世界的に安全保障の環境が厳しくなるなか、国内で活発になっているのが「憲法改正」の議論です。戦後、国の礎となってきた「日本国憲法」は、どこへ向かうのでしょうか?
施行79年 高まる“改憲”の機運 安全保障環境は激変
都内にある国立公文書館。来場者は展示物を写真におさめたり、中には涙を流す人も。
見つめる先にあるのは、日本国憲法の原本です。憲法記念日に合わせて、5月6日までの特別展示がおこなわれていました。
来場者(30代)
「こうやって原本見たら感動。日本国憲法、特に9条の存在が変えられそうになっていて、危ぶまれている存在だと思うので、その前にしっかり目に焼き付けておきたい」
来場者(20代)
「この憲法自体が戦争が終わった直後に作られた。今の時代とはそぐわない部分はある。なので、改めてこの時代に沿った憲法を自主的に制定すべきだと思う」
1947年5月3日に憲法が施行されて79年。2026年2月の衆院選で大勝した高市政権のもと、国会では憲法改正の機運が高まっています。
3日に行われた憲法改正を目指す団体の集会では…
高市総理のビデオメッセージ
「79年前と比べ我が国を取り巻く国際情勢、安全保障環境、技術革新の速さ、人口動態などは全く異なるものとなっています。時代の要請に合わせて、本来、定期的な更新が図られるべきです」
ビデオメッセージでこう訴えた高市総理は、20年以上前から憲法改正への強い思いを、たびたび口にしてきました。
高市総理が目指す改憲とは どうする憲法9条
高市氏(衆院・憲法調査会 2000年9月)
「(憲法前文の)『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した』と、この非常におめでたい一文を、もし改憲の機会があれば真っ先に変えようと思っている」
また2004年、落選中だった高市氏が書いた論文では、憲法9条に該当する部分についてこう提案しています。
高市氏の論文(2004年)
「日本国は自衛の為の戦力(国防軍)を持てる。日本国民は国防の義務を負う。有事の際、(中略)私権の一部制限に協力する」
高市氏に現在の考えについて問い合わせると、次のような回答が届きました。
高市事務所の回答
「内閣総理大臣としては、改正内容について具体的に考えを述べることは差し控えますが、憲法審査会における党派を超えた建設的な議論が加速するとともに、国民の皆様の間での積極的な議論が深まっていくことを期待しています」
総理就任後、高市氏はこれまで主張してきた「国防軍の保持」について言及していません。
一方で2026年2月、選挙戦の応援演説では「自衛隊の明記」に触れました。
高市大臣
「憲法になぜ自衛隊を書いちゃいけないですか。彼らの誇りを守り、実力組織として位置づけるためにも、当たり前の憲法改正もやらせてください」
ただ、「自衛隊の明記」をめぐる与野党の溝は埋まらないまま。
そのため、“改憲の入り口”として、国会の議論は「憲法9条」から別の項目へと軸足を移しています。
改憲の“入り口”議論に変化も 国会議論の中心は9条以外の項目へ
▼衆議院では、大規模災害などの緊急時に国会機能を維持するための「緊急事態条項」、
▼参議院では「1票の格差」是正に向け、隣り合う県を1つの選挙区にまとめた「合区」の解消が議論の中心になっているのです。
特に参議院では、憲法改正の発議に必要な3分の2に与党で達していない状況。
自民党内からは各党の理解を得やすい「合区」の議論が、「憲法審査を促すことにつながる」との声が上がっているのです。
自民党・憲法改正実現本部 中曽根弘文 本部長
「衆議院では多数の議席をいただいたが、参議院は少数与党ということであります。改正案は、片方だけでできるわけじゃありませんから」
今後、どのように合意形成がはかられていくのでしょうか。
憲法改正 議論の現在地 「憲法9条」見据え別テーマを議論?
