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2025年参院選でテレビ各局がみせた “改革”を徹底検証・後編 〜SNS全盛時代のテレビの選挙報道を考える(6)~【調査情報デジタル】

国内
2025-09-20 08:00

2024年に行われた複数の選挙ではSNSが大きな影響力を持った。一方、テレビは公平性に配慮するあまり、選挙に関する十分な情報を届けられなかったという反省があった。この状況下で行われた2025年参院選。テレビ各局の選挙報道にその反省はどれだけ生かされただろうか。ジャーナリストでメディア研究者の水島宏明氏による徹底検証の後編をお届けする。


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「争点」についての流れが変わった2025年参院選

筆者がこの10年あまりで非常に気になっているのが、「争点」をめぐる報道が次第に減っていることだった。民主主義社会でもっとも大切なプロセスの一つである選挙の投票のために「争点」を示す。平日の夕方ニュース番組や夜のニュース番組は、それぞれの社の報道局が全力で選挙報道に尽力しているはず・・・。そう考えていた筆者は、一部の局で報道に消極的な傾向が顕著にあることを知って愕然とした。


しかし2025年参院選から、この流れは大きく変わる。【表】は2025年参院選のテレビ報道について、「争点」についてどの程度紹介したのか、その“現場”の取材の有無などをチェックして集計した表だ。


「争点」には各政党のそれぞれの政策・公約などを網羅したものを数に加える一方で、「注目の選挙区」報道のように、部分的に各候補の「訴え」を取材しただけのものは「争点」報道の数から除外した。


2025年参院選では、多くのテレビ局が選挙報道に対して、近年では例がない熱心さで臨んでいるのがデータ上からも分かる。


争点の“現場”取材というのは、たとえばトランプ関税への対応が争点の場合、実際に影響を受ける可能性が高い自動車の部品メーカーなどの取材を指す。コメ政策が争点の場合はコメ農家や耕作放棄地を借り受けて米作している企業、あるいはJAなどへの取材の有無だ。


こうした“現場”取材は、2012年の衆院選あたりからどんどん少なくなっていった。2013年の“ネット選挙”(インターネットを使った選挙運動)の解禁とともに「期日前投票」の拡大とともに「センキョ割」、さらに「ボートマッチ」や若者に投票を促すための大学生のサークル活動など、争点そのものにはふれないニュース項目が増えたためだ。


こうした「非・争点」のニュース項目が多くなる傾向が続いてきたが、2025年参院選ではコメなどの食品を中心にした物価高騰で生活苦を訴える人が続出。「非・争点」の項目が多い傾向の中で物価高対策は多くの人にとって切実な争点になった。


新登場の「投票日前の選挙特番」

今回の参院選報道で特筆に値するのが一部の民放が放送した事前特番だ。


テレビ東京は「選挙サテライト2025」という“投票前の選挙の特番”を7月6日(日)と7月13日(日)、さらに7月19日(土)と3回にわたって1時間弱放送した。キャッチフレーズは「役に立つ!テレ東の新たな選挙報道」「投票前の知りたいにこたえる新特番」だ。


7月20日(日)の夜の選挙開票特番「選挙サテライト2025」の一部という位置づけで、開票特番で特別キャスターを務める伊沢拓司らが出演した。7月6日の初回の放送では放送法や公職選挙法で「政治的に公平」や「選挙の公正」を尊重するあまりに各局でなぜ選挙期間中にテレビ報道が減ってしまう事態が生じたのかというからくりを解説した。


その上でBPO(放送倫理・番組向上機構)が「量的な公平ではなく質的公平を」「編集権・報道の自由は守られている」と各テレビ局に呼びかけていることを紹介して、選挙期間中に3回の“投票前特番”を放送するにいたった経緯を豊島晋作キャスターが説明した。


そこでは“財務省解体デモ”などこれまでの選挙報道では放送しなかったような出来事を、国民の間につのる「負担増」の象徴として登場させていた。コメ問題で脚光を浴びた小泉農水相に対する自民党内での反発なども取材。第2回ではSNS時代に参政党などの新興政党に人々が熱狂する背景を報道した。


TBSも7月14日(月)夕方ニュース番組「Nスタ」の中でキャッチフレーズの「選挙の日、そのまえに。」と題する大特集を放送した。


中盤情勢をまとめてTBS報道局選挙本部の本杉美樹デスクが、政党同士の勝敗でカギを握る「1人区」の見通しなどを分析、「自公過半数割れの可能性」などについて解説し、7月20日(日)のTBS開票特番でキャスターを務める爆笑問題の太田光が石破茂総理はじめ、各党トップに直撃した内容を放送した。


