
今年(2025年)7月20日は、第27回参議院議員選挙の投開票日。全国各地で気温が30℃を超える真夏日だったにも関わらず、投票率は前回(22年)を6ポイント以上上回り、人々の関心も高めでした(注1)。
【写真を見る】外国人労働者の増加、急変する人々のまなざし~TBSの専門家が分析「データからみえる今日の世相」~【調査情報デジタル】
結果は、与党では自民が13、公明が6議席を減らし、合計122議席で参議院の半数(124議席)に届かず。昨年10月の総選挙も大敗だったこともあり、衆参両院とも少数与党に。
一方、野党第一党の立憲民主は議席が増えなかったのに対し、13増やして22議席となった国民民主が19議席の維新を抑えて野党第二党に。また、「日本人ファースト」を掲げた参政党が公示前の2議席を15まで増加。
この結果をどう見るか、いろいろ観点はあると思いますが、ここでは争点の一つだった「外国人労働者」を取り上げてみます。
ちなみに、筆者自身は、投票先を考えるポイントとして外国の人、特に外国人労働者をどう扱うかはあまり考えませんでした。テレビの報道やネットの情報はいろいろありましたが、そのことに賛否の意見を持つほど具体的な経験をしていないからだと思います。
振り絞っても「コロナ禍以降、朝の通勤電車にキャリーバッグを持った外国人が乗り込んでくる頻度が多くなった」「近所のコンビニのレジはアジア系の人が多い」「建物の解体現場で中東系の働き手を見かけた」といった程度。
一方、今回の選挙結果は、外国人労働者の扱いを争点として重視した人たちが多かったことをうかがわせるものだと思います。どのような人たちが外国人労働者を気にしているのか。それをデータで追いかけてみます。
昨年流れが変わった外国人労働者増加への意見
取り上げるのは、毎年実施のTBS生活DATAライブラリ・定例全国調査(注2)で、25年7月時点では昨年(24年)実施分が最新データ。「それは今回の選挙結果には関係ないのでは?」と思うかも知れませんが、さにあらず。94年から調べ続けている外国人労働者についての意見で、興味深い動きが昨年突如出現していたのです。その様子を示したのが、次の折れ線グラフです。
政治・経済・社会に関する様々な意見を並べて、自分の考えに近いものをいくつでも選ばせる質問の中に、次の選択肢が設けられています。
・外国人労働者が増えるのはやむをえない
・これ以上外国人労働者が増えるのはこのましくない
日本では、80年代後半のバブル期から人手不足が深刻化し、90年の入管法改正で、3世までの日系人とその配偶者らを、滞在期間や就労制限がない「定住者」として受け入れました。
少子高齢化もあってさらに働き手が必要ながら、移民は受け入れない方針の政府が93年に創設したのが、途上国への技術移転と国際貢献を目的に掲げた「技能実習制度」でした。しかし、社会の一員と認めるのは抵抗がある人もありつつ、安価な労働力は必要な日本社会と、そこに出稼ぎに来て滞在が長期化し、存在感を増す外国人との間で、根深い問題を抱えているのが実状です。
制度創設の翌年(94年)に上記の選択肢が設けられたときは、外国人労働者の増加を「このましくない」とする危惧派(46%)が、「やむをえない」とする容認派(28%)を大きくリード。その後、概ね00年代は危惧派が4割、容認派が3割で推移しました。
そして状況が大きく変わったのが14年。当時の第二次安倍政権が、東日本大震災復興や2020年東京五輪といった国家的事業を背景に、建設分野での「一時的な需要増の一部には外国人材で対応」するという緊急措置を決定(内閣官房、2014年)。これを潮目に容認派と危惧派が逆転、以後、容認派の増加と危惧派の減少という流れが定着。厚生労働省への届出が義務化されてからの外国人労働者数もグラフに示しましたが、容認派の増加に比例するように増加しています。
そうした中、23年に政府の有識者会議が、現行制度について「人材育成を通じた国際貢献のみを掲げたままで労働者として受け入れを続けることは望ましくない」と指摘(読売新聞オンライン、2023年4月10日)。これを受けて24年に「外国人材の育成と確保を目的とした『育成就労』制度を創設する改正出入国管理・難民認定法など」が成立、「新制度は現行の技能実習制度に代わって2027年までに始まる見通し」となりました(読売新聞オンライン、2024年6月14日)。
すると24年に容認派が急減し、逆に危惧派が急増。「新制度では将来的に長期滞在する外国人が増えることが想定される」(読売新聞オンライン、2024年6月14日)ことが琴線に触れたとか?
