
耳の不自由な方を支える“聴導犬”の存在をご存じでしょうか。生活に必要な音を見極め伝える聴導犬は全国にわずか50頭しかいません。災害時にも力を発揮するその役割と課題をnews23喜入友浩キャスターが取材しました。
「大事なパートナー」音を聞き分け伝える「聴導犬」
森岡見帆さん(51)
「生まれたときは聞こえていたそうです。でも理由は分からないですけど、赤ちゃんのときに途中で聞こえなくなった」
都内に住む森岡見帆さん(51)。補聴器をつけても音は歪んで聞こえ、それが何の音なのか正確には分からないといいます。
そんな森岡さんの耳の代わりになっているのが、犬のかな(4歳・メス)です。
インターホンが鳴ると、森岡さんの体に触れ、一目散に玄関に導きます。
かなは、ペットではなく聴導犬。法律に基づいた特別な訓練を受けていて、生活に必要な音を教えることができます。
森岡見帆さん(51)
「目的としている音を見極めるのがすごい」
スマートフォンから他の家のインターホンの音を鳴らしてみても、全く反応しません。
また、森岡さんの夫も耳が聞こえないため、家の中であっても、声で互いを呼ぶことができません。そんなときは、かなに合図を送ると呼んできてくれます。家族を繋ぐのも、かなの大切な役割です。
森岡見帆さん(51)
「本当に今は、かながいないのは考えられない。私にとってはすごく頼りになる、人生の大事なパートナー」
保護犬から聴導犬へ 災害から命を守る役割も
聴覚障害者は全国に約31万人いるとされていますが、聴導犬の数はわずか50頭ほど。普及が進んでいないのが現状です。
聴導犬の育成を行う都内の施設。聴導犬は犬種に決まりがなく、日本聴導犬協会では候補犬の8割が保護犬です。
ここで訓練にはげむ、3歳のはじめ(オス)。妊娠中に保護された母親のもとで生まれ、この団体が引き取りました。
日本聴導犬協会 有馬もと 会長
「一番はじめの不幸な姿を知っていますので、幸せになってくれたら私どもも幸せなので、それが私どもの願いになります」
日本聴導犬協会の訓練では、目覚まし時計や火災報知機の音、赤ちゃんの泣き声などを知らせることを覚えていきます。
そして、災害のときにも大切な役割があるといいます。
窓ガラスをノックする音に反応するはじめ。これは近所の人が避難を呼びかけに来た場面を想定したものです。
東日本大震災では、防災無線などが聞こえず、多くの聴覚障害者が命を落としました。
日本聴導犬協会 有馬もと 会長
「東日本大震災時は、近所の人が助けようとしてもできなかったが、どこでもいいからノックしてくださると、この子たちが教えてくれますので」
聴導犬の仕事は命を守ることにも直結しています。
街中で訓練 “犬が苦手な人にも受け入れてもらえるよう”
聴導犬などの補助犬は、飲食店や公共交通機関に同伴することが法律で認められており、訓練は街中でも行われます。
この日は電車に乗る訓練に向かいます。
通りかかった女性
「初めてです、聴導犬」
「盲導犬じゃなくて聴導犬なんですね」
その珍しさから、声をかけられることもしばしば。
電車内での振る舞いを学びます。
日本聴導犬協会 MAYUMIさん
「犬が苦手な方もいるので、そういう方たちにも受け入れてもらえるよう、落ち着いていることが求められます」
「聴導犬?」初めて接する店員は戸惑いも
聴導犬はこうした訓練を経て、国の認定試験も受けていますが、ユーザーにはある悩みがあるといいます。
森岡見帆さん(51)
「私が気になっているお店があります。そこに行ってみようと思っています。何を言われるか分からないし、ちょっと不安があります」
過去に、聴導犬の同伴に難色を示された経験から、飲食店を訪れることにはためらいがあるといいます。
店員「わんちゃんダメです。盲導犬?」
森岡さん「(聴導犬の説明書きを店員に見せる)」
店員「盲導犬じゃなくて聴導犬?」
森岡さん「聴導犬と一緒に入っても大丈夫ですか?」
店員「お店でドリンクを飲むんですよね?」
森岡さん「そうです」
店員「じゃあ角のお席に」
森岡さん「いいの?ありがとうございます」「かなちゃんよかったね」
森岡見帆さん(51)
「入っていいかドキドキしました」
ーーお店の方の対応はいかがでしたか?
「素晴らしかったです。理解してくれる人が一人増えた。それが嬉しいです。勇気をいただきましたので、その気持ちを次につなげていこうと思います」
聴導犬といることで「聞こえない」が伝わる
喜入友浩キャスター:
取材時は遠目で、「(お店に)入れますように」と祈りながら見ていたので、入店できてよかったです。
接客にあたった店員さんは、やはり聴導犬に会ったのが初めてですごく戸惑ったそうです。ただ、会話をする中でどうしたらいいか見えてきたといいます。
上村彩子キャスター:
急なことでしたが、とっさの対応力が素晴らしかったですね。
私もこの企画を見るまで聴導犬について全く知りませんでした。もっと公共の場で目にする機会があれば、認知や理解が深まると思いますが、なぜ50頭しかいないのでしょうか。
喜入友浩キャスター:
当事者の中には、音という概念が分からない・感じられないという方が多いため、音を教えてくれる聴導犬の必要性が伝わりにくいという背景もあるそうです。
ただ、森岡さんは聴導犬がいて助かったことの一つに、一緒にいることで、相手に耳が聞こえないことが伝わることだと話していました。
上村彩子キャスター:
確かに、(聴導犬が)オレンジ色のベストを着ていて、分かりやすかったです。
喜入友浩キャスター:
森岡さんは、耳が聞こえない・聞こえにくい障害は、見た目では分かりにくく理解されづらいと話していました。そういう意味でも、聴導犬の存在は大きいと思います。
ただ、聴導犬がいる・いないに関わらず、「もしかしたら、耳が聞こえない・聞こえにくいかもしれない」という想像力を持つことは大事だと感じました。
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企画・取材・構成・ナレーション:喜入友浩(TBSアナウンサー)
カメラマン:出町紗希
VE・音声:有宗拓馬
編集:尾前隼士
監修:那須元紀
アシスタント:牧野風香
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