
みなさんは、今のお住まいに満足していますか?
【写真を見る】満足ですか?今の住まい~TBSの専門家が分析「データからみえる今日の世相」~【調査情報デジタル】
ひとくちに「住まい」と言っても、その特徴は多種多様。マンション、アパート、一戸建て。木造、モルタル、鉄筋、鉄骨。平屋か、二階か、高層建築。和風、洋風、官舎に社宅。分譲、賃貸、新築、中古。都心と郊外、高いの安いの、広いの狭いの、エトセトラ、エトセトラ。
住まいは、こうした特徴の組み合わせではありますが、それだけではない気がします。端から見れば似たような特徴の住宅・住戸も、そこに住む人の暮らしぶりというものが加わって、それぞれの住まいになるのでは。
そんなことを思ったのも、筆者が20年以上暮らす現在の住まいで、台所のリフォームを考えるようになったため。内蔵の食器洗浄機が壊れて、取り替えようと思ったら同じサイズの商品は既に世に無く、ならばいっそ台所ごと取り替えようと話が膨らみました。長く住めば、あちこちにがたが来るのは当然。あまりにがたが多いと話は別でしょうが、今のところ、筆者は今の住まいに大満足。
では、世の中の人々はいかがでしょうか?
増える満足、減る不満
住まいの満足・不満足について、TBS総合嗜好調査(注1)では、長く人々の意見を追いかけ続けています。
この調査では「住まい」について、複数の選択肢からあてはまるものをいくつでも選んでもらう質問をしています(注2)。その中に、現在の住まいに「満足している」または「不満である」という選択肢があります。
それぞれの選択率について、東京地区(13~59歳)データで、1979年から最新の2024年まで実に46年分の推移をまとめると、次の折れ線グラフのようになりました(注3)。
このグラフを見ると、今から45年前の1980年頃は、実に6割弱の人が現在の住まいに不満で、満足している人は3割程度。結構な人が不満を抱いていましたが、この状態は90年代半ばくらいまで継続。
その後、90年代後半から不満が徐々に減り、満足が徐々に増える傾向になって、08年に満足が不満を上回りました。そこから両者の差が開いて、現在では満足が5割弱、不満が3割程度と、昔と逆転した結果に。
現在の住まいに満足な人が増え、不満な人が減っているのは結構なこと。その確たる理由はわかりませんが、住環境が改善され続けているから、ということはあるかも知れません。
地方で育ち大学進学で上京した現在50代後半の筆者も、我が身を振り返って思い当たる節があります。
40数年前は、当時住んでいた町に父が二階建ての新居を構えた頃。その前は、父が勤めた会社の社宅住まいで、子供心にも「古い家」という印象の木造平屋建てでした。
洋式の水洗トイレ生活も、シャワーがある風呂場もその新居から始まり、住環境が清潔化・近代化した実感がありました。しかし、それより何より二階に子ども部屋があったので、それはもう大満足。
その頃は子ども部屋に満足でしたが、大人になってみると、持家の一戸建てを建てたことに父がさぞかし満足したろうと想像するのです。
持家と賃貸、大差はあれど似た傾向
住まいの満足・不満足には、それが持家か借家かということで大きな差が生まれます。データがそれを示しています。
先に示した折れ線グラフを、住まいが借家か持家かで回答者を分けて、集計し直したのが次のグラフです。ここでは、借家の人が実線、持家の人が破線となっています(注4)。
同じ色の線を比べると、この46年分のデータでは、不満派は借家住まいに多く、満足派は持家住まいの人に多いということで一貫。その差はそれぞれ20〜30ポイントくらいあって、結構な開きです。
その一方で、満足や不満の増減傾向は、持家・借家とも一致。80年代前半には借家住まいに7割、持家住まいに4割いた不満派が、直近では前者が4割、後者が2割程度まで減少。逆に、90年代終わり頃まで、持家住まいで4割、借家住まいで2割だった満足派が、現在では前者で5割強、後者で3割強まで増加しています。
相続で継いだ実家が持家の人もいるでしょうが、やり繰りやローンを頑張って夢のマイホームを手に入れたも多いはず。その「手に入れた」という気持ち・経験が、持家住まいの人に満足感を生むのはさもありなん。
一方、その裏返しの「持家を手に入れていない」という気持ちが、どれくらい借家住まいの不満を生んでいるのかは何ともいえず。というのも、データが示す通り、借家住まいでも不満派が減少し、満足派が増加しているからで、借家が即不満というわけでもなさそうな感じ。