年代と生活満足度で異なる傾向
24年に急な動きを見せた容認派や危惧派ですが、どのような人にどれくらいいるのでしょうか。年代と生活満足度でまとめたのが、次の帯グラフです。
まず、全体では、外国人労働者の増加を「やむをえない」とする容認派が4割、「このましくない」とする危惧派が3割、どちらでもない人が3割という分布でした(注3)。
これを年代別にみると、容認派は上の年代ほど割合が多いのに対し、危惧派は大体同じくらいで、やや30~40代の壮年層が多め。人手不足が深刻な領域の一つに医療や介護がありますが、病気や介護が自分事になってくる年配層ほど、その担い手としての外国人を容認せざるをえないと考えているのかも知れません。
また、就職氷河期世代と言われる40代を含む壮年層は、外国人であれ職を争う競争相手が増えることに警戒感を抱いて危惧派が多いのかも。
一方、4つの選択肢で尋ねる生活満足度(注4)では、現在の生活に対して不満が高まるほど、容認派が減って危惧派が増える傾向が見られました。特に「今のような生活ではとてもやりきれない」という、最も満足度の低い層では、容認派と危惧派が拮抗。不満の矛先が外国人労働者にも向かっていることを想像させる結果に。
近隣諸国への対応で決定的に異なる両派
容認派や危惧派は、年代や生活満足度の違いで分布に差が見られましたが、他にはどういった違いがあるのか。政治・経済・社会に関する様々な意見について比べてみたのが、次の折れ線グラフです。
上のグラフで並べた9つの意見のうち、(1)~(4)は全体で上位を占めたもの。どれも現在の社会や制度などに不満や疑問を示す内容ですが、容認派も危惧派もともに7~8割が「あてはまる」と回答。実は両派にあまり差はなく、選択率が2~4割程度の「どちらでもない」人との間に大きな差がありました。
一方、両派で明確に違いがあるのが、韓国や中国といった近隣諸国との関係。容認派はそれぞれの国と「もっと友好関係を築くよう努力すべき」という意見への賛同が多いのに対し、危惧派では「その必要はない」との意見のほうが多くなっています。ちなみに「どちらでもない」人はどれも1割程度。
こうしてみると、全般に選択率が低い「どちらでもない」人に比べて、容認派や危惧派では、社会的な事柄に自分の考えを持っている人が多数。そして両派で考え方が一致する話題も多い様子。しかし、近隣の外国への向き合いでは明確に違いがあり、そこが両派を分けている印象があります。
民意はどこにあるか
昨年(24年)10月の調査データを分析してきましたが、外国人労働者増加を問題視する見方は現状への不満と関係がありそうだ、というのは、今回の参院選の結果にも通じていそうな話です。
外国人労働者は移民として受け入れないのが、今のところの政府方針です。しかし、少子高齢化が進んだ現在の日本社会で不足する労働力を、外国人労働者で補っている現状があるのも事実。
外国人労働者の存在に実害を感じた経験のない筆者には、長期滞在する外国人に関わるトラブルは「日本社会の一員として、守るべきルールを守ってもらう」スタンスで対処するのがよいように思えます。
今回の選挙で示された民意(の一部)は、政府方針の徹底を望んだものなのか、それとも生活の不満が解消されれば落ち着くものなのか、冷静に見定める必要があると考えます。
注1:参議院議員普通選挙の全国投票率は、選挙区が前回(2022年)52.05%→今回(2025年)58.51%(+6.46ポイント)、比例代表が前回52.04%→今回58.51%(+6.47ポイント)でした(総務省発表)。
注2:TBS生活DATAライブラリ・定例全国調査は、TBSテレビをキー局とするテレビの全国ネットワークJNN系列が、毎年11月に実施する大規模ライフスタイル調査です。同じ回答者にメディア行動や価値観、個人財・世帯財の購入などを総合的に調査するシングルソースデータです。
注3:容認派と危惧派の選択肢を両方選んだ人も7人いましたが、以後の分析からは除いています。
注4:無回答が79人いましたが、分析から除いています。
引用・参考文献
●厚生労働省 外国人雇用状況の届出状況(平成21年10月末現在)について
●厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(平成26年10月末現在)
●厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和元年10月末現在)
●厚生労働省 「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末現在)
●内閣官房 平成26年4月4日 建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置について
●総務省 令和7年7月20日執行 参議院議員通常選挙 発表資料
<執筆者略歴>
江利川 滋(えりかわ・しげる)
1968年生。1996年TBS入社。
視聴率データ分析や生活者調査に長く従事。テレビ営業も経験しつつ、現在は法務・コンプライアンス方面を主務に、マーケティング局も兼任。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。
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