
保険金目当てに妻をトリカブト毒殺した疑いを持たれた神谷力元受刑者。しかし、彼には「鉄壁のアリバイ」がありました。ミステリー小説顔負けのトリックとはどのようなものだったのでしょう。※文中一部敬称略(アーカイブマネジメント部 疋田 智)
トリカブト70鉢と毒物実験室
神谷元受刑者の周囲は怪しげな話ばかりでした。妻にかけた1億8,500万円もの保険金、そして3人連続で亡くなる妻…。それだけではありません。
観賞用と称して約70鉢のトリカブトを購入したことも分かっています。
しかも東京・荒川区のアパートを借り、そこにトリカブトを持ち込み、マウスなどの実験動物と大量の水を使って「何かをしていた」というのです(大家および周囲の証言による)。
後に、このアパートの畳からは毒物が検出され、このアパートこそが毒物の実験室として使われていたのではないかとされています。
神谷には「鉄壁のアリバイ」が
しかし、解せないことがあります。
トリカブト毒(アコニチン)には即効性があり、摂取して30分以内に死にいたるというのが普通です。ところが、妻が苦しみ始めたのが神谷と別れてから1時間40分後。症状が出るまで20分程度あるとして、タイムラグが80分あります。
そのとき、神谷はすでに沖縄本島、那覇にいました。神谷にはいわば「鉄壁のアリバイ」があるのです。
テレビを観た人から通報が
神谷自身もこのアリバイを強硬に主張し、ワイドショーは「毒物カプセルが胃で溶けにくくするために」など時間差を埋める実験に明け暮れましたが、うまくいきませんでした。
ところが、テレビを見た漁業者から、とある通報がありました。
「神谷が大学の研究者を称して、クサフグを大量に買い付けていた」というのです。
トリカブトとフグがもたらした「邪悪な奇跡」
神谷は、自宅にたくさんの医学書とミステリー小説を持っていました。その独自研究の中でめぐらした計画が「トリカブト(アコニチン)」と「フグ毒(テトロドトキシン)」のカクテルでした。
アコニチンとテトロドトキシンは毒の方向性が真逆であるため、同時に摂取させることで互いの毒性が拮抗し、作用を遅らせることができるのです。
妻の死亡当時、行政解剖を担当していた琉球大学の大野曜吉助教授(当時)は、保管していた妻の血液、心臓を再検査しました。5年越しの証拠の活用です。
するとトリカブト毒以外に、フグ毒(テトロドトキシン)が検出されたのです。大野助教授は、これを法廷で証言、神谷のアリバイは崩れることになったのです。
判決は無期懲役、そして…
検察は、神谷がサプリメント用のカプセルに毒を仕込み、妻に摂取させたと断定。また、神谷がマウスを用いた毒性実験を繰り返していたことから、毒殺の計画性も認定されました。
1994年、東京地裁は神谷に無期懲役の判決を言い渡し、2000年には最高裁で確定しました。
神谷は獄中でも無実を主張していましたが、2012年に大阪医療刑務所で死去しました。享年73でした。
この事件は、科学捜査、生命保険の隙、そして毒物犯罪の恐怖を浮き彫りにした事件として、日本の法医学・犯罪史における象徴的な存在となっています。
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