なかでも太田光が参政党の神谷宗幣代表に新憲法案などについて「今の憲法を変える必要があるのか」と問いただす場面は太田自身の人間性も透けてみえて興味深かった。


こうした“党首たちとの本音のやりとり”も開票特番のたびに「どうして事前に放送しなかったのか?」と視聴者から指摘されてきた点でもあった。これらTBSとテレ東の事前番組が象徴するように、2025年参院選のテレビ報道は「まえに」というキャッチフレーズで大転換を図ったことになる。


SNSの偽情報に関する“注意喚起”と“ファクトチェック”に乗り出した!

SNSでの偽情報・誤情報や生成AIで簡単に制作できるようになったフェイク動画やフェイク音声などに関する注意喚起や「ファクトチェック」の報道が各局で急増した。


2016年の米大統領選挙でトランプ氏が最初の当選を果たして“フェイクニュース”が話題になって以降、ファクトチェックの必要性がメディアの中でも叫ばれていたものの、テレビ局が本格的に選挙でファクトチェックを実施したのは今回が初めてのことだ。


石破総理が「消費税20%」や「水道料金40%アップ」を明言したというYouTube動画(いずれも偽動画)など、具体的な事例を示して事実を深掘りして真偽を示した。


ネット上に散乱する膨大な偽情報について真偽を調べて「これは誤りです」と示すことは膨大なエネルギーと時間を要する。従来の報道の感覚からすればとてもハードルが高いといえるが、日テレ、NHK、TBSが突出して実践していた。


「選挙情勢」のプロセスを解説して視聴者に明らかに

「選挙情勢」や「情勢報告」といえるニュースも選挙報道にはつきものだ。これはその時々で各社が電話などを使って調査したアンケートなどを基に有権者の投票動向を調査するものだ。それぞれの選挙区や比例代表などの票数の見込みを積み上げていき、序盤、中盤、終盤などのタイミングごとに報道する。


「今月20日に投開票が行われる参議院選挙について、JNNが中盤情勢を分析した結果、自公で参議院の過半数を割り込む可能性があることがわかりました」などのニュースがこれにあたる。


こうした「情勢調査」のニュースは調査した“結果”だけをまとめて一方的に伝えるスタイルが以前は一般的だったが、今回の2025年参院選で大きく変わった。どうしてこんな予想になるのか。多くの局がその理由や予想プロセスまで解説するようになったのだ。


7月7日のフジの「イット!」を例にとると、「自民党の過半数維持は難しく、与党の過半数維持をめぐる攻防になっている」と報じた。その理由としてフジ系列のFNNが全国の「1人区」全てを対象に行った電話調査によると「自民党候補は14の選挙区で優勢あるいはやや優位」で「野党候補は11の選挙区で優勢またはややリード」していると背景を解説した。


他にも7月15日(火)の日テレ「news zero」では政治部の竹内真デスクがスタジオに登場して「1人区」の勝敗見通しなどの一覧を示した。自民党が圧勝すると考えられていた選挙区で参政党などの野党系候補が優勢になっているという。


こうした解説が加わるようになって視聴者も「なぜメディアがこの時点でこんな予測を立てたのか?」を理解できる。こうした情勢調査を丁寧に解説するようになった変化はなぜ生じたのか。


従来は、大きな選挙の選挙期間が始まると、有権者にとっては投票の基準となる「争点」について十分に報道で知る前に選挙戦の“序盤”から「〇〇党が優勢」などの“情勢”が報じられていた。


そうすると多くの人は「自分が投票する前からすでに結果がある程度は決まっているではないか⁉」と選挙への疑念を持つようになり、失望や無力感につながる。そうした情勢調査の報道のあり方も、近年投票率がどんどん下がっていく背景の一つだと考えられる。


これを転換させて「予測の理由」や「予測のプロセス」を丁寧に説明することで、一方的に結果だけを伝えていたのに比べると有権者の信頼を獲得しやすくなるのではないか。選挙への関心を促して投票への参加意欲も高まる可能性がある。そうした効果も考えた上での各社の方針転換なのだろうか。


ちなみにこうした“情勢調査”の報道について、テレビで報じているのは民放だけである。NHKは世論調査として各党ごとの支持率を発表するものの、選挙区ごとの“情勢”には触れず、選挙戦の途中の“情勢”についても報道していない。


