
来週、赤沢大臣が再度訪米し、第二回日米関税交渉に臨む。交渉カードとして何を提示するのか、特に「コメ」をめぐる国内の攻防が注目される。政府は交渉の早期決着を目指しつつも、国益を損なわないよう慎重な姿勢を崩さない。
【写真で見る】交渉期間90日間の使い方、メリット・デメリット
「コメはわかりやすい手柄」トランプ大統領の狙いと、「輸入拡大論」を巡る国内の攻防
日米関税交渉の第二回目を控え、日本政府は交渉カードの選定に苦心している。特に注目を集めているのが「コメ」の扱いだ。アメリカのトランプ大統領やホワイトハウスの報道官は日本との貿易をめぐり、“日本がコメに700%の関税をかけている”という主張を展開した。官邸担当の政治部記者によると、日本政府の幹部らは当初、この主張に対して困惑を隠せない様子だったという。実際には、日本は「ミニマムアクセス」と呼ばれる無関税枠の仕組みを設けており、それ以外の枠は1kgあたり341円の関税を課している。つまり、“700%”の主張は実態と大きくかけ離れており、根拠不明なのである。
しかし、アメリカ側が「コメ」を問題視していることは事実であり、日本側はこれをどう扱うかを慎重に検討せざるを得ない状況となっている。
一方、アメリカ国内の状況について、経済部記者は「アメリカの農業団体からは、日本へのコメ輸出拡大を求める声はあまり聞こえてこない」と指摘する。では何故、トランプ大統領はコメを交渉の焦点にしようとしているのか。それは、コメが日本にとって特別な意味を持つ品目だからだという。「日本のサンクチュアリ、聖域とも言えるコメの扱いを動かせれば、非常に象徴的な勝利になる」と経済部記者は分析する。つまり、トランプ大統領にとってコメは、分かりやすい「手柄」として利用できる交渉材料なのだ。
日本側はこの状況にどう対応しようとしているのか。今、マスコミ各社の報道で飛び交っているのは、アメリカからのコメの「輸入拡大論」だ。これを受け、政府・与党内では様々な反応が出ており、特に自民党の”農林族”と呼ばれる議員たちは、コメの輸入拡大に強い懸念を抱いている。
鈴木総務会長は会見で「何か一方的に譲って、今この場を収めればいいという話でもない」と牽制。江藤農水大臣も「輸入米が入ってくることで国内生産が大幅に減少するのは国益なのか」と疑問視している。
一方で、石破総理は消費者目線と生産者視点のバランスを取る必要性を強調している。コメの価格高騰が続く中、消費者の負担軽減も考慮しなければならない。しかし、安易な輸入拡大は農家の生活を脅かす可能性もある。森山幹事長、小野寺政調会長、坂本国対委員長といった党幹部も農林族で、コメを交渉カードとするのは難しいのではないかというムードが醸成され始めており、先行きは不透明だ。
コメ以外の選択肢を模索…日本の戦略は?
コメの扱いが難しい中、日本政府は他の交渉カードも模索している。経済部記者によれば、自動車分野での非関税障壁の見直しが焦点の一つだという。
トランプ大統領は、日本がアメリカ車の輸入を実質的に妨げているという認識を示している。これに対し、国土交通省は安全基準の緩和などを検討しているが、簡単には譲歩できない事情がある。「日本の交通事故の多くが人や自転車と車の衝突によるもので、アメリカとは安全に対する考え方が異なる」と経済部記者は説明する。安全基準は人命を守るためのものであり、安易な緩和は難しい。
また、農林水産物の分野では、大豆やトウモロコシの輸入拡大が検討されているという。これらの品目は、コメに比べて国内生産への影響が小さいと考えられている。さらに、LNG(液化天然ガス)の投資拡大も交渉カードの一つとして浮上している。エネルギーの安定供給につながる可能性があり、採算が取れるならば、日本にとってもメリットがある提案だ。
しかし、交渉カードの選定には慎重を期す必要がある。急ぐ必要はあるが、焦ってアメリカ側の要求に飲み込まれてはならない。一方で、長期化すれば日本企業へのダメージも大きくなる。この難しいバランスをどう取るのか、赤沢大臣の手腕が問われている。
早期決着か長期戦か?問われる交渉手腕
90日間の追加関税猶予期間が設定されているが、これをどう活用するかが焦点となっている。早期決着を目指すべきか、それとも長期戦に持ち込むべきか。それぞれにメリットとデメリットがある。
早期決着のメリットとしては、夏の参院選を控える石破政権にとってプラスの材料となる可能性がある。しかし、急ぎすぎて不利な条件を飲まされては本末転倒だ。一方、長期戦に持ち込めば、アメリカ側の態度が軟化する可能性もある。実際、これまで強硬な姿勢を崩さなかった中国との貿易交渉では、トランプ大統領が突如関税引き下げの可能性を示唆するなど、態度を軟化させている。
しかし、長期化のデメリットも無視できない。特に日本企業への影響は深刻だ。自動車メーカーなどは既に切迫した状況にあり、「1ヶ月後には関税がもろにかかった商品の値付けをしなければならない」と経済部記者は指摘する。また、先行きの不透明感から設備投資や人材投資が滞る可能性もある。
このような状況下で、日本政府はどのような交渉戦略を取るべきなのか。石破総理や赤沢大臣が交渉についてたびたび口にするのは「急いては事を仕損じる」。早期決着を目指しつつも、国益を損なわないよう慎重な姿勢を崩さない。そして、アメリカ側の出方を見極めながら、柔軟に対応していく高度な交渉が求められる。
来週、赤沢大臣はどのようなカードを切るのか。そして、その結果はどのような影響をもたらすのか。日米関税交渉の行方は、日本経済の将来を左右する重要な局面を迎えている。
TBSテレビ政治部・堀宏太朗、経済部・竹岡建介
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