住まいの満足・不満足には持家か借家かも関係しますが、その他に、「住まいの好み・嗜好」の変化も影響を強めている気がします。
好みに合うなら、それで満足
それというのも、TBS総合嗜好調査の「住まい」意識の質問に、満足・不満足のように、一方的に増加または減少している「住まいの好み・嗜好」についての選択肢があるため。
具体的には「くつろげるのは和室か洋室か」と「家具・インテリアでは重厚なものとスマートなものとどちらが好きか」という話題についてのもので、その集計結果が次の折れ線グラフです。
例えば、80年代前半は、家具・インテリアで「どっしりとして落ちついたものが好き」な重厚派が5割、「現代的でスマートなものが好き」なモダン派が2割でした。これが前者は年々減少、後者は年々増加して00年代前半に交差し、直近では重厚派が2割、モダン派が4割に逆転。
さらに劇的なのが、80年代前半に6割だった「和室のほうがくつろげる」和室派の減り具合。当時「洋室のほうがくつろげる」洋室派は2割で、圧倒的な差がありましたが、こちらも同じような成り行きで10年代前半に両者が交差し、直近では和室派が3割弱に半減、洋室派が4割に倍増。
いままでその動向を見てきた「持家・借家」「重厚・モダン」「和室・洋室」という住まいの特徴。これらは必ずしも連動するものではありませんが、多数派から少数派、少数派から多数派になった特徴を組み合わせてみると、次のような読み解きになるでしょうか。
かつては和室に重厚な家具を備えた住まいが憧れの的で、そうした住まいを持家として所有することが望ましかったのかも知れません。筆者の父が構えた新居の作りを思い出しても、戦前・戦中に生まれ、戦後の高度経済成長期を支えた世代はそうだったような気がします。
しかし、便利でモダンな家具が浸透し、そうした家具が似合う使い勝手がよい洋室に慣れていって、好みに合えばそれが借家でも満足、という世代が増えていったのかも知れません。
この9月16日に国土交通省が発表した「令和7年都道府県地価調査の概要」によると、住宅地の全国平均は前年より1.0%上がり、4年連続で上昇。
「価格が高すぎて住めない――。近年とくに、都内の住宅価格についてそう嘆く声が広がっていたが、その傾向はさらに続きそう」(朝日新聞、2025年9月17日)とのこと。
夢のマイホームは本当に高嶺の花。もちろん手に入れば満足ですが、がたが来てても、好みに合う住み心地ならお気に入り。愛着を持って過ごした場所だからこそ満足できる「住まい」になる……、とでも思わないと、ちょっとやってられないご時世ですね。
注1:TBS総合嗜好調査は、衣食住から趣味レジャー、人物・企業から、ものの考え方や行動まで、ありとあらゆる領域の「好きなもの」を調べる質問紙調査です。TBSテレビが、東京地区(1975年以降)と阪神地区(1979年以降)で毎年10月に実施し、対象者年齢は、1975年が18~59歳、76~2004年が13~59歳、05~13年が13~69歳、14年以降は13~74歳となっています。
注2:1977年に18個の選択肢による質問が行われましたが、78年は実施がなく、79年からは現在まで毎年実施されています。また、85年以降は「室内の飾りつけ」などの意見も合わせて尋ねています。選択肢の数も折に触れて増え、2024年調査では46個でした。
注3:複数選択の質問なので、現在の住まいに「満足している」と「不満である」を両方選ぶ人も稀に1~3人くらい現れますが、そのような人は以後の集計で除いています。
注4:「持家」は「持家独立家屋」と「持家共同家屋(分譲のマンション・アパートなど)」の合計、「借家」は「借家独立家屋」「木造の借家共同家屋(民間のアパートなど)」「鉄筋の借家共同家屋(賃貸マンション、公団、公社のアパート等)」の合計です。このほかに「社宅・官舎」や「その他」もありますが、ここでの集計からは省いています。
引用・参考文献
●国土交通省 令和7年都道府県地価調査の概要 2025年9月21日閲覧
<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は法務・コンプライアンス方面を主務に、マーケティング局も兼任。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。
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