あくまで世論の動向を伝えるというスタンスに撤して選挙の予測報道はしない・・・と公共放送として一線を画している印象を受ける。ただ、有権者の一人として見れば民放に比べると材料が乏しいため予測がしにくい面がある。自分が参加する意識を持ちにくいのも正直なところだ。


「質的公平性」重視の具体例

7月4日(金)の日テレ「news every.」では参院選の宮城選挙区の立憲民主党の候補者がNHK党の候補の選挙ポスターで「○〇候補と△△との不倫騒動を許すな!」と実名を掲げられたことで名誉を毀損されたと刑事告訴したニュースを報道した。


選挙期間中に2つの政党の候補者同士が“場外乱闘”したといえるケースだ。これも昨年までなら選挙期間中の政党同士のつばぜり合いには関与しないとしてあえてニュースにしなかったケースだといえる。


7月4日のフジ「イット!」でも「質的公平性」を意識する報道があった。参政党の神谷代表が「第一声」の街頭演説で「高齢女性は子どもを産めない」と発言した問題で、参政党公式チャンネルでその動画が視聴できない状態になっていることを「技術的なトラブル」だと釈明したニュース。


「イット!」では参政党のYouTubeチャンネルが演説をライブ配信していて途中から突然カラーバーに切り替わる瞬間の映像を放送し、問題発言の前後の演説や他の場所での演説も放送した。


他局以上に細部にこだわって「ファクトチェック」に挑んだといえる。以前であれば「政党の釈明」を疑い、選挙期間中に確認する作業まではしなかっただろうと考えると、小さな“変化”を確認することができた。


7月8日(火)の日テレ「ストレイトニュース」では「投票前に考える/#政党フカボリ⑤」として、維新の会に焦点を当てて大阪選挙区と神奈川選挙区を取材した。登場した候補者は維新の会の候補のみ。従来ならばそれぞれの選挙区ごとに他の党の候補も全員紹介してそれぞれの選挙区ごとの公平性を守ろうとしたはずだが、あえてそれをしなかった。


あくまでこの日は維新の会という政党の現状を伝えるのが目的だから、と形式的な「量的な公正性」を捨てて、他の党については別の日の紹介することで「質的公平性」を保つことができると判断をしたのだろう。


7月9日(水)のTBS「news 23」ではイギリスのロイター通信やドイツ公共放送など海外の報道機関が日本の参院選をどのような視点で取材しているのかを報道した。出てきた日本の政党関係者は参政党の党首だけ。


ドイツ公共放送のプロデューサーは日本の選挙報道が「公平性を重視しすぎる」と指摘し、ドイツでは当然のように「ファクトチェック」をメディアが実施して報道していると説明したのに刺激を受けたような内容だった。


7月14日(月)のTBS「Nスタ」は参政党の神谷宗幣代表の「外国人」に関する発言が不正確であるとしてファクトチェックした。7月18日(金)の日テレ「news every.」も参政党の公約や書籍に対して、自閉症学会などが(同党が「発達障害などというものはない」としている点などに)抗議したことを取り上げた。


こうした報道は、昨年の衆院選までならば各局が及び腰になってなかなか踏み込めなかったものだ。こんなふうに「質的公平性」に軸足を移した報道をいくつか見ることができた。


悩ましい新たな課題、克服できなかった? “参政党ジレンマ” 

今回、テレビ全体の「課題」として残ったのが参政党をどのように報道すればよかったのかという問題だ。


「日本人ファースト」という言葉はストレートに受けとめれば、日本人をすべてにおいて優先させて外国人は二の次にすべきだという意味になる。この言葉を叫ぶことで外国人と日本人を区別し、処遇に差を与える方向性を良しとしてしまう。そんなことになればまず「日本人」かどうかが社会の中で問われることになってしまう。


ではそんな「日本人ファースト」を真っ先に掲げる政党を選挙報道でどう扱えばよかったのだろうか。


今回、参政党は外国人だけでなく、様々な“社会的弱者”を標的にする発言をしていた。「高齢の女性は子どもが産めない」という発言も物議を醸した。男女共同参画にも“行きすぎ”だと異を唱え、終末期医療を受ける高齢患者、発達障害者、LGBTQなど性的少数者なども標的にして彼らに対する差別や誤解につながりかねない発言がたびたびあった。


