9日だ。佐藤記者はこのデッドラインの意味をこう説明した。
「皇室典範改正案が会期末の17日までに成立するには、翌週からの参議院審議に間に合わせるため、衆議院を10日に通過させる必要がある。逆算すると、9日までに衆議院での審議が正常化し、委員会がセットされていなければ、皇室典範でさえ間に合わなくなる可能性がある」
重要法案は皇室典範にとどまらない。刑事訴訟法改正案(再審制度の見直し)、政治資金規正法改正案、公職選挙法改正案、国民投票法改正案、防災庁設置に関する法案など、多岐にわたる法案が積み上がったまま宙に浮いている。
国会とは別の枠組みである消費税減税をめぐる国民会議の日程も、この混乱のあおりを受け、流れてしまったという。
会期の延長は選択肢の一つとして視野に入っているが、1日あたり約3億円の経費がかかるとも言われている。
与党側は審議を「二階建て」(午前・午後の二回)にするなどイレギュラーな対応で乗り切る可能性も探っているが、そもそも審議が正常化しなければ、その先の議論さえ始まらない。
奥村記者は「国会の状況を正常化させなければ、影響はどんどん外へと広がっていく」と警鐘を鳴らす。
週明け6日以降、高市総理の帰国と決算委員会出席を経て、膠着した永田町に変化が生じるのか。あるいは会期末がそのままなし崩しに訪れてしまうのか。一日どころか、数時間単位で状況が変わり得る局面に差し掛かっている。
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