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せいろ蒸しに五苓散、麻辣湯…なぜいま”養生”が刺さるのか? 「この身体に合う整え方」へシフトしていく時代

国内
2026-04-21 09:10
せいろ蒸しに五苓散、麻辣湯…なぜいま”養生”が刺さるのか? 「この身体に合う整え方」へシフトしていく時代
心身ともに“整える”方向に意識が向く人が増えている
 サウナで汗を流し、痺れる辛さの「麻辣湯(マーラータン)」を求める。Instagramでは「#せいろ蒸し」が人気を集め、SNSでは漢方薬の「五苓散」などがトレンド入り――。一見バラバラに見えるこれらのトレンドには、実は一つの共通点がある。それが、心身を整える「養生」という考え方だ。近年、健康トレンドは単なる成分ごとの“栄養補給”から“身体本来の状態を整える”方向へとシフトしつつある。なぜ今、この考え方が若い世代にまで広がっているのか。漢方薬や健康食品などを扱うクラシエ株式会社(以下、クラシエ)に話を聞いた。

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■”なんとなく不調”の時代に広がりつつある、”養生”という選択

 都内だけでも約950店舗。“整う”ブームを巻き起こし、いまや若年層も集う人気スポットとなった「サウナ」。専門店が火付け役となり、カップ麺の累計出荷数が531万個に達した、痺れる辛さの「麻辣湯(マーラータン)」。Instagramでは、ヘルシーで映える「#せいろ蒸し」の投稿数が15万件を超えている。さらに、どこか遠い存在だった漢方薬も「五苓散」が昨年トレンド入り。こうしたライフスタイルの中にある「整えたい」「デトックスしたい」という欲求が、今「養生」という言葉と結びついている。

 “養生“というと、「年配層のもの」「体調を崩した後の安静期間」といったイメージを持つ人も少なくない。しかし本来は、そうした限定的なものではない。

 薬剤師であり国際中医専門員の資格を持つ市川えりさんは、“養生”について次のように説明する。

「“養生”は文字通り“生命を養うこと”を意味します。“健康に生きること”と“長く生きること”の両方を含んだ概念で、健康で質の高い生活を維持するために必要な生活習慣全般のことも指しています」(市川さん)

 WHOが提唱する「健康寿命」にも通じる考え方であり、病気になってから対処するのではなく、日頃から予防することを重視している点が特徴だ。

 では、具体的にどのような生活が“養生的”といえるのか。

「四季の変化とともに生き、節度を保ちつつ穏やかな心で過ごすことが大切だとされています。早寝早起きを心がけ、暴飲暴食を避け、性生活も節度を守ることが生命維持につながると言われています。仕事も心身の限界を越えないよう、無理をしすぎず取り組むことも大切です」(市川さん)

 養生本来の意味は、いわゆる「健康的な生活」と言われる内容で、特別なものではない印象だ。「病後の安静」を養生だと考える一般的なイメージとはギャップがある。太極拳や気功、入浴、季節行事なども養生に含まれ、非常に範囲が広い。

 さらに、漢方には「未病を治す」という考え方があるという。

「未病というのは、なんとなく調子は悪いけれど、検査では異常が出ず、まだ発病には至っていない状態のことです。そうした不調を予防したり、改善したりしていくのが養生のひとつです。健康でいるためには体質改善も大切で、足りないものは補い、余分なものは出して、体のバランスを整えていく。そういう考え方も養生につながっています。さらに、その土台になるのがライフスタイルで、日々の生活を整えることが、体質改善や病気の予防にもつながるんです」(市川さん)

■サウナやピラティス、サプリや漢方など… じわじわと高まる”若年層の健康意識”

 養生本来の意味が浸透していない一方で、養生につながる食事や食生活、すなわち“食養生”については、若年層に比較的ポジティブに受け止められている。日常生活に取り入れやすく、健康維持の習慣として浸透しやすいためだ。健康志向・手間削減・経済的で映えも叶える「せいろ蒸し」や、野菜たっぷりで身体が温まる「麻辣湯」はその代表格ともいえる。

 こうした食のトレンドの広がりの背景には、健康意識の変化がある。新型コロナウイルスの流行により、不調になってから対処するのではなく、日頃から体調を整えておくことの重要性が強く意識されるようになった。「身体が資本」という認識が広がり、いわゆる“養生的な考え方”が社会に根付き始めた。

