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「日本は核を保有すべき」官邸幹部の衝撃発言はなぜ報じられたのか? オフレコと核、記者と考える

国内
2025-12-24 14:29

今月18日、高市政権の安全保障政策を担う「総理官邸の幹部」が、記者団との非公式な懇談の場で「日本は核を保有すべきだと思っている」と発言しました。個人的な見解としながらも、国是である非核三原則を真っ向から否定する内容が報じられたことで、自民党内からも非難の声が上がり、中国や北朝鮮に加えてアメリカも反応するなど大きな波紋を広げています。


政府は「非核三原則を政策上の方針として堅持している」として火消しに走っていますが、唯一の戦争被爆国であり、核不拡散を訴えてきた日本の信頼が揺らぐ事態となっています。


一方、この問題をめぐっては国民民主党の玉木代表が自身のXで「オフレコの話を記事にするメディアも問題」と投稿。SNS上でも同調する声が上がる一方で、こうした発言を報じないことは国民の「知る権利」に反するとの指摘も出ています。核保有をめぐる議論と同時に、政治報道におけるオフレコの取扱い線引きについても議論が巻き起こっています。


そこで、共同通信・編集委員の太田昌克さんと、TBSラジオ国会担当の澤田大樹記者とともに、この問題を議論しました。


(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2025年12月22日放送「政府高官の『核保有』発言から考える~オフレコ取材、核をめぐる議論の行方」より。構成:菅谷優駿)


オフレコとは何か?報道現場の複雑なルール

TBSラジオ国会担当の澤田大樹記者によると、オフレコ(オフ・ザ・レコード)とは「記録に残さない」という意味で、カメラや録音機の前での発言ではないことを指します。ただし、日本と海外ではオフレコの定義が異なっていることが背景にあります。


「日本の場合、『官邸筋』や『官邸幹部』といった言い換えをした上で報じることがあります。これを日本ではオフレコ取材と呼びます。一方、海外でオフレコというと、何を話したか、誰が話したかということ自体も報じてはいけないという約束事になっています(※日本では「完全オフレコ、完オフなどと称する)」と澤田記者は説明します。


今回の報道に関して、各報道機関の言い方も異なっています。TBS、日本テレビ、NHK、読売新聞、朝日新聞などは「官邸幹部」と表現し、共同通信、日経新聞、西日本新聞などは「官邸筋」、テレビ朝日は「官邸関係者」、時事通信は「政府高官」と報じています。


「日本のルールに従うならば、今回の報道で『誰が話したか』は一切出ていないはずです。つまりオフレコ破りではないはず」と澤田記者。


「オフレコ」を破るとき―公益性の判断

オフレコの取材現場で報じるか否かは、状況によって判断が分かれます。過去には、東日本大震災時に当時の民主党閣僚が記者に対して「放射能つけちゃうぞ」と発言した事例や、岸田内閣の秘書官がセクシャルマイノリティに対する差別発言をした際に、オフレコを破って報じた事例があります。


共同通信社編集委員の太田昌克さんは「取材にはルールがありますが、国民の知る権利に資することが大事。オン・ザ・レコード(発言者の実名も含めて、記録に残す形での取材)が本来は最良です」と強調します。また、取材前に取材者と取材対象との間で、「名前を明かさないで伝えることが許される場なのか、それとも完全な非公開を前提とした場なのか、その認識の共有が重要」と太田さんは指摘します。


さらに、太田さんは「オフレコで得た情報をベースに他の人を取材するということは私はありだと思います。もちろん誰が言ったかは明かしませんが、(取材先を広げて)ファクトをつかみに行く行為は必要です」と取材の手法について説明しました。


日本の核政策―非核三原則の現実

太田さんによれば、日本の核政策は1967年12月に当時の佐藤栄作首相が宣言した「核を持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則が基本となっています。国会でも決議され、国是となっています。


