政府・与党は結婚前の旧姓の通称使用の拡大に、法的な効力を持たせる法案を2026年の通常国会に提出する方向で調整しています。
これにより、選択的夫婦別姓導入の議論は下火になるのでしょうか。
【写真で見る】選択的夫婦別姓 少なくとも与党側からの議論は「なし」
どうなる「選択的夫婦別姓」
井上貴博キャスター:
12日、男女共同参画会議が行われ「男女共同参画基本計画」に今まで盛り込まれなかった「旧姓の通称使用の法制化の検討」が明記されました。
この点について、連合の芳野友子会長は、「何の説明もなく、その一文が入りましたので連合としては認められない。あくまでも選択的夫婦別姓制度の導入を求めている」と反発しました。
「旧姓の通称使用を拡大」していくと、現在だと免許証・パスポートなどで旧姓併記が可能です。これを法制化することで、様々な場面で旧姓の使用が可能になります。
一方、「選択的夫婦別姓」は戸籍上も結婚前の姓を名乗ることが可能になります。名字を変えたい方は名字を変える、名字を変えたくない方はそれを選択できるということになります。
「旧姓の通称使用が可能になる」というのは、どういった場面なのでしょうか。
TBS報道局政治部 大室裕哉 記者:
例えば、約7割の銀行では旧姓の併記で対応可能ですが、逆に3割はまだ対応できていません。3割を対応させるために、法制化して推進させていきましょうということです。
井上キャスター:
金融機関などでもう少しフレキシブルに…ということだと思いますが、この旧姓の通称使用拡大を進めていくことが、“選択的夫婦別姓潰しなのではないか”という意見もあります。この議論はどうなりそうですか?
大室記者:
政府・与党は、この法案を2026年の通常国会に提出する方向で調整をしています。ある政権幹部に取材すると、「あくまで『通称使用の拡大』という議論であり、選択的夫婦別姓とは切り離して、世の中の不便を解消する通称使用の拡大の議論だ」と話していました。
つまり通称使用の拡大を進めることで、「選択的夫婦別姓」の議論も排除するわけではないということを強調しました。
高市総理、木原官房長官、与党・維新は “旧姓使用”拡大で一致
井上キャスター:
旧姓使用拡大に強い思いを持っていたのは、他ならぬ高市総理です。ライフワークと言っても差し支えないと思いますけれども、旧姓使用拡大に重きを置いていました。木原官房長官や日本維新の会も「“旧姓使用”の拡大」を推進しようとしています。
大室記者:
木原官房長官は、自民党の保守系議員のグループである「創生『日本』」というグループの事務局長を務めていて、今年の通常国会の会期中にも「事務局長案」つまり、「木原稔案」として旧姓使用拡大の法案を作っていました。
連立を組む日本維新の会も、今回の通常国会に通称使用拡大の法案を提出していました。藤田共同代表も、2025年3月に超党派で開催をした「旧姓の通称使用の法制化を求める国民集会」に出席して挨拶をしていました。
井上キャスター:
これは意見が大きく変わるところかと思いますが、個人的には選択的夫婦別姓をぜひ進めていただきたいなと思っています。
今の日本では、結婚すると名字を変えるのは95%が女性です。もちろん望んで変える方もいますが、望まず変えることでアイデンティティーが失われる。旧姓の使用拡大をいくら行ったとしても、海外で仕事をする場合の不便さというのは特に変わらない。(不便が)圧倒的に女性に偏っているとなると、やはり是正すべきなのではないかと思っています。
シンプルに考えて、やはり結婚後、お互いが名字を選択できるというのは、当たり前の権利のようにも感じますが、どうこの議論をご覧になっていますか。
ハロルド・ジョージ・メイさん:
グローバル的に考えると、こういう議論は必ずと言っていいぐらい他の国にもありました。その結果、例外はあるものの、世界の標準はやはり選択制です。変えない理由が私にもよくわかりません。「こういう理由があるから変えてはいけないんだ」という説明があればまだしも、そういうのがありません。
私は日本が大好きなので、よく時代劇も見るのですが、ある意味、日本のスピリッツにこの選択制が合っていると思います。なぜかというと、日本というのは「名を残す」ことが歴史的にも価値が高いからです。
今の社会では、女性も働きやすい環境になり、仕事や研究などで自分がやり遂げたことが最終的には「名前」で正式になるということがポイントだと思います。名を残すとはそういうことです。通称使用は半歩前進かもしれませんが、オフィシャルではない。悪く言えば、ニックネームみたいなものなので、やはりオフィシャルにしてほしいですね。
もう一つは、世界でも3組に1組が離婚してしまう傾向があります。そうすると、離婚後にまた姓を戻すのかということもあるので、やはり今の自分の名前で名を残すことは大事だと思います。
慎重派・推進派 それぞれの意見は…? 少なくとも与党側からの議論は「なし」
井上キャスター:
夫婦別姓に「反対の理由がわからない」とも言われますが、その点についてはどうでしょうか。
大室記者:
「よく伝統的な家族観が失われるから」という説明を受けると思うのですが、日本の伝統を象徴するものとして、古代から続く「戸籍制度」があります。夫婦別姓を導入すると、外国にはない日本の優れた戸籍制度が崩れてしまうというのが保守層の主張です。
もう一つ、子どもの氏の決め方が問題で、野党が提出している法案だと子どもの氏が夫婦の間で決まらなかった場合、家庭裁判所に委ねることになっています。ただ、明確な判断基準も今はないため、子どもの氏の不安定性に繋がるという指摘があります。
高市総理も「子どもの氏の不安定性」を一番懸念をしているため、夫婦別姓に反対というスタンスをとっています。
井上キャスター:
選択的夫婦別姓をめぐって、慎重派と推進派の意見は以下の通りです。
【慎重派】
・公的書類など旧姓併記が進んでいる
・仕事でも“旧姓使用”進む
・子の氏の決め方の問題
・伝統的な家族観が崩れる など
【推進派】
・ビジネス上の不便さ解消
・名義変更の煩雑さ解消
・海外では当たり前
・アイデンティティーの喪失を懸念 など
この議論は今後も続きそうですか?
大室記者:
続くのですが、高市総理と木原官房長官、連立を組むのは日本維新の会ということを考えると、少なくとも政府・与党から、選択的夫婦別姓の議論が発生するということは起こりづらいのではないかと思います。
==========
〈プロフィール〉
大室裕哉
TBS報道局政治部 自民党担当
高市早苗氏の番記者 趣味はMLB観戦
ハロルド・ジョージ・メイさん
プロ経営者 1963年オランダ生まれ
現パナソニック・アース製薬の社外取締役など
・「インフルにかかる人・かからない人の違いは?」「医師はどう予防?」インフルエンザの疑問を専門家に聞く【ひるおび】
・【全文公開】“ラブホテル密会” 小川晶・前橋市長の謝罪会見【後編】「どちらからホテルに誘うことが多かった?」記者と小川晶市長の一問一答(9月24日夜)
・「あんな微罪で死ぬことはないだろう…」逮捕直前にホテルで命を絶った新井将敬 衆院議員「この場に帰って来れないかもしれないけども、最後の言葉に嘘はありませんから」【平成事件史の舞台裏(28)】
