
福島第一原発の事故の影響で全町避難を余儀なくされ、町民の帰還が叶うまで11年がかかった福島県双葉町。町は復興への歩みを始めたばかりですが、町に点々と広がる“太陽光パネル”が思わぬ影響を与えています。
墓地を避け…並ぶ太陽光パネル 復興への“新たな課題”
福島第一原発の事故で被災した福島県浪江町に広がる太陽光パネル。空から見ると、墓地を避けるように並んでいるのが分かります。
浪江町のこの一帯に設置されたパネルは約38万枚に上ります。
小川彩佳キャスター
「『この先、帰還困難区域』とあるフェンスの奥に大量のパネルが並び立っています」
15年前、福島を襲った原発事故。今も7つの市町村に帰還困難区域が設定されたままです。
こうした土地の活用策の一つとして、作られたのがメガソーラー。
原発事故後、福島県は 「再生可能エネルギー・先駆けの地」を掲げ、県内各地に、大小様々な太陽光パネルが広がっていきました。
しかし、“太陽光発電”は今、「復興」途上の町に新たな課題を突きつけています。
福島県双葉町。避難指示が解除されるまで11年がかかり、「町づくり」は本格化したばかりです。
町役場の高村さんと町を歩くと、取り壊された住宅の跡地や田畑だった私有地に小規模な太陽光パネルが設置されているのが目につきます。
双葉町役場 建設課 高村和行 係長
「(町民から)想像以上に早いペースで増えているなという声は聞く」
「晴れ晴れと田んぼが広がる場所だったのに」帰還を遠ざけると危惧する町民
もともと双葉町の「町づくり計画」では、
▼駅周辺を「居住・商業エリア」、
▼その外側を「農業振興エリア」とし、
▼再エネの発電拠点は町の北部に作る構想でした。
しかし、再エネ拠点以外にも「太陽光パネル」が設置され、この1年で20か所以上増えているのです。
双葉町役場 建設課 高村和行 係長
「復興計画、具体的にここにこういうものを作りますという事がこれから決まっていく時に、(パネルが)点在していると、計画に支障が出る可能性も」
――ポツポツとでも点在すると?
双葉町役場 建設課 高村和行 係長
「復興も農業も、大規模なものは利用が制限されたりとか」
パネル設置が増える中で、トラブルも報告されています。
震災後も変わらない風景として、町民に親しまれてきた川沿いの桜。そのそばに太陽光パネルが建てられた際、誤って3本の桜が切られてしまったのだといいます。
双葉町役場 建設課 高村和行 係長
「これが桜の木。事業者が誤って切ってしまった。とても残念」
双葉町民の伊澤和夫さんは、太陽光パネルによって変わっていく町並みが、避難先で暮らす町民の帰還を遠ざけてしまうと危惧しています。
――(町に)戻るか迷っている方がいたら?
双葉町民 伊澤和夫さん
「こういうパネルが近くにあったら嫌だろう。晴れ晴れと田んぼが広がっているのが当たり前の所だったわけですけど、機械的なピカピカ光るようなものがそばにあるのは嫌だと」
――町にどんな影響が出る?
「時間が経たないとわからないだろうが、将来、負の遺産になるんじゃないか」
では、こうした太陽光パネルは誰が設置しているのでしょうか。
看板を見ると、東京の事業者が発電していると書かれています。
太陽光パネル設置で“節税”?「税優遇」が後押し
他の太陽光パネルを見ても、埼玉、愛知など福島県外の事業者のものばかり。再エネ事業を本業としない会社や個人投資家とみられる名前が並んでいます。
なぜ遠く離れた町に太陽光設備を持つのか?県外の発電事業者の男性は…
県外の男性
「『双葉町の避難指示が解除されて設備を作れることになった』と。太陽光設備屋さんから情報をいただいて、建てる事にしたという感じ」
双葉町の地権者が町を離れ、使われなくなった土地。男性は太陽光設備販売会社のサービスを利用し、地権者に賃料を払い、太陽光パネルを設置。
発電した電気を売り、収益を得ているといいます。
――(太陽光パネルを)設置した場所に実際行ってみた?
県外の男性
「行ったことはないです、ないです」
男性は、パネルの設置や管理も委託しているため、双葉町に足を運んだことはないといいます。
――福島に(太陽光パネルを)持ちたいと思ったのは?
