大阪の街角で、外国からやってきた観光客が熱い視線を注いでいるのは「紙芝居」です。そこに込められているのは「核廃絶」への切実な願い。いま、大阪から世界へ広がろうとしている取り組みとは。
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大阪・新世界の観光客が釘付け…被爆体験を描いた迫力の紙芝居
大阪を代表する観光地・新世界。海外からの観光客も多く訪れます。
このにぎわう街で、英語で紙芝居を披露する男性がいます。吉村大作さん(45)です。物語は、広島で被爆した8歳の少女・ケイちゃんの体験を描いたもの。
紙芝居
「家、学校、病院は跡形もなく消え去りました。投下されたのは恐ろしい爆弾「核兵器」でした。川には焦げた人が浮かび、ケイちゃんのところにも『みず…水をくれ…』とやってきました」
核廃絶を訴える80年前の実話です。鬼気迫る表情で演じる吉村さんに、観光客の表情も変わっていきます。
アメリカ人
「彼のプレゼンは素晴らしい、情熱にあふれていた」
「何が起こったのかを知ることが大切。街の被害や人々の思いをあまり知らなかった」
スイス人
「二度と核兵器が使われないことを願うが、いまの世界情勢をみると、そうとは言えない」
外国人観光客が多く訪れる万博の開催期間。吉村さんはほぼ毎日、この場所で核廃絶を訴えています。
吉村大作さん
「(核問題は)世界の誰もが当事者だと私は考えているので、海外の人たちに届いていないのであれば、大阪万博を機に、そういった海外の人たちに届けたいという気持ちがあって、海外の人たちをメインに伝えている」
吉村さんはフリーのジャーナリスト。東日本大震災でのボランティア活動をきっかけに、ウクライナ避難者への支援など、社会貢献にも力を注いでいます。
ウクライナ出身のアーティストが12枚のシーンに込めた思い
この紙芝居、吉村さんのパフォーマンスとともに多くの人の心に深く刺さっているのが…
日本人男性
「絵がリアルで、より伝わってきた」
「絵がよかったです」
その紙芝居の絵を描いた人は、ウクライナ出身のアーティスト、ユリヤ・ボンダレンコさん。北部のチェル二ヒウで子どもたちに日本の書道を教えていましたが…
ロシアの侵攻が始まった3年前、日本へ避難しました。
ウクライナ出身 ユリヤ・ボンダレンコさん
「戦争がなくて、核兵器がない世界をつくることが、私にとって一番大事」
ユリヤさんは吉村さんとともに、紙芝居のモデルとなった小倉佳子さんから被爆体験を聞きました。そのときかけられた言葉が、作品制作の大きなきっかけとなりました。
8歳のとき広島市で被爆 小倉桂子さん
「この悲しみを、この怒りを、この切なさを、みなさんは伝えて下さい」
ユリヤさんは12枚のシーンを描き上げました。しかし、制作の過程で広島の惨状と故郷・ウクライナの姿が重なり、心身に不調をきたしたといいます。
ウクライナ出身 ユリヤ・ボンダレンコさん
「私は悩んでいました。お医者さんに行って、何も問題はないけど非常に(身体が)痛かった。病は気からです。心が非常に苦しんでいるとき、身体は病気になってしまいます」
現在は、体調も回復しています。
路上から世界へ…核廃絶の“キーパーソン”にも披露
吉村大作さん
「これは紙芝居のショーです」
こうして完成した紙芝居ですが…
吉村大作さん
「広島の紙芝居です」
紙芝居は日本独自の文化で、海外の人にはあまり馴染みがありません。15組以上に声をかけて、ようやく1組が見てくれる程度。足を止めてくれる人はほとんどいません。
吉村大作さん
「『紙芝居やるよ』と言ったら、その時間に来てくれるものだと思っていて、いざやってみるとそんなものではなかった。聞いてもらうってこんなに大変なんだなと」
苦戦する一方で、こんな人に披露する機会も。2017年にノーベル平和賞を受賞した国際NGO「ICAN」のパーク事務局長です。
紙芝居
「多くの人々を重い病気で苦しめました」
核兵器廃絶に向け、世界の動きをけん引する人物にアピールしました。
ICAN パーク事務局長
「日本伝統の紙芝居を使い、なぜ核廃絶が必要なのかというメッセージを伝えることはとても意味があると思います」
さらに、国連の事務次長で軍縮部門トップを務める中満泉さんにも。
国連 中満泉 事務局長
「アメリカでも特に若い世代で世論がずいぶん変わってきている。『原爆を広島と長崎に落としたのは正しかったのか』と。そういった考えの人たちが世界中に増えていくと、『核はよくない。無くしていこう』という機運が高まると思います」
紙芝居を始めて5か月。ほぼ毎日続けた結果、これまでに約30か国、数百人に披露してきました。
観光客の中には、帰国後に家族へ読み聞かせをする人も。この紙芝居は100以上の言語に翻訳されています。
ルクセンブルクに住むアンディさんは…
ルクセンブルクに住む アンディさん
「子どもたちに見せられてよかったよ。関心を持ってくれたし、広島の“真実”を学べたと思う」
吉村大作さん
「僕は被爆2世でも3世でもないし、広島、長崎で生まれたわけでもないが、関係のない人も継承していくことによって、被爆者自身が少なくなっても、被爆体験をのちのち語られていく。それが日本であったり世界であったり、いろんな場所でやっていただきたい」
一人ひとりに語りかけるように始まった、大阪・新世界での紙芝居。その物語はいま、世界へと広がっています。
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