それに対して少なくない人たちが「本音」で同調する側面があった。なぜだろうか。


世の中が、様々な人たちの「人権」を考慮すべきという方向に急速に大きく舵を切る中で「本当は言ってはいけない本音」が知らず知らずに増えている。それら“人権配慮疲れ”とでもいうべき本音を堂々と語ることで、「よくぞ言ってくれた!」と溜飲を下げ、喝采を叫ぶ人々が少なくない現実がある。


そうした“本音トーク”の一部を大手メディアが危機感をもって伝えれば伝えるほど伝播し、そうした考え方の「宣伝」に手を貸してしまう。ここにジレンマが生まれる。他方でそれが選挙での政治活動として発言されている以上、無視はできない。そうした主張が実際に民意の一部にあることも伝えていく役割が報道機関にはあるからだ。


しかも参政党は参院選の選挙期間中に「国政政党」としての要件も満たし、都議選でも躍進して勢いがある注目政党でもあった。参政党の主張には、詳しく検証すると事実関係についての“間違い”や政策の主張としては戦前の教育勅語を賛美するなどのアナクロ的な“極論”も目につく。それでも少なくない人が「その通りだ!」と日頃感じていることを言語化した面もある。


それらを真正面から批判的に扱うことは、参政党の主張に一瞬でも賛同した人々の自尊感情を否定することにつながって反発を招いてしまう。


さらにファクトチェックは突き詰めれば情報の評価が細かくなりすぎる傾向がある。「正確」「誤り」などわかりやすいものだけでなく、「ミスリード」「根拠不明」「不正確」など、中間的な評価もある。


細かくファクトチェックして「この主張のこの部分は××の点で正確とはいえない」などと補足情報を加えられて評価しても、メディアを利用する側には一種の「ファクトチェック疲れ」のようなストレスを引き起こして、かえってわかりにくい報道に感じさせてしまう。限られた放送時間を考えてみると、ジレンマを克服することは現実的にはなかなかやっかいなのだ。


では各局は実際、この政党をどのように扱ったのかというと、その都度手探りで扱いを変えていた印象で、放送を見る限り各局ごとに統一的なスタンスがあったわけではない。同じ局でも番組ごとに異なるスタンスを示すこともあった。


筆者が見たところ、参政党へのアプローチは以下の4つに分類される。


(A)    “客観報道重視型”


伝える側の評価を加えずに言いたいことを言わせるスタンス。


国政政党である相手を尊重して、主張をそのまま伝える。参院選で実際にあった宮城県知事による抗議、発達障害者の団体などからの抗議などネガティブ情報は極力伝えない。今回の参院選ではNHKがこの姿勢だったといえる。


(B)    “融和的アプローチ”


伝える側が意見交換を通じて妥協点を探るスタンス。


「話せばわかる」と質疑応答を繰り返して妥協できるポイントを探る姿勢。今回の参院選ではTBS「Nスタ」の井上貴博キャスターが見せたアプローチである。出来るだけ理解を示しながら、神谷代表から次のような発言を引き出している。


「(参政党を支持する人には)極論の人もいる。外国人に出ていってほしいという方も」「でも私たちはそういう党にはしたくはない」「本当の意味での排他主義とか差別主義の人たちは私はものすごく嫌いなので」(7月9日放送のTBS「Nスタ」での井上アナへの返答)


TBS番組で爆笑問題の太田光が見せたのは「相手の土俵にのってみる」という戦略だった。相手が「党首と一部の支持者の主張・行動には乖離がある」というのであれば、党首である神谷氏に「支持者に対して暴走しないよう説得してほしい」と促した。放送時間の制限もあり、必ずしもうまく行ったとは言い難いやりとりになったものの、言葉の上で一定のタガをはめることができたように評価できる。


7月20日(日)のTBS開票特番「選挙の日2025」では番組特別キャスターになった太田光が神谷代表に「憲法改正」問題を問いただし、代表に「私がこれがいいと思うからみんな従え、という考え方はあまりない。憲法を改正しようと言ったけど、みんなで議論した結果、日本国憲法そんなに変わらなかったとなったらそれはそれでいいんですよ」とも言わせている。


ただし、このスタンスでは相手に対して厳しい評価をすることはできない。相手に「まだ我々も議論しながら草案を検討しているところ」などと自らの“未熟さ”や“発展途上”を釈明した場合などにそれを許して逃げ道を与えてしまう面もある。本来、政党が国政選挙で政策を「公約」として訴える以上、“未熟”や“発展途上”を一度許してしまうと際限なく後から約束を改訂できるような“何でもあり“になってしまいかねない。


(C)    “是々非々アプローチ”