 新規事業ブランドの企画・運営を担当し、健康トレンドにも精通する飯田美穂さんは、こうした動きを次のように分析する。

「今の若い人たちは、経済的にも厳しい時期を経験してきたことで、しっかり堅実に生きていこうという意識が強いと感じています。健康に関しても、長い人生を健康に過ごすためには、病気になってから対処するのではなく、若いうちから維持していくことが大切だという考えにつながっているのではないでしょうか」(飯田さん)

 さらに、「人生100年時代」という意識の広がりも影響している。

「長く続く人生をいかに生きるかを考えたとき、その準備を早くから始めていこうという人が増えているのだと思います。今できることを積み重ねていこうという発想ですね」(飯田さん)

 また、デジタル社会特有のストレスも背景にある。

「今の時代は、どこでも誰とでもつながれる一方で、それがストレスになることもあります。10代、20代は身体は元気でも、ストレスによって心身の不調につながってくるところもあります」(飯田さん)

 常に誰かと繋がれる環境は便利である一方、情報過多や気が休まらない状態を生みやすい。常時通話状態で過ごしたり、決まった時間にSNSへ投稿することを自らに課していたりと、ひとりでいてもひとりではない状態が多い現代において、意識的に「自分を整える・自分と向き合う時間」を持つことへのニーズは高まっている。

 また、“養生”は一見手間がかかるように見えて、実は合理的な側面もある。不調や病気によってパフォーマンスを落とすよりも、日常の中で予防しておく方が結果的に効率的だからだ。

「東洋医学では、女性は28歳頃をピークに、年齢に応じた身体の変化が表れてくるとされています。早めにケアを始めることで、長期的に効率よく健康を維持できるという考え方もあります」(市川さん)

 こうした背景から、養生は“意識が高い行動”ではなく、コストや時間の面でも合理的な選択として受け入れられつつあるのだ。

 2025年には、SNSを通じて漢方薬への関心も高まった。水分バランスを整え、頭痛やむくみの効能を持つ「五苓散」は、直近5年間で販売数が69%増加(※1)。ドラッグストアで手軽に購入できることもあり、二日酔いや気象病対策として投稿が増えている。また、「十味敗毒湯(じゅうみはいどくとう)」や「加味帰脾湯(かみきひとう)」なども特に20代を中心に需要が大幅に拡大(※2)し、肌トラブルやストレスといった“市販の西洋薬のみでは対処が難しい不調”に対して、漢方薬という選択肢を取る若年層も増えていることがわかっている。

※1:クラシエ薬品株式会社「KAMPO OF THE YEAR 2024」より
※2:クラシエ薬品株式会社「KAMPO OF THE YEAR 2025」より

■「意識高そう」は誤解? ”整える”よりも手前、日常にある”養生”

 養生というと「継続が必要」「面倒」など、ハードルが高いイメージもあるが、実際には日常の延長で取り入れられるものだ。食材を少し変える、温かいものを選ぶ。それだけでも十分に養生の一歩になる。

 ただし、継続するためには“楽しさ”も重要になる。食事によるケアは長期的に体質を整えていくもので、優等生的な生活を長く続けるにはプラスのモチベーションが欠かせない。

 飯田さんが企画したクラシエの『Fun to Me(ファントゥーミー)』は、「私にとって楽しい」を意味する言葉で、自分に合う食材が手軽に摂れるスープやお茶などの養生食に楽しさを加えるという考え方を体現したブランドだ。

「もともとはミドル女性の健康不安が開発背景にあります。女性の社会進出が浸透していくなかで、更年期症状の認知不足から原因不明の体調不良でキャリアを断念する女性も少なからずいるからです」(飯田さん)

 約1万4000人のデータをもとにした「バランス状態チェック」をホームページ上に設け、自身の現在の心身の状態を知り、適切な養生ができるようキャラクターを用いた楽しめる情報発信やセルフケア支援も行われている。本来は更年期女性向けだった商品が一部では若年層や男性にも広がり、日常的なケアとして受け入れられている。これもセルフケア、“養生”の考え方が浸透し始めていることによるものだろう。

 “養生”は特別なことではない。たとえば女性の場合、生理中で血が足りていないときには、赤み肉・魚やベリーを取り入れてみる。お気に入りの花を部屋に飾り心を癒す、ストレッチで身体をほぐすなど、日常の中で少し意識を変えるだけでも十分に取り入れられる。

 コロナ禍以降に広がった「整える」という意識は、一過性のブームではなく、今後も定着していく可能性が高い。サウナや麻辣湯、漢方といった一見バラバラに見えるトレンドも、「養生」という共通の価値観でつながっている。

 無理をしすぎず、自分の状態を整える。そんな“養生”的な暮らし方が、これからのスタンダードになっていくのかもしれない。


(取材・文/中西奈津子)

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