
日本がバブルに沸き立つ前夜、1986年にいわゆる「トリカブト事件」は起きました。謎多き事件に、ワイドショーは連日この事件を報じ、やがて手がかりを少しずつ得始めます。この事件はワイドショーが事件解決に寄与した数少ない事件のひとつと言えるかもしれません。※文中一部敬称略(アーカイブマネジメント部 疋田 智)
【写真を見る】保険金1億8,500万円、殺された妻には「会って6日でプロポーズ」した―トリカブト事件・前篇(1986年)【TBSアーカイブ秘録】
石垣島で起きた「妻の急死」
沖縄・石垣島で発生したある急死事件。それは後に日本の犯罪史に残る保険金殺人事件に発展していきました。
事件の主犯は、当時の被害女性の夫・神谷力元受刑者でした。
神谷とその妻は、1986年の5月、沖縄旅行に出かけ、妻の旧友3人と石垣島で合流する予定でした。
ところが、神谷は那覇空港で「急用ができた」と言いだし、一人那覇に残ったのです。結果、妻たち4人が石垣島へ向かいました。
現地に着き友人と合流し、ホテルに到着した直後、妻は突然、悪寒・発汗・手足のしびれといった症状を訴えました。そして救急搬送中に心肺停止。その数時間後に病院で死亡したのです。
不可解な死因
当初、言うなれば「ありふれた急死」事件でした。
行政解剖を担当した琉球大学の大野曜吉助教授は、いったんは急性心筋梗塞との診断を下しました。
しかし、なぜ心筋梗塞が起きたのか。死因に納得がいきません。そこで、妻の心臓と血液30ccを保存しました。この判断が、5年後の事件解明に決定的な役割を果たすことになります。
複数の生命保険
神谷は、妻に合計1億8,500万円もの生命保険をかけていました。しかも複数の保険会社にまたがって。もちろん受取人は神谷です。しかし加入から死亡までがわずか20日、掛金も1回しか支払われていません。このあまりの不自然さに保険会社各社は神谷を疑い始めました。
心証は「真っ黒」、しかし…
一方、神谷は、事件以前の5年間に、被害者を含めて3人の妻を次々と亡くしていました。
1人目の妻は心筋梗塞で死亡。2人目の妻は急性心不全で死亡したとされています。
そして3人目の妻。彼女は池袋のクラブで働いていたホステスでしたが、神谷は、出会って6日でプロポーズという猛アタックぶりだったと言います。
心証的にはいわば「真っ黒」。被害女性の友人たちは、テレビに「真相解明を」と訴え、テレビのワイドショーは連日のようにこの事件を報じたのです。
しかし、神谷はカメラの前で自らの潔白を強く主張し続けました。
それをスポーツ新聞なども後追いし、こうしてこの事件は全国的な興味関心を呼ぶことになったのです。
5年後に事件が動く
事件が再び動いたのは5年後の1991年でした。
神谷が3億4000万円の横領事件(別件)で逮捕されたことが契機となり、警視庁が5年前の死亡事件を再調査。その結果、大野助教授が保管していた血液からトリカブト毒が検出されたのです。
「鉄壁のアリバイ」が解決を阻む
ところが、おかしなことがあります。トリカブト毒(アコニチン)は猛毒でわずか2-3mgで死にいたります。しかも即効性があって、摂取して15〜30分後に症状があらわれるというのです。
ところが、妻が苦しみ始めたのが神谷と別れてから1時間40分後。毒物摂取から症状が出るまで20分あるとしても、約80分のタイムラグがあるのです。
そのとき、神谷は石垣から離れた沖縄本島、那覇にいました。
神谷にはいわば「鉄壁のアリバイ」があるのです。(後編に続く)
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