批判的意見があることも付加しながら伝えていくスタンス。


参院選では日テレ、フジのニュース番組が基本的にこの姿勢だ。7月10日(木)のフジ「イット!」で参政党の“憲法草案”を報道した回などが該当する。教育において「歴史と神話、修身」を必修とすることや「教育勅語」を尊重することなどを詳しく紹介。ネットでの「参政党が取り戻したいのは戦前の政治なのか?」という疑問の声も報道した。


こういう主張をしているという事実に加えて “批判的意見”や“ネガティブ要素”も入れるようにする。その党が抗議を受けた場合にはそうした事実があったことも伝えるアプローチだ。民放の大半のニュース番組はこのスタンスだったといえる。


(D)    “権力批判アプローチ”


メディアの役割は権力監視だという考え方から「正しさ」を求めて、真っ向から批判的に扱うスタンス。


7月12日(土)TBS「報道特集」に見られた姿勢だ。同番組では大阪公立大の明戸隆浩准教授が「『日本人ファースト』が、支持層に対して排外主義、ヘイトスピーチを煽る効果があることを、言っている側が分かっていない訳がない」と批判し、広がる排外主義に対して留学生などが恐怖感を覚えて精神的に苦しむ姿を伝えた。


一方、テレビでこうした批判的報道をすると、かえってSNSでの「“偏向する大手メディア”が参政党いじめに走った」といったメディア批判を招きかねない面があるし、実際にそういった反応もあった。


参政党の戦略は一種の“炎上商法”ともいえ、大手メディアが批判すればするほど、SNSでは支持する声が集まるという皮肉な結果につながっていく。“正しさ”を求めようすればするほど逆効果・・・。メディアから見れば、まさに(参政党の)“ジレンマ”なのである。


大別すればこの4つに分かれるが、多くの報道のそれぞれが(A)から(D)までにきっちりと分類されるわけでなくその都度、混ざり合っていたと評価できる。


参政党はその言葉どおり受けとめれば、外国人排斥につながりかねない「日本人ファースト」を標榜するが、結果的に2025年参院選では14議席を獲得した。非改選合わせて参議院で15議席。衆議院で3議席と選挙前以上に存在感を示し、ますます無視することはできなくなった。国政のキャスティングボートを握る存在になっている。


参政党については様々な評価があるが、多くの識者が指摘するように極右の“ポピュリズム政党”であることは間違いないだろう。ポピュリズムだから、一見過激に聞こえる“国家神道への回帰”に似た憲法改正案を掲げながらも「私たちの主張を押しつけるつもりはない。(人々が)議論した末に私たちの意見に賛同しないというなら、それでもいい」などと一見柔軟に聞こえる発言もする。


結果的には「何でもあり」と言わんばかりの“節操のなさ”こそ実は本当に恐ろしい点だ。有権者との「約束」(公約)をきっちり事前に決めることなく、“白紙の委任状”を獲得してしまう。それが実際に相当な数の議席を獲得させ、リアルな政治のパワーを発揮しつつある。


私たちはいま、新しいタイプのファシズムへの移行過程にいると言えるのかもしれない。あるいはこれまでの歴史が経験してきた政治過程とはまったく異なる過程にいるのかもしれない。


これは参政党に限らない。他にも同じように人々の“抑圧された本音”に働きかける新興政党が出現していく可能性は少なくない。それだけにテレビ各局にとって“参政党のジレンマ”をどう克服するかはこれからの選挙報道の流れを決定づける重要な分岐点になっていく。


はたして次の大きな選挙で、テレビは“参政党のジレンマ”を克服する方法を見つけることができるだろうか。2025年参院選報道で積み重ねた議論をもっと進化・深化させ、テレビに何ができるのか、可能性を探ってほしい。


<執筆者略歴>
水島 宏明(みずしま・ひろあき)
1957年生。東京大学法学部卒。
札幌テレビ、日本テレビで報道記者、ロンドン・ベルリン特派員やドキュメンタリーの制作に携わる。生活保護や派遣労働、准看護師、化学物質過敏症、原子力発電の問題などで番組制作をしてきた。


「ネットカフェ難民」という造語が「新語・流行語大賞」のトップ10に。またドキュメンタリー「ネットカフェ難民」で芸術選奨・文部科学大臣賞を受ける。
2012年より法政大学社会学部教授、2016年より上智大学教授、2025年より桜美林大学・目白大学非常勤講師(現職)。


【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。


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情報提供元:TBS NEWS DIG Powered by JNN

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