小川彩佳キャスター:
憲法改正といえば9条の議論という印象がありますが、なぜ国会では「緊急事態条項」や「参議院の“合区”の解消」といった別のテーマが議論されているのでしょうか。
TBS報道局政治部 大室裕哉 記者:
自民党と、連立政権を組む日本維新の会は、9条改正に対する認識が異なり、与党内で足並みが揃っていない状況です。
そのため、衆議院では「緊急事態条項」、参議院では「参議院の“合区”の解消」を集中的に議論して、改憲の入口にしたい狙いがあります。
小川キャスター:
その先に憲法9条の改正も見据えた動きということでしょうか。
TBS報道局政治部 大室記者:
自民党の本丸は自衛隊の明記です。自民党の憲法改正に関わっている重鎮も「最初の発議に自衛隊の明記は乗らないことはない」と話しています。
一方、国防軍を持つとなると、「戦力を持たないこと」を規定した憲法9条2項を削除することになり、日本が歩んできた平和国家からの大きな方針転換になるという指摘があります。その意味で、自衛隊の明記は国防軍の保持よりハードルが低いといえます。
小川キャスター:
合意を得やすいところから議論を進めているようにも感じるのですが、議論のあり方についてどう見ていますか。
教育経済学者 中室牧子さん:
憲法を改正するか・しないかというのは抽象的で価値観を含む問いなのではないかと思います。
それと比較して、「緊急事態条項」や「合区の解消」というテーマは具体的な政策論になりやすいのだと思います。
例えば「緊急事態条項」は海外にも同様の制度がありますし、要るか要らないかというよりも、権力の集中をどう防ぐかであったり、非常時・緊急時の定義は何かであったり、より具体的な政策論・制度設計の議論ができます。抽象的な議論よりも具体的な議論をしたかったということなのだと思います。
世論調査「憲法を改正すべき」45%「改正すべきではない」40%
藤森祥平キャスター:
JNN世論調査では、「憲法を改正すべき」が45%、「改正すべきではない」が40%でした。
「改正すべき」という中で、「どの項目を優先?」という問いには、43%が「自衛隊を憲法に明記するなど 憲法9条の改正」。
議論が進んでいる「緊急時に国会議員の任期を延長するなど 緊急事態条項の創設」は12%、「参議院の合区の解消」は5%にとどまっています。
【JNN世論調査 日本国憲法を改正すべき?】(5月2日・3日実施)
▼すべき:45%
▼すべきではない:40%
【どの項目を優先?】
▼43%:「自衛隊を憲法に明記するなど 憲法9条の改正」
▼12%:「緊急時に国会議員の任期を延長するなど 緊急事態条項の創設」
▼5%:「参議院の合区の解消」
▼17%:「教育環境の充実」
▼18%:「それ以外」
憲法9条の改正の機運が高まってきているのではないかとも言えます。
TBS報道局政治部 大室記者:
自民党は安倍総理の頃から「自衛隊の明記」を主張しているため、国民に浸透しているとは言えると思います。
一方で、自民と維新では足並み揃っておらず、今国会でも集中的に議論されている状況ではないため、さらなる議論が必要です。
今議論されている「緊急事態条項の創設」「参議院の合区の解消」は、国民への浸透に課題があるのかなと思います。いずれにしても議論を尽くすことが重要だと思います。
高市総理 憲法改正について“異例”の言及 背景に何が?
藤森キャスター:
4月の自民党大会で高市総理は「時は来ました」「何とかめどが立ったと言える状態で来年の党大会を迎えたい」と話しています。なぜ今このタイミングなのでしょうか。
TBS報道局政治部 大室記者:
まず、現職の総理大臣が憲法改正のスケジュールに言及するのは異例のことです。
言及できた背景には、衆議院選挙で大勝して、自民党だけで発議に必要な3分の2の議席を衆議院において獲得できたことがあると思います。
2027年9月には自民党の総裁選挙があります。
2027年の通常国会の間に憲法改正の発議をすることができれば、発議をした状態で総裁選に臨むことができるので、総裁選にも一定の影響を与えるでしょう。
小川キャスター:
国際情勢が大きく変化する中、現実的にどう対応するのか考えることが必要な局面に来ていると思います。
一方で、9条は平和理念を象徴してきた部分でもあるため、変わってしまうことに不安を覚える人も多く居ます。国会前で声を上げたり、静かに見守ったりしているかと思いますが、この議論に私たちはどう向き合えば良いのでしょうか。
教育経済学者 中室さん:
各党・各会派には「何をどう変えると、何ができるようになって、どのようなリスクがあるのか」を、客観的かつ具体的に示してほしいです。
特に、現憲法だと何ができないのかということや、多くの人が懸念する権力乱用を防ぐブレーキがどうなっているのかは、最低限示される必要があると思います。
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<プロフィール>
大室裕哉
TBS報道局政治部 官邸担当
高市氏を総理就任前から取材
中室牧子さん
教育経済学者 教育をデータで分析
著書「科学的根拠で子育て」
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