しかし、「持ち込ませず」については、歴史的に見ると必ずしも守られてきたわけではありません。太田さんの調査によると、1953年10月に初めてアメリカの空母に積まれた核兵器が横須賀に入港して以来、冷戦終結の1990年代初頭まで、日本の港にはアメリカの第7艦隊が核を搭載した形で寄港していたといいます。


「冷戦が終わってからは、アメリカは(軍艦艦船に積む短・中距離用の)戦術核を本土に集中させる方針に変えたため、過去30年余は『持ち込ませず』も守られてきたというのが実態です」と太田さん。


「核保有」発言がもたらす影響

今回の発言について太田さんは「日本の国益を損ねかねない」と懸念を表明しています。


「日米同盟は、核の傘に日本が依存する代わりに日本は核を保有しないことが大前提です。例えば1975年に三木武夫首相とフォード大統領が出した日米共同新聞発表でも、アメリカの核抑止力に日本は依存するが、日本はNPTに速やかに加盟するという約束がなされています」


太田さんは「政権中枢から核保有すべきだという発言が出れば、アメリカから見ると『日本はそんなことを考えているのか』という疑念を(アメリカ側に)抱かせかねない。(アメリカ第一の)トランプ大統領なら『日本も核を持つべきだ、それがアメリカにとっても安上がりだ』と言い出す可能性もあり、日米同盟の土台が揺らぐ恐れがあります」と指摘しています。


いま、世界の核情勢も緊迫しています。太田さんは「来年2月には、アメリカとロシアの間で最後に残った新戦略兵器削減条約(新START=ニュースタート)が期限を迎えます。プーチン大統領は延長を示唆していますが、アメリカからの正式な回答はまだなく、1970年代以来初めて米ロ間に核軍縮のルールがない時代が来るかもしれません」と警鐘を鳴らしています。


さらに中国の核兵器増強も進んでいます。「最近のデータでは中国は600発の核兵器を持っており、これが1,000発、さらには1,500発に増える可能性があるとアメリカ国防総省は分析しています。核の三つ巴の時代(米中露の「3匹のサソリ」の時代)がやってくる中で、日本も(新たな)サソリとして加わるのかという問いが生まれてきいます」


このような状況下で、太田さんは「冷静に3つの核保有国をどう制御するかという議論を真剣に、特にアメリカとタッグを組んでやっていく必要がある」と強調しています。


唯一の被爆国としての責任

澤田記者によれば、今回の発言に対して自民党内からも批判の声が上がっています。元防衛大臣の中谷元氏は「何らかの処分をすべき」と述べ処分を求めたほか、外務大臣経験者からも非難の声が出ています。公明党の斉藤代表は広島選出ということもあり、早い段階から強い調子で批判しています。


太田さんは被爆者の立場からも問題を指摘します。「被爆者の協会が談話を出し内閣に(メッセージを)送ったという反応もあります。昨年、(日本)被団協はノーベル平和賞を受賞しましたが、核のタブーを80年間守ってきた日本で、こうした発言が出ること自体、被爆者の話を一度も聞いたことがない人が言っているのではないかという疑念すら抱きます」


さらに「日本が一番大事なのは被爆体験に根ざして核廃絶を求めることです。核は使ってはいけない、使える兵器ではないという核のタブーを強めていくことによって、核を誰にも使わせないということを日本が率先してやってきました。そんな国が核を持つと言った瞬間、日本の外交に対する権威、信頼、道義が失墜するのではないでしょうか」と懸念を示しました。


今後の焦点

澤田記者によると、通常国会の開会は1月23日と報じられており、それまでの1カされるタイミングでもあり、核をめぐる議論も予算審議の中で取り上げられる可能性があります。


今回の発言は、核保有という重大な政策転換を示唆するものであり、その言葉の重みと影響について国会や社会での議論が続くことになりそうです。唯一の戦争被爆国として、日本が核政策をどう位置づけていくのか、国際社会での信頼と役割の観点からも注視される問題です。


(TBSラジオ『荻上チキ・Session』2025年12月22日放送「政府高官の『核保有』発言から考える~オフレコ取材、核をめぐる議論の行方」より)


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