「節税対策がほんと大きい。税制優遇制度を使って、福島の地域だけその制度が使える」
パネルを持つのは「節税」のためだと言う男性。背景にあるのが「福島復興再生特別措置法」です。
この法律では、避難指示が解除された地域で事業を行う場合、税の優遇を受けることができます。
実際、男性が利用した会社なども、この制度を活用して太陽光パネルを設置することで、節税につながると宣伝しています。
この仕組み自体に違法性はありませんが、「復興のための税優遇」が“想定外”のパネル設置を後押ししているのです。
――ソーラーパネルが新たな町づくりの弊害になっているという話も聞いたが?
「それは初めて聞いた。固定資産税とかも払ってますし、少しでも双葉町や福島にお金が落ちればいいと思っていた」
私たちはこうした状況について「太陽光設備販売会社」にも取材を申し込みましたが、回答はありませんでした。
土地管理は限界…切実な事情 一反10万円で「土地募集」
太陽光パネルが増え続けている双葉町では2026年1月、新たな条例を施行。
パネルの設置にあたり「住民説明会の開催」や「町への届け出」を義務付けました。
平岩副町長は、その意義について…
双葉町 平岩邦弘 副町長
「条例を作ることによって、町の方で状況を把握する。地域住民の方にしっかり説明をして理解してもらうことが第一のスタート地点」
ただ、私有地に太陽光パネルを設置すること自体を規制することはできず、町も難しい対応を迫られています。
さらに、太陽光発電に土地を貸す人にも“切実な事情”があります。
町に残した土地の管理や固定資産税の支払いが負担になっているのです。
県外に避難した町民は土地管理の難しさについて…
県外に住む男性
「管理が大変なのが草、草なのね。定期的に行って草刈り、除草をしている。帰らないと思ってる人は売却した方が良いと思っている人もいると思う。残しておいても跡継ぎというか、子どもたちにかえって負担をかけるようでも困るし」
こうした事情を抱える町民のもとに「太陽光発電に土地を貸さないか」とチラシや電話が入るそうです。
町民の伊澤さんも「土地を貸す人の事情は理解できる」といいます。
双葉町民 伊澤和夫さん
「『定期的に除草を行います』。(年間の賃料)一反、10万円。放置しておくなら、いくらかでも金が入ればという人もいないことはない」
ただ、「復興の税優遇を使った県外の人の投資・節税目的の設置は腑に落ちない」といいます。
――復興のためになっていくのか?
「あまりなっていないんじゃないかと思う。復興というのはあくまで農地が再生して、営農するのが最終的な目的だと思う。そういう土地にパネルを建てて良いのかという問題がある」
太陽光で陰る… “新たな景色”が問いかける「復興」
小川彩佳キャスター:
復興のために作られた制度が新たな景色を生み出している現状についてお伝えしましたが、あれだけのソーラーパネルが広がっている光景というのは正直驚きました。
気仙沼の語り部・岩槻佳桜さんが、「気仙沼では復興が進んできているのを感じる。街がキラキラしている」と話していたのがとても印象的でした。双葉町の景色を思い起こすと、まだ復興の輪郭すら外からは見えないという現実が際立って浮かび上がってくる気がします。
藤森祥平キャスター:
目に見えない部分で、税の“優遇制度”が復興に向かって動こうとする人の心に、プラスに働いているのかどうなのかというところですよね。
小川キャスター:
うまく噛み合っているのかどうかということを感じます。
また、原発事故の影響で大きく左右されてきた土地の行方について、今は太陽光パネルが広がっているという切り替わりは、“前に向かっている”とも捉えられるとは思います。
しかし、意図しない形でパネルが広がる景色を目の前にすると、やはり複雑な気持ちになりますし、町の将来像が描かれる前に景色だけが先に変わっていくというのは、いびつな構造を感じます。
藤森キャスター:
復興をどう進めて、どう将来像をまとめるのかという難しさを感じます。
小川キャスター:
地元の皆さんの戸惑いがあるというのも事実です。「復興」とは何で、誰のためのものなのか。地元の皆さんにとって望ましい復興となっているのかということも改めて感じました。
15年経って広がる新たな景色が、私達に問いかけているように感じます。
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